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防人の月



 白き月を待て、と言ったかと思えば、ちょっと野暮用だと言って姿を消した三日月宗近。
 途端、一部を除き、本丸は外部との接続を完全に絶った。本部そのものがとされては敵わないからだろう。一部の通信機能がダウンした事により、本部との接続は絶たれた。此れにて、本部と本丸は隔絶、個々が孤立した形となる。
同時に、敵襲撃を報せる警戒アラートがけたたましく響き渡る。其れに対し、初期刀の加州が「五月蝿うるさいなぁ」と呟いた。
 各本丸は、敵の強襲撃により戦闘を余儀無くされた。当本丸も例に漏れる事無く、総力を挙げての迎撃体勢へと速やかに移行する。
「いざとなったら、アンタの事は俺が抱えて安全な場所に隠して守るから」
 傍から離れる事無くそう告げてきた彼に向けて言い放つ。
「其れは、最も最悪な事態に陥った時用の最後の切り札としての手段だ。そうならない事を祈るだけだがな……。今は、ただ我々が出来る限りの事を成すのみ。攻め来る敵を迎え討ち、薙ぎ払え。一匹と我が本丸の敷地内に踏み入らせるな。兎に角、叩きのめせ。俺から言える事は、ただ其れだけだ。必ずこの本丸を守り徹すぞ」
「勿論……! 言われずとも、絶対にとさせなんかしないから!」
 審神者は毅然とした態度を崩さぬまま、一つ処に集う刀剣男士臣下達へ告ぐ。
「此れより、我が猫丸部隊は、対大侵寇防人作戦へと参加する! 迎撃対象は、おもに志願打撃部隊を目標とし、前衛防衛ラインを守護する事となる! 編成は対強化プログラム時の組み合わせを引き続き採用、随時部隊を交代しながら出撃せよ! 敵の侵攻具合によっては、防衛対象のラインを変動・他の防衛部隊の援護を行う可能性がある! 心して掛かってくれ! 武運を祈る……!!」
「応…っ!!」
 一同から力強い頼もしい頷きが返ってくる。其れに審神者自身も頷きながら、常時戦況が映し出される端末前へと定位置に付く。
 こんのすけから伝達される、随時変わりゆく戦局へ対応するべく、自陣が出撃させるべき防衛ラインを選択した。

 三日月は、姿を消した。だが、同時に展開された本丸の特殊防衛システムに、ある一つの憶測を立てざるを得なかった。
 彼は――、三日月宗近は、他の刀剣達とは異なる顕現の仕方をしていたのだと……。
 何故、本丸が危機に陥った途端、各本丸に居る三日月という刀が姿を消したのか。此れは、憶測にしか過ぎないが、彼は最初から本丸の要として、本丸の防衛システムの一部に組み込まれていたのではないか……。其れは、即ち、彼という最後の砦――防衛システムまで突破された場合、本丸は陥落、彼の破壊を……死を意味するのだろう。
 白き月を待て、との本当の意味は、彼という防衛システムの展開を待てとの意を示していたのだろう。
 様を変えた本丸の外の景色を見つめながら思う。
「三日月……戻ってくるよね?」
「当たり前だろ。彼奴は……、みかちは、絶対に戻ってくる。今は、姿見えないし、すぐ傍には居ないけども……彼はちゃんと、この本丸に居るよ」
「えっ……?」
「この本丸を…俺を、守る為に、現在進行形で体張って頑張ってんだよ。だから、俺達も踏ん張るよ。歴史修正主義者なんかに負けて堪るか……っ」
 審神者は、本丸の先より見ゆる巨大な白き月を見て、その眼に強き負けん気を宿らせた。
「掛かって来いよ……。全部纏めてぶっ潰してやる。俺達の本丸を安易にとせると侮った事、後悔させてやっから。来るなら来いや。容赦無く叩きのめして返り討ちにしてやるからよォ」
 好戦的な、挑戦的とも言える、恐ろしく獸染みたギラギラとした光を宿して獰猛に微笑む審神者の豹変ぶりに、守役を務めていた近侍の大千鳥が思わず身を引いた。
「アンタ……そんなに血の気多い方だったか?」
「主は元から戦闘狂の気のある脳筋審神者だよー。まぁ、此処まで殺る気剥き出し全開なのは珍しいっつーか初めてだけど」
「いやぁ〜…今回ばかりは血が騒いでしょうがないんだよねぇ……っ。とうとう本格的な戦となったか、って感じで…。不謹慎かもだけど、血が滾ってザワザワして仕方ねぇんだよ……!」
「瞳孔かっ開いてんだけど、大丈夫かコレ……? 目ぇやッッッば……」
「根っからの武器である俺達ならまだしも、主自ら前線に出て行く気か……? 大将を失って戦線崩壊など、笑い種にもならぬから止めておけよ」
「流石に、んな馬鹿な真似しねぇって。俺が本気で戦う時は、この本丸の全ての防衛機能がとされた時か失われた時だ。まぁ、そうならねぇ事が一番だがな」
「億が一にもそうはさせないから…! 主はちゃんと俺達に守られてて!!」
「ただ守られるだけとか柄じゃないんだけどなぁ〜……っ。どっちかっつーと、俺も武器取って戦えるなら戦いたい派だわ。俺、戦闘タイプの審神者じゃねェーけど」
「お願いだから主は大人しくしてて…ッ!!」
「わぁーってるって。敵を叩くのは皆の仕事、俺は其れを見守りつつ指示を出すのが仕事。ちゃんと分かってるから…そう心配しなさんな」
「そりゃ、心配もするよっ……主には前科があるんだから」
 初期刀として本丸設立の黎明期より連れ添ってきた彼の言わんとしている事は分かる。故に、審神者は本丸へ攻めて来ようとせんとする敵陣の姿を視野に映して獰猛に笑むのだ。
「みかちが頑張ってくれてんだ……そう易々と死んでやらねぇよ、俺は。お前等を残して死ぬのは、人としての寿命尽きる時以外に予定は無い」
 審神者は、ただ不敵に笑んで采配を振るう。
とせるものならとしてみやがれ……ッ!! 我が本丸のもののふが全身全霊で以てお相手してやろう!! さぁ、存分に力をふるえ! 暴れ回れ! 皆纏めて塵と化してくれよう…ッ!!」
 白き月を拝みながら吼えるは、人の身ながら心に獸を宿す、生きる人の子なり。


執筆日:2022.03.31