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彼の者が還る場所に望むはきっと母なる者の腹の中



 私が月のもので腹を痛めているさまを見て、不意に今剣辺りが。


「こうしてはらをいためているさまをみると、ふしぎなかんじがしますねぇ」


 …と、呟いた。
その呟きに、


「どうして不思議なの?」


 ――と問うてみると、彼は赤く真ん丸としたお目めをぱちくりと瞬いて無邪気に返してきた。


「まるで、ややこをやどしているみたいにおもえてくるからですよ。ややこにはらをいためているわけでもないのに」
「そうねぇ。今来る腹の痛みは、子が居る為ではなく、ただの生理痛だもの」
「でも、いたむのですよね?」
「時折だけどね。ずっと痛い訳ではないから、その点は安心して頂戴な」
「それでも…やはり、あるじさまがからだのどこかをいたがっているのをみると、しんぱいになります」


 そう言って、彼はぴょこりと真隣にやって来ると、ツキツキと鈍く痛む腹を労るように手を当て撫ぜてきた。
その優しい気遣いに、私は素直に感謝した。


「有難う。いまつるちゃんが優しい思い遣りある子に育って、審神者嬉しい!」
「とうぜんです!なんたって、あるじさまのもとにけんげんしたかたななのですから…!あるじさまがすこしでもらくになるよう、いたみがおさまるまでこうしてさすっていてあげましょうっ」
「ふふふっ…此れだと、ますますややこが出来たみたいな絵図になるわねぇ」
「かりに、しょうらいあるじさまがこをやどしたときもおなじようになでてあげますよ!」
「あら、嬉しい。でもまぁ、まだ一時はそんな予定が無いから、今言った風にお世話になる事も無いのだけれど」
「よてい、ないんですか?」
「だって、相手が居ないんですもの。相手が居なけりゃ子供なんて出来ないし、成り立たないものよ。故に、今私の腹の内は空っぽよ。中身は、血と肉と腸が詰まっているだけ。痛みはすれど、其れも子を宿す事が無かったが故の血のとこが流れ出ている為のものだもの」
「ますますふしぎなものです…」
「不思議と言えば不思議なのかもしれないわねぇ」


 確かに言えている。
腹を痛めている原因に赤子は居ない。
そもが、ややこなどこさえてはいない。
だが、女子おなごとして生まれた運命さだめか、決まった周期で月に一度程、月のものを迎える。
全ては、彼の言う“ややこ”をこさえる準備が出来ている証拠だ。
 しかしながら、己には好い相手が居らぬどころか今のところ作る気さえ無い故、不要で不毛な事に思える。
かといって、無くせる事でも無ければ、ある事が大事であると知っている故に何ともし難いものである。

 そうこう思考を広げていたら、ふとまた彼の呟きが零された。


「ややこがいぬかわりに、あるじさまのおなかには、きっと“かたなのこ”がやどっているのでしょうね…!」
「おや、“刀の子”とな?其れは其れは、面白い事を言うねぇ」
「ふふふっ…!だって、ぼくたち刀剣男士は、あるじさまのもとよりうまれ、けんげんするのですから、にたようなものでしょう?」
「確かに、そういう意味で言えば、私はこの本丸の母になるわねぇ…」
「ですから、もし、あるじさまにあしきものがわるさをしようとなんてしたら、ぼくたちがかわりにこらしめてやるんです!こう、おなかのなかからでてきて、“ぶすっ”と!」
「切れ味の鋭い子等の事だ、私の腹まで斬ってしまわないかい?」
「そこはだいじょうぶです!じっさいにあるじさまのおなかはきりませんよ!あるじさまのおなかをきるのは、あるじさまがおやくめをまっとうした、さいごのときときまっていますから…そのときまで、だいじにだいじにおまもりいたしますね」
「有難う、いまつるちゃん。そう言ってもらえたら心強いわ」
「えっへへ〜、ぼくのこと、これからもウンとたよってくださいね!」


 無邪気にニコニコと笑って言う童のその実は刀であり、私の懐刀の一振りであった。
そんな懐刀の一振りである彼は、私を主と称して付き従い、また、母のように慕って付かず離れずの距離に居る。
私は、そんな優しくも思い遣りのある強き彼が、まるで我が子の如く愛しい。

 何時いつか、戦が終わり、還る場所を失う時は、彼さえ良ければ、私の腹の内を還る場所にしてくれれば良いと思う。


執筆日:2021.11.28
公開日:2021.12.05