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Sensitive Sunshine



 不意に、ぺたりと彼女の頬っぺたへ触れてきた陸奥守は呟いた。
「随分とひやっこいのぉ〜」
 その距離は、どうにも気持ち近めである。
彼女は敢えて其れには触れずに言葉を返す。
「こうも気温寒いと、顔も冷たくなってさむぅなるんよ」
 そう言いつつ、首を竦めてネックウォーマーに口許までうずまる審神者。
さっきまで寒い場所に居たらしい彼女の鼻頭は、赤く染まっていた。
端から見て、その光景は何とも愛らしいが、当人にしてみればまこと不本意であり、嬉しくも何とも無い事になるであろう。
 さて、ならば代わりに何と返すべきか。陸奥守は、一寸ばかり考えた。
冬でも何でかお手てがポカポカしているらしい彼は、良い事を思い付いたと閃き顔で彼女に提案する。
「寒がりな主があったまれるよう、わしが温めちゃお…!」
 思い付いたが吉日を如実に行動に移すが如く、言うが否や、彼女の手を引っ張って火鉢と炬燵の揃う暖かい部屋へと移動する。
部屋へ連れ込むなり、彼は彼女に綿入りの半纏を着せ、炬燵にinさせる。
更にその背後から抱き竦めるようにくっ付いて、二人羽織するみたく掻巻かいまきくるんできた。火鉢も側に寄せられており、さっきまでとは大違いにぬくい。
 ついでに、もっとあっためてやろうと、冷えた彼女の頬っぺたを温かい自身の両手で包み込み、もきゅもきゅと手揉みいじりながら温めてやった。
「主の頬っぺたはやりこくて柔らかくて触り心地がえいのぉ〜!白くてすべすべもちもち肌じゃ…っ!おまさんは、まっこと女子おなごやったんじゃにゃあ〜……。女子は体大事にせないといかんぜよ…?冷やしたら体に障ってしまうかもしれんきね。ほいやき、ころうどこんなにひやっこくなるまで冷えちゅうおまさんの事を、わしが温めちゃる。……お願いやき、今だけはわしから逃げんとってや」
 そんな風に甘ったるく切なげに言われちゃあ、断れる訳も無い。
気恥ずかしくも嬉しいけれど、やはり何だか色々と擽ったくて、むず痒くなったみたく落ち着かなくて。遣り場の無い感情を持て余したように溜め息と吐き出して身を固く縮こまらせる。
 しかし、感情を隠しているようで、その実バレバレで、髪の隙間から見え隠れする耳から首筋が真っ赤で、何とも意地らしいかった
 あんまりに可愛くて堪らない反応を返す彼女に、堪らずにんまり笑みを零した陸奥守は、無防備な背後――ネックウォーマーとの隙間から覗く白いうなじに、ちゅっ、と柔く己の唇を落とした。
 刹那、猫が驚き仰け反るみたく大袈裟に跳ね上がった審神者。
口からも同様に、子猫のような愛らしい鳴き声が飛び出て来たような……。
 己の驚き様に自分で吃驚している様子の彼女は、下手な言い訳を口にしながら恥ずかしさで真っ赤になる顔を必死に隠そうと誤魔化した。
いや、もう無理があるだろう。
 堪え切れずに逃げ腰になって後退しかけていた彼女の身を、元の自身の懐の位置にまで戻し、思い切りぎゅっと抱き付く。
「すまん……今のは我慢せぇ言われても無理やったちや…っ。ハグするだけに堪えたわし、頑張ったち褒めてくれてもえいんよ……?――まぁ、頑張って自制しちゅうご褒美に、口付け一つくらいは…許されてもえいよにゃあ?」
 反則なのはお前だと言いたげな顔をして、わなわなと震わせた彼女だが、しかし、拒否権は有るようで無いものだ。
 二人きりになった途端、雄みの増した大人の色気漂う男の顔に変化した彼に、逃げ場の無い至近距離で囲うように迫られて、此れで逃げおおせれるものなら逆に見てみたい話であると思った。
 結果的に、彼女は彼の要望を断れずに、純真無垢な乙女の如く羞恥に打ち震えながら彼からの口付けを受けるのだった。
本心を語って、決して嫌ではないというのが、また彼に付け込まれる隙なのだろう……きっと。


執筆日:2022.02.14
Title by:またね