誰も、己を止めようとはしてくれなかった。
故に、留まる術を失って、堕ちるところまで堕ちてしまった。
私は、裁きが欲しかった。
己が犯した罪を、重ねた業を、裁いて欲しかったのだ。
そう祈り続けて、何れだけ待ったのだろう。なかなか、裁きの手は来なかった。
もし、裁かれるのならば、己の刀が良い。私の信頼に値する、賢き刀……。
しかし、其れには年若き刀は求めていなかった。出来れば……そう、年輩の刀であればある程良い。生きてきた歴史が長ければ長い程、人がどういうものか分かっているだろうから。ただの感情に振り回されず、正しき道へ導き直してくれるだろうから。
だから、私は、待ち続けた。一人、本丸とは隔絶された現世の或る場所にて。
ずっと、ずっと、待ち続けた。待って、待って、待ち続けた末に、漸く来てくれた者が居た。凡そ、自分が求めていた、己の命運を任せるに値する者である。
その刀とは、己を唯一裁けるであろう者であり、絶対に悪の道へは傾かぬ意思を持ちし刀……山鳥毛であった。
私は、床に寝転ぶ姿のまま、彼の方を見遣り、薄ら笑みを浮かべて口を開く。
「嗚呼…君が来てくれたのか。良かった……君になら、安心して任せられるもの」
私は身を起こして、此方を注視する視線を見ずに続ける。
「待ち続けた甲斐があったというものだね……。君みたいな刀が来てくれたのだもの、漸く心の奥底に巣食うものの報われる時が来たかな…」
ゆっくりと立ち上がって、自身より少し上にある目線と向き合って告げる。
「私を、裁きに来たんだろう……?」
ゆるり、そう口を利けば、彼はしかつめらしい表情を通り越して、随分と険しいものに歪めて此方を見据えてきた。
「……君は、こうなる事を、初めから理解していたのだろう?どうして、まだ引き返せたところで踏み留まらなかったんだ」
ようやっと口を利いたかと思えば、そんな事を問い質してきた彼に、私は呆れたような口調で以て言葉を返す。
「もう、手遅れだったんだよ……何もかも。だから…私は、ただ、裁かれる時を待っていた」
私は、ただその二言のみを返した。
其れを聞き届けた彼が、寸の間、静かに瞑目し、再びその鋭き
「……かえろう、我々のかえるべき元へ」
彼が、苦しそうな声音で言葉を紡ぐ。
次いで、腰に携えていた己の本体たる得物を引き抜いた。
――嗚呼、此れで、私は報われるのだな……。
私は黙って瞳を閉じて、口許に僅かな笑みだけを残して両の手を開いた。
のちに、静謐の檻に残るは、誰かが居た微かな温もりと、赤い血痕だけであった。
執筆日:2022.02.27