ふと触れ合った掌のあまりの冷たさに驚いたのか、そのままくいっと引っ張られて何故か手繋ぎするみたいになってしまった。
が、その時は完全に無意識で引き寄せたのだろう私の片掌を握り込んだ時、己の掌の温度との差を感じて改めてその冷たさを思い知ったのだろう。
微かに手の甲同士が触れ合った事は自覚していたけども、急に握り込まれた自身の掌の感触と相手の掌の温度の温かさに私は半ば放心気味だった。
何処かぼんやりとした空気で彼の掌を見つめていたら、私の手を取った彼が口を開く。
「アンタ、この季節になると毎度冷たくなるよなぁ〜掌…こんなに冷え切っちまって、寒ぃとか感じねぇのかよ?」
『いやぁ…自分冷え性だからなぁ、今更って感じかな。』
「まぁ、冷え性で特に末端が冷えやすいならしょうがねぇか…。けど、アンタは女の身なんだから、なるべく躰冷やさねぇ様にしとかねぇと悪ぃんじゃねーのか?ちったぁ少しは自分で気遣ったりとかしねぇのかよ?」
『んー…そりゃあ本気で寒気する時とかは“首”が付く部位全部冷やさない様努めて温かくするけど、そんな一々気にしてるのも面倒だしなぁ…って。偶にそんままにする事もあるかな。そういう時は多少手が冷えてても気にならない時ね。』
「…ったく、変なとこでアンタって奴はものぐさだよなァ…まぁ、いざとなりゃ俺が世話焼いてやるから良いけどさ。」
『…………。(其れは良いんだ…。)』
内心思ったけど口にはしないで黙っておく。
大人しくされるがままで居たら、いつの間にか縁側の途中という場所で彼に両の手を取られてにぎにぎされていて、其れでも温もる様子の無い冷たさだと判断したのか、彼はそのまま私の両の掌を持ち上げ――自身の頬へとぴとりと引っ付けた。
途端、掌の内側に感じるは彼の自身よりも少し高めな体温を伝える頬の温かみで、手の甲側に感じるもまた彼の温かな掌の温度であった。
無自覚でやっている行為なのだろうか。
端から見て随分可愛らしい事をしでかしてくれるなぁ…、と他人事の様に客観的に今の状況をそう思った。
「ほら、こうすりゃただ手で握ってやるだけの時よりも温ぃだろ…?」
『…うん、あったかいです。』
「全くよォ…こんなに冷えてるんだったら、ここまで冷え切る前に暖取りに来るなり何なりしろよなぁ〜。アンタが望めば、俺は喜んで手なり足なりその身差し出してやるんだからさァ?今度からはこうなる前に俺を呼べよ。アンタが独りで寒がって震えてんのなんて見たくねぇからさ。」
『うん……うん、有難う。』
「ん…分かりゃ良いんだよ、分かりゃあ。」
そう言った後も、暫く彼はそのまま私の掌を両の頬っぺたにくっ付けたまま佇み続けた。
そんなにくっ付けたままでいたら、今度はそっちの頬っぺたの方が冷たくなっちゃうんじゃないかなぁ。
そんな風に捉えて見つめていたら、じっと見つめ返してきた彼の瞳に捕まった。
あ…此れは心で思った事が伝わっちゃってる時のパターンだ。
「今度は逆に俺の顔が冷えちまう事気にしてんだったら、別に心配要らねぇぜ。後でアンタがあっためてくれりゃあ済む話だからな。寒けりゃ引っ付いとけばその内温もってくるさ。別に、俺がアンタに抱き付いて暖取る分には文句無ェんだろ?」
『うん…たぬさんが其れで良いのなら、私は全然構わないけど。』
「ん、じゃあもうちょいこんままで居っとけ。アンタの手、マジで冷え切っちまってたからよ。」
気遣ってくれてるんだろう事は分かってるんだけど…長時間するにはこの方法は些か気恥ずかしいものがあった。
だって、此処…誰が通るかも分からない場所なんだもん。
実際、今しがた誰かしらが私の背後を通り過ぎていった気がする。
まぁ…ちょっとぼんやりしてて油断してたのもあるし、たぬさんがこうやって世話を焼いてくる事も珍しい事ではなくて慣れてるから、いっかぁ。
「あっ、また主さんが田貫さんに甘やかされてる…!」
「え?あー、またかぁ…最近しょっちゅうっていうか、ほぼ毎日なくらいに頻度上がってないか?アレ…。」
「でも、正国は自覚無しでやってるし、主の方も主の方ですっかり甘えちゃってるというか何というか…まぁ、本人達が良いんなら良いんじゃないか?」
「だが…少しくらいは場所を考えた方が良い気もしてくる。此処、完全に他の刀達の目もある場所だぞ…?良いのか?」
「さぁ?本人達が気にしてないなら放っておいても良いんじゃないの?最早今更感半端無いし!」
通りすがりと近くの部屋から顔を覗かせて見ていた外野組にそんなこんな呟かれてるのは勿論バッチリと聞こえていたけども…目の前の彼が気にせずそのままずっと私の掌を温め続けてくれていたので、此方も大人しく黙ってされるがままになり、自身の掌が温まり切るのを待つのであった。
その後、十分な温度に温もり切ったと思えば思いの外ぱっと軽く解放され、今度は反対に冷えてしまった彼を温める為に抱き付かれるのを良しとした。
流石に其れは他の者達の往来のある通路のど真ん中で…という訳にはいかなかった為、私の部屋へ招き入れた上で彼のハグを受け入れるのだった。
ちなみに、彼の温まり方は、私が執務に勤しむ傍らその背を後ろから抱き込みすっぽりとその身を収めたところで、冷えた顔を押し付ける様に私の肩口へ擦り寄ったまま引っ付く感じである。
嗚呼…この時季は人肌恋しくなる季節ですねぇ。
(―だから、冷たいのもそのままにしてるんだとは言わない。…きっと怒って拗ねてしまうだろうから。)
執筆日:2020.10.28