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不眠な羊の安眠材料



ここ数日ちょっと忙しかったから、徹夜で作業していた。

その過程で丸一日中ずっと起きていたら逆に目が冴えて、仕事片付いたからさぁ寝ようかってなったけど寝るに寝れなくなってしまった。

どうしよう、全っ然眠れないぞコレ。

困ったな…。

更にそのまま起きていて夜まで過ごす手もあるけども、其れは其れで後々響きそうだから避けたい。

どうしたものか…。

一応、布団に入ってみてごろごろしながら考えてみたものの、何か思考を動かす毎に眠気が去っていきそうで逆効果だった。

うん、考えるの今すぐ止めよう。

無駄に頭働かすから駄目なんだ。

此処は、素直に困った時の苦肉の策を使うしかない。

そう思って、寝転んでいた布団から起き上がり、部屋を出た。

現在の時刻は昼下がりの真っ昼間。

部屋の明るさ調整云々は全ての電気を消すなり戸を閉め切るなりしてシャットアウトすれば暗くなるから問題無いけど、眠気はそうもいかない。

何故そろそろ寝なきゃいけない時に限って何処かへ逃亡するんだ睡魔よ。

変な時に限ってお前私を眠らそうと誘うじゃないかコノヤロー。

…なんて悪態を内心で呟いたとて仕方のない事。

寝たいのに一切眠くならない事なんてあるあるじゃないか。

そういう時は、自分が最も眠りやすくなる環境を作れば良いんだ。

―という訳で、やって来た母屋の一角、無用組部屋。

この際、諸々の細かい事は気にしない方向で考えれば良いのだよ。

そうやって色々と割り切れば簡単な事だ。


『ちょいと失礼しまぁ〜す…っ。』
「あれ?主部屋で寝るって言ってなかったっけ…?」
『うん…けどな、逆にずっと起きてたせいでギンッギンに目が冴えてて一向に眠れねぇんだわ…。だから、少しでも自分が寝れる環境を整えようかなと思いましてお邪魔しました。』
「うわ、ドンマイだな主…。」
「其れでか…って、いや何で其れで俺達の部屋に来るんだよ?」
『たぬさんの何かしらの台詞なり声なりを聞いてたらその内眠気来るかなぁ…と。』
「あ〜…把握。」
「いや、何で今ので分かったんだよお前。逆に理解出来ねぇんだが。」
「いやほら、前に主言ってたじゃん…?正国の声聞いてると落ち着くとか何とかって。その時の会話でさ、落ち着くついでに下手したらその内眠気も来るとかって言ってたから…其れでかな?って思ったんだよ。」
「あ?俺、そん時部屋に居たか?俺の声が落ち着くだのどーのは聞いた覚えはあるが…アンタが言った後半については知らねぇぞ?」
「あー…っ、もしかしたらその時だけ正国部屋に居なかったかも…。確かあの時、まんばに呼ばれたか何かで部屋出てってたからさ。」


そうこう二人が私の来訪について話している傍らでいそいそと寝る準備を進める私。

枕と掛け布団は持参したので、後は寝るだけである。

会話する二人の背後でさっさか寝る準備を進めていると、其れに気付いたたぬさんに指摘された。


「アンタ、此処で寝んのかよ?」
『うん。だって、此処ならたぬさんの声聞き放題でしょ。』
「…アンタさぁ、今若干眠気で頭馬鹿になってねェーか?」
「正国言い方ァ……ッ!」
『逆に寝てないから頭働いてねぇの間違いじゃね…?』
「主も自覚あるんかい…ッ!」


無駄にキレッキレなツッコミをぎねから貰ったがスルーしよう。

今の私に其れを捌く程の元気は無い。

何せオールした後だからな。

“寝てないから頭全然働かなくなってる”という件については事実なので素直に認めるぜ。

そんなこんなすっかり寝る準備を整え終えると、しょうがないなと溜め息を吐いた彼が慣れたと言わんばかりの態度で返してくれた。


「別に此処で寝るのは構わねぇけどさァ…今、俺達ゲームしてっからちょいちょいうるさくなるぞ。」
『全然良いよ〜。俺の事はお構い無く、そっちはそっちで全力で楽しんでてくだせぇ。こっちは其れをBGMに寝ますんで。』
「いや、すぐ横でアンタが寝てんのに全力で騒げるかよ…。」
「まぁまぁ、主本人が大丈夫って言ってるんだし、良いんじゃないか?環境音とかそんな感じで、聞いてたらその内眠くなる動画とかがあるって前主言ってたから、多分其れだよ。作業音とかってヤツみたいな感じでさ。」
「まぁ…其れで寝れるって言うんなら良いけどよ。後で“やっぱうるさくて寝付けねぇ”とかって文句言われても受け付けねぇからなァー。」


たぬさんからも了承を頂けたという事で早速横になり、頭は枕に、布団もしっかり着て寝る体勢を作る。

明るさはまぁこの際諦めるとして、二人を影にして寝付くとしよう。

二人からお許しが出たので、完全に気を許した体で私はスリープタイムに入る。

目を閉じれば聴覚が研ぎ澄まされて、自然と二人の会話が頭に入り込んでくる。

其れを何となしに聞き流しつつ横になっていれば、あんなにギンッギンに冴えていた目も蕩けてきて重くなる目蓋。

目は既に閉じていたので、そのまま睡魔に身を預ける事にして、直接言葉にはしないものの心の中で二人におやすみと告げて眠りに落ちた。


―数十分後…私がすっかり寝落ちたのを察した二人が、スヤスヤと眠る私の方を見つめながら声を潜めて呟いた。


「本当に寝ちまったな、此奴…。さっきまで普通に俺達喋ってたのによ。」
「あはは…っ、まぁ正国の側は落ち着くからなぁ〜。正国の声を聞くだけじゃなくて、正国の存在そのものが主にとっては安心するんだろうな。」
「…まぁ、そういう風に思われんのは悪かねぇけどさ。」
「はははっ、アンタも素直じゃないなぁ〜。」


完全に寝落ちてガチ寝する私に呆れるでもなくそう話す二人に見守られ、その日はぐっすりと安眠出来たのであった。

ちなみに、ゲームを終えた後、枕と掛け布団ごと私は自室へと運ばれたらしく、起きたらちゃんとした布団の上で寝てました。

いやぁ、世話掛けてすまんやでたぬさんや。

取り敢えず、昨日は諸々世話になったという件の詫びを伝えておこう。


『おはよう、たぬさん。ぶっちゃけもう昼やけんども、昨日は色々とお世話になってしもうてすまんやで〜。何時も有難うな。』
「いや…別に俺自体は大した事してねぇから気にすんな。」
「にしても、主マジでぐっすりだったな…!」
『あいぇ…昨日あの場に獅子王って居たっけ?記憶が確かなら…多分あの時はぎねとたぬさん二人しか居なかった気がすんだけど……あれ、俺の目が節穴なだけ?』
「主が寝た後だよ!実は俺も一緒にゲームすんの混ざっててさ。いやぁ〜、ゲームに夢中なってる時結構騒いだ気がするんだけど、主全っ然起きなくてビビったぜ?俺の他にもまんばが居たりしたんだけどさ。」
「嗚呼…全然起きなかったな、アンタ。試しに、獅子王の奴がわざとらしく大きな声で喋ってみたりなんかしても超熟睡の爆睡だったぞ。」
『Oh…マジすかぁ……っていうか、君等集まってゲームするとか仲良いね。今度俺も混ぜてもらって良い?何か楽しそう。』
「参加人数に特に制限は無いから大丈夫だと思う。偶に肝試し的にホラゲーとかもやったりするから、苦手なら止めた方が良いかもしれんが。」
『あ、其処んとこは大丈夫っす。俺、此れでも日常的にホラゲー実況とか見てる系なんで。あ…でも、ガチで怖いヤツだったらパスするかも。』
「お?じゃあ、●bd系はイケるクチか?ゾンビとかクリーチャー系平気なら大丈夫だと思うぜ!」
『もしかしてバ●オとかもやってる感じ…?そしたらプレイは難しくて無理かもだけど観戦だけならおkっす。●bdとかなら寧ろプレイしてみたい派なんで是非参加させろください…!』
「よし、じゃあ今夜の集まりにでも早速一緒に遊ぼうぜ!」
『あ、今日は仕事の進捗状況によっては参加出来ないかもなので、其処んとこはすまんやで。起きたんが今やから、ちょっとスケジュール的に厳しいかも…。』


皆との親睦も深めたいが仕事もある為、朝飯兼昼飯を腹に収めたら本日分の仕事もとい日課の仕事に取り掛からねば…。

審神者は地味に遣る事が沢山なお仕事であるが、遣り甲斐はあるし、お役所勤めとそう変わらないのでお給料も良くてハッピーなのである。

愛しい愛しい我が子みたいな本丸の皆も居るしね。

毎日が生きるの楽しくなるよね、ヒャッフゥー!

そんなテンション高々で居れるのも今の内だけど…。

歌仙がこっち睨んでるので、早いとこ飯食い上げてお片付けして仕事しよう。

昨日の分がまだ微妙に残ってる事も考えたら、今日起きたのが昼過ぎなのも加味して…寝るのは明日の朝方かな?

あ、じゃあ、今回の集まりには参加出来なさそうってのを後で獅子王に伝えておこう。

ちょっと哀しいけども。

そうして食事済まして仕事して、途中休憩やら何やら挟みつつ今日の分の仕事起きて作業してたら、あっという間に時間は過ぎて…。


―気付いたら日付跨いで朝になっていた。

コレ何度目やねんって話やぞ。

だから不健康一直線なんやてお前…まーた歌仙からお叱り飛んでくるパターンやぞ、コレェ。

今から遠い目して現実逃避謀りたくなるわぁ。

なんて脳内呟きながらも仕事はちゃんとしたんやから、偉いで自分。

今回は寝落ち無しで比較的スムーズに行ったんとちゃいますのん…?

あ、駄目だ…二日続けての連続オールに頭働いてないせいか、変な口調になっとるわ。

何で関西弁風に喋っとるんじゃ、我…怒られるど。

取り敢えず、寝る為にも何か軽く腹に入れてから寝る準備すっか。

現在の時刻早朝帯で、まだギリ厨組すらも起きてるか否かのラインなう。

季節が秋に移り変わったから、朝晩の気温差が身に沁みて辛いね…。

静かな本丸内を一人動きながら母屋の厨まで移動する。

そして、お湯を沸かして、冷凍庫から冷凍した昨日の晩の残りの御飯を取り出してレンジで温め、その間にお茶漬けの素とインスタントの味噌汁と軽いおかずを添える為に適当に冷凍庫から冷食を出しておく。

御飯を温め終わったら、今度は冷食のおかずをレンジに入れてチンする。

ちなみに、今日の軽食(一応朝飯のつもり)のおかずは、唐揚げと春巻きと枝豆というコラボである。

…おつまみかな?

些か偏りのあるメニューだが、初めから軽く食べる予定のメニューなのでこんなもんだ(飯食ってる時点でガッツリやないか〜いというツッコミは無視する)。

準備が整ったら、すぐ隣の居間に持って行って、一人で静かな食事を始める。

食べ終わったら即片付けて洗って伏せておく。

後は歯磨きしたり何たりをして過ごしていれば、時間なんてあっという間だ。

だがしかし、まだ微妙に目が冴えていて眠気が来なかったので、端末は開かずに残っていた細々とした書類に目を通していた。

一向に目蓋が重くならない。

眠くなる作業BGMでも付けてイヤホンして作業してたらその内眠くなるかなって思ったので、実行に移して作業を続けるもやはり変わらない。

哀しきかな…何だか既視感のある状況だぞ、コレは。

つい一昨日の時と然して変わらなくはないか…?

オールしたけど眠れない、流石に二日オールは辛いから寝たいのに目が冴えてる。

うーん…私は別に動いてないと死ぬ鮪じゃないんだがなぁ。

如何せん、変に不眠気味になってきている気がして否めない。

取り敢えずは、皆が普通に起きて食事してる時間になっても作業続けてみたけど、一向に来ない眠気。

寧ろ、段々と逆に目が冴えてきている気がしてやばい。

うん…駄目だこりゃ。

此れ以上仕事すんのは止そう。

素直に諦めてまたたぬさんを頼ろう…。

こんなどうしようもない奴が審神者やっててすまんやで…と内心詫びつつ部屋を出て。

多分もう食事も終えて部屋に戻ってるだろうなと見当を付けつつ歩いていたら、向かう先の曲がり角からたぬさんがやって来てちょっと驚いた。


『ありゃ、たぬさん。今そっちに訪ねに行こうかと思ぉとったんやけど…どないしたん?』
「ん…まだアンタ仕事してて起きてんのかと思って様子見に来たトコだったんだが、やっぱりまだ起きてたんだな?」
『え、あーうん…起きて仕事してて、流石にそろそろ寝なアカンなぁ思って寝る準備してたんやけど、一向に眠気が来んくてな…。仕方なしに書類とかに目ぇ通しながら眠気来るの待っとったんじゃけども…結局駄目で。最終手段でたぬさんに頼ろうかと思って今向かってる最中やったんです〜。』
「んじゃ、タイミング良かったんだな。」
『うん、ナイスタイミング。ばっちりのGJですぜ、たぬさん…!』


頭働いてないせいで何かちょっと抜けてて馬鹿っぽい空っぽな内容しか言えてなくて草生える。

何で眠気来てないのに頭馬鹿になってんの?

寝てないからのせいですか、そうですか。

じゃあ、一度リセットというかリフレッシュする為にも寝なきゃっすね。


『という訳で、再びお願いしますたぬさん…!』
「何でという訳でお願いされてんのか分かんねェーんだけど…まぁ、アレなんだろ?この間と同じく俺の声がどーのって話。」
『うん、そう、其れっす。宜しくオナシャァス…ッ!』
「って言われてもなァ…何をどうすりゃ良いのか分かんねぇっての。…取り敢えず、こんなトコに居てもアレだ。部屋戻んぞ。」


頭を掻きながらもそう言って促してくれたたぬさんに、心の中で感謝を述べつつ言葉に従い、今出てきたばかりの部屋へと戻る。

部屋へと戻ったら即行布団の中へ突っ込まれ、無理矢理寝かし付けられるスタイルに…。

添い寝するみたくすぐ隣の位置に横になったたぬさんが、片方の手は自身の頭を支えながら、もう片方の手は布団の上から私をぽんぽんと叩いてくれた。

…何か急に自分が子供に戻った気分やわ。

つーか、もしかして私寝かすのにこのスタイルで行くん?


『ねぇ、たぬさん…素朴な疑問なんやけど、もしやこの状態で寝かすんです?』
「あ…?アンタ眠れねぇんだろ?」
『いや、まぁ…うん、寝れないんは確かなんやけどもな…この状態は、子供寝付かす時みたいで何かちょっと恥ずいというか複雑いというかなぁ…っ。』
「どっちみち、アンタ短刀の奴等と然して変わんねぇじゃねーか。」
『んぐふ…ッ、確かに俺短刀の子等と見た目(背丈)あんま変わんないけどね…!コレでも一応成人はしてる身なんですよぅ!刀の年齢的に言ったら、そりゃ俺なんてまだひよっこどころか赤ん坊レベルでしょうけども…。』
「おぉ、だからガキと然して変わらねぇってんで良いじゃねェーか。ガキのお守りは刀ん時のがあるから慣れてんだ。修行先でもやったぐれぇだしな。だから、アンタは素直に甘えてろ。…どうせ、俺が側に付いてなきゃ眠れねぇんだろ?」
『んぎゅ…っ、そういうトコだぞお前ェ……ッ。不容易にそんな事言うなよ、ときめくだろ阿呆。』
「照れてんのか罵倒してんのか、どっちだよ。」
『照れてんだよチクショウ、ナチュラルに格好良いかよ、惚れる。』
「知ってる。良いから早よ寝ろ。」
『いや、ただじゃ寝れなかったからたぬさん頼ったんじゃが?』
「だったら喋らず口閉じてろ。俺が喋ってるだけで寝れんのなら、しょうがねぇから何か適当に喋っといてやるが、何しても寝れねぇとかってなったら無理矢理落とすかして寝かすからな?」
『え…、無理矢理落とすとはどうやって…?』
「要は首の裏叩いて気絶させる。…簡単だろ?」
『強制就寝=物理かよ。嫌だわ、そんなん。下手したら永眠しそうだから止めて。君、既に極めてステマもしてる身なんだから。』


まさかの最終手段が物理行使と知って恐々としたのは言うまでもない。

今のだけで軽く寿命縮んだ気がするわ…。


「そんじゃ…っ、寝物語に俺が修行行ってた時の話で、まだ話してなかった与太話でもするとすっかァ。其れでも寝れなかった時は、強制的に落とすか抱き潰して落とすかして寝かしてやるから安心しな。」
『大丈夫、たぬさんのボイス聞いてたら余裕で安眠コース行けるんで!だから強制就寝だけは回避する…!流石の今ヤられるのも途中落ちしそうなんで嫌です…ッ!』
「別に俺としちゃあ今ヤってもヤらなくても全然構わねぇんだけどな…まぁ、良いか。んじゃ、さっき出しかけた修行先でもお守りする羽目になった話すっから、黙って聞いてろよォー。眠くなったらそんまま素直に寝落ちとけ。」


そう言って一度部屋の明かりを落とす為に身を起こし、再び私の隣に横になったら、適度な間隔を空けて布団の上をぽんぽんと叩いてくれ、寝物語に話を聞かせてくれた。

たぬさんが話し始めて暫くも経たない内に私はスヤァと落ちてすっかり安眠コースへ。

暫く経って私が完全に眠りに落ちたのを確認したところで、彼は喋るのを止め、口を閉じた。

そして、小さく溜め息を吐くと、呆れつつも仕方がないとばかりに笑みを浮かべて眠る私の頬を撫ぜた。

静かに眼差しを和らげた彼は、眠る私に向かって呟く。


「…本当物好きだよ。こんな俺を側に置きたがるだけでなく、存在そのものを欲するなんてよ。――良いぜ、アンタが求めるまま俺は側に居てやるから。アンタが俺を求めるというのなら、俺はその手を離さずに居てやるさ。俺はアンタの刀…アンタの物だ。アンタが望む限り、俺はアンタの側に居続ける。俺を番にさす奴なんてアンタぐれぇだからな。…アンタはそのまま変わらずに居てくれ。」


布団から出ていた私の手を握ってすりり…っ、と額に擦り寄った彼の表情は、大層幸せそうだったという。

何だかんだ言いつつも、結局彼も私と一緒に居るのが安心するらしい。


執筆日:2020.10.04