ふと、期日が迫る今更になって思い至った。
「あ、もうすぐクリスマスじゃん。まぁ、此処(本丸)は日本だしキリスト信教者でもないけど」
つい口を突くように洩らした言葉を、反応した最古参組な三振りが拾ってくれた。
「え、何、急に…?てか、マジで今更なんだけど、どうしたの主?」
「いや…カレンダー見てて、“あっ、そういやもうクリスマス間近じゃん…”って思って。ただ其れだけ〜。特に何という事ではないから気にせんでくれ」
「うん。まぁ、そんなこったろうとは思ったけどな」
「確かに、クリスマス当日まであと数日という期間ではありますが…?」
「いや、な…皆へのプレゼントの事、何も考えてなかったなぁ〜と気付いてしまってだな……今更間に合わねぇよなぁ〜、と…」
「其れこそ今更じゃない?これまでも各々刀派内とかでそれぞれ贈り合いしてたんだし、主自ら用意しなくっても皆自立してるから心配無いでしょ。つか、クリスマスも連隊戦周回で其れどころじゃないんじゃない?俺は待機組だから遠征組まれない限りフリーで楽だから良いけどね〜」
「ははっ、旦那は疲労しなくて良いなぁ〜」
「僕達は夜戦部隊として編成に組まれてますからね…っ。極短刀の育成も兼ねてるそうですから、基本第一部隊と第三部隊のメンバーを調整しながら組み替えるとの事で、僕達はイベント最終日まで出ずっぱりの予定だそうです。疲労はしますが、休み休み頑張っていきましょうね、薬研兄さん…!」
「まっ、俺達よか大将のがよっぽど大変だろうがな!何たって、場合によっちゃあ徹夜も覚悟して掛かり切りになんなきゃならねぇからな!!」
「だから、イベん中じゃ冬の連隊戦が一番周回キツイのよ〜っ!夏の連隊戦みたく水砲兵とか便利アイテム無いからさぁ〜!!はぁ〜ツラァ…ッ」
今すぐあったかな炬燵か布団の中に伸びて籠ってたい気分であったが、絶賛一年で最も鬼周回しなきゃいけないイベントの真っ只中であった。
愚痴もながら作業に、端末をぽちこぽちこしつつ部隊を編成、且つ合戦中の中継をリアタイで確認しながら次の編成案を練ったり何たりしている。
年末故に遣る事が山積みなのである。
取り敢えず、年賀状は既にポストに投函済みだから年賀状の心配はしなくて良いな。
年末の大掃除ならぬ片付け等もちまちま進めて行ったので、細かな点には目を瞑れば大丈夫だと思いたい(めんどい故の大雑把適当を発揮)。
どっちかと言うと、年末よりも年明けてからの方がぶっちゃけ色々諸々予定あって忙しいし。其れ思うと今から気が重くなるけど、まぁ此処は前向きに行こう、うん。
しかし、思い至ってしまった“クリスマス”という事実に思考が傾いてしまったのは否めない。
脳死半分本日分のノルマをこなす為に鬼周回をしながら、思考の片隅を“クリスマスのプレゼント”の事に傾けた。
特に口にするでもなく、誰に言うでもなく、ただただぼんやりと一人思った。
そうして行き着いた考えに、ピコンッと閃いて、ノルマ分をこなし終えた後、疲れた身を押して一人出掛ける準備をしてバッグに必要最低限の物を詰め、玄関へと向かう。
靴を履いているところで、偶々通りすがったらしいちょぎ君に見付かり、声をかけられた。
「おや、お出掛けかい?さっきまで周回してたから疲れてるだろうに。何か入り用な物があったとかなら、俺が代わりに行くけど…」
「あー…や、超絶個人的な買い出しに行くだけだったから、良いよ。疲れてんのは否定しないけどねー。気持ちだけ貰っとくよ、有難う」
「そうかい…?出掛けるのは構わないけれど、他の
「いや、特には。今、ちょぎ君と逢ったし、何かあればちょぎ君から伝えて」
「実にザックリ適当だね!俺が行き合わなかったら誰にも言わなかった気かい、君?流石の其れは後で困るからやめてくれると助かるかなぁ。…まぁ、一先ずは承ったよ。お伴は要らないのかい?」
「一人が良いから要らないッス。わざわざ気遣ってくれてアザッス&世話掛けてすまなんだ」
「良いよ。もう慣れたし。この本丸に来て三年の月日も過ごせば今更な話だしね」
「ははっ、確かに…!小慣れた感も板に付いてきたよね!そりゃ貫禄も出るか、カンストしてから暫く経つし」
「当然っ」
彼と気軽な感じの遣り取りを挟んだ後のちに、“留守は頼んだ”という体で本日の近侍へ言伝てを頼んでカラリと戸を開けた。
本日の近侍は長谷部だから、問題無く留守居役も任せられるだろう。
「んじゃ、ちょっくら行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。気を付けて行ってくるんだよ。体調の事もあるんだから、あんまり無理の無いように寄り道はしないようにね」
「わぁーってますやぁ〜」
ちょぎ君から保護者的お見送りを受けて、いざ個人的な買い出しへ。
何を買うとかについては敢えて何も言わんかったけど、察しの良い彼は変に追及してくる事はしなかった。優秀。
取り敢えず、言伝て頼んだ礼に何か買って帰ってあげよう。
コンビニのお菓子とかでも良いかな…?
やっすいヤツだけど美味いヤツの辺りを幾つか見繕って、お土産にしてやろう。
ついでに長谷部にもあげたら喜ぶかな。
――なんて考えながらひょひょいっと一人で行き慣れた万屋街道を進み、目的の店に行き着いたら目当ての物を選んで、プレゼント用包みにラッピングしてもらってさっさか店を出た。
帰り道にコンビニへ寄って、よく買うお気に入りのお菓子を幾つかカゴに入れ、ついでに徹夜作業時のお腹空いた時用に夜食用の菓子パンも突っ込んでお会計。菓子パンに関しては、厨組に見付からないように帰宅後即隠さなきゃ…っ。
そうこう個人的な買い物を終えて本丸へ帰宅。
帰り着いたら、「疲れた身も押して一人で何処へ行ってたんだい!?」と過保護組勢に捕まり、詰め寄られてしまった。
別に何処へ行こうが個人の勝手だし、私も立派な大人な身なのでそう心配せずとも大丈夫なのだが…下手な口利いて説教始まっても敵わなかったので、話もそこそこに自室へと逃げ込んだ。
お菓子は、部屋へ向かう道中にそれぞれにお留守番してくれたご褒美と称して献上した。中身は、●ラックサンダーとかチ●ルチョコとかおやつ●ルパスとかだったけど。二人共、心なしか嬉しそうに貰ってくれて良かった。
買い出しの本命で買ってきた代物については、当日まで誰にも見付からぬ場所に大事に仕舞い込んだ。
今日は余計な事に頭を回したせいもあって疲れたや。
鬼周回の脳死周回を決め込んだ後もあってすっかりグロッキーモードで、晩御飯を食べた後、お風呂も済ませてさっさと床に就いて寝た。
―そして、クリスマス当日…。
私はノルマを周回し終えた後に出来た自由時間に、一文字のお頭ことちょもさんを部屋に呼び付けた。
勿論、個人的な用事だったので、一人きりで来るように言い付けてである。
彼は不思議そうにしながらも了承して、言い付け通り一人だけで部屋へと訪れた。
「小鳥…?何やら私に私用の用があるとの話だったが、何だろうか」
「あぁ、うん。ちょいと、ちょもさんに渡したい物があってね。完全個人的な物だったから、ちょもさんお一人だけと頼んだのよ」
「私に渡したい物とは…?」
「気に入ってくれたら良いんだけどなぁー…っ。まぁ、仮に気に入らなかった時はゴミに捨てるなり誰かに遣るなりして有効活用してくだせぇや」
「はぁ…、」
終始不思議そうに首を傾げて此方を見つめてくる彼に向かって、先日こっそり彼にだけ用意した“クリスマスプレゼント”なる物を手渡す。
受け取った彼は、暫しぱちくりと瞬きを繰り返して、手渡した袋と私とを交互に見つめてきた。
その様子が可笑しくて、小さくクスリと笑んでから、改めて大事な一言を告げた。
「メリークリスマ〜ス!という事で、ハイッ、クリスマスプレゼントで〜す!」
「くりすますぷれぜんと…私にか?」
「はい!ちょもさんに、私からの個人的なプレゼントッス…!中身はメガネケースですよぅ〜。ちょもさん、普段サングラス掛けてない時いつも胸元に引っ掛けてるだけだったんで、ケースあった方が良さげかなって思って、勝手にチョイスしてきました!どうぞ、お納めくださいまし…っ!」
「…もしや、私だけに、というヤツかな…?」
「あい、ちょもさんだけにッスね。……あ、もしかして、駄目…というか、お気に召さなかったパターンです…?」
「あ、いや、そういう訳ではなかったのだがな…っ、その…、こういう事は初めてだった故…どう反応して良いのか分からなかった。すまない……っ」
そう言って、まず謝罪を口にした彼は、俄に顔を赤らめて恥ずかしそうに口許を覆い隠して俯いた。
恥ずかしがり屋にそぐわぬ可愛らしい反応が見れて十分満足である。
渡せただけでもご満悦とばかりにそのまま無言でニッコリ微笑んでいたらば、咳払いをした彼が居住まいを正して向き直ってきた。
「まさか小鳥からこのような計らいを受けるとは思わなかった…。思うがままの感想を述べよう。小鳥から素敵な贈り物を貰って、純粋に嬉しかった。心より感謝を述べよう…有難う、生涯大切にすると誓おう」
「ふはっ…!そんな大した物じゃないんすから、んな大真面目に返さなくても良いッスよ〜…っ!ちょもさんたら、本当律儀なんだから!」
「いや、しかし…小鳥から贈り物を賜ったのだから、当然の事だろう?組の頭を務める者として、恥をかくような真似は出来ないさ。其れに、主たる君に忠義を尽くすのは、部下として当たり前の事だからな。堅苦しい文句を抜いても、贈り物を賜った事が嬉しかった事は本当の事だ。どうか、感謝の念くらいは伝えさせてもらえないだろうか…?」
「もぉ〜っ、ちょもさんったら仕方ない御人なんだからぁ…っ!つって、正確に言っちゃあ、“人”じゃなくて“刀”だけどもさ!」
あまりの真面目さに、そんな大した物じゃないんだからとカラカラと笑って返すも、喜んでもらえた事が分かっただけでも用意した甲斐があるというものだ。素直に彼からの御礼の言葉を受け取った。
すると、ただの眼鏡ケースだったにも関わらず大層嬉しそうに誉桜を舞わせていた彼が口許を綻ばせて呟いた。
「ふふっ……其れにしても、このように個人的な贈り物を賜るとは…其れだけ私個刃へ特別に目を掛けてくれているのだと、自惚れて良いのかな?」
「んふふっ…!その辺りは其方側でお好きなように解釈くださって構いませんとも」
「そうか…。では、今この時ばかりは我が身一人だけ、小鳥を独占する権利を頂こうか。……嗚呼、今日の御礼は後日きちんと贈らせて頂くので、そのつもりで」
「おやまぁ。別にお返しとか気にしなくて良かったのに…っ。私が好きで贈っただけだったんだし」
そう軽口を零した瞬間、彼は目敏くという風に反応し、あからさまな形でじ…っ、と私の目を見つめてきた。
「聞き間違いでなければ、今、“好き”と言ったかな?……そんな事を言われてしまっては、本当に自惚れてしまいそうなのだが…今ばかりは、お許し頂けるだろうか?」
途端、急激にグッと距離を詰められて、一瞬呆気に取られるも。
特に断わる理由も無く…というか、返答に困った末に取り敢えず是と示すようにコクリと首を縦に振れば、間近に覗き込まれていた彼の赤き瞳がゆるく緩められて頬に手を添えられた。
「…では、その通りに」
「……えー、っと……取り敢えず、近いッス…。あんまりにも近過ぎるくらいの至近距離なんで、一旦離れて頂いても…?でないと、免疫の無ェ凡人の心臓が爆発寸前ですぜぃ…ッ」
「おっと。此れは失礼した…っ。つい、君の瞳をよく見ようとしたら、不用意に近付き過ぎてしまっていたな。女性に執拗に近付き過ぎては失礼に当たるものだ。嬉しさのあまり気遣いを失念していたようだ…すまなかった。気分を害したりはしなかったか…?」
「あ、一応は大丈夫っした……うん。吃驚はしたけど、嫌ではなかったし……………慣れない距離感故にちょっと変にどぎまぎしちゃって恥ずかしかったけども」
「小鳥も恥ずかしがる事があるのだな…此れは貴重なところを見れた」
「変なとこで喜ばんでくださいよぉ〜……ッ!言っときますけど、ちょもさんくらい整った顔の男性に至近距離に寄られたら、誰だってお顔ポッポ赤らめちゃいますからね…!私だけ限定の反応じゃないッスからね!」
「嗚呼、分かったよ」
「分かったと言いつつめっちゃ嬉しそうに顔にやけとるやんけ…!コンチクショウ…ッ!!〜〜私周回で疲れてるんで、明日に備えて早く寝ます!!ので、面会時間は只今を以て終了します…っ!!閉店ガラガラまた明日…!!ちょもさんも一文字部屋戻ってお休みください!!」
「そうだな…これ以上、小鳥の疲労を長引かせる訳にもいかん。小鳥の言うように、私もそろそろお暇する事としよう。お疲れのところ長居して悪かった。小鳥は早く休んだ方が良いだろう。私が去った後、夜更かしをせずにきちんと温かくして寝るように」
思ったよりもすんなり引いてくれた彼は、意識を切り換えたのか、お頭モードの口調に戻って部屋の出入口へと向かっていった。
一応はとその後を追って見送るように部屋前まで出て来ると、見送りされるとは思っていなかったのか、振り向き様に私が背後に付いてきていた事に一瞬驚いたような表情を見せた。
私は気にせず、別れの挨拶兼就寝前の挨拶を告げる。
「…そいじゃ、おやすみなさいちょもさん」
「嗚呼、おやすみ…良い夢を」
にこり、柔らかな微笑みを浮かべて背を向けて去っていく彼を見送って。
さて、自分も寝ようかと部屋へ戻り、寝間着に着替え、布団に潜り込み、頭まですっぽり被ったら今日も
寝る直前まで彼と逢っていたせいかは分からぬが、安眠コースへ落ちた後、赤い目をした鳥と戯れる夢を見た。非常に懐こい子であった。
頬に擦り寄ってくるのが可愛くて、お返しのスリスリ攻撃をお見舞いしてあげた。そしたら、倍のスリスリ攻撃を食らった。
夢なのに心臓がギュンってなった気がしたぜよ。
―翌日、目が覚めたら何故か昨晩逢った筈のお頭が寝起きにも構わず開眼直後お目見えしており、何故か超絶ご機嫌なご様子でニッコニコしていらっしゃった。
片面は枕に面してた筈で、もう片面は毛布もしくはモフモフ布団だと思っていたのに…片頬に触れていたのはちょもさんの掌であった。
しかも、
嘘やろ…と二度寝してリセットしたく思ったけど、其れはちょもさんが許してくれませんでした。
「おはよう、小鳥。良い夢は見れたかな…?」
「………お、はようございます…?…良い夢?かは分かりませんけど…まぁ、少なくとも悪い夢ではなかった、ッス……??」
「其れは良かった。小鳥は夢見が悪い事が多いと聞いていた故にな。幸せそうな寝顔だったという事は、少なくとも悪い夢の類では無かったようで安心した」
其れもガッツリ寝顔観賞までされていたと来て、朝から穴があったら埋まりたいと思うのだった。
近場に穴は無かったので、手短に布団に籠らせて頂いたが。
疲労から二度寝決め込むかと思われたのか、ナチュラルに彼が自然な流れとばかりに添い寝してこようとしたので即布かまくらから脱した。
公開日:2021.12.25