※微とうらぶホラーネタです。
月光に照らされたススキの野原が、音も無く揺れている。
ススキが揺れているから、風が吹いている筈なのに、肌には何も感じない。
風の感触を一切感じない。
此処は、何なんだ。
現在周回中の夜の里山――『兎追いし団子の里』のイベントで見る場所とよく似た風景だが、何処か違うように受け取れる。
何故、自分はこんな場所に立っているんだ?
記憶が確かなら、自分は床に入って寝ていた筈。
なのに、気付いたらこんな処に来ていた。
此れは、夢か、現実か。
よく分からぬ内に行動するのは不味い、と思考しながらその場に佇んだままでいると――…。
ふと、誰かに呼ばれている気がして其方の方を見た。
しかし、視界には変わらずススキの野原が風も音も無く揺れている風景しか映らず、相手の姿を目視する事は叶わなかった。
だが、確かに誰かが己の事を呼んでいる気がしたのだ。
呼びかけに応えようと、自身を導き
「―すまぬが、この娘は俺の大事な者なのだ。故に手出しは無用。…俺の気が変わらぬ内にとくと去るが良い」
ウチの本丸に居る三日月の声が鼓膜を通して聴こえる。
どうやら、自身を引き留めた存在は三日月であったらしい。
彼が何者かにそう告げた途端に、自身を引き寄せようとする謎の引力みたいな感覚は消え失せた。
同時に、意識は遠退いて、眠るように視界は暗転した。
朝、目が覚めて一番に見た顔は、三日月の顔であった。
其れはもう美しいご尊顔のドアップである。
「おぉ、無事に目覚めたか。良きかな良きかな…。――改めて、おはよう主。気分はどうだ?」
そう此方の様子を窺ってきた彼に、至極安堵した笑みで微笑まれた。
実は、夢に見た場所は夢の中なようで異なる怪異の力によって創られた空間で、危うく“ナニカ”に連れ去られそうになっていたところを、偶々気付いた近侍の三日月が己の霊力を通して夢渡りをし、引き留めた…という話であった。
眠っている間に知らぬ間に精神やら魂やらを引き抜かれていたらば堪ったものではない。
事実を知って末恐ろしくなった私は、即担当者やこんのすけに連絡を取って報告した。
もしかしたら、自身が知らなかっただけで、これまでも同様の怪異や現象に遭遇、または
自身の報告は、政府を通して各本丸への通達として知らされた。
現在開催中である兎追いのイベントで出てくる夜の里山とそっくり似せた場所へ、夢を通して
その怪異の目的は不明、且つ対象の姿を目視で確認出来た事例は無く、未だ誰も怪異の姿を直接見たという報告は挙がってきていない。
被害件数は過去のイベント時も含めて数件報告されているが、何故か改良版である今季イベント時の報告件数の方が多い傾向にあるとの事。
調査は続けられているも、未だ実態は掴めずのままらしい。
被害報告はあれど、どの報告も実害とまでは至っていない事も、謎が謎を呼ぶ原因となっているそうだ。
つまりは、まだ誰も完全に連れ去られた経験は無いという事。
この怪異の目的は一体何なのだろうか。
そして、何が切っ掛けで生まれた怪異なのか。
実態が掴めていない以上、対策を練る事も出来ない為、各々で考え対応していく他無い。
仮に、怪異に連れ去られた場合、命の保障はあるのか。
また、怪異を直接見る事が出来た場合の生存は確保出来るのか。
後者に至っては、場合によってはその時点で詰み確定というか、死亡ルート直結な気もしなくはない。
この手のものは、大抵が姿を目視した時点で終わりというのがホラー界ではザラな話である。
では、そうならない為には一体どうすれば良いのか。
また、怪異の夢を見ない為にはどうしたら良いのか。
何も判らぬまま、今日も今日とて兎追いのイベント周回に勤しむ審神者達なのである。
執筆日:2021.10.08