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神様の市場



 ちょっと惰性が出てきたところだった。

 目標値には早い内に達成出来てたから、あとは気まぐれにレベリングも兼ねてぐるぐると周回。
そして増える泥刀達。
 刀剣部屋はうの昔に埋まっていて、受取箱に転送されていくだけになっていた。
其れでも、誰か一人修行に出ない限り錬結での消費も出来ないから、やはり数ばかりが増えていく。
いち兄も帰ってきて即錬結で上げれる数値はステマしたので、これ以上の錬結は必要無い。
一応、修行セットがなくはないから、あと一人、二人くらい出せない事もなかったが…やはり消費が追い付かない。
 かと言って、まだ資材に溶かすには時期尚早と言えよう。
受け取り期間が差し迫っていない限りは現状維持――現在開催中のイベントが終わるまでは様子見という事にしておこう。
 …そう取り決めたは良かったものの、やはり受取箱の受取数が気になってしょうがなかった。


「新人審神者さん方的には嬉しいんだろうけどなぁ〜、この泥祭り状態」
「と、言いますと…?」
「いつぞやにあった政府からの大盤振る舞いな一気にドサッと何十振りもの配布とかで増えた刀の育成がてら捗る錬結やら習合?アレ、おもに新人審神者向けに行った政策で、まぁウチ等みたいな古参寄り組の審神者は一部難民が居たりしなかったりもなかったからおこぼれにあずかる形で有難く受ける訳ね。けど、ほとんどの刀達が既に顕現済みだから、余程の事が無い限り錬結もしくは習合行き、最悪は資源にする為溶かすしかない訳よ。…で、現状泥祭り状態で、錬結も習合出来る刀も居なくて消費が追い付かず、今後の策を練り中」
「我が本丸は、の真田の脇差である泛塵殿以外は既に顕現しておりますからなぁ。私も、帰って初日に錬結で上げられる部分はステマ致しましたし。予定している次の修行候補者の方の許可を通しますか?」
「うーん…まぁ、一応はその予定で小竜君を出そうかと考えてはいるけども、ちょっとタイミング計ってるとこ。私の体調云々とか回線の問題とか諸々見つつやらないとね」
「其れはそうですな!私の時は、体調が微妙なのも押されて修行を強行されましたから!」
「その件についてはほんにすまぬと思っている…っ」
「私が何れだけ心配を抱えた状態での旅になったか、とくと思い知るが良いかと」
「本当に御免て、アレは本気で悪かったと思って反省してるから許してくれ…!」
「嫌です。今後暫くは根に持ち、主への強請ゆすりネタとして使わせてもらう」
「お前、極めてからより強かな男になったな…ッ」
「今の主の元に居れば当然かと」


 修行より帰ってきて間もない一期に対し、変わらず“いち兄”との愛称で慕い、近侍を任せている時の折だった。
以前より逞しく強かな男に成長した事を見せ付けるが如くの言葉の応酬に、少しばかり顔を引き攣らせつつの苦笑いを浮かべる。
そんな私の様子に、彼は常と変わらぬ穏やかな笑みを返しながら訊ねた。


「それで…主は何をそんなに気にしておられるのですかな?」
「いやまぁ、大した事ではないんだがなぁ…」
「何か気掛かりならば、一度話してみては?話してみたら、スッキリ解決するかもしれませんぞ」
「んー…この話をいち兄にするのも……、しかし、極めた後だから大丈夫か…?」
「私の事が気掛かりならば、ご安心を。刀集めについてでしたら、私なりに解しましたから、ご心配は無用。そも、其れこそが主たる審神者の務めなのですから、私共が口を出すべき事でも無かったのです。其れを理解出来ていなかった私の脳味噌が足らなかっただけの事。主は何も心配に思う必要は無い。だって、武器が無ければ戦には勝てませんからな!所詮は其れだけの話だったのだ」


 極める前の時の事を思ったのだろう、以前ならば憂いた事だろうに、今やざっくりあっさりと受け入れたようだ。
まぁ、事実、武器が無ければ戦は出来ぬし、戦にも勝てぬという話。
その戦に使われる武器であり刀なりに思うところもあったのは、使う側である此方も理解している。
 要は、使い手の問題でもあったのではないかと思われる。
使い手がきちんと意思を伝えておかねば、使われる側も理解出来ずに、意志疎通は破綻、互いが互いに疎遠な関係性となってしまう。
其れでは戦は成り立たないし、勝てる戦にも勝てなくなる。
 例え武器だろうが物だろうが、使い手の意思次第で使われ方は変わってくるものだ。
其れは、審神者と刀剣男士等においても言える話であろう。


「――して、主は何を憂いておいでか…?」
「…うん、この泥祭りな現状を思ってな…“まるで、神様のバーゲンセールみたいだなァ”と」
「“神様のバーゲンセール”、ですか…。成程、言い得て妙な話だ。なかなか的を得た言い方に、私感嘆致しましたぞ」
「世辞は要らんぞ」
「お世辞だなんて、そんな…っ。私は本当の事を申しただけです。…主はお優しい方ですから、今の現状に憂うところがあったのでしょう。しかし、私の事なら心配召されるな。例え、主の言うように、暫様な扱いで刀が湧き増え行こうとも、私は主に忠誠を誓い直した身…主の元から離反するような真似は致しませぬぞ」
「其れは良かった。…しかし、ほんに今の現状や如何いかにもし難いものよ。最早無限湧きにも近しい現状に、助かりはしようとも何とも言えぬ。何せ、増え過ぎた刀は溶かす他行き場が無いからなァ…。まぁ、戦というものは所詮そんなものなのかもしれんが、心が痛まんとも限らんという事よ。戦に残酷も無情も付き物だがな。そこまで冷徹には成り切れぬってだけの話さね」
「そんな優しいところも主の美点なのです。私は、そんな主の優しいところをお慕い申しておりますぞ」
「いや、其れで本気で惚れられても困るんだが」
「おや、其れは心外」


 「ふふふっ、」と小さな笑みを零してツゥ…ッ、と指の背で頬を撫ぜてきた彼は何処か楽しそうであった。

 一先ず、泥祭りで得た刀達は錬結出来る内は錬結に回し、其れでも余るようならば資材へ回す事としよう。
“再び刀の姿で逢えた時は、またお力をお貸しくださいね”と願いを込めて、感謝をした上で炉で溶かし、鉄へと戻す。
其れも、審神者たる者の役目なのだから。


執筆日:2021.11.01
Title by:惑星