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江の沼の入口筆頭リーダーに甘やかされる



※所謂“なんちゃって方言”を含むお話となっております。
※方言については、一応、翻訳サイトを使用した上で書いております(初出時→大分弁で推敲チェック、正しくは→北九州弁だったと気付き修正致しました)。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。


 その日は、早めに風呂を済ませた日だった。
だからなのか、季節柄夜が更けるにつれて気温が下がっていき、湯冷めしないようにと着込んでいたにも関わらずくしゃみをしてしまった。
「っくしゃん!」といった風のくしゃみである。
場所は厨であったが、寝る前だったからと既に夜着へ着替えた後だったのが悪かったか。
 鼻を啜っていたらば、通りすがりの者に声をかけられた。
「大丈夫か?」
「あぁ、豊前君…大丈夫よ。ちょっとくしゃみしちゃっただけだから。今日は早めにお風呂入ってたからかしらねぇ……湯冷めでもしたかな?」
「そいつはいけんやんかーっ。ほら、俺の羽織っちょった上着も貸してやるけ、此れ着ちょけ!」
「えっ、いや良いよ。あとは部屋戻って寝るだけだし…」
「なら、尚更やろ?主の部屋は離れにるんやけ、俺等と違うて部屋戻るまで距離あるやろ。其れまでで今以上に体冷やしてしもうたら風邪引いてしまうかもしれんけ、遠慮せず使うちょけって!」
「お、おおぅ…有難う……?」
 思わぬ気遣いを受け、自身も夜着の上着代わりに使っていたんだろう内番着のジャージの上を肩に羽織らされる。肩に羽織る物が無くなっては今度は己が寒くなるだろう、其れは良いのかと問えば、「俺は、主よりも部屋までの距離近いし、走って戻りゃあすぐやけ問題無ぇちゃ」と返された。
寝る直前の激しい運動は宜しくないのでは……と思わなくもなかったが、敢えて口にはせず。代わりに別の言葉を口にした。
「上着、明日の朝に返すね。……あっ、其れと、明日丁度豊前君鍛刀当番入ってるから、ついでに近侍もお願いしちゃって良いかな?」
「おっ?滅多に無ぇ機会じゃねーの?そっちさえ良けりゃあ、喜んで遣らせてもらうぜ!」
「よっしゃ、んじゃ明日の近侍は豊前君に決定ね。誰に頼もうか迷ってたところだったから、良かった。明日は宜しくお願いしやすね!」
「任せちょけって!」
「ふふっ……頼もしくて何より!そいじゃ、もう時間も時間だから、私寝るね〜。おやすみ豊前君」
「おうっ、おやすみ〜!ええ夢見なちゃ」
 上着を借りた流れで、明日鍛刀当番だったからと、ついでに近侍も兼ねてもらおうとゆるっと夜の寝る前にお願いしたにも関わらず、彼は快諾の返事を返してくれた。
 そのままその場は別れ、翌日に至る。


「おはよう、豊前君。昨日の晩は、上着有難うね。はいっ、お返ししまーっす」
「おう、おはようさん!昨日は夜冷えたけなぁ〜、あの後大丈夫やったか?」
「お陰様で、風邪引く程体冷やさずに済んだよ〜!」
「其れなら良かったちゃ!」
 朝餉を食べる席でそんな挨拶を交わしていたら、流れで一緒に食べる事になり、リーダーの愛称で慕われる彼と一緒に居たからだろうか、気付けば江の皆に囲まれる形で食事する事になっていた。
 朝御飯を済ませた後は、その場で本日の予定等を口頭で皆に伝え、今日の近侍は豊前に頼む事も伝えた。
「リーダーならば何も心配はありませんし、寧ろ適任だと思います!」
 ……との言葉を篭手切から貰い、一部を除いて、満場一致で彼は今日一日の近侍を務める事に決定した。反対派意見を挙げた一部というのは、言わずもがな、の主大好き刀代表と思しき長谷部と薙刀’ズの巴形の方である。
彼等曰く、顕現歴及び近侍歴の浅い豊前では務まらないとの事だそうだ。
本丸を束ねる将たる者の立場から言わせてもらえば、だからこそそういった者達にも経験を積ませるべく近侍の役目を回していった方が良いのでは、と思うのだ。故の、本日の采配なのである。
 本丸によっては、近侍は一振りの刀に固定しているという話も聞くが、其れは其れ、“他所は他所、ウチはウチ”のスタンスを崩さず、本日の近侍は豊前である事に変わりは無い事を告げた。
江一派が何やら盛り上がりを見せたが、其れについては割愛させて頂こう。
 経てして、彼を近侍に執務は滞り無く進み、比較的早めな時間に本日の日課分(お仕事)を終える事が出来た。お互いに「お疲れ様」と言い合い労った後に、豊前の方から思わぬお誘いなる提案を受けた。
「朝からぶっ続けで仕事して疲れたろ?休憩するんに俺の膝、使うか?」
「へあっ!?」
 江の他の子達にしているのは見ていたし知っていたけども、まさかのリーダー自らお膝許可が出るとは思っていなくて驚く審神者。
思わず、すっとんきょうな声で以て返事をしてしまった。
 一先ず、一旦事態を飲み込もうと、一呼吸挟んでから物申す。
「えーっと……確かに、ずっと画面見続けて目ぇ疲れたから、一旦端末は閉じて目薬点した後に少し休ませようかなぁ〜とは思ってたけども……?」
「どうせ休むんなら丁度ええやんか!其れとも、俺の膝使うの嫌やったか?」
「えっ!?い、いい嫌とかではないよ!?寧ろ、そう言って頂けて嬉しいくらいですっ!!……でも、本当に良いの?あんまり近侍の仕事頼んだりしないからって変に気ぃ遣ってたりとかしてない…?もし、そうだとしたら凄く申し訳なく思うんだけど……っ」
「そげん深う考えるなって〜っ。俺は、ちゃんと自分の意思で、仕事で疲れたやろう主を少しでも労わってやりとうっち言うただけやしさ!主は気にせず、俺に身預けて休んでけって!」
「え〜……でも、ずっと膝枕してたら足痺れたりしない?大丈夫?」
「そうなりそうになったら、逆の足に乗するとかして位置変えるけ心配要らんちゃ?」
「いや、そこは退かして良いんだよ!?無理してまで膝枕しなくて良いんだからねっ!!」
「まぁまぁ、取り敢えず、主も俺の膝体験してけって!初めてな分、思いっ切り堪能してってくれちゃ!……で、ついでに癖になってくれたら俺も嬉しいんやけどさ。主も、俺の膝枕の使い心地気に入って好きになってくれたら、また俺に話しかけてくれるごとなるかもだし、近侍の回数も増えるかもしれんやろ?――…なぁ〜んてな!今のは冗談ちゃ。……まぁ、半分くらいは本気やったけどな?へへへっ!」
 そう言って、少しだけ照れたように頬を掻きながら笑った豊前。
「そんなん言われて断れる訳無いやん……っっっ!!」と内心思った審神者は、彼に身を委ねる他無かったのである。
 “江の沼は深い”と身を以て知った審神者は、彼に膝枕をされながらただただ無言で顔を覆い悶えるのだった。
 取り敢えず、彼も含めた中期〜後半に来た子等とももっとコミュニケーションを取ろうと思うのと同時に、後半組の子等にも順繰りに近侍の番を回してあげようと誓うのだった。


執筆日:2022.02.25
加筆修正日:2022.03.06