蒸し暑くなってきた今日この頃、汗や皮脂でベタつきやすくなるのが嫌で開放的なノースリーブ服を解禁した。
ので、エアコンの効いた室内に居ると、露出した肩から先の二の腕などが冷えて触れたらひんやりとする。
そのひんやりとした肌が、蒸し暑い外から帰ってきた者達にとってはとても気持ちが良く感じるらしく、火照った躰を冷ましに引っ付いてくる…という光景が見られるようになった。
まだ真夏程の酷な暑さではないのでエアコンのクーラーもガンガン効かせていないから出来る格好であるのだが、この光景が見られるようになると“またこの季節がやって来たんだなぁ〜…”としみじみ思う。
遠征から帰還して即冷えた温度を求めて留守番組だった愛染と蛍にくっ付きダレる国行の姿を通りすがりの視界の隅に映した直後、長時間遠征に出ていたもう一部隊が先の部隊に続くように帰還した。
続々と門を潜ってくる部隊の面子の中に、大槍身の槍を肩に担いで疲れた顔を張り付けて歩く隊長の姿を見留めて、噂をすれば何とやらだと玄関先まで出てきて出迎える。
「お帰りぃ〜、皆!長時間遠征お疲れ様…!この季節の外でのその格好は蒸し暑かったでしょ〜っ」
「お〜、ただいま帰ったぜ主ぃ〜っ。もう本当しんどかったんだけど…」
「あははっ、特にぎねは重ね着してて暑かったろうなぁ〜。報告は後からで構わないから、先風呂行って汗流してさっぱりしてきな?」
「おう、そうさせてもらう〜…。…あっ、風呂から戻って服着替えたら報告ついでアンタんとこ行っても良いか?アンタの部屋、エアコン入れてて涼しいんだろ?」
「ん?まぁ、除湿入れてから冷房にしてるのもあってカラッとしてるし、涼しいと言えば涼しいよ。俺ノースリーブだから、クーラー自体はそんな効かせてないけどね」
「それでも良いよ。クーラーで冷えてるアンタに引っ付くと気持ち良いからさぁ〜。どうせ、まだ一時躰火照ってて暑いし、いつもみたく涼ませてくれよ」
「ハイハイ、其れは分かったから、早くその暑苦しい服脱いで水被ってきなさい。引っ付くのはそれからよ」
「へへへ…っ、いつも嫌がらずにサンキューな主!すぐ済ませてくる…っ!!」
「慌て過ぎて廊下転んだりしないでねぇーっ!」
帰ってくるなり慌ただしく廊下を駆け、ドタバタと騒がしく去っていくぎねの後ろ背を見送りながら苦笑を浮かべる。
気休め程度にしかならぬ忠告はしておいたが、廊下を走る事自体を止めなかったせいか、角を曲がった先の通路から長谷部の怒鳴る声が聞こえてきた。
すまん、長谷部…走るなと忠告しなかったのは私だ。
つい甘やかしてしまいがちで悪いのぅ…。
遠征組の出迎えも済んだ事だし、仕事の続きに戻ろうと自分の部屋の方へと足を向ける。
部屋に戻って数分も待っていれば、鴉の行水で汗を流し終えてきたぎねが来る事だろう。
ならば、早いとこ部屋に戻って少しでも仕事を進めておかねば。
何気ない風にそんな事を思って、内心平和な事で何よりだと微笑んだ。
間を空けず「どうぞ」と一言短く告げると、汗を流してきてさっぱりした様子のぎねがニコニコとした表情で入ってくる。
「っやぁ〜!さっぱりしたぁ〜!!汗をかいた後の水風呂は最高だな…っ!!」
「そりゃようござんした。頭から水被ってきて少しはすっきりしたかい?」
「ああっ!めちゃくちゃすっきりしたぞぉ!!主も水浴びしてくるか?」
「いや、俺はそんなに汗かいてないし、寝る前にシャワー浴びるから良いよ」
「そっか。じゃあ、疲れて帰ってきたご褒美のアレ…頼んでも良いか?」
「最初からそのつもりだったんでしょ?今更お伺い立てしてこなくても、いつでもどうぞ。好きなだけ引っ付いてな」
「ははっ、ありがとなぁ〜主…!んじゃ早速失礼するぞ〜っ」
言うが早いか、火照って熱い大きな躰をベッタリと引っ付けてくるようにくっ付いてきたぎね。
もう何度思ったかは分からないが、やはり彼は大型犬みがあると思わざるを得ない。
槍の身に相応しくデカくて重たい躰をこれでもかと寄せて擦り付いてくるので、勢いと圧に(物理的に)押されて背を反らせながらも受け止める。
端から見て、季節的には暑苦しい事この上無い光景に見えるだろうが、個人的観点から言わせてもらうと、既にエアコンの風で冷えて肌寒いと思ってた程なので、ある意味丁度良いくらいである。
エアコンを切ると蒸し暑いが、かと言って逆にエアコンを効かせ過ぎても寒くなるので、控えめな温度に設定してあるのだ。
其れでも寒いのならばノースリーブをやめて別の服に着替えるか、或いは何か上着となる物を羽織れば良いのだろうが…現状はこういった小さなイベントが起こるからこのままなのである。
「はぁ〜…心地好い温度で落ち着くぅ〜………っ」
「審神者で火照った躰の熱を冷まそうとするのはお前くらいなもんだよぉー…」
「だぁってさぁ〜…アンタの腕や露出してる肌が冷えてて気持ち良いんだもんよ〜……っ。ちょっとくらい良いだろう…?」
「まぁ、仕事の邪魔しない程度なら許してあげない事もないけど…髪くらいはちゃんと乾かしてきなさい!まだびっしょびしょじゃないの…っ!このままだと風邪引いちゃうし、俺の服濡れちゃうからタオル貸して!!拭いてあげるから…っ!」
「へへっ…何だかんだ言いつつも主は優しいよなぁ〜!そこが好きなんだけどさ」
「ったくもぉ…早く涼みたかった気持ちは分からんでもねぇけど無精すんなよなぁー、この馬鹿ちんが…っ!」
「あでっ…!?いきなり小突くなよ〜。アンタの拳、地味に痛いんだからさぁ」
「わざと痛くしてんのよ!全く、此れくらい面倒くさがらずにちゃんとしな!!」
「イダダダダ…ッ!!ちょっ…主、力強過ぎて痛い…!!もうちょっと優しめでお願いします…っ!!」
痛がる彼の言葉には耳を貸さず、問答無用でガシガシと力を込めて強く髪を拭いてやり、水気を取る。
その後、軽くドライヤーの冷風で乾かしてやってからぱぱぱっ、と整える。
本当は温風でしっかり乾かしてやりたいところだが、そうすると火照った躰が更に暑くなりそうなのでやめてやった。
程好く髪の毛が乾き整ってきたら、あとは彼の気が済むまで好きにさせるだけだ。
髪の毛が終わるや否や、引っ付き虫みたく背中を丸めて私の背にベッタリとくっ付いてきたぎね。
冷えた二の腕を堪能するように後ろからガッチリ両腕を回され、首元に擦り寄られる。
正直ちょっと重くて動きづらいし、仕事に集中しづらいので端的に言って邪魔なのだが…我が本丸の子達には甘い癖が出てしまい、結局は許してしまいがちである。
そうこう彼を背中にくっ付けたまま仕事を進めていたら、彼と同じ部隊で共に長時間遠征から帰ってきたばかりの十文字君が顔を覗かせにやって来た。
「今、良いか」
「ほいよ、えいよえいよ〜。どしたん?」
「遠征より帰還した事の結果報告に来ただけだ。…まだ報告は終わっていないように思えたのでな。結果は、無事任務達成。持ち帰ってきた資材の量もアンタの目論見通りだろう。今回の遠征で得た資材の分については、此方に記載した。手空きの際にでも確認しておいてくれ。…報告は以上だ」
「おや、お疲れのところやったろうにありがとねぇ〜。……ほら、本来なら部隊長やったお前の仕事やぞ…っ。しっかりした子に育った後輩に感謝せえよ」
「お〜、片付けまでしてくれた上に報告までしてくれてありがとなぁ〜!本当助かったよ…っ!」
「そういう事は、ちゃんと相手に面と向かってシャキッと背筋伸ばして気持ち込めてから言わんかい!!」
「うぇ…主が手厳しい……っ」
「当然のこったろ…!ウチの一番槍として顕現した大先輩も大先輩な癖に、後輩の前でみっともない姿曝して恥ずかしくないんかね?」
「一番槍だからこそ、疲れて帰ってきたご褒美にこうしてアンタの事独り占めしてるんだろぉ〜っ。ついでに、冷えたアンタの躰で外の暑さで火照った躰の熱冷ましも兼ねてなぁ〜」
「仮にも部隊長務めてたなら、やる事やってからにしてくださぁ〜い。そうじゃなきゃ、今からでもすぐお前の事引っ剥がして部屋の外に摘まみ出すぞ」
「すいません、御免なさい、反省しますから許して、御免なさい、許してぇ……っっっ!!」
「分かれば良し。だがしかし、次は無いと思えよ?」
「ハイ…すみませんでした…」
背中にくっ付いたまましゅんと耳と尻尾を垂らして(幻覚)反省の色を見せるぎね。
まぁ、一応はちゃんと反省してるようなので、一先ず許してやる事にした。
その際、釘を刺しとく事も忘れないが。
そんな一見コントのような漫才のようなやり取りをナチュラルに交わしていたら、見慣れぬものでも見たような反応で此方を凝視する彼の目と合った。
ハテ、今の流れに何か可笑しな事でもあっただろうかと首を傾げて思考を巡らせていると、私の思っている事を察したのだろう、彼が控えめな口調で口を開いてきた。
「…一つ、訊いても良いか?」
「はい、何でしょ?」
「……アンタ達二人は何をやっているんだ…?」
「あー……っ、そっか…まだウチに来てから日が浅い十文字君は見慣れてない光景だよねぇ〜、コレ…。実は、俺がノースリーブを着出すこの時季限定で見られる光景なんだよ〜、この図。最早、蒸し暑くなってきたこの季節の風物詩みたいなものかな。…あ、ちなみに、ぎね以外の子もちらほらと見られるけど、大抵はこの大槍身を誇る三名槍が一振りな東の槍ぐらいだよ、こうして堂々と審神者にくっ付くのは」
「…仕事の邪魔にはならないのか」
「ぶっちゃけ言ったらクッソ邪魔やけんども、まぁ我慢出来ん程ではないから許してる感じではあるにゃあ」
「…そうか」
スッゲェ引かれた目で見られてんぞ、お前…。
ちっとくらい堪えろよ。
そんで自分の行動見直して気持ち改めてシャキッとしよう…?
見てるこっちが情けなくなってくるくらい微妙な顔して見られてんよ…。
十文字君も、槍の先輩がこんなだらしない奴でスマンやで…。
頼むから、これからも同じ槍仲間として仲良くしたってや。
審神者からの切なるお願いじゃ。
その後、彼は用は済んだからと微妙な顔をしたまま早々に自室へと引っ込んでいった。
…後で何か労いの品でも献上しに行こうかな。
ぎねはというと、その日、残りの仕事が終わるまでずっと私にベッタリのまま過ごすのであった。
いっそ子泣き爺並みに鬱陶しかったとだけ愚痴っておこう。
―そんな事があった日の後日である、或る日。
またも長時間遠征に出ていた極槍
今回、部隊長を務めていたのは彼であったので、当然の流れと言えばそうであった。
「戻ったぞ、次は?」
「まぁまぁ、長時間遠征で疲れたやろうし、びっしょり汗かいて気持ち悪いやろうから!報告は後でもえいけぇ、早よう先に汗流してき?報告はゆっくり休んだ後からでも構わんきね。汗流した後は楽な服に着替えて躰休めときんしゃい」
「別に、此れしきの事で休まずとも動けるのだが…主がそう望むのならば、承知した」
そう言って部屋へと戻り風呂場へと向かっていった十文字君。
真面目で素直な良い子に育って審神者嬉しみの舞…。
気付けば早くもレベルはカンストし、現段階で上げられる錬度は上限に達した。
ずっと三振りしか居なかったところにようやっと増えた槍仲間であるのも相俟って感動も
今後も変わらず大事に大事に温かく成長を見守っていく所存だ。
そんなこんなしみじみ親的目線で親馬鹿ならぬ審神者馬鹿を発揮しながら仕事部屋へ戻り、本日の残りの仕事を片付けていると…。
既視感を覚える様子で部屋へと訪ねてきた十文字君。
先程別れてから大して時間は経っていないように思えるのだが…私の気のせいだろうか。
「今、良いだろうか」
「ぅん?…うん、どうぞ〜」
一先ずは、部屋の内側へと招き入れ、用意した座布団にでも腰を下ろしてもらう事にした。
勧められるままに素直に腰を据えた彼をチラリと当たり障り無い程度に見遣ると、どうやら汗は流してきた後らしく、さっぱりした様子で楽な服装に着替えてきていた。
一応、休むようにとも言っておいたんだけどな…真面目過ぎてそう時間空けずに来たな、この子…。
まぁ、先日のぎね程疲労した様子は見受けられなかったから、それ程疲れてないんかもしれんけども。
遠慮せずゆっくり休んできたらえいになぁ、と内心では思いつつ、平静を装って彼に訊ねた。
「どしたの、十文字君?遠征から帰ってきたばっかやったんやから、報告ならもうちょっとゆっくりしてきてからでも良かったんやで?」
「いや…主が心配する程疲労はしていないから気にするな。其れに、報告と言ってもすぐに済む。心配には及ばない」
「そうかい…?まぁ、十文字君が其れでえいって言うんやったら構わんけどね。…それで、今回の遠征結果はどうやった?」
「定期連絡で話した通り、全て滞り無く終了した。結果は見ての通り、大成功という結果に至った。よって、予定通りの時間内で任務は達成。報酬分は持ち帰った資材の分と併せて指定の場所に収納済みだ。必要ならば後で確認してくれ。……報告は以上だ」
「うん、文句の付けようの無い完璧な結果だね。有難う、そんでお疲れ様!あとは夕飯出来る時間までゆっくり過ごしてくれてて良いから、次のお仕事頼むまでのんびりしてて。時には休む事もお仕事だからね…!特にやる事無いようなら、お部屋でゴロンして寝てても良いよ」
「……やる事、というのは特に無いが………その代わりに、褒美を…貰っても良いか」
「えっ…、褒美……?其れは別に構わんけども…ちなみに、褒美には何がご希望なのかな?なるべく希望には添えてあげたいけど、場合によっては叶えてあげられないパターンもあるから、その点については予め了承してくだせぇな?……んで、改めて訊くけども、十文字君の希望する褒美って何かな?俺で出来る範囲でお願いしますよん」
「…その、…アンタさえ良ければで良いんだ……この間の御手杵の槍がしていたみたく、アンタに抱き付いても良いだろうか…?」
「……――へぇんっっっ!?」
まさかのご所望内容に驚きを隠せず、思わず変な奇声を以て返してしまった。
いかんいかん…っ、吃驚したり動揺したりするとつい変な声出しちゃうから変な奴だと思われる…っ。
にしても、何でそんな内容の台詞が彼の口から飛び出てきたんだ…?
訳が分からなさ過ぎて混乱を極めた頭から疑問符が飛び散る。
そこへ追撃するように十文字君から追随なる問いかけがぶっ飛んできた。
「無理にとは言わん。主の仕事の妨げになる事は避けたいからな。…可能ならば、と口にしたまでだ。駄目なら駄目で別の事を乞うまで。……して、主からの返答や如何に?」
オーマイガァー………ッ。
何てこったい。
いつからそんなに甘えるの遠慮してたんか知らんけど、この様子からじゃったらたぶん最初っからこのテンションで甘える事知らんかったパターンなんじゃねぇの…?
何てこったい。
主として、一審神者として、飛んでもない見落としor失態ではないか。
幾ら本丸に居る刀剣達が百振り近く居るからって、臣下の一人まともに見てやれなかったら駄目審神者も良いところじゃないか。
…しかし、脳味噌一周二周くらい回ってふと思ったけれども、なして唐突にそんな思いに至ったのだろうか?
此ればかりは
そう思い至り、私は思い切ってオブラートに包む事もせずそのまま直接的に聞き返してみる事にした。
「えぇーっと、いきなりの申し出に驚いてフリーズしてしまってスマンやで…。まさか、君からそんな話飛んでくるとは思わなんでな…つい一瞬だけ思考回路がショートしてしもうとったわ。許したってや」
「いや、アンタが驚くのも無理はない事を言った自覚はある。気遣いは無用だ。是か非かだけ答えてくれて構わん…はっきり言ってくれ」
「Oh…何とも男らしい事言うなぁ。……えー、っとにゃあ…結論から言わしてもらえば、答えはYes――つまりは、是なんだよ。抱き付くくらいなら幾らでも好きに気が済むまでしてくれたらえいきね。…けんど、何でそんな思考に思い至ったんかだけ訊いてもえいかにゃあ……?」
「理由は至極単純且つ簡単な事だが…そうだな。分かりやすく言えば、俺も御手杵の槍みたく主と接してみたかったというのもあるが、純粋な興味……否、好奇心なるものから、主の冷えた肌に触れてみたかったのだ。…ただ其れだけの事」
「Oh…マジかぁ〜…………ッ」
表情はいつもと変わらないから分っかりづらいけれども、言ってる内容から察してたぶんコレは十文字君なりのデレor馴れ合い希望という事でおk…?
というか、そうとしか解釈せざるを得ないんだが??
もう、コレは受け入れるしかあるめぇよ…ッ。
可愛い我が子の初めての我が儘みたいなもんよ?
誰が断れるってんですか。
無理ゲーだわ、即落ちの完敗だわ。
流石は、ゆっきー(真田幸村)の槍…あざと可愛いのは受け継いでたよ。
暫し、無言で天井を仰ぐように上を向いて萌え悶えていた。
寸分して漸く落ち着くと、口許を押さえて顔を俯かせ、無言で“良いよ!”と許可するように親指を天に突き立ててGJと告げた。
ウチの子、良い子過ぎるやろ…。
審神者泣いて良いですか?
もしくは鼻血出しても良いですか?
あ、や、でも鼻血なんて出した暁には松井君と薬研がすっ飛んで来て何か盛大に勘違われて大事になり兼ねんか。
じゃあ、頑張って鼻押さえて胸の鼓動も抑えて、ついでに呼吸も止めていようかな??
取り敢えず、今しがた出した私の無言の意思表示は示した通りの意味で受け取られたらしく、俄に彼の表情が和らいだように見えた。
うん、微妙にいつもより口角上がってるし、きっと私の幻覚・気のせいなんかじゃない筈…!
そんなこんなグルグル考えていたら、恐る恐るそっと優しい距離感で距離を詰めてきた十文字君にゆるりと抱き締められた。
抱き付かれたというより、コレは完全に抱き締められてる構図では…??
あ゙ー、これ以上は脳内の処理が追い付きません!
脳味噌爆発四散する勢いで沸騰してるって、やばい誰か助けて、頼む。
最早、完全に息の音止める気で攻めてきとるぞ我、ワシもうこれ以上は心臓持ちませんわ、ガチでマジ勘弁して、何かよう分からんけどすみません許したって今すぐ許したってや、ほんまに勘弁やてほんま御免て気軽に気安く許可して御免て許して死ぬゥゥゥ………ッ!!
まさに思考回路ショート寸前の手前で不意打ちに彼に耳元にて小さく囁かれた(呟いた)。
「……嗚呼、確かに此れは心地の好いものだな…。人の身を得て日は浅いが、この感触はいつまでも味わっていたいと思える気がする。…癖になりそうだな。あの槍もきっと同じ思いなのだろう…やみつきになりそうなくらいなのだからな、この人肌を合わせる行為は」
ハイ、頭パァン案件☆
速やかなる墓行きが約束された瞬間であった。
―その後、暫しの間、遠征後の光景として十文字君が例の槍の如く引っ付き虫化している光景が見られたそうな…。
その光景を見て、件の槍は大いに対抗心を燃やし、彼と審神者の取り合いのデッドヒートを繰り広げたとか何とか。
「あ゙ーッ!?其処は俺のポジション(もとい一番槍の特権?)だったのにぃ゙ーッッッ!!!!」
「喧しいな…」
「主は俺のだぞぉ…ッ!!今すぐ其処から離れろよ!!」
「断る。其れに、今しがたの台詞には些か不可解な点が見られたぞ。現・我が主は確かに彼女だが、彼女は皆の主でありこの本丸の主でもある。決してお前だけの主ではないという事を忘れるな」
「後から来た癖に生意気な…っ!あ、あああ主からも何か言ったらどうだよぉ!?」
「どうでも良いが、俺ァ現在進行形で仕事してる最中だ。頭の上でギャーギャー五月蝿く喚き散らかすだけなんだったら、揃って纏めて本丸の外に叩き出すぞ、コラ。仕事の邪魔すんだったら即刻出てけ。此処に居たけりゃ口閉じて黙って大人しくしてやがれ。じゃなきゃ脳天かち割るぞ、其処なたぬさんの本体で」
「どさくさ紛れて俺を巻き込むなよ、頼むから。面倒事は願い下げだぞ…」
「正国からも何か言ってやってくれよぉ〜っ!!」
「ウルセェ、何も聞こえねぇー」
「…飛んだザマだな」
「何おぅ…っっっ!?」
「良いから二人共黙らっしゃい。マジで脳天かち割んぞ。其れか、手合せ込みの戦禁止にすんぞ、良いのか?」
『其れは困る…ッ!!』
「…必死かよ(まぁ、気持ちは分からんでもねェーけど)」
「分かれば良いんだよ、分かれば。…もし、寸分経たず騒ぎ出すようなら鬼の長谷部に突き出して説教受けさせっからな、覚えとけ」
『ハイ……』
「………。(おー
今日も今日とて、近侍刀は彼等のくだらぬ諍いに巻き込まれ、主の般若像を見ては“くわばらくわばら…っ”と思うのだった。
執筆日:2021.07.02