展望の間『海辺』の景趣をゲットした次の日、レベリング待機組であるたぬさんが唐突に言い出した。
「ちょっくら其処な海で釣りしてきても良いか?」
本当に唐突な話であった。
しかし、まぁ、暇潰しになるんなら良いかと特に何にも考えずに許可した私は。
「良いよ〜。あ、でも、仮に連隊戦用の編成に組む事なったら、そん時はちゃんと仕事してね?」
…と返事を返した。
其れに対し、彼は当然とばかりに言う。
「ったりめェーだろ。戦に出るのが俺達の本分なんだから。何かあったら遠慮無く声かけろよ」
「うぃっす」
そう言って浜辺へと釣り道具一式携えて出て行った、たぬさん。
そんなに釣りしたかったんかな…?
さっきはああ言ったけど、実際のとこは暫くたぬさんは出陣する機会無いから待機なんだよねぇ…。
まぁ、だから暇潰し出来る事あるんならいっか、って事で許可したんだけど。
何を釣る気なんだろうなぁ〜。
ここはやっぱり、定番の大きいサイズの
もしくは、鰹とか。
鯖とかも普通に美味しいよね〜。
あ、でも、釣りの定番っつったらやっぱ鯛かな?
…釣る場所にもよるけど。
特別狙ってる魚とかは無くて、ただただ大漁狙ってるって可能性もなくはないからなぁ〜…。
はてさて、釣果はどうなる事やら今から楽しみだね。
一先ずは、日暮れまでに帰ってきてくれよ、という事だけを見送った彼の背中へと投げかけて仕事に戻る。
―そうして時間が経つ事、数時間…。
本日の連隊戦周回ノルマは達成し、気付けば夕方近くに。
ぶっ通しで回ってもらっていた部隊の皆に引き上げの指示を出して帰還させる。
次いで、本日得た戦果報告を定期連絡で上に上げる為、記録を付けている時だった。
釣りに出て来ると言ったキリ姿を見せなかったたぬさんが戻ってきたようで、入室の許可を求めてきた。
勿論、断る理由も無かったのでそのまま彼を部屋の中へ招き入れる。
そうして、端的に「釣果はどうだった?」と訊くと。
彼は普段と変わらぬ様子で持っていたバケツの中身を見せてきた。
興味津々で覗き込めば、其処には一匹の大きく立派な鰻が元気にうにょうにょと躰をくねらせていた。
その釣果に、純粋に驚いた私は喜色満面で彼の方を仰ぎ見たのだった。
「えっ、鰻だ!凄い…っ!!どしたんコレ!?こんなん何処で釣って来たのよ!?」
「其処の海で」
「マ!?……嘘でしょ…?此処、鰻居んの??ファーー!?えっ、えっ、って事はコレ天然もんじゃん!!マジっすか!?」
「滅茶苦茶テンション高ェな、アンタ…」
「いや、コレ見て興奮せざるを得ないでしょ!!…っひゃあ〜、まさか鰻居るとは思ってなかっただけに釣ってきたのが鰻だって事に驚いたわ〜。鶴さんじゃねぇけど(笑)」
「正真正銘俺一人で釣ってきたヤツだからな?」
「凄ェなマジで…!惚れ直すわ!」
「その反応は微妙過ぎて返しづれぇよ」
「すまん」
そんな遣り取りを交わして一段落、落ち着きを取り戻して改めて彼の事を見つめ返してみる。
すると、ふとバケツの方へ視線を落とした彼がぽつりとした口調で呟いた。
「…コレ、アンタの為に釣ってきたんだ…。最近のアンタ、夏バテしてめっきり飯食わなくなっちまって、まともな飯食ってねぇみたいだったからさァ」
「……何故バレたし」
「いっつも一緒に居て分からねぇ訳がねェーだろ」
「そうっしたねー…」
隠していた訳ではないが、そう改めて言われてしまうと何だか気まずくなり、わざとらしく明後日の方向を向いて誤魔化したら即お言葉を返されてしまった。
ご尤もな話で…ええ。
そんなこんな思っていたら、たぬさんが視線を上げて私の方を見つめてきているのに気付いて視線を戻す。
そしたら、思った以上に真っ直ぐな視線をもらって、内心ちょこっとドキッとしてしまった。
「まぁ、コレでも食って少しは精付けて元気になってくれよ。アンタが元気無くすと、他の奴等まで元気無くなっちまうからさ」
「…うん。有難う、たぬさん。心遣い感謝するね」
「っつー訳で、今晩のアンタの飯は鰻丼な。もう今日の厨当番の奴等にも伝え済みだ。これから俺はコイツ捌きに厨行ってくる。で、アンタの食う用の飯作ってくる。どうせ一匹丸ごと量食い切る程胃でかくねェーだろうから、俺が半分食ってやるよ。だから、アンタは此処で俺が戻ってくるまで大人しく待ってろ」
なんと、私の為に、私の為の特別な晩御飯を作ってくれると言う。
そんな嬉しいサプライズがあって堪るかよ…、というのが素直な感想である。
めちゃくちゃ嬉しいわ、こんなん。
とりま、たぬさんが釣ってきた大きく立派に太った鰻は、二人で仲良く分け合いっこして美味しく戴きましたとさ。
めでたしめでたし!
執筆日:2021.07.28