「君、初めの頃は僕の事“一番好き!”って豪語してたのに、今やさっぱりだね」
偶々、近侍の役目が回ってきた際に、お茶休憩にと軽いおやつも添えて差し入れにやって来た時の事だ。
僕はふと思った事を、ぽつり、口にした。
糖分補給用の甘味に喜んで舌鼓を打っていた主は、僕の零した何気無い言葉にキョトンとした顔をして僕の左眼を見つめてきた。
「唐突にどうした」
「いや、何かふと思った事がそのまま口から出ちゃって」
「急な話振られてちょっと吃驚しちゃったわ」
「御免ね、悪気は無いんだ。久し振りに近侍の順番が回ってきたからかな?何となくそう思っただけで、特に深い意味は無いんだ」
「あー…まぁ、ウチも随分と刀数が増えたからねぇ。気付けば百振り近くも居るような大所帯になりましたよ。お陰で、毎回近侍決めるのも適当になってきちゃってさぁ…いや、鍛刀当番に関しては今も変わらず顕現順で順番回してんだけどね?大体が極めた子かその時の推し刀か古参な子達に偏ってるよねぇー…。あとは、何となく近侍曲持ってる子に頼みがちかな」
「あぁ、まぁ、その理由は何となく頷けるから良いんだけどね。別に不満とかも無かったんだけど、何でかふとそんな事を思っちゃった訳でして…」
「うーん…もしかして、古参刀なりの“焼きもち妬いてるんだぜ”アピールかな?」
「自覚は無いけど、もしかしたらそうかも。…だって、僕はこの本丸での初太刀だし、君がピンポイントで僕を喚ぶレシピを試して一発目で来た太刀だものね。そりゃ誇りもあるし自分に対しての自信もあるけれども、やっぱりこうも刀数が増えてきちゃうとね…っ。妬かない筈が無いよ。嫉妬なんて格好悪いから、普段は気を付けてるんだけど……ほら、僕は君の強い想いに引き寄せられて喚ばれた訳だし、ね?」
「俺の初太刀があざと可愛い」
「そう育てたのは、主たる君だよ」
僕の言いたい事も何となく分かるのか、複雑そうにキュッと顔を
僕が今言った事は事実で、僕はこの本丸で十七番目に顕現した、本丸初期から居る古参組だ。
顕現したその日から今日までずっと変わらず主からの愛情をたっぷり注がれて育ち、今ではすっかり極めて立派に強くなった厨番の一人である。
だが、冒頭にも申した通り、喜ばしくも刀数が増えて賑やかになったのは良いけれども、その分前程近侍の役目が回ってこなくなって何処となく寂しさを感じていたのだ。
些細な事が切っ掛けかもしれないけども、またこうして彼女のすぐ側に居れる事が嬉しくて、思わず零れ出た本音というやつかもしれない。
伊達男としては、ちょっと格好悪いかな。
でも、極めた事により、再び前線へ戻ってこれた事もあって、やっぱりもっと僕の事も頼って欲しいかなぁ…なんて思ったりもしなかったり。
彼女の一番の刀の座には、今は別の刀がずっと居座っている事は知っているから、嘗てはその座に居た身として思う。
「別に、みっちゃんの事嫌いになった訳では無いよ…?今も変わらず好きな気持ちは変わらない。だって、ねぇ…私がこの業界にどっぷりハマる切っ掛けを作ったのもみっちゃんっていう存在があってこその事だったもの。始まりが伊達組なら、“推し組誰だ”ってなったらやっぱり伊達組推しだものね。其処は変わらん。ので、MMDで見る動画の内、総じて伊達刀出てくるのが多いのは致し方ない事なのよ」
「まぁ、メタイ話、僕達の出てくるゲームにハマる切っ掛けは、某にっかり動画のMMDな僕だったらしいもんね。其れは純粋に嬉しいし光栄に思うよ。主が審神者となる切っ掛けとなったのに一役買ってたんだって事でね。…でも、個刃的な観点からしては、其れと此れとは別の話なんだよ」
「何かよく分からんけど御免」
「良いよ、謝らなくて。主は別に悪い事した訳じゃないんだし。此れは、単なる僕の個刃的な我が儘みたいな話だもの。深い意味も無かったし。あんまり気にしないでね…?君は何かと抱え込む事が多いから、僕の事で余計に悩みの種を増やしたくはないんだ」
「んー…言うて、焼きもち妬いてるだけな話やろ?私がきちんと今の気持ちを伝えたら、みっちゃんが今抱えてるもやもやもスッキリするんちゃう?」
「と、言いますと……?」
僕は小首を傾げて主の方を見た。
そしたら、主は頬杖を付きながら何気無い風に零してきた。
「ぶっちゃけな、私が今みっちゃんに対して思う気持ちは“プラトニック・ラブ”ってヤツに近いんよ」
「“プラトニック・ラブ”…?」
「えーっと、精神的な寄り添いを求める愛情…みたいな意味だったかな?元は“ロマンチック・ラブ”だったかもなんだけどね。あの頃は、何もかもが初めてで未熟だったからよくは分かってなかったかもしれないのが一番の理由で、私の
「え…っと、つまりはどういう事なの…?というか、“ロマンチック・ラブ”の意味は?」
「“ロマンチック・ラブ”の意味は、確か、精神的な愛だけじゃなく肉体的な愛も求める関係…とかって意味じゃなかったっけ?」
「え……っ、其れ、本当…?以前、僕に“一番好き!”って言ってた頃は、つまりそういう事だったの…?」
「あ゛ー…や、まぁ、その…紆余曲折色々あった上でそういう思考に辿り着いてたんだよ、嘗ての私はな…!」
「で、今は肉体的な愛から離れて精神的な繋がりを大事にする“プラトニック・ラブ”に変化したと…?」
「さては、始めから二つのそれぞれの意味知ってて聞いたな、
「御免て、其れは謝るけど…でも、そういう事なんだろう?」
「…そう、ですけど…何か?」
「そんな拗ねないで!僕自身は君の気持ちが色々と知れて嬉しかったんだから…!」
彼女からしてみれば恥ずかしい話も暴露した流れに若干機嫌を損ねたのか、不貞腐れたような顔をしてそっぽを向かれたが、僕の知らなかった彼女の隠していた本当の気持ちに触れる事が出来て純粋に嬉しかった。
だから、僕は、そっぽを向いて可愛らしく頬っぺたを膨らます彼女の手に優しく己の物を重ねて告げた。
「有難う、僕の事をそんな風に想っていてくれて。僕は、そんな主の元に顕現出来て、本当に良かった」
「え…何、この最終回みたいな遣り取り。止めて、不用意にそんな事しないで、審神者泣いちゃう」
「別に、今の台詞を最後に折れる訳でも何でも無いから…!ただ、嬉しくなって感謝の気持ちを伝えたくなっただけだから安心して!!」
「あぁ、其れなら良いんだ。あ〜、一安心したら茶が美味い」
なんて言いながら呑気にお茶を啜り始める主の心配事が少しでも減るよう、これまで以上に精進していく事を誓おう。
何せ、僕は彼女の大事な大事な初太刀だから。
その座は誰にも渡さないし、絶対に譲る気も無い。
彼女の古参刀として、これまで通り彼女と共にこの大きくなり続けていくであろう本丸を支えていくのが、僕の役目だ。
勿論、歴史を守るという使命が第一だが、その歴史の一部である彼女という存在も同時に守りたいのである。
お茶と共に添えて持ってきた黒糖かりん糖をぽりぽりと齧る主の斜め隣で一緒にお茶を啜りながら零す。
「…ところで、僕に対する接し方を“ロマンチック・ラブ”と“プラトニック・ラブ”に例えた訳だけど…とどのつまり、主は僕に“そういう意味”で惚れて今もずっと好きでいてくれてるって事なんだよね?」
「んぐッ、」
「今のを聞いた流れからの僕個刃の感想なんだけど…其れって、『恋から愛に昇華した』って事とイコールで合ってるかい?」
「……わざわざ本人に確認取る事なんかいな、ソレ?」
「僕からしたら大事な事だったから訊いた、ってだけに過ぎないよ」
「…まっ、『愛』言うても色んな形ある訳でして…?私が君へ向ける愛は、信頼とかそういう意味での『愛』だからね」
「ふふっ…うん、分かってるよ?敢えて訊いてみただけだから、気にしないで」
「嬉しそうで何より」
「そりゃあ、勿論。僕は君の事が今も変わらずずっと大好きだからね!」
『恋』が終わった後、何になるか知ってるかい…?
それはね、『愛』になるんだよ。
『愛』にも様々な形があるけれども、その内の、目には見えない形で仲間と信頼し合っているという絆としての『愛』を繋ぎ、これからも強く太く紡いでいく…此れは、そんな僕達のお話の一欠片。
Title by:惑星