イベント周回中、どんなに集中していても何処かで集中力は切れていて、気が付いたら舟を漕いでいる…というのは、よくよくある事である。
今回の大阪城イベも例に漏れず、『今日の目標のノルマに達成するまでは頑張るぞ〜!』と意気込んで部隊を組みレベリングも兼ねて大阪城地下掘削に勤しむ最中、始めの内はしっかりしていたも、同じ作業の繰り返しに段々と眠気が襲ってきて、いつの間にか意識を飛ばしていたのだった。
睡魔に意識を奪われてうっすら夢の世界へ旅立ちかけていると、ふとした瞬間にふわりと意識が持ち上がり一時的に覚醒する時がある。
そんな境目の時であったか、誰かに優しく髪を撫でられたような感覚を覚えたのだ。
その感覚に導かれるように意識を浮上させれば、戦闘を終了させた出陣部隊が次の指示を待っている状態であるのが画面に表示されているところであった。
眠気の残る目蓋を
そうしてまた一時仕事に集中していれば、再び襲ってくる眠気に抗えず舟を漕ぎ出す。
同じ作業の繰り返しは、どうしても眠くなってしょうがないのだ。
特に、今回はレベルがカンスト目前の子達のカンスト強化を目的としたレベリング期間である為、安心した上での単純な流れを見守るだけのお仕事である。
どんなにちゃんと睡眠を取っていたって眠くなるものだ。
本当はそんなんじゃ審神者足るべき者としての怠慢になるんじゃないか、って話になるんだけども…眠いものは眠い。
真面目に仕事に取り組んでいる方だけマシと半ば開き直って重くなる目蓋に再び意識を飛ばしかける。
すると、また頭の前頭部――前髪の辺りをふわりと撫ぜられて、意識が浮上した。
随分と優しい手付きの其れは誰によるものかと回転の鈍くなった思考を働かせて、すぐ近くの周囲を見渡す。
その答えは案外すぐに分かった。
「…起きちまったか。別に、このまま寝てても良かったんだけどな。出陣してる奴等には、俺から代わりに指示出しとくつもりだったし」
その声と視線に、“嗚呼…そういえばこの感覚を覚えるのは、いつも彼が近侍を務めていた時だったな”と思い至る。
そうか、あれは彼によるものだったのだな。
不思議と安堵に似た感覚に至り、眠気の残る目蓋を瞬かせながらふにゃりと笑んだ。
「何か誰かから優しく頭撫でられた気がしたなぁ〜って意識覚醒させたら…なぁんだ、たぬさんの仕業だったのねぇ」
「あんまり眠いんなら、一旦切り上げて寝たらどうだ…?今、眠気で頭相当馬鹿になってんだろ」
「えへへ……っ、気遣ってくれてありがとね。でも…あともうちょっとで今日の目標のノルマに到達するから、それまでは頑張らせてぇ〜」
「頑張んのは良いけどよ……無理はすんなよ」
彼の堅く大きな掌がまたさっきみたく前髪の辺りに伸びてきて、優しく撫ぜていく。
その心地好さに暫く浸っていたい気持ちが眠気に支配された思考が故にムクリと顔を覗かせたが、自分が決めた目標を蔑ろにする訳にもいかなかったので、睡魔の誘惑には抗って仕事に戻る事に決めた。
大阪城地下のステージ半ばで待機状態で次の指示を待ち続ける部隊に、掘削作業再開とばかりに進軍の指示を飛ばす。
其れを数回繰り返して漸く今日の目標ノルマに到達し、出陣させていた部隊に撤収の指示を出し、帰還させる。
彼等が帰ってきてからの後の事は、本丸で留守番していた待機組達に任せても問題は無いだろう。
本日の仕事は終わりと区切りを付けて端末を閉じた。
耳に付けていたインカムも外し、その場にごろりと横になる。
もう既に疲れ切っていた目を瞑ってくあり、と欠伸を漏らせば、真上から覗き込んできた彼の穏やかに細められた金色の目とぶつかった。
「其処で寝ちまうのかよ…寝るなら布団で寝たらどうだァ?あと、何も掛けねぇで寝たら風邪引くぞー」
「んぅー……今、布団で寝たらガチ寝しちゃうから…駄目っす〜…」
「何で駄目なんだよ?」
「んー…一応、この後他にもやろうと思ってた事があるからぁ……やる事やってから今日を終えときたいんすぅ〜…っ」
「へーへー、わぁーったよ。一、二時間くらい経ったら起こしてやるから…せめて何か腹に掛けるかして寝ろ」
「うぃっす…了解なのです…」
たぬさんに言われてむくりと上半身だけを起こし、近場に畳んで置いていた膝掛け兼肩掛けブランケットを躰の上に広げて乗せてから寝直す。
別に枕無しでも寝れるからそのままでも良いやと無精して寝る体勢に入っていたら、ぐいっと頭を持ち上げられて膝の上に置かれた。
其れに対し、瞑っていた目を開いて「良いの?」と伺う代わりに見つめれば、柔らかな返事と共にまた頭の上に彼の掌が降ってきた。
「何も敷かずに寝たら寝づれぇだろ…?俺ので良いなら使っとけ」
「んふっ…有難う。じゃあ、遠慮無く使わせてもらうねぇ〜…。たぬさんも、疲れたり痺れたりしたら遠慮無く私の頭どっかに降ろしといてくれて良いからぁ」
「おう、わぁーってるから…眠ぃんだったらさっさと寝ちまえ」
「ぅあい……おやすみなさぁーい、たぬさぁーん…」
「ん…おやすみ」
早よ寝ろ、と促すようにぽんぽんと軽く叩かれて、今度こそ本気で睡魔に身を委ねる事にしたのであった。
―その後、昼過ぎから夕方の夕餉が出来る頃くらいまでの時間までガッツリ熟睡の爆睡を決め込んだ私は、起きるまで起こさなかったたぬさんに全力で謝った。
ガチ寝しないって言ったのはどの口だよ。
あと、お昼寝するだけにそんな寝かさなくても良いから起こせよ。
何で変なとこで甘やかすの、そんなんじゃ審神者駄目になっちゃうから、って訴えようも…平然とした彼からこんな台詞を聞かされては終始悶えるしかなかった。
「だって…せっかく気ィ許して気持ち良さげに寝てるとこ起こしづれぇし、何より好いた奴の寝顔はいつまでだって眺めてたいもんだろ?」
いや、何処のゲロ甘漫画だよ――!…と思ったのは、きっと私だけじゃないと思いたい。
執筆日:2021.05.30