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愛をくださいって言ってみたら抱かれちまったよの巻



「……何か、今、切実に愛が欲しい気がする…」
「いきなりだね。唐突にどうしたんだい、主?」
「いや、何かね…時々漠然となんだけど愛情が欲しいなぁ〜って思う事があるのですよ…。で、絶賛現在進行形でその状態に陥ってる訳なのですにゃぁ…」
「成程…。つまりは、愛情不足って事なんだね?…ふふっ、仕方がない主様だね」
「人間皆そういう時があるんだよ。決して私が変わってる訳ではなくてだな…、」
「うんうん、君の言いたい事はよく分かったよ。要するに、愛情不足なところを補えば良いって事なんだろう?それなら、とってもお手軽に補える簡単な良い方法があるよ!」
「ほう、其れは一体どんなものかね?是非とも聞かせてくれ給えよ、光忠君」


何気なくダレたように卓上に伸びて冒頭の台詞を呟いたら、意外な事に会話を拾ってくれたみっちゃん(極)。

てっきり軽く適当にあしらわれるかと思ってただけに驚きである。

まぁ、手短に相談してみたら難無く乗ってもらえたので、此方もノリに乗ってしまおうと彼の提案を聞いてみる事にした。

そしたら、手渡された一枚の白紙のプラカード。

其処に何種類かのマジックペンも用意されて、首を捻る。

此れ等を一体何に使うのかと彼を仰ぎ見れば、彼はしたり顔でにこりと微笑んだ。


「僕が今から此れにとある言葉を書いてあげるから、主は其れを持って本丸内を歩き回ってみたら良いよ。ねっ、簡単な事だろう?」
「うん、まぁ…簡単ではあるし、お手軽に出来る事でもあるけれど…。ちなみに何て文字を書くおつもりなので?」
「最も分かりやすく且つ短めな言葉かな…!まぁ、見てなよ。格好良く可愛く仕上げてあげるからね!」
「うっす…了解っす」


とまぁ、何だかやる気に満ちた彼がそう言うので、プラカードが完成するまでの間、大人しく側で見守る事にした。

暫くして、キュッキュ、と響いていたマジックペンの音が止んで、出来上がったプラカードを自信満々に彼が見せてきたので、言われるままに其れを覗き込んでみた。

そしたら、先程まで白紙だったプラカードには、『Please hug me !!』という英文がデカデカと書かれていて、意訳文としてだろうか、空いた隙間に『抱き締めて!銀河の果てまで☆』という文章までおまけに付いていた。

いや、〇クロスのラ〇カちゃんかよ。

思わず脳内で突っ込んでしまった。


「コレを持って私は本丸内を練り歩けと…?」
「そう!僕的にはなかなかに良いアイデアだと思ったんだけど、お気に召さなかったかい…?」
「いや、有難う。皆がコレを見てどういう反応するかも気になるし、ちょっと楽しんでくるわ。取り敢えず、適当に縁側辺りを彷徨ってきますね〜」
「うん!いってらっしゃい!」


快く見送られて、いざ愛を求めて行動開始なり。

ちなみに、このプラカードの文字を書く時、『Free Hugやってます(はぁと)』と書くか迷ったらしいというエピソードまで聞かされたが、ソレは流石に嫌だと私が拒否りそうだったのでさっきの文章にしたとの事らしい。

あとは理由として、「可愛さに欠けるから」との事だそうだ。

まぁ、『Free Hugやってます(はぁと)』よりかは、『Please hug me !!(“抱き締めて!銀河の果てまで☆”という意訳付き)』の方が持つ側の人間としてもだいぶマシと思える。

前者の文だった場合、何が悲しくて歌舞伎町とか秋葉原に居るお姉さんみたいな真似(想像)をしなけきゃならんのかと本気で嘆くところだった。

私、スタイルも良くなければメイド服着てる訳でもないし、如何わしいサービスもやっておりませんよ。

まぁ、そんなエピソード話はさておきだ。

一先ず、手短に人通りの多そうな大広間前の通路を目指して移動し、プラカードを持ってフラフラと彷徨ってみる事、数分後。

偶々通り掛かったらしい曽祢さんが私の存在に気が付き、声をかけてくれた。

第一ターゲットは曽祢さんに決まりだぜ…!


「どうもなのです」
「あぁ…こんな処で何やってるんだ?」
「ちょっとした気分転換に、遊びと称して本丸の皆さんと触れ合う企画を立ててみました〜」
「突然だなぁ…。で、具体的には何をするんだ?」
「コレに書かれてる事を実行してくれれば良いのです〜」
「何々…?えーっと………要するに、アンタの事を抱き締めたら良いって事で合ってるか?」
「Yes,yes.…私、絶賛愛情不足なのです。ホント軽くでも緩くでもそっとでも良いんです。私に愛をください」
「切実過ぎないか…?いや、まぁ其れくらいでアンタの心の隙間を埋められるってなら、お安い御用だがな。…んじゃあ、軽くぎゅっとする程度で良いか?」
「おkなのですよぅ。いつでもお好きなようにドーンと来いなのです」
「さっき運動がてら躰を動かしてきたばかりだから、少し汗臭いかもしれんが…我慢してくれよ?」
「寧ろウェルカムなのですよぅ〜」


何となく気恥ずかしさからちょっとしたキャラを作って被ってみていたが、其れについて指摘される事は無く、プラカードの指示通りの事を行ってくれる曽祢さん。

いきなりの事だったのにも関わらず、こんな企画に付き合ってくれる曽祢さんは優しい。

汗臭さを気にしてかそっとめの抱擁だったが、プラスとして頭撫で撫でまでしてくださったので文句無しの合格である。


「何だかよく分からんが、アンタも色々大変で疲れてるんだろ…?あんまり無理はしてくれるなよ」
「わぁ、嬉しい優しいお言葉まで頂けて、審神者感激で泣きそう」
「今のくらいで泣かれたら困るなぁ。まぁ、偶にはアンタも息抜きしろよ。供が居るなら声さえかけてくれれば付き合うからな」
「うわ、めっちゃ嬉しい事言うてくれるやん。審神者マジで泣くで?涙腺ガチでユルッユルなんやから。現在進行形で、ちょっとした台詞でも感動して泣ける自信あります。いっその事、そんな選手権でも開くか…?」
「いや、止めておいた方が良いだろう…。アンタが泣いてるところを見る事程心臓に悪い事は無いからなぁ」


そう言って去っていった曽祢さん、マジスパダリ過ぎてやべぇ。

語る背中が格好良過ぎて惚れるわ…っ。

そんなこんな感動に打ちひしがれていると、今度はちょぎ君とにゃーさんという意外なコンビが通り掛かった。


「おやぁ?そんな処で何をやってるんだい?」
「只今絶賛ちょっとした企画を開催中でして〜、もし宜しければお二人方もお付き合いくださればと思いますぅ〜っ」
「はぁ。暇潰しにしては、なかなか面白い事をしているね?」
「愛が足りないのです…どうか私に愛をくださいなのです」
「Oh…、こりゃまた難儀な悩みを抱えてたもんだなぁ。しかしまぁ、ハグするだけでアンタの寂しさが埋まるのなら構わんさ。さぁ、おいで。好きなだけぎゅっとしてやろう」
「ひぇ…っ、流石長船…!台詞だけで心臓鷲掴みにされるというか、何かちょっとアレな風に聞こえて脳内大変やばい状態っす…!!何処の乙女ゲーだよ、若さん……っっっ!!」
「ハッハッハ…ウチの主は恥ずかしがり屋だなぁ〜。そっちが来ないならこっちから行くけど、良いのかい?」


言うなり何なりムギュッと懐に抱き寄せられて一瞬死ぬかと思った。

香水だろうか、鼻先を良い匂いが掠めて其れだけでも十分脳味噌爆発しそうだったので、直ぐ様ガバリと離れさせて頂いた。

申し訳ない。

まぁ、企画立てた側の癖真っ赤な顔曝してしまったので、向こうはあまり気にしてなさそうだったが。


「もう良いのかい?」
「うん、もう十分です、有難う。若さんからのハグとか数秒だけで限界っす…!」
「耐性が無さ過ぎるリアクションだねぇ〜。もうちょい頑張れるくらいの耐性があっても良いんじゃないのかい?」
「いや、こういうのって大体がノリでやるもんじゃないっすか…耐性なんて早々簡単に付けれないっすよ」


からからと笑われてそう零せば、「初々しいね〜」と返された。

悪かったな、免疫無くてよぉ!

逆にあったらあったでどうかと思うけども。

若さんの番が終われば今度はちょぎ君の番だと、自分の番を終えた途端すんなりスマートにお隣さんにポジションを譲る若さん。

出来る男かよ。

さっきの台詞といい、声が良過ぎるせいで何やっても様になるから狡いなコンチクショウ。


「さて…、次は俺の番かな?」
「あい。あ、でも、嫌なら嫌で全然断ってくれて構わないからね!拒否権は自由なう!!」
「そうなのか。だが、今の流れで断る程俺も冷たい男じゃない。勿論、主の事を嫌っている訳でもないから、そこのところは安心してくれて良い」
「ぅ゙…っ、流石はちょぎ君…!もてあたが過ぎるよ…!!」
「照れ隠し方が独特だな…?」


二人揃って非番だったからか、二人共内番服だったけど、それなのにも関わらずこんなにもイケてて格好良いってどういう事だ??

イケメンは何着ても何してもイケメンだとは思ってたけどもさ、此処まで来ると最早語彙力失うよね。

ので、ちょぎ君からのハグ中は終始無言で悶え転がりたいのを抑えて打ち震えていたのだった。

終わった後感想を訊いてみれば、ちょぎ君曰く、「バイブレーション並に震えまくってて、一瞬俺が抱き締めたのは携帯だったのかな?と思う程だったよ」という独特な感想を頂いた。

やだ、恥ずかしい。

バイブレーション並て、どんだけ震えてたのよ、俺。

端的に言ってやば過ぎるわ。

その後も、ちょこちょこ移動しながら本丸内を練り歩いていれば、話を聞き付けたらしい粟田口短刀組に捕まって逆にハグを強請られてしまった。

うーん、企画の趣旨とは異なる気がするけども…わいわいきゃっきゃしてる空気に水差すのも忍びないし、何より短刀の子達が目の前に存在してくれてるor笑ってくれてるだけでめちゃくちゃ癒しになるからいっかぁ〜と諦めて、彼等に求められるまま楽しくわいわいとハグ大会を繰り広げる事にした。

すると、弟達が何やら賑やかしくしているのを聞き付けてか、長男のいち兄がいらっしゃった。


「何やら賑やかで楽しそうにしていらっしゃいますが、何をしているんですかな?」
「あっ、いち兄…!」
「実はさ、今、主さんは本丸に居る皆とハグする企画をやってるみたいでね?面白そうだからボク達も混ぜてよって参加してたところだったの〜!」
「そうだったのか…。其れはまた楽しそうな企画ですね」
「良かったら、いち兄もやるかい?拒否権は自由だから、嫌なら嫌って断ってくれておkだけど。こういう接触を苦手とする子も居るだろうからね、無理強いはしないよ」
「いえ、主殿さえ宜しければ、是非私も混ぜて頂けますかな…?」
「Oh…、笑顔が眩スィぜ……ッ」


ロイヤルフラッシュばりの素敵スマイルを頂いたので、すんなり快諾して改めてプラカードを見せて企画説明を行えば、成程と頷いたいち兄は笑って企画参加の意を示してくれた。

粟田口長男は何処までもロイヤルかよ…眩し過ぎて溶けるわ。


「何とも可愛らしい企画ですな」
「しょうもない企画に付き合わせてすまんやで、ホント。今だけは粟田口の妹とでも思ってくだせぇな」
「い、妹ですか!?そ、其れは、兄として嬉し過ぎる申し出なのですが…っ」
「いや、照れるなよ。お前が照れたらこっちまで恥ずかしくなってくるやんけ」


急に照れたように顔を赤らめてくるから、ハグしてと頼むこっちが照れるんだが。

そんな光景に「ヒューヒューッ!」と囃し立てる乱ちゃん(極)。

今ソレ冗談抜きで恥ずかしいから、切実にヤメロくださいお願いします。

取り敢えず、お互い恥ずかしがりながらもふんわり優しめにぎゅっとしたら、ロイヤルな匂いと温かみがダイレクトにアタックしてきてオーバーキル食らったわ。

思わず、暫し無言で固まっていたら、不安になったらしいいち兄に声をかけられて息を吹き返した。

や、やべぇぞ、コイツは……ッ。

流石はロイヤル…侮れない(いや何が)。

動悸が凄まじ過ぎて何も感想言えずに居れば、側にやって来た薬研(極)がフォローしてくれた。

助かったぜ…。


「悪いな、いち兄。ウチの大将はこういう事すんのに耐性付いてねぇから慣れねぇんだ」
「え?でも、さっきはお前達と仲良く楽しそうにハグし合ってたんじゃ…」
「俺達は悪まで短刀、子供の姿形だからな。そこんとこの違いだ。いち兄は太刀で見た目は成人した男性と変わりないし、おまけに見目も麗しいとくりゃ、並の女は皆コロッと落ちちまうのさ。大将だって然りだよ。何せハグまでしちまったんだからな!」
「流石は俺の初泥刀…よく分かっておいでで」
「おっ、もう復活したか。良かった良かった。ま、今日一日はソレやるみたいだしな。頑張れよ、たーいしょ?」


どさくさに紛れて然り気無く混ざってきた薬研に抱き締められ、おまけにポンポンッと背中まで叩かれた私はもう死んでも良いと思えた。

大袈裟かもしんないけども、其れくらいの威力はあったのだと言い残しておくぜ。

その後もフラフラと歩いていけば、通りすがりの皆に気兼ねなくナチュラルにハグされていった。

お花にお水遣ってた左文字兄弟達だったり、洗濯物干してた国広兄弟達だったり、はたまた縁側でのんびりしてた三条組だったりと行くとこ行くとこで皆と逢ってむぎゅむぎゅされた。

幸せかな…?

皆誰も断る人は居なくて、その事だけでも何だか嬉しくて、気付けばずっと笑ってた気がする。

まぁ、単純に抱き締め合うってのが擽ったくて笑ってたのもあるけど。

ちっちゃい子も、大きい子も、皆一緒であったかかった。

何か、愛情不足と言うよりは、温もりが足りてなかっただけなのかなぁ…なんて事も思わなかったり。

そんな事に気が付いても変わらず新たなハグを求めて彷徨い歩いていれば、驚き大好きお爺ちゃんな鶴さんと逢った。


「何だか面白い事をしてると聞いてやって来てみりゃ、こりゃまた変わった事をしてると来たもんだ…!」
「暇なら鶴さんもやってみる?」
「おう!しっかし、ただハグし合うってだけなのも味気ないというか、物足りなさを感じるなぁ〜。もっとこう、インパクトのある驚きが欲しいような…」
「いや、このプラカード持って本丸内歩いてるだけで十分インパクトあると思うけどなぁ…。だって、普通“何してんの、コイツ?”って思うでしょ?疲れたあまりに奇行走ってやしないかとかって心配されるだろ?事実、始めの内はそんな同情心から参加してきた子も居ったで」
「君の奇行は今更だろう?一々これくらいの事では驚かないさ」
「え…、私普段至って普通に過ごしてるんすけど…奇行らしき事そんなやらかした事ない筈なんすけど……??(徹夜明けのテンションぶっ壊れ時は除く)」


取り敢えずは一度はハグし合いつつそんな会話を交わす。

鶴さんの驚きへの探求心は今に始まった事じゃないけどさ…お前の中での私の立ち位置ってどないなってんの?

スゲェ気になるんだけど。

其れはさておかれて、鶴さんの言う物足りなさを埋めるべく急遽工夫を凝らす事になった。

何をするのかと言えば、空いた段ボール箱を庭先などの手頃な場所に設置し、其処に私が入ってプラカードを掲げて待機していろとの事らしい。

おまけのおまけに、段ボールの箱の蓋にはご丁寧にも『拾って可愛がってあげてください』なんて文字も書かれてしまった。

いや、私は捨て犬もしくは捨て猫じゃねーよッ!!

つか、今の時代、犬猫捨てたりなんてしてたら動物愛護団体から訴えられるわ!!

飼うと決めたペットは責任を持って最後まで飼いましょう!!

その辺の道端に捨てるの駄目絶対…っ!!

某CMでも言ってる事だからね!?


「つか、そもそも私は誰にも捨てられてねぇっつーのッッッ!!」
「おぉっ!相変わらず君のツッコミはキレが良いなぁ!!」
「喜ぶなよ!!褒めてもねぇーし!!そして何やり切った顔して去ってってんだよ、おい!!このまま放置して行くなし、馬鹿ァ…ッ!!」


私を段ボールに詰めた後は得意気な顔をして鼻歌歌いながら去っていった鶴さん。

後で覚えてろよ、クソが…ッ。

暫くそうやって律儀に段ボールの中に入ったまま体育座りして、某ちょぎ君みたく「クソッ、クソッ…!」とか呟いてたら、ふと頭上に影が出来て、上を向いたら其処にはたぬさんが居た。


「アンタ、そんなとこで何やってんだ?」


思えば、私が置かれた場所は、丁度道場の近くに位置していた場所だったっけか。

偶々通り掛かったら、何やら変な事をやってる私を見かけたので気になったらしく声をかけたとの事だそうだ。

いやもう変な事してると思われた時点で変な奴指定されたも同然やんか。

恨むぞ、鶴さんや…。

変な奴指定されたんやったら、もう此処は諦めて企画実行に移した方がえいやろ…って思って、細かい事は告げずに一言だけ言ってみる事にした。


「愛が足りないのです」
「は?愛ィ…?」
「Yes、そうなのです。だから、単純にたぬさんの愛を私にください」


そう言ってプラカードを掲げて見せると、素直に文字を声に出して読んでいくたぬさん。

極めた後の彼なら英語だって難無く読めるだろう。

簡単な事しか書いてない板を見て、彼は首を傾げながら文字の意味を噛み砕くように考え出す。

一瞬、チラッとだけ箱の蓋に書かれた文にまで視線を落としている気がしたが、たぶん気のせいだと思いたい。

というか、書いてる文体で板の文字と蓋の方に書かれた文字は別人だと分かるだろう。

そもそものこの企画趣旨はプラカードに書かれた事のみだ。

蓋の文字は鶴さんによって後付けされたものに過ぎない。

というか、鶴さんのは別に何の意味も無い飾りのようなものだ。

無視してくれて良い。

意味を理解したのだろう、暫し思案していたっぽい彼が眉間の皺を解いて口を開いた。


「要するに、アンタの事を抱きゃあ良いって話なんだろ…?」
「おぅ、合ってる合ってる。言い方がアレなのがちょっとアカンけれども」
「んじゃま、手っ取り早く抱けば良いんだな」
「お…っ?たぬさんも参加してくれるんで?ちょっと意外」
「あ…?アンタに求められてんだったらやるに決まってんだろ?俺はアンタの刀なんだからよォ」
「わーお、たぬさんらしい回答有難うございまぁ〜す」


まさかの乗り気で返されるとは思ってなくて、鶴さんじゃないけど驚いたぜ。

てっきりたぬさんの事だから呆れて溜め息くとかだけで終わるかと思ってたから。

そんなこんな思いつつ彼からの抱擁を待機していると、思いの外ソフトな感じでぎゅっと抱き締められた。

おぉう…っ、き、筋肉がダイレクトアタックしてくるぞ…!?

ただでさえ、彼に抱き締められるという事にどぎまぎしてるのに、其れを凌駕する形で接されたら脳内沸騰して早くもキャパオーバー起こしそうだよ。

コレで更に耳元で喋られようものなら、何がとは言わない、爆発四散する勢いでハートブレイクするわ。

端的に言って死ぬ。

まさにアレの状態になる自信がある…。

所謂“ヤムチャしやがって…!!”的なアレだ。

…とかって思考回路寸断間際のを紛らわす――否、防ぐ為に明後日の事を考えてると、不意に彼から耳元で喋りかけられてしまった。


「自分から抱き締めろって言う割りには、ガッチガチに緊張してんじゃねェーか、アンタ」
「ふぐッ…!!頼むから…ソコで喋らんでくだせぇお願ぇしやすぅ……っっっ!!」
「あ…?この状態のまんまで喋るならこうなるに決まってんだろ?何言ってんだアンタ」
「いや、別に喋るだけなら躰離してからでも喋れるよね?うん、だから一旦離れよう、ねっ?会話するなら一旦離れてからでも出来るよ。だから今すぐ離れようぜ!」
「へぇ…アンタは俺に抱かれるのは嫌だってか?」
「そういう意味で言ったんじゃないって…!!単純に、私が、この状況が恥ずかしくて堪えらんないから、離れてくれって言ってるだけだよォッッッ!!頼むから耳元で喋んないで俺死んじゃう…ッ!!」
「ハッ、そういう事かよ。ったく、しょうがねぇ奴だなアンタは…」


良かった、此れで一時の安堵は確保出来ると思ってホッと肩の力を抜きかけた時だった。

離されると思っていた躰は密着したまま、且つ更に密着するようにグッと引き寄せられてガッチリ拘束されるみたく強く抱き締められる事になってしまった。

其れに困惑している間にあれよあれよと段ボールの中から抱き上げられて、浮遊感からひっしと彼にしがみ付けば、そのまま抱えられて何処かへ歩き始められる展開に。

いや、何で?

つか、コレ何処に向かってんのかな??

盛大にはてなマーク飛ばしまくってたら、彼から淡々と答えを暴露されました。


「蓋んところに“拾って可愛がってあげてください”って書いてあったじゃねーか。だから俺はアンタの事を拾ったまでだ」
「ほあ!?いや、ソレ、実は鶴さんが勝手に付け足しただけで深い意味は無くてだな…っ!」
「おまけに返品不可とも書いてあったしな」
「ええっ!?嘘、何処に!?」
「箱の側面に小せぇ文字で書いてあったぞ。俺は其れに従ったまでで、文句言われる筋合いはねぇからなァ」
「いやっ、ほん、ちょっ、ま、待って、本気で待って…!鶴さんのアレは冗談で本気にしちゃ駄目なヤツ……ッ」
「拾っちまった以上はちゃーんと面倒みてやらねぇとなァ〜」
「何かよく分からんけど御免て、許して!謝るから、一旦降ろして、頼む…!!無理ならせめて何処に向かってるかだけでも教えてちょ…っ!!」
「何処、つったらアンタの部屋に決まってんだろうが」
「へ?何で俺の部屋…?」
「何でって、そりゃ…“可愛がる為”に決まってんだろ?」
「ふぁーッッッ!!!??」


ニヤリ、と愉しげな笑みで言われた言葉に盛大な奇声を上げていると、彼は殊更面白そうに私を抱えて離れへと向かうのだった。

いや、本当に勘弁してくれと暴れ繰り回って彼の腕から脱出しようと藻掻くも、其処はたぬさん、ご自慢の腕力と筋力でガッチリホールド決めて離してくれなかった。

オーマイゴッド…!!

って、そういや此奴刀の神様だった、そうだった…じゃないよ!!

誰か助けてHelp me!!

私の貞操が危機よ…ッ!!

つって仮に叫んで助けを求めたところで誰も来てくれやしないだろう事は分かり切っていたので、取り敢えず藻掻きに藻掻きまくって某ホラゲーみたく相手の腕から脱出出来ないか試みてみたけど、時間が解決してくれる訳もなく、藻掻きゲージが溜まる訳もなく、惜しくも離れの部屋前へと辿り着いてしまうのだった。

なんてこったい…。

私はこれからたぬさんに二次創作には付き物のアレをされてしまうのか…?

エロ同人みたいな乱暴を??

いや、そんなまさかな〜と一応彼自身に問うてみれば。


「あ…?そのつもりだが…何か悪ぃかよ」
「え、いや待って?まさかのまさかでヤル気でいらっしゃる?嘘でっしゃろ?頼むから嘘だと言ってくれよバーニー」
「誰だよ、バーニーて。可愛がれって、所謂そういう事を指すんじゃなかったのかよ?」
「いや、まぁ、企画がそういう企画だったならそうかもしれなかったんですがね?今回の企画は至って健全なものだったんで、そういう意図は無かったんですよ〜。だから、あの…視線で刺すの止めて頂けないかなぁ、と……っ。最早視線で射殺せる並に痛いっす、ハイ…………ッ」
「ふぅん………だから、何だって?」
「は?」
「アンタが愛が欲しい、足りないと言い出した事に変わりはねぇんだろ?」
「え、あ、うん…まぁ、ハイ、そうですね…うん…。――………え?だからだと?」
「鈍ちんなのも程々にしねェーと、後悔するぜ?俺の主様」


今の絶対語尾にハートマーク付いてただろと言わんばかりの笑顔で言われて落ちない人って居る…?

少なくとも私は落ちない訳がなかった。

その後の細かい事については割愛するが、愛情不足で愛を求めて彷徨った結果、最終的にたぬさんに美味しく頂かれましたとさ…という展開になったのでした、マル。


執筆日:2021.03.18