彼女には、ちょっと悪い癖があった。
それは、御飯時にTVが点いていると、ついつい見とれがちになってしまう事だった。
ただ見とれてしまうだけならまだ良いのだが、彼女の場合、御飯を食べる手も止まってしまうのであった。
そうなると、必然的に御飯を食べ終える時間が遅くなり、一人だけ外れて食べ上げる事になる。
それ=片付け係がなかなか食器を片付けられない上に、まとめて洗えないという事になるのだ。
解ってはいるのだろうが、仕事中はドタバタで早く済まさなければならず、あまりゆっくり食事を取れない事による反動か、家ではついゆっくりのんびり食べてしまいがちになるのだと言う。
気持ちは解らなくもないが、いつも食器を片付ける係である彼としては、少々頂けない癖であった。
しかし、仕事から心身疲れて帰ってくる身に、説教地味るのもどうかと思うし、出来る事ならそんな小さな事で一々注意したくはなかった。
だが、あまりにも度が過ぎ、目に余るようなら、仕方がないのだろうか。
此処は、腹を括って心を鬼にして、一つ物申すとしようか。
心で溜め息を吐いた燭台切は、右手に箸を、左手には茶碗を持ったままTVに見とれて笑い声を上げる彼女の隣に腰を据えた。
そして、控え目にだが、眉間に皺を寄せて、彼女の肩を突ついた。
「主…、ちょっと良いかな…?」
『あっはははは…っ!は、ぁ…?あれ…?どしたの?光忠。何か用…?』
「ごめんね、主…。楽しんでるところ悪いんだけど…、食べ始めてからそろそろ一時間近く経とうとしてるから、早く食べ上げてくれないかな…?じゃないと、いつまで経っても片付けられないから…っ。」
『あぁ…っ、ごめんね!つい夢中になっちゃって…っ。』
「うん…っ、その気持ちは解るよ?今日の番組は面白いからね…っ。でも、それはそれで、主にはさっさと食べてもらいたいなぁ…って。でないと、御飯も冷めきっちゃってて美味しくなくなっちゃうでしょ…?」
『うん、そうだね〜…っ。ぷっ、あっははは…!何アレ、超ウケるんですけどー!!』
「っ………。」
伝えたい事は伝えたし、一応伝わりはしたのだろうが…如何せん、彼女の視線はTVに向いたままで、効果は薄い様だった。
かと言って、あまり強く言い過ぎるのも良くないかなと、あまり傷付けないような言葉を選んで言ったつもりだったのだが、やはり、本当の意味では伝わっていなかったのだろう。
彼女の視線は、未だTVの方へと釘付けのままだ。
それに、少しだけモヤッとした彼は、先程とは打って変わって、強めの行動に移した。
「ちょっと良いかな、主?」
『はははは…っ!うん、なぁに〜?みつ、はぐ…っ!?』
「手、止まってる。僕、さっきも言ったよね…?御飯早く食べてって。」
『んむぐ…っ!それは解ってるが、急に口ん中入れてこないでよ…っ。強引かっ。』
「そうでもしないと、君、箸止まったままだったでしょ…?だから、僕が食べさせてあげたの。」
『だからって、お口あーんされるのは些か違うのでは…っ。』
「じゃあ、たまには、僕の方も見てよ。」
『え……っ?』
まるで、今言われた意味が解らないとでも言うような態度を取った彼女に、少しイラッとしてしまった燭台切は、少し強引に彼女の肩に手を伸ばした。
突如として強い力で身を引かれた彼女は、バランスを保てずに、彼へと片肩をぶつける形で寄りかかる。
訳が解らない彼に、彼女は非難めいた目を向けた。
『いった…っ!ちょっと、危ないじゃん。私、まだ箸持ったまんま…っ!』
「君が悪いんだよ。」
『はぁ…?何なのさっきから…っ、意味解んな…っ、』
「君がずっとTVの方ばかり見てるから、妬いちゃったじゃないか。」
『は……、ぃ…?』
呆気に取られたように、ポカンと口を開けたままになる彼女。
そんな様子の彼女にすら、今の彼には燗に障るのであった。
「ずっとTVばっかり見てないで、少しは僕の方も見てよ。じゃないと、あーんするだけじゃなくて、キスしてその口塞いじゃうよ?」
『な…っ、ん……っ!?』
「………なんてね。」
顔を真っ赤に染めたところで、怒りも冷めたのか、相変わらず可愛い反応をしてくれる彼女に気を許し、頭に手をぽんっ、と置いたところで立ち上がる。
「とにかく、僕の言いたい事は伝えたから。早く食べ上げてね。」
『へ…っ!?え、な…っ!?』
「それとも…、」
台所へ向かう途中で、ぴたりと足を止めると、くるりと上半身だけ振り返った。
「お仕置きに、僕からのキス、して欲しかった…?」
『ば……ッ!?んな訳ないじゃん…ッ!!頭沸いてんじゃないの!?』
「ははは…っ、冗談だよ。」
すっかり彼のペースに乱されてしまった彼女は、今やTVどころではなくなっていた。
照れ隠しに、食べかけだった御飯をぱくぱくと口の中に押し込んでいくが、その味は解らなくなっている事だろう。
そんな彼女の様子に気を良くした彼は、クスリと笑んで、ご機嫌な様子で鼻歌を口ずさみながら台所へと歩いていった。
偶々、廊下ですれ違ってしまった長谷部は、疑問符を頭に浮かべて、去っていく燭台切の背中を見た。
「どうしたんだ、彼奴は…?やけに機嫌が良いが、何か変な物でも食べたか…?」
幾らなんでもそれは無いのでは…?と思わずにはいられない台詞であった。
その後、すぐに居間へと向かってみれば、顔を真っ赤にさせて御飯を口に放り込む主を目撃した。
犯人は燭台切であるとすぐに気付いた彼は、即座に台所という名の厨へ、本体を手に乗り込むのだった。
「燭台切、貴様ァーッ!主に何て粗相をやらかしたんだァーッッッ!!」
「えっ!?ちょ、長谷部君っ、どうしたのいきなり…っ!?っていうか、刀持ち出さないで!此処厨だよ!?危ないから仕舞って…っ!!」
「問答無用!!圧し斬る…ッッッ!!」
「わ゙あーッ!!ストップストップーッッッ!!」
執筆日:2018.02.26