「ただいまー」
「おかえり」
「風邪引いた」
「…そうか」
「いや、“そうか”じゃないでしょ伽羅ちゃん…っ!もっと他にも返す言葉あるでしょ!?心配の言葉一つくらいは返してあげようよ!!」
「そういうのはアンタ等の専売特許だろう…」
「そういう問題じゃないよ…ッ!!伽羅ちゃんの馬鹿ァ!!」
「どうした、何があってんな大声上げてんだい燭台切の旦那?」
「あ、薬研ただいまぁ」
「おう、おかえり大将。マスクなんかしてどうした?」
「風邪引いた」
「あー…ここんとこ急に気温下がったからなぁ。ついこの間まで真夏日記録してたのに…つってもう十月も半ば過ぎりゃ当然な話か。原因は其れだろ?」
「うん。この時季、季節の変わり目となる頃はいっつも体調崩すというか風邪引くんよねぇ〜。最早毎年の事でこの時季恒例みたいになってるわ(笑)」
「そんな恒例あっても嬉しくないよッッッ!!」
「みっちゃんの情緒が激しい」
「光忠のコレは今に始まった話じゃないだろう?」
「せやけど、それにしても今回は何かクソデカ感情ぶちまけてる感あるリアクションやんなぁ〜」
「主も伽羅ちゃんも呑気過ぎるから僕は心配して言ってるだけだよ!!声を大にしてねぇっっっ!!」
「うん、今日も旦那は元気有り余ってるなァ。良いこっちゃ」
なんて会話を交わしたのが、イベント参加の為に本丸へ帰還した最初の事である。
偶々イベント開始と共に風邪を引いたのでマスク装着して本丸に帰ったら、偶々玄関先へ通りがかったらしい伽羅ちゃんが出迎えてくれ、冒頭の遣り取りをしていたら主の帰還の声を聞き付けて来た近侍だったみっちゃんという流れだ。
いやぁ〜我が本丸は今日も賑やかですなぁ〜。
「とりま、イベントには参加したいんで、絶賛体調微妙っすけど周回するよ。せっかくの拡充イベやからね、ウチの戦力も強化していこうねぇ。つって、強化言うても日光さん達のカンスト目指しながら極組のレベリング(おもに経験値二倍組)も併せて行うよ〜、ってな話なだけなんすけどね」
「其れは分かったけども、薬はちゃんと飲んだのかい?熱は測ってみたりした?」
「みっちゃんが過保護な親のソレ発揮しとる」
「僕は心配だから言ってるんだからね!!」
「風邪言うてもただの鼻風邪やから、薬は市販の総合風邪薬飲んで様子見。熱は今は平熱やけど、測ったら37度前後やったから微熱レベルではある。大人しくしてるのもあるけど、今んとこ其れ以上は上がってないっぽいからイベント周回くらいには支障無いよ。でも、普段の平均的体温からしたら微熱レベルでも高めなんで微妙な倦怠感は感じてる。薬飲んだ副作用の影響もあるからそんな気にせんでもえいがな。…ああ、一応言うとくが、某疫病に掛かった訳やないから、そこは安心せい。何せ、私某疫病に関係無くの引き籠り野郎やったからね!!外出自体してないし他人とも逢ってないから感染の心配は無くってよ!!そもそもが逢うような相手自体が居ないからな、逢う用事が無いのだよ!!ふははははァッ!!」
「まぁ、大将の平均体温低めだもんな。そういうタイプの人ってのは、世間で言う微熱レベルの熱出てもしんどいらしいから、しょうがねぇっちゃーしょうがねぇ話ではある。あと、悲しい話は別にわざわざ暴露しなくても良いんだぜ、大将。そういう話はそっと胸に仕舞っときな」
「僕からの感想は、意外ときちんと対処してたし思ったよりもしっかりしたコメント返されて逆に驚いたよ…」
「人の事何やと思うてんねん」
「主以外の何者でもないと思ってるけど。其れ以上でも其れ以下でもない」
「意外とまともな返事返してくるやんけ」
「どうでも良いが、アンタ等はいつまでこんな処で漫才じみた事をやってるんだ…?」
「そうだよ!主風邪引いてるんだったら早くあったかい部屋に行かなきゃ…っ!!僕、すぐにでもお茶用意してくるから、今少し待ってて!!」
「あざァーっす」
伽羅ちゃんの鋭い突っ込みという名の催促を受けて漸く玄関先から移動を開始し、本丸奥の間に在る審神者部屋へと向かう。
道中、本日の近侍を薬研へ変更する旨を伝達し、体調が落ち着くまでは彼を近侍に固定したい事を伝えた。
その旨を快諾した薬研は一度部屋に戻って着替えてくると言って一旦自室へと引っ込んでいった。
残された伽羅ちゃんは気まぐれか優しさからなのか不明だが、部屋へ行くまで一緒に付いてきてくれ、部屋前まで辿り着くと其処で解散と言う風に「じゃあな」と一言告げて去っていった。
相変わらずのクールっぷりである。
しかし、ウチの個体は馴れ合わないと言いつつも比較的馴れ合ってくれる可愛い奴なので、口や態度で冷めた風に示されても穏やかに受け止めている。
にしても、珍しくマスク(布マスクだけど)を装着して帰還したせいか、通りすがりの面々から物珍しげに見られてしまった。
普段余程の事が無い限りマスクなんてしないから、マスク姿であるところが見慣れないのだろう。
今のご時世、現世では外出の度にマスク(不織布のタイプ)着用、そうでなくとも自宅内でも来客なり何なりあれば最低でも布マスクくらいは着用する世の中なので、本丸という空間に居る刀剣男士達と違って見慣れた光景だ。
ちなみ、今私が着けている布マスクは姉が手ずから作ってくれた物である。
しかも、母が作ってくれたのがもう一枚実家にあったりする。
今着けているのは、姉が洗い替え用にと作ってくれた物だ。
それぞれが作ってくれた物には、家族が疫病に感染しないようにとの祈りと心配に加え愛情が込もっていて、実にこのご時世では実用的に大活躍且つ大事に愛用させて頂いている。
偉大なる母と姉よ、有難う。
普段口ではあまり言わないけれども、いつも感謝しているよ。
特に何にもしてないのに毎年この時季になったら体調を崩してて御免ね。
体質的なせいかもしれないけども、毎度季節の変わり目になったら風邪を引く(しかも絶対鼻風邪引く)の、自分でも恨めしく思ってるよ。
頑張れば何か改善するらしいけど、その努力をしない物臭な人間が審神者やってて、果てには本丸の主やっててすまんね本丸の皆。
こんなどうしようもなさそうな奴だけど、見限らず見捨てないで付いてきてくれる、そんな皆が大好きよ。
何か弱るとすぐ弱気になっちゃって暗くなりがちだし、何かあればすぐへこむようなメンタルゴミみたいな糞な駄目人間だけどもさァ。
いっそ生きてて御免なさいレベルにゴミ屑野郎ですけども。
其れでも生きてる事に感謝して、毎日布団から起きてちゃんと御飯食べて最低限の生活はしてるよ。
御飯食べれてるのって大事な事よ、本当に。
人間、食べなきゃ生きていけないし。
具合悪くても何とか御飯食べれてりゃその内善くなるしね。
御飯食べれなくなった時が本当にやばい時だからね。
だから、やっぱり人間何事があれども御飯が食べれてる事は大事よ。
…なんて、弱った思考故にそんな事を唐突にも考えてしまったけれども、実際問題マジで御飯は大事って話ね。
だって、ウチの父も言ってたもの、『生きて飯食ってるだけで良いんだ』って。
ついでに、その時の話では、『死んだら飯だって食えなくなるんだから』とも言っていた。
確か、その話が出た時、晩御飯を食べながらテレビの報道ニュースを見てた時だったと思う。
このご時世故に若者の自殺に拍車が掛かっている事を危惧した非営利活動法人団体の話題が特集されたコーナーだったっけか?
其れを見ながら父は、『ただの引き籠りの方がよっぽどマシじゃ。だって、引き籠っちょんだけでも一応は生きちょって飯は食いよる訳やからなぁ。死んだら何も出来んし飯も食えんのぞ、其れは駄目じゃ』と呟いていた。
私は其れを横で聞きながら地味に心底感動したのを覚えている。
実のところ、涙が滲み出て来る程じんわり心に響いた何気無い言葉であったのだ。
碌でもない爺だけども、何だかんだありつつも成人するまで立派に育ててもらってまともな生活を送らせてもらっているのだから、感謝くらいしなければ。
たったの一年半くらいで仕事辞めちゃって数年間ニート生活続けてる親不孝者な駄目人間ですけれども。
仕事辞めたのも、勤めてた会社がホワイト装ってた糞会社で心身壊して色々と限界が来たから辞めた訳だけどもな。
まぁ、其処に勤め始めて半年目ぐらいで片親が大病患って倒れた事もショックだったり何たりで其れが影響したのもあるけど。
そんなこんなありつつもだよ、私風邪っぴきではあるけども今日も元気に生きてるよ。
過去に自殺してやろうかとか血迷って未遂やらかしたりなんて事もあったけれども、無事命繋いで飯食って生きてるよ。
人間生きてるだけで偉いよね。
…つか、何でそんな話に飛躍したんだっけ?
話の始まりとなった元を微熱気味の頭でぼんやり考えていたら、さっき別れたと思っていた伽羅ちゃんが戻ってきた。
「何だ何だ、どうした?」という目で以て見遣れば、片腕に何やら布状の柔らかい物を抱えてやって来たらしい事は分かったが、一体何用があって部屋へと訪れたのだろうか。
いまいち分からず首を傾げて彼が口を開くまでを待っていたらば、彼は徐に抱えていた物を投げて寄越して言った。
「そら、此れでも使ってろ」
「うわっ、いきなり投げて寄越すなよ吃驚するなぁ〜」
「風邪引いてるなら入り用になるだろ」
「うん…?あれ、此れって、伽羅ちゃんの前使ってた方の腰布じゃない…?極める前使ってた、赤いやつの……」
「今は使わず仕舞い込むだけの物になってるがな。アンタの躰を温める為の膝掛けぐらいにはなるだろ?」
「えっ…良いの?私が使っちゃって」
「アンタにやる。用途は好きに決めろ。言っておくが、返す必要は無いからな。これからもずっとアンタが使っていてくれ。その為に持ってきた物だからな」
「えー……何か知らんけど有難う、これからの時季めっちゃ助かるぅ〜」
「躰はなるべく冷やさないようにしておけ。アンタはアンタが思っているより大事な人間なんだからな…今やアンタは俺達の主であり、大切な人間なんだ。風邪如きで倒れられてちゃ困る」
突然のイケメン発揮っぷりに驚き対処し切れないで固まっていたら、彼自ら寄越してきた腰布を肩に羽織らされ、何処から出してきたのか、何か可愛らしい見た目の留め具で落ちないように留められた。
留められるまでの流れを大人しく待って視線を落とせば、其れは可愛らしいにゃんこの形を象った物だった。
伽羅ちゃんらしいチョイスである。
猫好き同士である事もあり、気兼ね無く「可愛いね」とぽつり洩らすと、「此れもアンタにやる」と返された。
マジか、やったね。
可愛いにゃんこの留め具をじっくり眺めて弄っていたらば、その様子を眺めていた彼がふ…っ、と小さく笑って口を開く。
「近侍でなくとも、何かあれば遠慮無く声をかけろ。巴形ではないが、近くに控えておく。俺はアンタの刀だからな…好きな時に呼べ」
「え…何、今日何かやたらめっちゃ優しいやん伽羅ちゃん…っ」
「用は其れだけだ。後は近侍に任せる。じゃあな」
そう言った後、颯爽と去っていった伽羅ちゃんの後を暫くポケェ〜ッと見惚れていると、入れ違いに入ってきたみっちゃんに心配の声をかけられた。
「大丈夫?何だかボーッとしてるっぽかったけど…もしかして、熱上がってきてるんじゃない?」
「や、たぶんそっちは大丈夫だと思う…」
「ふぅん…まぁ、大丈夫なんだったら良いけれども、無理だけは絶対に駄目だからね!ハイ、お茶とお茶請け用のお菓子。飴とかラムネとかの駄菓子なら風邪引いてる時でも関係無く糖分摂取出来るでしょ!良かったら食べてね!」
「有難う。駄菓子地味に好きだから嬉しい」
「そういえば、どうして伽羅ちゃんの前の腰布をストール代わりにしてるの?さっきまでは何にも羽織ってなかったよね?」
「今しがた伽羅ちゃんが持ってきて唐突に巻き付けられまして」
「あ、其れで今さっき伽羅ちゃんと道中擦れ違ったのか!」
「そんでもって、何か“俺はアンタの刀だから好きな時に呼べ”的な事を言われたんだが…?」
「嗚呼、其れ…たぶん伽羅ちゃん的に訳すと、“主とだけなら馴れ合っても構わない”っていう意思表示だと思うよ。伽羅ちゃん、普段は素っ気無い風な態度しか取らないけども、根は優しくて格好良い男だからね!風邪引いて弱ってるだろう主の事を遠回しに心配してるんだって事を伝えたかったんだよ、きっと!良かったね、主!!」
「うん…あまりのイケメンっぷりに軽く惚れかけたわ…」
「いや、そういう事を言っちまう時点で落ちてるんだぜ、たーいしょっ」
着替えを終えてやって来た薬研より言われた一言がすとんと落ちた一幕であった。
風邪で弱った精神も頼りがいの強い男士が付いていればなんて事はないのである。
執筆日:2021.10.24