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お頭の軽装だ!野郎共焼き鳥になる準備は出来たかァ!!



 剣奉納記念にて、日課任務とは別に夜花奪還作戦イベントと連動した短期間の特別任務(キャンペーン)が開催された。
その任務の報酬として、今回各種御札の他に軽装用の仕立券も配布との事。
よって、各本丸の審神者達は有難やと合掌して拝んで受け取ったのち、可愛い我が子達やどの推しの子へ贈ってやろうかと目を血走らせて各所属国に在る万屋街の呉服屋へと走っていった。
 当本丸も例に漏れず、報酬で貰った仕立券を握り締めて所属サーバーの陸奥国店・呉服屋前に来ていた。
そして、改めて、現在軽装が実装されている者達の電子カタログのページを開いた端末を真剣な眼差しで眺め唸っていた。
偶々その時、伴として付いてきていた小狐丸は訊ねる。


「ぬしさま、何れになさるか、お決まりになられましたか…?」
「う゛〜ん……まだァ…っ」
「もう半刻程は悩まれておりますよ?」
「だぁって、どの子にも軽装作ってあげたいんだもん………っ!皆格好良くて可愛いし、出来れば全員分用意してあげたいけど、ウチは其れ程余裕ある訳じゃないから一人分ずつくらいしか作ってあげられないし…っ。何より、今現在で何振り分実装されてると思ってんの!?其れ考え出しただけでもう迷うってェッッッ!!」
「そうですね、ぬしさまはお優しい方でいらっしゃいますから、本丸皆の分を用意したいとの思いが本音なのですよね…っ」
「前回巴さんの買った時も迷ったけど、今回も今回で迷うぜよ……っ。打刀で言えば、長谷部やちょぎ君、にゃん泉君や伽羅ちゃんのだって欲しいし、短刀組も捨て難い…!だけども、まだ一度として買ってあげてない刀種の太刀の子達や脇差、大太刀の子達なんかのも欲しいよぉ〜…っ!!」


 この審神者、時として優柔不断になるからして、このような時になると面倒な質である。
しかし、伴の小狐丸は嫌な顔一つせず笑みを絶やさずに付き合っていた。


「…して、候補ですが、最終的にはどの方の物に絞り込んだのです?」
「ぶっちゃけ、みかちと一文字組(お頭と左翼)で迷ってる…っっっ!!」
「おや、三日月にですか?其れは大層喜びそうな事で…!此れ程迷っていたと知ったら、一文字の方々もさぞお喜びになったでしょうね。いやはや、ぬしさまも大検討なさっておられます故、その頑張りを私小狐めは応援致しますよ。さぁ、もう一踏ん張りです…っ!その三振りから最終的に“此れだ!”と思う一振りへお絞りくださいませ!」
「う゛ぅ〜む、悩むよぉう………っ!!皆絶対似合うし格好良いよォ〜〜〜!!」
「感覚を研ぎ澄まし、直感やフィーリングで“ビビビッ!!”と一番来る物を選ぶのです!さぁ、ぬしさま、ご決断を…!!」


 何度も何度も同じページを行ったり来たりと繰り返し見遣る彼女に、痺れを切らして決断の時を迫った小狐丸。
彼の励ましもあってか、迷いに迷った熟考の末、腹を決めたらしい審神者は漸く端末から面を上げ、立ち上がるなり直ぐ様呉服屋に勤めるスタッフへ声をかけた。


「すみません…っ!この刀の軽装を一着、お願い出来ますでしょうかァ!!」


 めでたく、また一着と我が子達の軽装を手に入れる事が出来、ホクホク顔な彼女は伴として付いてきてくれた彼に礼を述べた。


「いやぁ〜、本っっっ当にお待たせしちゃって御免なさいねぇ〜…!それなりの長時間付き合わせちゃって、マジで面目ない…!!御礼に、小狐の好きな御菓子買って帰ろうね!!」
「なんの、これしきの事は付き合った内に入りませぬ。私は、ぬしさまの側に居れただけで幸せでございます故、どうかお気になさらずに…っ。…ですが、ぬしさまさえ良ければ、彼処の甘味処へ寄って頂いても…?彼処の葛餅は誠に絶品でして、是非ともこの機会にぬしさまにもご賞味頂きたく」
「よし、寄ろう!!私の長時間な熟考に付き合わせた礼だ!!たんとお食べ…っっっ!!」
「有難うございます、ぬしさま。あれだけ悩みに悩んだ末お選びになった一着なのです。この度、ぬしさまから軽装を贈られる方もさぞ喜ばれる事でしょうなぁ。ぬしさまが嬉しき事は、私も嬉しゅうございます」
「んふふふっ…!ほん其れね!!嗚呼…っ、今から本丸に帰り着いた後が楽しみでならないわ…!!美味しい葛餅とやらを堪能したら、ちょっ早で本丸に帰るわよ!!」
「承知致しました」


 テンションぶっちぎりの高さを維持したまま小狐丸のお勧めだと言う甘味処へ寄り、宣言通りその店イチオシの絶品葛餅を堪能してから本丸へ帰還したのであった。

 そして、皆様お待ちかねの時がやって来た。


「野郎共ォ!!我等がお頭の軽装を手に入れたぞ!!焼き鳥になる準備は出来たかァッッッ!!」
「え…まずは“ただいま”が先なんじゃないの、そこは??というか、偉いテンション高いけど、出先で何があったの…?」
「小狐丸、只今帰りました」
「ああ、うん、おかえりぃ〜。ねぇ、この短期間で主に何があった訳?」
「見ての通りでございまする。ぬしさまは、我等本丸の者達へ新たにまた一着と軽装を手に入れる事が出来、とても嬉しいらしいご様子なのです。其れ故に、少々普段のテンションよりも舞い上がっておられますが、あれも通常運転の内にございます。決して、ぬしさまの頭がイカれた訳ではございません」
「うん、知ってたぁ」


 本丸へ帰り着くなり開口一番にテンション高々と言い放った彼女を出迎えた初期刀の清光は、些か困惑した表情で伴に付いて行っていた小狐丸へ問う。
其れに対し、小狐丸は何処までも寛大な心で以て返すのだった。
この狐、どうも久し振りに主と共にお出掛け出来たのが嬉しかったようで、此方は此方で誉桜をぶわっぶわと撒き散らしていた。
 ただいまの挨拶より先に声高々に放たれた台詞に、本丸で留守番していた組達は何だ何だとぞろぞろと顔を見せて野次馬のように玄関先へと群がる。
当然、名指しされたも同然な福岡一文字派のお頭を務め、組の者達を束ねる彼――山鳥毛も己の配下と共に顔を覗かせた。


「今、私の事を呼ばれたような気がしたのだが…?」
「あっ、ちょもさん良いところに…!ちょもさんに審神者からの特大プレゼントだよ!!」
「おや、私を呼んだのは小鳥だったのか。帰っていたのだな、おかえり。小狐丸殿も、伴ご苦労であった」
「おぉっ、そういやまだ“ただいま”言ってなかったからただいまァ!!其れでさ、早速なんだけど、ちょもさんに此れ着てきて欲しいの…っ!!」
「まぁまぁ、気持ちが逸っておるのは分かったが、ちと落ち着け主。山鳥毛も戸惑っておるぞ?」
「素直に御免!!今、無駄にテンションぶっちぎってるから可笑しなテンションになってると思うけど気にしないで!!」
「う、うむ…と、取り敢えずは分かったから少し落ち着いてくれ、小鳥よ…っ。圧が凄いぞ……っ」
「普通にすまん」
「主と言えど、お頭に迷惑を掛ければただじゃおかんぞ」
「本当に御免て…っ。一旦クールタイム挟むついでに手洗いうがいとお茶休憩行ってくるから、その間にお着替え宜しく頼んますね」
「お頭への貢ぎ物…ならぬ贈り物という事は理解出来たが、着替えとはどういう事だ…?」
「えっ?だから帰ってきて即開口一番の最初に言ったじゃん、“お頭の軽装じゃあああッッッ!!”って」
「正確には、“野郎共ォ!!我等がお頭の軽装を手に入れたぞ!!焼き鳥になる準備は出来たかァッッッ!!”…とか何とか言ってたけどにゃ」
「ほぉ。つまりは、先日報酬で貰った仕立券を使って山鳥毛の奴の軽装を仕立てた、という事だな?余っ程楽しみにしてたんだなぁ〜、お前さんは!此奴が着たところで、“馬子にも衣装”ぐらいだろうに…うはははっ!どれ、試しに僕にも着たところを見せてみろ!嘗ての雛鳥が何れだけ成長し風格を身に付けたか見てやろう!」
「御前…っ!?」
「お望みとあらば、お頭の左腕たる俺が、完璧な着付けで以て主と御前を驚かせてやろう…ッ」
「流石、日光さん!期待してるぜ!!んじゃ、なる早で用済ませて部屋戻っとくんで、準備出来たらお声かけてね!!んだば…っ!!」
「に、日光の兄貴……気迫が怖ェにゃあ…!」


 何故か当人である筈の山鳥毛が話の流れに置いていかれ、ポカン…ッ、と終始呆気に取られていた。
彼の主自身、渡す物渡したら嵐のようにその場を去っていってしまった。
未だ、現状を掴み兼ねている彼は受け取った横広い箱に視線を落として、一人呟く。


「参ったな…」


 思わぬ贈り物を貰って、顔に赤みが差すのを免れられず、柔に顔を覆い隠すのだった。

 ―所変わって、ちょっ早で用事を済ませた彼女は、部屋に戻ったばかりか、漸くゆっくりと腰を据えたばかりでお茶を飲み、一息いていたところであった。
其処へ、早くも新参者の日光から「お頭の準備が整った」とのコールがかかる。
あまりの早さに、流石の審神者も吃驚。
飲んでいたお茶を置いて慌てて居住まいを正した。


「小鳥よ、入室の許可を頂いても宜しいかな…?」
「えっ、あ、はい!少々お待ちを…!今、此方から戸を開けますんで――、」
「いや、私自ら戸を開けた方が良いだろう。私も、せっかくの機会だから小鳥を驚かせてみたくてな…っ。はしゃぎはしないが、私が戸を開けるまで、小鳥はそのままで待っていて欲しい」
「ア、ハイ…ッ、了解致しやした…!」


 期待と緊張の入り交じった複雑な顔をして彼が入室してくる瞬間を待つ。
そうして、いざ部屋の戸がゆるりと開かれ、待ちに待った彼が晴れ着姿にて御目見えと相成る。


「どう、だろうか…?小鳥自ら選んでくれた物だと聞き及んではいるが、はたして似合っているだろうか?」


 普段見掛ける内番着や戦装束とは、また違った雰囲気を醸し出す一文字組頭。
此れは何と表現したら良いか分からず、ただでさえ足らぬ語彙力と頭を回しても言葉に出来ぬ事だと思い至ったのか…。
当本丸の審神者、彼の目と合った瞬間じわじわと首から上を赤らめ、とにかく何か言わねばと口を小さくもごもごと開閉させたものの、結果的には何も発せぬままスー…ッ、と視点を斜め下方に落として固まった。
その様子に、不安を感じたのか、彼は彼女の顔を覗き込むように首を傾げた。


「……小鳥?どうかしたのか?」
「…………………ち、ちょっとだけ、待ってもらっても良いッスか………っ」
「うん…?こ、小鳥…どうしたのだ?具合でも悪いのか?其れとも…この衣装は私には似合わなかったのか?」
「…………いや、あの………っすんません、……ちょっと、一回タンマ…………………ッ、」
「は…っ?」


 漸く彼女の発してくれた言葉の意味が分からずに聞き返していると、徐に俯く彼女が目元の眼鏡を押し上げるように俯き、自然な形で顔半分を覆い隠すと、溜めていた息を吐き出すように深く長い溜め息を吐き出した。
次いで、審神者はこうも呟いた。


「………嗚呼…駄目だ、眼鏡なんて物掛けてちゃ直視出来ないわ……無理、審神者死ねる…………あまりのイケメンっぷりに目が潰れる、無理……誰か助けてェ…………ッ」


 聞き逃しそうなくらい小さな声での呟きだった其れを、しかしながらしっかりと拾ってしまっていた彼は、内心安堵したと同時に或る感情を刺激されて小さくほくそ笑んだ。
隠しているつもりなのだろうが、明らかに真っ赤に愛らしく染まり切らせている顔を見てみたくて、ちょっとだけ意地悪する風に少しだけ腰を屈めて彼女の顔を覗き込むような姿勢を取った。
そのまま、彼は、彼女へ囁く。


「どうして此方を見ない…?せっかく小鳥が選んでくれた浴衣を着たというのに。せめてもう少し私の方を見て、一言だけでも感想をお聞かせ願えないだろうか…?」
「ッ……………!」
「そんなにあからさまに目を逸らされては、私とて寂しいぞ…?一目だけで良い、どうかもう一度だけでも私の方を見てはもらえないだろうか」


 駄目押しのように潮らしく言葉を重ねれば、視線を彷徨わせていた彼女が小さく首肯を示した。
眼鏡を押さえたまま、動揺を隠せぬまま、おずおずと面を上げる。
その瞬間、真っ直ぐと見つめてくる赤い瞳に捕まったかの如く射抜かれ、忽ち動悸を感じて更なる赤に顔を染めた。
彼女と視線が合った事が嬉しかったのか、彼は至極嬉しそうに感情を滲ませて目尻を和らげた。


「嗚呼、漸く此方を向いてくれたな、我が小鳥よ…。その愛らしい目を私は見たかったのだ。…さぁ、もっと近くで見せてはくれないか?そして、同時に私の事も見つめて欲しい。せっかくこうして小鳥が贈ってくれた物を身に纏っているのだから」


 そう言って、彼は彼女の頬に優しく手を添えた。
常ならば基本グローブを手に嵌めている為、革越しに触れる肌だが、今この時ばかりは素手で直接彼の掌が、熱が、彼女の頬へと触れているのだった。
その事を理解した途端、脳内処理が追い付かずキャパオーバーしたようで、オーバーヒートした家電の如く煙を立ち昇らせて勢い良く飛び退いた審神者。
まるで、某子猫のような動きに、彼は一瞬驚きはするものの、愉快そうに笑い声を上げて笑った。


「はははははっ……!いや、すまない…っ、まさかそのような反応をされるとは思わなかったものでね。失礼した。…しかし、何とも愛らしい反応をしてくれるものだな、小鳥よ?」
「ひえぇ…………ッ!!か、勘弁してくださいよぅ〜………!!」
「私より恥ずかしがり屋な者として顕現した刀が我が一文字の左翼として来た訳だが…どうやら、その翼よりも恥ずかしがり屋な者が此処には居たようだな?」
「調子こいてすんませんでしたから…っ、許してェ………!!」


 山鳥毛からの追撃によって弱っていく審神者、直視出来ないからと距離を取って躰ごとそっぽを向いてしまった。
挙げ句の果てに、視力を矯正する為に装着していた眼鏡をも取り外す。
そこまでするか。
 だが、彼は此処で諦めるような男ではなかった。
開けられた距離を詰めるように徐々に徐々に彼女の元へ歩み寄っていき、こう述べた。


「せっかくこうして御披露目に来ているのに、肝心な小鳥がまともに見てくれないのでは話にならないだろう…?――良い子だから、少しだけ我慢して頂くとしようか」
「ッ…!?ちょも、さ………!!!??」


 詰め寄った先で、再び彼女の頬へ手を添えてきたかに思えた矢先…。
しかし、予想は外れ、その手は彼女の目元を捉えていて、咄嗟に目を瞑った先で不意に顔へ違和感を感じた。
“何だ…?”――そう思って彼女は恐る恐る目を開き、違和感のある箇所に手を伸ばした。
すると、己の顔面に先程までは無かった筈の物が外した筈の眼鏡が掛けられていた場所にあって、思考が止まる。
訳が分からず呆然と固まるその隙に不意を突くように、彼は彼女の顎を掬い上げ、真正面から彼女の目を覗き込んで言う。


「どうだ、此れならば少しは堪えられるだろう?」
「え………此れ、もしかして…ちょもさんのサングラス……、」
「嗚呼、そうだとも。今は装いに合わせて掛けていなかったのでね、丁度良かった。普段掛けしている眼鏡の状態ではまともに目を合わせられぬという事だったので、少しだけ趣向を凝らしてみたのだが…如何かな?色眼鏡とされる其れを通した状態ならば、視界の彩度が下がって先程よりも真っ直ぐに私の事を見れるだろう…?」
「ひょえ………ッ!一文字お頭、コワイ……………ッッッ!!」
「――して、感想は如何だっただろうか?」
「語彙力溶けるくらいには圧倒されました…………!!も、勿論、其れはちょもさんがお似合いで且つ格好良過ぎて無理という事でして………ッ!!な、何なの本当、一文字の本気マジで怖いんだけど……ッ!?」
「お気に召して頂けたようで何よりだ」


 珍しく審神者を揶揄かってみせた彼は、彼女の反応に終始ご満悦なご様子でニコニコと微笑むのだった。


執筆日:2021.08.22