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まちがいなく生きていた、あの人の面影を見る



 彼の中に、偉大なる過去の偉人の姿を見た。
 日本を、私が今生きるこの国を動かそうと激動の世を生き、果てた、かの人の面影を、見た。大河ドラマなんかで見たような、偉大で懐が深く、計算高くも太陽みたいな人の……面影を。
 かの人無くして、日本の夜明けは無かったのだと言い切れる程、かの人物はこの国において偉大な歴史を、爪跡を残した。その先に、今の日本があり、この国の夜明けが存在するのだ。
 朝ぼらけ、霞の掛かる景色の中、外へと連れ出され、彼と見た景色は美しかった。菜の花畑の先に見ゆる海を見留めて、感嘆す。
「眩しいくらい綺麗だね……」
「ほうじゃろほうじゃろ〜! おまさんにこん景色を見せとうて、朝早ように連れて来たんじゃ…っ。黄色い春の花ん先に望む海っちゅーんも、えいもんじゃろう?」
「そだねぇ……空の澄んだ蒼に、菜の花の黄に、海の深い青のコントラストが映えて綺麗だのぅ……っ」
 其れは其れは、見事な景色であった。朝靄を吹き飛ばす如く晴れ渡った空より昇る朝日が、彼の瞳を照らして輝く。
 太陽の色だと……夜明けの色そのものだと、思ってしまった。
 つい、景色そっちのけで、彼の瞳の美しさに見惚れていたらば、その熱い視線に気付いたらしき彼が擽ったげに笑う。
「景色の方見んと、わしの方ばかり見つめるなんてらぁて…どういたが?」
「すまん……つい、何か見惚れちゃって……っ」
「おおの…っ、素直なんはえい事じゃけんども、そがに真っ直ぐに言われるんも照れるちや……っ」
「御免」
「あいや、別にそん事自体が悪いとは言うちょらんぜよ…! ただぁ……おまさんにそがな風に見つめられたら、わしも恥ずかしくなってくるきに……程々にしとうせ」
「分かった。程々のとこでやめとく」
 そう言って、夜明けの太陽を背に振り返る彼の事を眩しげに見つめ返して頷いといた。私の素直な返事に、何故か隣へ並んできた彼が再び口を開く。
「なぁ、おまさんは……どういて、今、わしの事に見惚れちょったんじゃ? 良かったら、教えとうせ」
「大した理由は無いんだけど……ただ、綺麗だな…って思ったんだ。むっちゃんの、海を見つめる瞳が、夜明け色に輝いてきらきらしてるのが……凄く、綺麗で、思わず眩しいなって…目ぇ細めながら見てたの」
「ほがに、わしの目が好きかえ…?」
「うん……好きだよ、夜明けの色みたいに澄んでて…好き」
 日本の夜明けを作ったのは、きっとかの人だったんじゃないかというくらい、彼は生き写しのように眩しかった。
 何処までも明るく照らし出してしまう太陽の如く輝きを持っていた。私は、その光に惹かれた。暗闇を見つめ過ぎた心の闇さえ優しく温かく包み込んでくれるかのような、強き光に……私は自然と惹かれてしまっていた。
 彼が、ふと照れのあった表情を潜め、男らしきかんばせに真面目な顔色を乗せ、真剣な眼差しを投げて言う。
「わしも……おまさんの事が好きじゃ。異性として、愛しい対象として、好きじゃ。好いて、好いて、仕方のうてならん…。ほいやき、改めて言わせとうせ。わしは、おまさんの事を、本気で好いちゅう。もう、どうしようもないくらいばぁ好きで、しょうがないぜよ……っ」
「え…っと、その……有難う、むっちゃん。その気持ちは、純粋に嬉しい…っ。……でも、私は人で、君は刀だから……きっと相応しくないよ」
「おまさんは、わしの事嫌いなが……?」
「いんにゃ、全くの正反対で大好きだよ。だからこそ……葛藤ってヤツを、抱くんでしょうね」
「両想いなんじゃったら、其れでえいやか。わしはおまさんが好きじゃ。ほいで、おまさんもわしを好いてくれちゅう。何も難しい事は考える必要あらせんろう…?」
「……っははは、むっちゃんには敵わへんにゃあ……っ」
「時には素直になる事も肝要ぜよ」
 かんばせを崩して不敵な笑みを浮かべてみせた彼に、降参だとばかりに軽く笑って、改めての視線を送って宣う。
「うん……っ、私、むっちゃんの事…貴方という刀の事、愛しちゅうよ」
 そう言って、また眩しげに目を細めて笑った。
 彼が、一瞬だけ大きく目を瞠って息を飲んだようだったけれど、次の瞬間には、慈しみを含んだ、此方が照れてしまうくらいに蕩けた瞳で以て見つめ返してくるのだった。
「おまさんから言うなんてらぁて、反則じゃろう……っ」
 はにかみ笑んだ彼が、熱い体で抱き締めてきて、耳元で囁く。
「おまさんの一番になれて……嬉しいぜよ。わしを、おまさんの相手に選んでくれて、有難うにゃあ…っ」
 脳髄へと染み渡る声は、大層喜びの滲んだ声だった。


執筆日:2022.03.26
Title by:すてき