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継承を食んだ果てに出でし結晶



※鶴丸掌編『報復』の続編となるお話になります。


 本丸への襲撃を受けたものの、運良く全ての刀剣達が待機していた為か、総力を充てる事が叶い、結果本丸は壊滅を免れた。しかし、その分の損失は大きい。
 まず、本丸の建物が大いに損害を受け、建て直すにしても、座標を移す関係もあり、いっその事新しい本丸へとまるっと引っ越した方が早いという事であった。
 次に、負傷した刀剣達への手入れである。
幸いにも、正式に所属していた刀剣男士達は皆折れずに済んだが、其れでも手傷を負った者達で溢れ、至るところで血の跡が見られた。
 資材を貯蓄するタイプの本丸であった事も功を奏し、手入れに必要な資材は間に合った。お陰様で、大量の資材が消費で消えたが、其れはまた遠征にでも出て稼げば良いだけであろう。
 問題は、審神者にあった。
この本丸の主は、此度の襲撃を受けた際に、敵の攻撃をじかに受け、右目を潰されたのだ。よって、彼女は右目の視力を失った。
 彼女の刀達は、皆揃って守り切れなかった事を悔やんだ。
嫁入り前の娘であったのにも関わらず、審神者になったが為に戦に巻き込まれ、敵より一撃を受け、手傷を負った。ただの切り傷程度ならば良かったのだ。
 しかし、彼女が敵の一撃を受けたのは顔面で、其れも右目の真上だった。
結果的に、彼女の右目は潰れ、片目の視野を失う。
 だが、彼女本人はあっけらかんとしていた。
右目は確かに失ったし、使い物にならなくなった上に、もう二度と見える事は無いだろうが、命は助かったのだから……と。
 そう、彼女は笑って言ったのだ。
皆が満身創痍で傷だらけの中、己も血味泥に染まりつつも、皆が無事生きていたのならば其れだけで良いと。
 なんと立派な人なのだろうか。
傷物になっては、嫁の貰い手も無くなったと悔いるところであろうに……。
 この審神者は、片方の視力を失ったとしても立ち止まらず、前へ進み続ける意志を見せたのだ。
本丸の皆は揃って頷き合い、これからも彼女の為に、歴史を守る為に戦い続けようと志を一つにした。


 本丸の片付けが粗方済み、応急手当てからきちんとした処置を受けた審神者が、政府管轄の医療機関より帰還して後の事だった。
 二二○五年の医療技術で、失った右目の代わりとなる義眼手術を受ければ、失った視野は人工的に取り戻せるとあったのだが……審神者は此れを断った。
人工的な目を手に入れたとて、其れはもう己の目では無いからとの事だそうな。
故に、審神者は、処置として潰された右目の目蓋を縫い付ける手術のみを受け、あとは専用の眼帯を巻き付けるだけに留め、すんなり帰ってきたらしかった。
 話を聞いた者は、不思議に思ってこう言った。
「手術、受ければ良かったのに……。お金の事なら、政府の方が全額補償してくれるから心配無かったし。完全に元に戻らなくとも、また見えるようになったかもしれなかったんだから…」
「良いんだよ、此れで!そりゃあ、まだ片方だけの視界には慣れなくて、歩くのにも四苦八苦してるけれどもね。私は今の状態でも満足してるから、そう思ってくれる気持ちだけで十分よ。有難う、蛍」
「まぁ、主さん本人が良いんなら、俺もこれ以上とやかく言ったりはしないよ」
「でも…本当に、片目だけで済んで良かったよね……っ。何事も命あってこそだもの。無事にとは行かなかったけれど、命だけは助かって本当に安心したよ」
 共に話を聞いていた燭台切が、そう切り出した。
その場に居た皆が揃って頷く。
 そんな様に、彼女は小さく笑って一つ頷くと、胸元に手を押し当ててしみじみと呟いた。
「ふふっ……其れも此れも、のお陰あっての事だね…」
「彼、って……誰の事だい?」
「同田貫の事だよ」
「俺ェ?」
「正確には、この同田貫の事なんだけれどね……」
 そう言って、彼女は懐より或る包みを取り出した。
小振りのサイズの包みであった。彼女は、其れを丁重に開いて見せた。
 中に包まれていたのは、とある折れた刀の一振りであった。
刀身は真ん中からボッキリと折れてしまったのか、綺麗なくらいに真っ二つに折れてしまっており、つばの部分等は保管の際に敢えて纏めて分解したのか、なかごの部分がそのままに見えていた。
外された部品は丁寧にきちんと別の袋に入れられ、保管されていた。
 広げられた包みの中を覗き込んできた者が、口を開いて問う。
「主、此れは……否、彼はどうしたの?」
「ウチは、皆一振りだけしか顕現を許してなかったんじゃなかったっけ…?」
「その通りだよ。彼は、正式にウチに登録・所属してる子じゃあなかった」
「じゃあ、一体どういう………、」
「彼は…たぶん、蔵で管理・保管していた、連結用に残していた分の一振りなんじゃないかと思う……」
「蔵に居た奴、だと……?何で、主からの励起も受けてない刀が、勝手に顕現してんだよ?」
「其れは、恐らく、今回の襲撃の件が関わってるんだと思うよ」
 審神者は、神妙な顔をして、話を続けた。
「私がこの傷を負って倒れていた時、何処で発見されたか、覚えてる……?」
「確か、第一倉庫って名称で管理してる、蔵の真ん前だったよなぁ……?」
「そう…。実は、私、其処で敵短刀の苦無に一撃を受けて倒れ込んだ時、あわやもう駄目かと諦めて死を覚悟してたんだよ。その時だよ、一振りの同田貫が突然目の前の敵へ躍り掛かってきたのは……!ウチの同田貫である正国は、既に極めてる身だったから、すぐに同位体の別個体だって分かった…。もしや、他本丸から派遣された応援部隊の子なのかと思ったよ。けれど、周囲の状況を見て、すぐに違うと気付いた。おまけに、太刀筋が全く洗練されてない、荒削りのものだったから……もしや、彼は蔵に保管してた筈の一振りなんじゃないか…って。だって、纏ってる霊気の質が私のものだったから…っ。自分の霊力を介して顕現した子を、他と見紛う事なんて早々無いよ……。この本丸に存在する刀は、全て一度私の霊力を介して顕現をしてる……だから、きっと間違いないと思う。…其れに、彼の太刀筋、嘗て見てきたレベル壱の頃の正国にそっくりだったんだもの。故に、彼は私が励起したんじゃない、私の危機を察知して自ら顕現した個体だって分かった。……其れ故、長くは持たなかった訳なんだけれども…………っ」
 審神者は、其処で、その時の事を思い出したのか、涙ぐみ、肩を震わせて眼帯で覆った側の目元へ触れて語る。
「私は一撃を受けるだけで済んだけれど、皆が駆け付けてくれるまでの間の残りは全て彼が引き受けて庇ってくれたから……結果、私は右目を失うだけで命を救われた。…だけど、薬研と前田が駆け付けてくれる寸でに破壊されて、彼は折れてしまったんだ……。目の前で、じかにこの目で折れる瞬間を見た…。嗚呼、刀剣破壊とは、こうして起きているんだなってまざまざと突き付けられたようで、戦慄したさ……。彼は、立派に戦ったよ。最期まで諦めずに刀を振るい続けて、戦ってくれた…。彼も、大事な本丸の一員だよ。本当に格好良かった。散り際さえも天晴れと賞賛出来るくらいに。彼が居てくれたお陰で、今、私は生きてる……だから、心の底から感謝してる。危機に駆け付けてくれて、有難う…って」
「そうだったのか……」
 涙ながらに語ってくれた彼女の肩を持ち、相槌を打った正国は、感慨深そうに折れた自身の片割れを見た。
 傍らに寄り添ってくれていた燭台切が、そっとティッシュ箱を差し出す。
審神者は其れを受け取り、頬へ伝っていた涙を拭った。
 其処で、黙って話を聞いていた内の一人である加州が口を開いて疑問を呈した。
「でも、そんな事って有り得るの……?」
「例外が無い、とは言い切れないよ…。現に、過去に何例か似たような事例が記録されているからね。おおやけに公開されている情報ではないから、此れは一部の者しか知らない機密事項の一つだけれど」
 答えを返したのは、元監査官を務めていた長義であった。
 彼を含め、本丸には幾振りか元政府所属の刀達が居た。
彼等は、本丸所属となるまでは政府に居た為、内部事情などに詳しいのだ。
 故であろう、加州はもう一人の元監査官殿へ話を振った。
「ねぇ、則宗……今の話本当?」
「本当さ…。まぁ、あまり知られたくはない話という事で、内密にされてきた話ではあるがな」
 部屋の隅で柱に凭れ掛かり、黙って話に耳を傾けていた一文字のご隠居が、腰を上げながら答える。
「蔵に保管されていた筈の刀が自主的に顕現したのではないか、という点も、恐らく事実だろう。実際に、襲撃後、主の指示で蔵内で保管していた分の刀剣数と記録を照らし合わせたら、最後に記録していた数より減っていた。其れも、顕現したんであろう同田貫の分だけそっくりな」
「確認作業に僕も付き合わせて頂いたのだけれどねぇ、面白い事が分かったよ。なんと、無くなっていたのは、蔵で保管していた同田貫の刀全てだったんだ…!つまり、主を守る為に顕現して折れた彼は、連結用に残していた分全ての集合体だったという訳なのだよ……っ!!でなければ、敵からの数撃を受けただけであっという間に折れていた事だろうからねぇ。彼は其れを初めから理解していたんだ。だから、その場に在った同位体全てを習合させて、基礎値を底上げし、力を増幅させてから顕現を果たしたんだ。自ら顕現を果たしている事も加味して、彼は素晴らしい個体だったと言える…!恐らく、元々の集合体としての記憶の何処かに、主を守るという意志の堅い個体の記憶が存在したんだろう。此度の顕現には、其れが起因した事によるものだと考えられる。……いやはや、まこと、刀剣男士という存在は面白いね!顕現一つにとっても、こんなにも沢山の事例が存在しているのだから…!嗚呼、彼をじかに研究出来なかったのが惜しまれるねぇ……」
「……先生、もうそこら辺に留めとけ…。皆引いてるし、場の雰囲気白けてんぞ」
「おや。此れは失敬」
 鶴の一声ならぬ肥前の制止の声により、オホンッと咳払いをして下がった南海に代わり、再び口を開いた長義が話し出す。
「兎に角、だ……この一件については、俺達元特命調査部隊の者が預かろう。政府への報告等についても、此方に任せてもらいたい。…嗚呼、補償についてだとか、諸々の手続きについてもしっかりしとくから安心したまえ。ガッポリ政府から払って貰えるように申請しておくから」
「うわっ、良い笑顔で言いよるぞ此奴……!おっそろしい…!!」
「一先ず、その同田貫への処分についてだが……主の一存に任せるとしよう。彼は、最早彼女の刀の一振りみたいなものだからな」
 則宗のノリ良きツッコミは見事スルーされ、水心子が真面目な調子でそう主を見据えて言った。
隣に座る清麿も異存は無いと言う風に頷き、穏やかな笑みを浮かべている。
「どうぞ、主が思うままにお決めくださいな…」
「彼を弔った後、鋼へ戻し新たな刀を打つ為の資材とするか、戒めとして肌身離さず持っているか……好きにするが良い。われは、主の意思を尊重しよう」
 慶長熊本組の二人も、天保江戸組の二人に賛同するように声を発した。
 傍らを守るように付いていた初期刀を含めた刀達の視線が、主へと集まる。
その視線を受け、ひたと真っ直ぐと彼等を見つめ返した審神者は告ぐ。
「彼を丁重に弔った後の事につきましては……私は、正国へ預けたいと思います」
「俺に一任するって事か……?」
「駄目、かな……?私個人の思いとしては、彼も我が本丸の一部として共に戦ってくれた刀だから…出来たら、同じ同田貫である正国へ遺志を継がせたいと思ったの……。もし駄目と言うなら、別の案を取るから、無理に受けてくれなくても良いよ」
「いや……そういう事なら、謹んで承る」
「有難う、正国。お前が相手なら、きっと彼も安心すると思う…」
 経てして、此度の襲撃により唯一折れた刀とする同田貫の一振りは、本丸を挙げて丁重に弔われ、その後、審神者の手より丁重に正国の元へと預けられた。
 そして、審神者の命を受けた、当該本丸の刀であった正国は、折れた同田貫を内に取り込む為、喰った・・・。文字通りの意味である。
彼は、まことの意味で、審神者の命を受けるまま、折れた同田貫を喰った・・・・・・・・・・のだ。
 本刃曰く、本当の意味で折れた同田貫を取り込むには、この方法が手っ取り早いからと言っていた。
集合体という、独特の顕現を果たしているが故に成せる事だったのだろう。
 無事、折れた同田貫は彼自身と融合、継承の儀は果たされた。


 後日、正国は近侍の任を受け、日課の鍛刀を行う為に、最低限の資材を炉へ入れ、依頼札を鍛刀の式神へと渡す。
そうして鍛刀が開始し、表示された鍛刀時間を確認したら、驚く事態が起きた。
 なんと、正規ならきちんと鍛刀時間が表示される筈の画面に、バグが発生したかのような文字化けが起こっていたのだ。
緊急で調査を行ったものの、結果は異常無しとの判断で。
掲示板その物自体に不具合は見られぬという事であった。
 なら、一体何が原因なのだろうか……?
分からぬが、一先ず、今鍛刀している刀が打ち上がるまでは様子見という結論に至った。再調査は其れからとの事。
 正国は、炉に入れた資材はALL50の短刀分だけで、いつも通りの作業しか行っていないと報告している。謎は深まるばかりである。
 一先ず、鍛刀が終了する合図である、炉の中の火が消えるタイミングまで待つ事にした。
鍛刀の式神も大いに焦り、冷や汗を流しながら困惑顔を張り付けていたが、彼等も彼等で承った仕事は最後までこなす義務がある。
 よって、皆揃って困惑しながらも、打ち上がるまでの時を見守りつつ待ったのである。
 本来、短刀レシピの資材を投入して打ち上がるまでの時間は、通常であれば『00:20:00』や『00:30:00』といった時間が表示されるところなのだが……。
実際に表示された時間は、『蜷檎伐雋ォ豁◆蝗ス』と文字化けしていて不明だった為、予測は不可能であった。
 だが、結果として、今回打った刀は、凡そ一時間後に打ち上がるのだった。
同田貫正国が打たれた時の、三分の一の時間であった。


 打ち上がってすぐ、審神者は出来上がった刀を検分した。
出来上がった刀は、投入した資材に相応しく、小振りなサイズの物だった。
 しかし、不思議な事に、何処かで見た覚えのある刀と瓜二つな程似ていたのだ。違う点と言えば、サイズくらいである。
「此れ……どっからどう見てもよく見た事のある刃紋した刀なんだけど…どうなんだろう?」
「短刀…ぐらいにしか見えねぇよなァ……もしくは、小刀ってところか?」
 共に覗き込んでいた正国が言う。
「うーん……兎にも角にも、一度顕現させてみない限り詳しい事は何も分かんないから……励起出来るかも不明だけども、ちょっと慎重にやってみるよ」
「主、気を付けてね…?危ないとか、無理そうだと思ったら、即本体から手を離す事……!良いね!?」
「分かってる……っ。もし、霊力解放のし過ぎとかでぶっ倒れる事があったら、その時は介抱やら諸々の面倒頼んだ…!」
「任せな、大将。そんときゃ、俺が責任持って看護してやるさ」
「僕も付いておりますから、ご安心ください主君……!何か起こった際は、我々が何とかしてみせます…!」
「よし……っ、じゃあ、行くよ……!」
 覚悟を決めた審神者が、いざ、打ち上がったばかりの刀へと手を翳す。
付喪の宿る刀を励起させる為、己の内に宿る霊気を込めるのだ。
 静かに、慎重に、神経を研ぎ澄ました審神者が、水面下で揺蕩たゆたう意識を感じ取り、繋がれた糸を手繰り寄せるように集中して力を込めた。
途端、鍛刀場に神聖なる光が凄まじい勢いで弾ける。
 あまりの眩しさに、その場に居た誰もが視界を覆い庇った時だった。
審神者の意識下で、水面に桜の花弁が落ちる感覚を拾った。
 刀剣男士の顕現が成功した証であった。審神者が、閉じていたその目を開く。
同時に、蕾が花開くように、顕現を果たした刀剣男士も眼を開いた。
 そして、口を開き、顕現して初めての口上を述べる。
「――俺は、同田貫正国によって打たれた、名も無き同田貫の端くれだ。短刀みてぇななりだが、役には立つ。護身用の懐刀にでも雑用にでも、好きに使ってくれ」
 顕現したのは、小さな小さな姿をした、同田貫そのものであった。
姿格好も、まんま特時代の正国そっくりである。但し、その身の丈は、凡そ短刀程でしかない。本体となる小刀に相応しきサイズ感であった。
 小さな小さな刀は、強く鋭き眼差しを我が主たる彼女へ向けて口を開く。
「あんたが……俺の主だよなぁ?」
「……うん、まぁ…一応、そういう事になる、ねぇ……っ?」
「そっか…あんたが主なんだな。じゃあ、俺はあんたを守りゃあ良いんだな。分かった。見た目は小せぇけど、この命尽きる時まで、俺はあんたを守る為に役目を果たすぜ。其れが、俺の顕現した使命だからな」
「ひぇっ……今、使命って言った?この子…っ」
「間違いなく、そう言ったな……」
「えっ、何で?刀剣男士の使命は、悪まで“歴史を守る事”だよねぇ……?其れが、どうして“審神者を守る事”にすり替わってるの…?」
「そりゃあ、まぁ…そう願いを受けて顕現したからっつーか……そう在るべくして顕現したから、としか言い様がねぇよ……っ。確かに、大前提として、“歴史を守る事”が第一さ。…けど、俺ん中にある根底が、“最も優先すべきは主だ”って言ってんだ。其れを違う事は出来ねぇよ」
「ほうほう、成程……。此れは、もしや…先の襲撃で折れた彼を取り込んだ影響で生まれた奇跡、というヤツではないかね?実に興味深い事例だ…!是非にとも、一度僕の研究対象として隅々に至るまで調べさせてくれないかい……っ!?」
「うぉわっ!!アンタ、いつの間に湧いて出て来たんだよ!?」
「というか、顕現したばかりの幼気いたいけな小さな子に、そんな如何にも危険そうな事許可出来る訳ないじゃないですかあっ!!」
「危険だとは心外だね。僕は此れでもちゃんと弁えているつもりさ。だから、彼が危険な目に合う事は無いから、安心して研究させてくれたまえ!」
「だが断る…ッ!!」
「オイ、この人の保護者何処行ったァー!!野放しになってんぞぉ!!監視はどうなってんの!?早く回収に来いィーッッッ!!」
「南海先生…ッ!!頼むから仕事増やさねぇでくれ!頼むからァ!!」
「すまざったぁ!!ちっくとわし等が目を離した隙に居らんのぉなってしもうて…っ!」
 突然降って湧いたかのように現れた南海に、一様が揃って驚きを露わにする。
次いで、いきなり飛んでもない発言をかました彼より庇わんとして、彼女は顕現したばかりの小さな刀を抱き締め、己側へと引き寄せた。
 幼き姿をした小刀は、首を傾げて口を開く。
「どうしたぁ、主?其奴は敵じゃねぇんだろ?」
「いや、まぁ、確かに敵ではないし、仲間なのは合ってるんだけど……何ていうかな、ちょっと今は危ない人になってるから近付かない方が良いというか…端的に言ってやばいというか……っ」
「斬って収まるなら、斬ってやろうか?」
「斬っちゃ駄目ぇ……っ!!」
 事態は脇道に逸れかかったが、何とか軌道修正し、事無きを得る。
取り敢えず、南海は保護者勢たる代表の肥前と陸奥守に回収されていった。
 そして、此度、当該本丸に新たに顕現した刀は、時の政府未登録の刀剣男士だった事が判明したのであった。
正式な名称無き無銘の刀として処理する事になり、一先ず呼び名に困るとあって、審神者より、“小田貫マサ”との名前が付けられた。
 鍛刀を行った、正国の名より頂いてもじったものである。
以降、彼は、本丸の皆より“チビ助”やら“子狸”やら“マサ”との愛称で呼ばれる事となる。
 顕現理由から、彼は審神者の懐刀という位置付けで顕現を許された。
類稀無き処遇であった。


執筆日:2022.02.12