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飾らない君が好き



ある時、仕事の休憩の合間に、何でもなく見た同僚の姿。

その同僚は、だらしがなく休憩所のソファーに寝そべっていた。

顔半分は、片手が上に乗っかっていてよく見えない。


「此処、仮にも仕事場だよ…?良いの?そんなだらけた姿晒して。上司に見付かっても知らないよ…?」
『サボってる訳でもなけりゃ、だらけてる訳でもないから、放っとけ。』
「じゃあ、何してんの?」
『…頭痛いんだよ。だから、眼鏡外して、少し休ませてんの。』
「あ、本当だ。眼鏡外してたんだ。気付かなかった…。というか、頭痛いのと眼鏡取るのって関係あるの?」
『あるよ…。私、ずっと眼鏡してると頭痛くなる事あるから。頭痛してる時とか、眼鏡外すと少し楽になったりするし…。現に、今、眼鏡無い方が楽だし。』
「へぇ…、そういうものなんだ。」
『そーいうもんだよ。』
「ふぅん、僕は眼鏡掛けた事無いから、眼鏡愛用者の気持ち解んないや。」
『実際掛けてたら解るよ。』
「ふーん…。」


僕が話しかけたからか、先程と打って変わって、よく見えるようになった彼女の顔。

いつも眼鏡を掛けた姿しか見た事が無かったから、凄く新鮮に感じる。

改めてまじまじと見つめていると、ジッと見られる視線が気になったのか、彼女はジトリと目線だけを此方に向けてきた。


『…何…?』
「…君、眼鏡無い方が良いね。」
『は…?いきなり何…。つか、お前は、私に見えない状態で生活しろと言うのか?』
「いやぁ、何か、君の眼鏡外したとこなんて初めて見たから、何だか新鮮でね!つい。」


自分でも思ってもみない事を口が勝手に喋って、内心驚く。

それとなく誤魔化してみたけど、心臓は意図せずにバクバクと大きく音を鳴らす。

彼女に聞こえないか心配で、思わず胸に手を当て隠してみるも、考え直してみれば、彼女とは少し離れているこの距離から僕の鼓動の音が彼女に届く筈もなかった。

変に恥ずかしくなった僕は、それとなく不自然にならない程度に彼女から視線をずらす。

しかし、次に彼女から続いた言葉に、僕はまた彼女の方へと視線を戻す事になる。


『つっても…家じゃ、コレが普通だったりもするんだがね。』
「え…?君、見えないから眼鏡掛けてるんじゃないのかい?」
『そうだけど…?でも、家ん中なら、ある程度見えなくても慣れてるから解るし。だから、よく裸眼になる事も多い。見えない事は見えないんだけど、ボヤけてるって程度だからね。』
「嗚呼、そういう事…。何となく解ったよ。」
『あっそ…。じゃ、用が無いなら、あっち行ってくんない?休めない。』
「あ、ごめん。」


短く答えると、彼女は小さく嘆息した。

何も用は無いのだけど、何となく気になってしまって、その場所に居座る。

すると、鬱陶しそうに此方を見遣った彼女が、「まだ何かあるのか?」と言いたげな視線を寄越してきた。


『何…?』


眉間に寄せられた皺のせいで、不機嫌そうに見える。

でも、そんな表情でも、今の彼女は綺麗に見える。


「…やっぱり、君、眼鏡無い方が良いよ。」
『あ゙…?』
「その方が綺麗だし、好みだから。」
『は……っ?』


猫みたいに吃驚して細まった瞳孔に、間の抜けたような声と表情が可愛かった。


執筆日:2018.04.06