※Log伍収録の『ホラーが駄目な本歌のお話』の続編。
※単体でも読めます。
さて、今日もお仕事頑張ろうと、朝餉を食べた後、いつものように仕事部屋に籠って提出用書類を捌く作業と向き合っていると。
何やら母屋の方から慌ただしく向かってくる足音が、此方の方まで聞こえてきた。
現在、審神者が居るのは、本丸の外れに在る離れの間である。
この本丸の主は、基本的には此処離れの間で寝起きし、生活の中心の場としていた。
そんな離れへやって来るという事は、何事かが母屋の方で起きたか。
はたまた、端に審神者に用があっての事か。
どうにも急ぎのような騒がしい足音を立てて向かってくる人物に、朝から何事だろうかと身構え、足音のヌシは誰かと思考した。
程無くして、入室の許可を問う言葉と共にズパンッと思い切り良く障子の戸が左右に開かれ、一人の男が姿を現し、口を開いた。
「主、今良いか…っ」
誰かと思えば、やって来たのは、白と黒半々の髪色をした頭に、目に映える赤の迷彩柄の装束を纏う大男であった。
男の名を大千鳥十文字槍と言い、嘗て戦国の世では
何故、槍などと言う武器が人の姿をしているのか。
其れは、歴史を守る戦に勝つ為に、時の政府より“刀剣男士”と言う付喪神として顕現を許され、審神者の力にて本丸へ降ろされたからである。
故に、彼は槍の身でありながら、己で自身とする刃を振るっていた。
此処、本丸とは、そんな刀剣男士達が審神者の元に集い、生活する拠点なのだ。
話は戻って、どうしてそんな急ぎ足で離れの間へやって来たのか、彼の勢いに審神者はおっかな吃驚しながらも何用かと問うた。
「ど、どうしたの、十文字君……?そんなに急いで、母屋の方で何かあったん?」
「否、そういう訳ではないが…主に話があって来た。今、良いか」
「え、あ、うん…ど、どうぞ……っ」
一体何の話があって来たのか、これからされるのはどんな話なのか。
彼から放たれる強い圧に気圧されながらも、仕事の手を止めて先を促し、話を聞く姿勢を取った。
主である彼女が話を聞いてくれると分かった彼も、腰を据えて、離れの間へ来た訳を話し始める。
どうも、此処に来るまでの間に、手空きの時間を埋める為に近場に居た者達と交流を図ろうと話しかけてみたらしい。
彼はまだ本丸に来て一年弱、他の者達に比べて本丸で生活してきた日が浅い。
故に、漸く慣れてきたであろう本丸での生活に、より一層仲間との連携を取る為の交流をと思っての事だったのだろう。
話を振ったのは、何処か似た者同士で妙な親近感を覚える、共に戦好きと数える、同田貫正国だったそうな。
彼もまた、刀剣より生まれし者であり、刀の付喪であった。
その同田貫と話している折に、ふとこの本丸の主が書き物を書くのを得意としている事を聞いた。
興味があり、更に詳しい話を聞いてみると、なんと自ら創作した物語を書き綴っているという話ではないか。
しかも、彼が以前手空きで暇だからと暇潰しに読ませてもらった物語の中には、己の存在も出て来る物があったと言うではないか…!
此れは、自ら物語の著者である本人に直接訊いてみなければ!
そう勇んで、主が書いたという己の、十文字槍の創作話を読ませてくれと直談判しに来た……との事らしい。
部屋へ突進する勢いで来たかと思えば、いきなりそんな話をしてきた彼に、審神者はまた一つ驚いた。
語り種を必要とする彼故に、どうも己の創作話を書いていると知って大変興味を持ったらしく、食い気味で彼女が書いた作品を見せろと迫って来た。
いや、其れにしても近いし、圧が強かろう。
「とっ、取り敢えず落ち着け餅つけ…!あとメチャクソ近いから一旦離れろ!イケメンのドアップ且つ至近距離は色んな意味で心臓に悪過ぎる……っ!!」
慌ててそう返すと、仕方無しにちょっとだけ離れてくれた大千鳥。
しかし、まだパーソナルスペース範囲内にガッツリ居座って動かない。
コレ、たぶん絶対梃子でも動かないヤツだ。
一先ず、少しだけ落ち着きを取り戻してくれたようなのを確認して、「その話は誰情報からだ?」と問うた。
彼は素直に、「同田貫から聞いた」と答えた。
(あんの野郎、嘗て以前に暇潰しで読ませてやった時の事覚えてやがったな…?しかも、其れをサラッと普通に他の刀剣達にもバラしておる……っ。いや、まぁ、実際隠しもしてない事だし、ちょぎ君の時の事もあるから良いのだけれども)
だが、やはり、一個人の趣味でやっている事だから、あまり色んな人に触れ回れるとだなぁ…。
――なんて感じで渋るムーヴを見せかけたら、再びさっきまでの距離に迫られ。
「種が…語り種が足りぬのだ。どんな創作物であろうと、其れが我が槍に纏わる話ならば、俺には必要な種だ。……頼むっ」
…と、乞われてしまった。
そんな必死に乞われちゃあ、断り様も無い。
未だ渋る顔を見せつつも、彼女は一言断りを挟む為に告げた。
「一応前置きしとくけども……俺が書いてるのは、本丸での日常ネタを元ネタにした話ばっかだし、一個人が趣味で書いた創作物だから滅茶苦茶個人的な脚色込みっ込みな空気だし。…何より、刀さに前提で書いてる部分もあるから、夢要素ありまくりの内容だよ……?其れでも、読むの……??」
今一度確認するような口調であった。其れもそうだろう。
幾ら自分の書いた話を読みたいと言われようと、その内容が内容であれば、人には向き不向きがあって、読み手を選ぶ物もあったりするからだ。
彼女は其れを心配して問うているのだ。
だって、読んだ後に、“やっぱり面白くなかった”なんて事を言われては哀しいし、落ち込むからである。
しかし、そんな心配も無用と言わんばかりの勢いで彼は即答を返した。
「無論。語り種が増えるのならば、喜び勇んででも」
「そ、そんなガチで言われちゃ駄目って言いづらいやん〜〜〜ッ!」
あまりの圧に、コレは断れないパターンだと理解した審神者は、一寸ばかり頭を悩ませた。
「う゛ーん……読むのは別に構わん…のだがァ、読み進めるも止めるも自己責任、読了後の事については俺は一切責任を取らんからな?忠告はしたぞ…!後の事はマジで知らんからな!勝手にしろよ!!――っつー訳で、私が書いた十文字君が出て来るネタ数作品…!数は少ないが、このサイトのこのアカウントページに投稿アップしてるので、読みたければ読め!!しかし、俺の居ないとこで読めよ!?仮に、読んだ後の感想は受け付けるが、苦情は受け付けないからな…っ!!良いな!?ハイ、このスマホ暫く貸しといてやるから好きにしろッッッ!!」
「操作の仕方は…、」
「ちょぎ君かたぬさんに訊いて教われ!!俺はそこまで懇切丁寧に教えてやる余裕無いから御免ね!!」
彼みたく面と向かって直接己の書いた話を“読みたい、読ませろください…!”との勢いで熱心に乞われたのは初めてで。
其れ故に照れや気恥ずかしさが勝ったか、半ば乱雑にポポイッと投げて渡されたスマホ。
次いで、「今、絶賛仕事中だから、急ぎの用件じゃなければ後でね!」と言われ、部屋から閉め出されてしまった大千鳥。
怒らせた訳ではないのだろうとは理解するも、何をそう焦った風に返されるのかが分からなかった彼は、首を傾げた。
一先ず、投げて寄越されたスマホ片手に刀剣部屋の連なる母屋へ移動し、
少し本丸内を探し歩き、目的の人物の居場所を聞いて回ると、どうやら彼は今、山猫組の部屋に居るようだと聞き、其処を訪ねてみた。
すると、部屋には同田貫
本来なら、この部屋は“子猫”と称される南泉一文字と
同田貫はというと、偶々長義の処へ資料を借りに来ていて、そのまま少し駄弁っていたのだそう。
用件を伝えると、快く受け入れてくれた彼は、その場で教えてくれると言う。
手に持つスマホを見せると、慣れた手付きで操作の仕方を教えてくれた。
「ところで…君は、どうして主のスマホなんかを持っているのかな?」
「この小さな電子機器…すまほ、と言っていたか、此れで主の書いた創作話とやらが読めるらしい。……だが、俺には扱い方が分からなかった故、分かる者に教えを乞うて来いと言われ、訪ねに来た訳だ」
「成程、其れでだったのか…。それにしても、君も物好きだね。主の書いた話を読みたいだなんて」
「何だと…?」
「彼女が書いた作品の一つを、俺も以前読ませてもらった事があるのだけれどね…。評価としては、まぁまぁ面白い作品だったと思うよ。ホラーであった、という一点を除けばね……」
「“ほらぁ”……とは、一体どんな内容の話なんだ?」
「端的に分かりやすく言って、怖い話の事だ。今の世じゃ、そういった物の類を“ホラー”っつージャンルに纏めて言うんだとさ。けど、彼奴…ガチのホラーは苦手とか言ってなかったか?ホラー物は恐いとか言ってる奴が、何でそんな話書いてんだよ」
「そういう作品を読んでいたら、自分でも書きたくなったんだそうだよ。所謂、“怖い物見たさ”というヤツじゃないかな…?まぁ、本人から直接聞いた話だが、軽いレベルの物なら平気なんだそうだ。だから、時折暇な時間が出来たらホラーゲーム実況とやらを見るんだろうね。……俺はあまり得意ではないけども」
「へぇ…どんだけ
「……して、俺の読みたい話は、どうすれば読めるんだ…?」
スマホの操作の仕方を教わりに来た筈が、話が脱線してしまっているのを感じて、俄に苛立ちを滲ませた風な声音で催促した大千鳥。
その催促に一言、同田貫は「
「えっと…このリンクをポチッとタップすれば、このページが開くから、後はアンタが気になる話から順に好きに読んでいきゃ良い。このページには、主の書いた話が一覧で見れるからよ。話のタイトル近くに、その話の傾向とかジャンルを示すタグが表示されてっから、アンタの名前が表示されてる話を開きゃアンタの事を題材にした話が読めるぜ。操作が分かんなくなりゃ、随時俺かちょぎに聞け」
「いつの間にか俺も一緒に読む流れになってる気がするんだが、気のせいか…?」
「どうせ、アンタも暇してんだろ。此奴を題材にした話は、基本日常ネタか刀さに系のヤツだった筈だから怖かねぇぞ」
「うん、其れならまぁ一緒に読んでも構わないかな」
いつの間にやら、操作の仕方を教えるついでに、横合いから一緒に主の書いた作品を読ませてもらおうという流れになっていた。
その事に関しては別に気にしていないのか、ただ単に己が出て来るという話が読めれば其れだけで良いのか、彼は気にせず、“大千鳥十文字槍”とのタグが表示された作品をタップした。
それから暫くじっくりと時間を掛けて彼女が書いたという作品を読了後、彼は無言で桜を撒き散らした。
横で一緒になって読んでいた長義に至っては、「ホラー以外だとこういうテイストになるのか」だとか、「何で俺への初見にもこういう易しい感じのヤツを読ませてくれなかったのかな」とかいう、純粋な感想と不満を入り混じらせた呟きを零していた。
同田貫の方はというと、ただただ普通に読み物として読んでいた。
己が登場するという作品を全て読み上げた大千鳥は、すっくと立ち上がったかと思うと、彼等二人に一言礼を告げた
再び訪れた離れの間にて、またまたズパンッと思い切り良く左右に開かれた障子戸。
其れまで一人静かに執務に集中していた彼女は、何事かと驚いた途端、後ろを振り向く間も無く背後からいきなり誰ぞに思い切りハグをされた。
訳の分からない審神者は宇宙猫になり、暫しの間フリーズし、固まった。
一寸の間、魂を何処かの空間へ飛ばしていた彼女だったが、我に返ると、今一度己の置かれた状況を顧みた。
一体全体、今、誰に、自分は抱き締められているのだろうか。
恐る恐るといった感じで斜め後ろを振り返ってみる。
すると、見えたのは、少し前に見た白黒半々色をした頭に、赤い迷彩柄の服を着ているらしい一部。
改めて自身を見下ろせば、体の前には、黒色のインナーの袖と一緒に彼の逞しき腕が回されていた。
どうやら、己は、大千鳥十文字槍に抱き付かれているらしい。
取り敢えず、現状は理解したという感じで一息
言葉も無く抱き付いて離れない様子の彼に、とりま拒否反応を見られなかっただけマシかと安易に受け入れたようで。
抱き付き片側の肩へと
刹那、ちらほらと周囲に舞い始める誉桜に、審神者としても作者としても満更でもないと思った。
…が、彼女のその反応に更なる力を込めてムギューッと力一杯抱き締めてきた大千鳥に、流石のギブアップを提示する。
「ちょっ…十文字君、控えめに言って絞まってる……ッ!!流石のこれ以上はぐるぢいッス………!!」
あまりの圧迫感に身の危険を感じたのだろう、むぎゅむぎゅと体を締め付けてくる腕を叩いて訴えた。
其れに対し、少しばかり名残惜しそうにしながらも、一応は訴えを聞いてくれたのか、解放してくれた彼は悄気た様子で謝った。
「すまん…っ、どうにも抑えが利かなかったようだ……」
そう申し訳なさげに謝るも、嬉しさ溢れて止まないのか、辺り一帯桜色一色であった。此れは暫く桜吹雪が降り止む事は無さそうだ。
早々に諦めた審神者は、苦笑を浮かべながらも、彼の気が済むまで好きにさせる事にした。
大千鳥は、身を正して、真っ直ぐに審神者を見つめて告げる。
「これからも、我が語り種を増やしてくれるのならば……この大千鳥十文字槍、何処までも主に付いて行くとしよう」
まるで、誓いの宣言みたいな台詞であった。
「まぁ、俺なんかが書いた創作話で良いのなら……?また今度、十文字君を題材にしたお話、書いてあげるね」
「嗚呼、楽しみにしている」
「いやァー、そんな楽しみにする程のもんでもないけどねぇ……っ」
「せっかくの機会だ。同じ真田の者として、泛塵の奴にも見せてきて良いだろうか…?」
「えっ、泛塵君にも見せるの?」
「主が書き綴ってくれたこの物語も、俺がこの本丸に顕現してからの語り種となろう。まだ本丸に来たばかりの泛塵への良き話の種になる」
「うん……まぁ、そういう事なら、まいっかな」
「感謝する」
執筆日:2022.01.21