▼▲
ただの傷と心の傷



「傷は誉と言うが…心の傷は容易に治せぬものである上に、誉には成り得ぬものであったな…すまぬ。気遣いが足らなかった」
 そう言ってくれる貴方は、ほんに優しい人。
熾烈なまでに熱い闘志を抱きながらも、私を労り慰めの言葉をくれる。
「やはり、俺みたいな武辺者に、主の側仕え…引いては近侍などの役目は務まらぬだろう――、」
 そう言って己を否定しようとする優しさも嬉しいけれど、私は貴方を傍に置きたいから近侍に据えるのよ。
 直接口にはせずとも、控えめな力を込めて服の端を引けば、彼は一瞬口を噤んで堪えるように眉根を寄せた。
でも、すぐに緩めて、服の端を掴んでいた私の手を取り、僅かに微笑むのだ。
「…アンタが望む以上は、側から離れずに居よう。だから、そんな不安そうな顔をするな。勝手に山へ帰りなどはせぬから」
 感情表現の苦手な貴方の、時折零す小さな笑みが、私の一等嬉しき事なのだとは本刃の知らぬところである。


執筆日:2022.01.11