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 雪のよく降る日の事であった。
 寒さを気にせず、審神者は伴を一人付けて、外出をしていた。
 最初こそ共に並んで歩いていたのだが、途中から数歩遅れて歩く審神者の事が気掛かりになったのか、伴の男が振り返り様に声をかける。
「何をしている?早く来い。今日は雪がよく降る、見失わぬようしっかり付いて来ねば迷う事になるぞ。雪は舐めぬ方が良い。自然の恐ろしさこそ、怖いものは無いからな」
「うん。其れは、まぁ分かってるのだけれどね〜……」
 どうも煮え切らない返事だ。気になった彼は問う。
「何だ、言いたい事があるならはっきり言え。……それとも何か、この気候故、体調でも崩したか?ならば、くに言え。体調が優れぬ主に雪道を歩かせる訳にはいかぬ、俺が背に負ぶってやろう。ほら、今屈んでやる故に…背に掴まれ」
「いや、そういう訳では無かったのだけど……んふふっ、でも、有難う。気遣ってくれて純粋に嬉しかったわ。私は大丈夫よ。変に煮え切らない返事を返したのがいけなかったのよね。…えっとね、ふと視線を下の方へ移した時に気付いたのだけど……ほら、見てみて」
 唐突に地面の方を指差して見せた彼女に促され、下の地面を見つめてみる。
視界には、白銀の絨毯がふわり、ざくり、降り積もっていた。
 その美しき地面に出来た凸凹を見つめて、審神者は口を開く。
「君が歩いた跡が、大きな足跡がね、轍みたいに続いてるの。んで、私は君と比べてちっちゃいでしょう?だから……っへへへ、子供染みた真似してるなぁって思ったんだけど、何か大きな君が歩いて付けた足跡を辿るように歩くと、私の足のサイズすっぽりな大きさだなぁ〜って。ただ其れだけの話でした……!んふっ、御免ね、変に子供みたいな事して遊んじゃって…!これ以上帰るの遅くなっちゃったら、本丸で待ってる子達心配しちゃうから、やめるよ」
 少々気恥ずかしそうにはにかんで答えた審神者は、素直に彼の隣へ並ぼうと足を早めた。しかし、そう離れていない距離ですぐに背後に追い付いてきた彼女に対し、彼は表情を和らげて口を開く。
「……いや、別に其れくらいの戯れならば、玉響たまゆらの事と許してくれるだろう。但し、雪が降っているという事は、其れだけ寒いという事だ。程々にしておけよ?」
 仄かに口角を上げて笑った彼が何処となく嬉しそうにするから、審神者も嬉しくなって、二人して訳も無くにこにこと微笑み合った。
 そうして、ゆっくりと帰り道を歩いていれば、あまりに予定の帰宅時間より遅れていたからだろう、心配になった泛塵が蛇の目の傘を差して迎えに来てくれたのだった。
 結果、二人揃ってちょっぴり叱られる事となるのである。
「全く……っ、仲睦まじき事は良いが、帰りが遅くなるならば、一報の式なり鳩なり連絡を入れてくれ!心配になるから…っ」
「すまん……」
「変に心配掛けちゃって御免ね…っ。お土産に回転焼買ってきたから、帰ったら皆で食べようね」
「我が主は仕方のない人だな…。風邪を引かぬ内に早く帰ろう。寒い中に居て、体がすっかり冷えているだろう?厚めの上着を持ってきてやったから、此れも羽織ると温かいぞ」
「泛塵、傘は俺が持とう」
「嗚呼、有難う大千鳥。助かる」
 残りの帰り道は、一番大きな彼を真ん中に挟んで、仲良くくっ付いて帰ったのだった。


執筆日:2022.02.03
公開日:2022.02.05