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学習しない頭は莫迦を見る



※前作の『君の付けた噛み痕から血が滲む』の続編です。


 あの後、やはり結果的には野次ヤジられてしまったが、まぁ覚悟の上での事だったので、サラリと流して傷口に塗る薬と隠す為のガーゼを貰った。その場で治療を受けるのは気が引け、一先ず自室へと戻って御手杵より手当てを受けたが、あまりの申し訳無さそうな態度にこっちが居た堪れなくなる程であった。
 堪らず私は口を開いて言った。
「お前なぁ……いつまでもそう引き摺んなよ…っ。俺は平気だったんだからさァ」
「だって……俺のせいで結局傷付けちまったし、気を失わせる程がっついちまった自覚有るしで、申し訳無くってさぁ〜……っ! 本当に御免なぁ、主ぃ〜〜〜っ!!」
「いや…マジで大丈夫だから……もう謝んなって。俺は然程気にしてないからさ」
「其処が一番の問題なんだってばぁ……っ!! 何であんたってそんなに危機感薄いんだ!? 普通、彼処までされて気を失った挙げ句怪我まで負わされてたら、怒って当然の流れだぞ!! 軽蔑したって可笑しくない事なんだからな!?」
「何でお前がんなキレ散らかすんだよ……?」
「あんたが心配だからに決まってるだろ!? この莫迦ァっっっ!!」
 手当てしていた流れも相俟って、耳元で盛大な大声で喚かれ、思わずキーンとし、“うるっさ……”と迷惑そうに顔を顰めて真横を見遣った。途端、再び謝ってきた彼に、呆れの溜め息をく。
「薬研が居る手前だったから、さっきは全体的にお前の責任だってなすり付けたけどさ……本当の事言えば、こうなる事分かった上で許した俺にも責はあるんだからな? 今回ばかりはお互い様ってヤツだよ……っ。だから、もう機嫌直せって」
「ッ……あんたは、いつもそうやって有耶無耶うやむやにするんだから……」
「俺は天の邪鬼だからな……素直に物言えないタチなのよ」
「分かってるよ……。不器用で口下手だけれど、あんたって奴は素直でストレートな奴だからさ……俺は、そんなあんたのところに惚れたんだから」
「え……今のそういう流れだったか……?」
「はっきり直接物言わないと伝わんないぞって言ったのは、あんただからな」
「いやまぁ、そう…ですけども……っ。今の流れでそんな事言われちゃうと、何て返したら良いのやら〜ってなるんだがァ……」
「返せないんだったら、何も返さなくて良いよ。無理に答えろとも言わないし……。金輪際、無茶するのだけはやめてくれ、って事だけ理解してくれたら良いから」
「えっと、何か色々と御免……」
「良いって。あんたは悪くないんだからさ。少なくとも、今回のは、あんたをそういう気分にさせちまった俺が悪いんだ。だから、そのせいで傷付けちまった責任は、ちゃんと取るよ」
 そう言って、くしゃりと笑った彼が、手当てを再開して、くだんの痕へと塗り薬を塗り込み、上からガーゼを貼り付ける。一応、仕上がりを鏡で見てみたが、完璧な手際の良さで綺麗に痕が覆われていた。案外手先が器用なところは、育ちの良さから来るところだろうか。そんな斜め明後日な方向へ意識を飛ばしていると、不意に真後ろに張り付いて離れぬ様子の彼が控えめに口を開いた。
「その…痛む、よな……?」
「ちょっとだけね。と言っても、微妙にヒリヒリするだけだし、別に放っておいても良かったっちゃー良かったんだけど……其れだと、痕が丸見えだからね。流石に何かして隠しとかないと不味いかなって思ったレベルだから、んな重く受け止めなくとも良いよ」
「けど、やっぱり気にするなっていう方が無理というか……そのぉ、本っ当に悪かった…。仮にも嫁入り前の女の子に対して……もし、痕に残ったらどうしようって……ッ」
「考え過ぎだろ…っ。もうちょい楽観的考えろよ?」
「あんたのは楽観的に捉え過ぎなんだって……!」
「こんな痕くらい、残ったってどうってこた無いだろ? 生活に支障がある訳でも無し……。逆にこうは考えねェーのかよ? “傷物にしちまった暁には責任を取って俺が娶る”とかって」
「そ、れはっ……! 考えなくも無かったけども…理由が今回ので、俺みたいなのに貰われるのも、話が違うだろうって思ってさ……。そりゃ、あんたさえ良ければ、喜んで娶るし、盛大な式挙げたって良いとすら思ってるけど……っ」
「え」
「え?」
 暫し、二人の間に妙な沈黙が降りた。
 私は、変に顔が赤くなってくるのを感じて、咄嗟に彼から視線を逸らした。あからさまな態度であった。途端、目を据わらせた彼がにじり寄ってきて、肩を掴む。
「まさか、あんた……今の、冗談の流れだと思ってたのか?」
「えぇ…っ、いや、まさかそんな…………嘘だろ?」
「俺、本気であんたを娶る気あるんだが」
「まさかのガチでいらっしゃった……! そして、この雰囲気は、本気と書いてマジな方でいらっしゃるよね!? そうだよね!!」
「あんたなぁ……俺を何だと思ってたんだ?」
「単なる申し訳無さから来る同情的なものから、てっきりそう言ってきてるんだとばかりに……?」
「俺の事侮るのも大概にしないと、マジで痛い目見るぞ……?」
「ヒエッ……御免なさい御免なさい御免なさいィ……!」
 あまりの圧にビビって縮こまって居たらば、呆れの溜め息をいたらしき彼が再び口を開きつつ、ガーゼで覆った噛み痕の部分に触れてきて言う。
「……まぁ、本当は其処まで怒ってないけどな」
「え……」
「でも、油断は禁物ってだけは覚えといてくれよな?」
 ふにゅり、唇へと触れてきた人差し指に呆けてしまった。そんな私を見て、彼は穏やかに微笑んだ。いや、此れで惚れるなという方が無理だろう。私は無言でそう悟り、一人頷いた。
 取り敢えず、今の不意打ちへの仕返しをするべく、私は腰を上げ、キョトンとする彼の唇へと口付けてやった。途端、ギシリと固まった彼に、唇を離してから“してやったり”と舌を出す。其れに対し、彼は下目蓋をヒクヒクと痙攣させながら物申した。
「あんっっったなぁ……ッ!??」
「此れで、さっきのの文句は言いっこ無しな」
「ったくもぉ〜〜〜……!! どんだけ俺を翻弄したら気が済むんだぁ!?」
「さぁ? どんだけなんだろうな…? 少なくとも……今、この時ばかりは、せっかくまともに意識働いてるんだから…蔵での続き、しなくても良いのかい? ――とは思ったけれど」
「学習してくれよ、頼むからさぁ……ッ!!」
 最早泣き言を言うみたく叫ぶ彼に、私は笑って言ってやった。
「俺も大概お前に惚れちまってんだ……その責任くらいは先じて取ってくれるんだよなァ?」
「ッ〜〜〜!! 今度こそ、どうなっても知らないからな……!?」
 そう告げた彼が、敷いたままの布団の上へと押し倒してくる。私は其れを受け入れて、今度こそ気絶してやらないぞと意気込んで彼を求めた。再び、熱い口付けが降ってくる。今度こそは逃がさないとばかりに両腕を拘束されて。大きな熱い口に食べられるみたいにキスされた。そうして、また思考を溶かして、骨の髄まで蕩けて、本当の意味で彼に食べられる・・・・・のだ。
 結果、彼にまことの意味で戴かれた後は、布団から起き上がれなくなる程腰を痛め、結局また看病される羽目になるのだった。本当、私ってば学習しないねぇ……っ。でも、今度は無事意識を飛ばさず行為を終える事が出来たのだから、少しは成長したのだろうかと変な事ばかり考えるのだった。


執筆日:2022.03.21
公開日:2022.03.24