▼▲
寄り添う癖



二月に入ってからも寒さ厳しい日々が続いていたせいか、イベント続きで体力を消耗してしまったせいか。

しっぽり炬燵に収まり温まってのんびりしている内にうとうとと眠気に誘われて。

気付いた時には、既に意識は泥舟の中だった。

しかし、共に炬燵に集まっていた者達は特に何も言ってくる事はなく、敢えて触れてすらこなかった。

きっと、私がすっかり疲れ果ててしまっている事を分かっていて気遣ってくれたのだろう。

事実、消耗した躰は貪欲に休息を求めていた。

故に、私は寒気すらする調子に堪え切れず、つい寝惚けた思考でもそもそとその場に身を横たえ、炬燵の中へと包まるように潜り込んだ。

そうして、しっかり首元近くまで埋まり、目を閉じる。

何時もみたくこの場で一寝入りする事を止める者も居なければ、小言を言ってくる者も居ない。

束の間の休息と言い訳して、堂々と午睡に微睡むのだった。


―ちょっとだけの休息だと称してぐっすりがっつりガチ寝と言う程に眠りに就いてから、何れ程が経った頃だろうか。

不意に、深い処から浮上した意識が持ち上がり、目が覚めた。

意識がもたげたのと同時にうっすらと目を開き、まだ何となくぼんやりとしていた視界にゆるりと緩慢に瞬きを重ねて、夢見心地な気分に浸る。

一時間は確実に寝ていただろうか。

そういえば、寝落ちる前によく時計を確認していなかった。

今の時刻は何時ぐらいだろうか。

現実を意識した思考がそうやって真面目な事を考えようとした。

だが、何となくまだ眠っていたいような、そんな気怠さが躰を支配していた。

こんな時くらいは、少しの惰眠を貪っても許されるだろうか。

未だ眠気に支配される頭がそんな思考に至る。

ぐらぐら、ぐらぐら。

起きなきゃという気持ちと、まだまだ寝ていたいという気持ちが、ぶつかり合って揺れ動く。

今日の内にやっておいた方が良い仕事はまだある。

その仕事を片付けてしまうのなら、今起きて取り掛かってしまった方が良いのだろう。

でも、やはり、眠い。

無理矢理にでも押し上げようとしていた目蓋に抗うみたいに眠気が思考を遮り、気力を奪って仕方がない。

そうこううだうだと起きるか否かを迷っていたら、ふと、ゆるゆるとした感覚をした何かが頭の上を掠めた気がした。

その感触に落ちかけていた意識を何とか押し上げて、瞑れかけていた目蓋を半目開き、斜め上の方を上向き確認してみた。

視界の端に捉えたものに目を凝らして見てみたらば、どうやら誰ぞの硬い掌が私の頭の上を行き来していたようだ。

先程から柔くふわふわと感じていた感触の正体は、この掌だったのだな。

覚醒し切れていない頭がそう見たままのものの感想を零した。

だが、寝起きそのもののほぼ瞑れてしまった視界では、よくよく見てみない事には一体誰のものなのかが分からない。

眩しげにも何とか片目だけまともに開いてその手の先に繋がる顔を見遣ると、見慣れた武骨な刀の横顔が其処にはあった。

彼はというと、私の真隣という近さの位置に座って炬燵に収まり、テレビを見ているのか本を読んでいるのかは今見ている角度的によく見えず分からなかったが、片手間に私の頭を撫でているという事だけは理解出来た。

その光景にぼんやりとしたままの思考で見つめ続けていたら、不意に此方の視線に気付いたらしい彼の意識が此方へ向く。

次いで、より眠りを促すように殊更ゆるゆると優しく頭を撫でてきた。

その感触は、覚醒し切れていない頭には麻酔のように甘やかなものだった。

お陰で、つい眠気から甘えたを曝け出すみたいに擦り寄ってしまった。

他意は無い。

そんな私を見下ろし、獣を撫ぜる如く手付きでゆるゆると私の頭を撫でながら彼は小さく言葉を紡いだ。


「疲れてんだろ……まだそんな時間経ってねぇから、寝てて構わねぇぜ。他の奴等の事なら気にしなくて良いからよ。」
「…………ん゙ぅ…っ、」
「ただでさえイベント続きな上に、ようやっと特命調査任務から解放されたばっかなんだ…。無理せず休んでろ。今回のイベント、そんな真剣に取り組む予定じゃねぇなら、そう急ぐ仕事も無ェだろ…?今くらい何も気にせずゆっくりしてろって。」
「………ぅん…、」
「いざとなったら俺が部屋まで運んどいてやるから……このまま寝てろ。」


此れは、抗えない。

気持ち良過ぎる感覚に、再び微睡み始めた意識が舟を漕ぎ出す。

次第にまた意識が浮き沈みを繰り返し始めたら、意図的にだろう、彼がわざと眠気を煽るような手付きで私の頭を撫でてきた。

武骨な癖して、その手慣れた風な手付きがどうしようもないくらいに眠くなる。

気付いた時には、また私の意識は深い処へと落ちていて、くーくーと気持ち良さげな寝息を立てているのだった。

その様子を穏やかな面持ちで見つめる彼。

そんな彼の様子を端から見ていた槍一人と一匹龍王は、しみじみと呟いた。


「…アンタ達ときたら、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいの相変わらずの仲だよなぁ〜。」
「あ…?何だよ、今更。嫌なら見なきゃ良いじゃねェーか。」
「いや、そういうんじゃないんだけどな…?えっと…、コレって言っても大丈夫な系?」
「片手間に頭を撫でる手付きが、猫に接する時の其れと一緒だったと、見ていた俺達は思った…其れだけだ。」
「あ゙ー……まぁ、良いんでねェーの?どうせ、今の此奴、猫と大差無ェからさァ。」
「仮にも我等が主を猫と同等扱いとは…畏れ入るぜ。」
「実際、マジで猫と変わんねぇんだから良いだろ別に。」
「…確かに、仮に本人が聞いたとしても然して大した反応はしなかっただろうな。寧ろ、喜んでいたかもしれんぞ。もしくは、当然の如く受け入れていたか。」
「あー、主の奴、根っからの猫好きだもんなぁ〜…今更な話だったか。はははっ、にしても見てるこっちが絆されちまうくらいすげぇ気持ち良さげに寝てるなぁ。」
「見ろよ、この見事な緩みっぷり。つい先日まで気ィ張ってた奴とは思えねぇ顔だぜ?」
「本当だな…。眉間の皺が取れて、何時になく幼げに見える顔付きだ。」
「アンタの側だから緩みに緩み切った寝顔も曝すんだろうなぁ〜。モテる男はやっぱり違うってか?…なぁ〜んて、」
「…頭から真っ二つにされたいか?」
「フ…ッ。照れ隠しか。」


そんな風に揶揄われつつかれる彼の横で、私は相変わらず呑気に寝息を立てむにゃむにゃと夢の中であった。

その私の側に付かず離れず寄り添うように居る質実剛健な刀は、気の合う者達に揶揄われつつも私の頭を緩く撫ぜる手は絶えず止める事はせず、ゆるゆると柔く動かし続けるのだった。

何とも温かく穏やかな一時なのであった。


執筆日:2021.02.13
Title by:またね