海は好きじゃ。
自分がまだただの刀やった頃の土佐を思い出すき。
潮の薫りが、懐かしきあの頃を思い出させて堪らんぜよ。
海と言えば船、海と言えば龍馬じゃ。
其れぐらい海とわしは切っても切り離せん縁があるろう。
海は広い。
何処まででも繋がっちゅう気がして、夢が膨らむんじゃ。
海は見るのもえいが、音もえい。
遥か彼方の昔ん頃…人もまだその形を成しちょらんかった太古の時代ん頃から在るせいかの、波の音っちゅうんは聴く程聴く程心が落ち着いて心地えいよにゃあ。
泣く赤子やち、こん音を聴いたらすこーんっと眠ってしもうたりする言うんやき、不思議なこっちゃ。
そんなんがあるきに、わしは海が好きぜよ。
けんども、その海に魅了されるんと同時に、海には仄暗い話も付き物でにゃあ…其れが一番の気掛かりになるんじゃなぁ〜、わしの。
わしは海が好きじゃきぃ、勿論その好きな海に此れまた好きな主を連れて行きたいち思うがぜよ。
けんど、其れが出来んと踏み留まって、なかなか言い出せんまま今に居るがじゃ。
わしの主が、生きちゅう様で半分死んじょるみたいな御人なんがそのせいやの。
“毎日生きるんが死ぬよりも大層辛い”ち、何時ぞやに嘆いちょったくらいじゃ。
海にらぁて来たら、目を離した一瞬の間に身投げしてしまうんやないかと思えてならんき、げにまっこと心配で臓揉んで其れどころじゃ居られんちや。
そんぐらいわしの主は死ぬ事に前向き言うんか、恐れちょらんのじゃにゃあ。
ほいやき、わしは主を連れて海まで来られんち思うがよ。
海は数多の人の心を魅了する力があると同時に、死へ誘う処でもある。
其れが理由で、此れ迄幾人の命が海っちゅう場所で落とされてきた。
生きたいと願う反面で死を望む様な御人を安易に連れて来れる様な場所やない。
わしは海が好きじゃ。
けんども、同時に恐れも抱く場所でもあるぜよ。
何時か主が身を擲って死なんか不安で堪らん様になるきね。
ほいやき、今はまだ暫く連れて行けんと日を追いつつ悩む日々じゃ。
Title by:この心臓は君の形をしている