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惚れた弱み



付き合い始めて、彼女の家にお邪魔するようになって気付いた事。

それは、実の彼女は、意外に結構面倒くさがり屋で、オンとオフの時の差があるって事だ。

それは、今日も当て嵌まる訳で…。


「こんにちはー。此方に寄るついでに、夕飯も一緒になるだろうから、必要な食材買ってきたよー。」
『お〜っ、ありがとうございまーす、andお疲れ様でーすっ。』
「取り敢えず、台所借りるけど、良いよね?」
『おkですよ〜。寧ろ、断然キャモンです!』
「もう…、何それ…っ。というか、君、何て格好してるの…?」
『へ?何が…?』
「その格好の事だよ!だらしなさ過ぎない?家の中に居るからって、下がパジャマのズボンのままだなんて、有り得ないよ!!」
『え…、だって今日休日だし…仕事休みだし。どっこも出掛ける気無かったから…。』


至極普通の事のように言ってきた彼女だけれど、常に格好を気にする僕としては見過ごせない事だ。

故に、僕は言葉を続けた。


「だからって、パジャマのままはないでしょ?もぉ…っ、君には女子力ってモノが足りないんじゃないかい…っ!?」
『言われずとも、元から自覚してる。』
「だったら尚更……っ!…………ねぇ、君…。」
『今度はどうした?やたら間が長かったけど。』


次に目に止まったところに、僕は思わず言葉を詰まらせた。

無意識に顔がほんのり熱くなった気がするけど、今は無視だ。


「君…、女の子だよね…?」
『そうだけど…それがどうした。今更男だったんだぜ!なんて言わないぞ?』
「いや、そういうんじゃないから黙って。」
『酷い。』


つい言葉に詰まってしまったが、今後の事を思えば、コレは忠告しておかないと、不味い事になる。

気を取り直して、咳払いをしてから彼女に向き直る。


「ちょっと訊いても良いかな…?」
『だからどうした、そんな笑顔引き攣らせて。』
「その服の下の事なんだけど…。」
『ん?このTシャツの下…?』
「そう。もしかしてだけど…今、ブラ着けてなかったりする…?」


びよんとTシャツをそれとなしに引っ張った彼女。

頼むから、そういう無意識な行動は止めて欲しい。

目に毒だ。

しかも、引っ張ったのは件の胸元で、今僕が話しているところだ。


『あぁ〜…うん、してなかったね。え、何、それ気にしてたの…?』
「そりゃ、そうでしょ。偶々目に入ったから気付いた事だけども、君は女の子なんだから、ちゃんとしとかなきゃ駄目でしょ…っ!?」
『え、いや、別に良くない?家に居る時ぐらい…。オフ日なら、してなくったっても良いでしょ。何時もブラ着けてると窮屈だし、外してる方が寝転がる時とか楽だし。』
「そういう問題じゃないでしょ…っ!?僕、男だよ…!?男の僕が家に居るのに、ノーブラのままで居るの!?」
『え…っ、駄目なの…っ?』
「寧ろ、何で良いと思った!!」
『えぇ…っ、だって、私胸無いし…大して目立たないと思ったから、良いかなぁ〜って…。え、もしかしてお前…この貧乳で欲情したりすんのか?』
「言い方ァ…ッッッ!!もう少し女性としての慎みを持とうよって話だよ!馬鹿ァ…ッ!!」


「うわぁん…っ!!」と両手で顔を覆い、さめざめと泣いていると、流石に不味いと思ったのか、オロオロとした様子で僕に近付いてきた。


『あー…何か、ごめん…。今のは私が悪かったわ。せめて、次お前が来る時は、ちゃんとした格好しとくよ…。あの、本当、ごめん。』


チラリと開けた指の隙間から彼女を見遣れば、反省したような様子で眉を下げた顔をしていた。

まぁ、こんなところがある彼女だけれど、惚れてしまったからには許してしまう訳で。

一つ溜め息を吐いてから顔を上げると、気まずそうに顔を逸らした彼女に向き合った。


「解ってくれたのなら良いよ…。それより…、」


トン…ッ、と軽く肩を突いてやって、テーブルの方へ押しやる。

急に体勢を後方に押された事に、幾分か驚いた彼女はきょとりとした表情で此方を見遣った。


「その格好で僕に近寄らない方が身の為だよ…?」
『はい…っ?』


ずいっ、ともっと顔を近寄らせれば、彼女は身を引いて、テーブル側に身を反る。


「言ったよね…?僕は男だって。今みたいに無防備極まりない格好した君が目の前を彷徨かれると、刺激されるんだけど…。男としての本能を、ね…?」
『へ…っ?ひぇっ!?』


身体を密着させて、するりと腰辺りから手を差し入れれば、流石の彼女でも理解したようで。

途端に真っ赤になった顔も余裕の無さも隠さずに、今更の如くあわあわと慌て出す。

背中に差し入れた手は途中で止め、もう片方の手を下に何も着けていない胸元に触れる。

すると、触られる事まで予期していなかったのか、「ぇええ…っ!?ま、ままま待って…っ!」と口にし、慌てて僕の手を引き止めようとする。

そんな反応も初々しくて可愛いのだけど、もうちょっとだけ意地悪したくて、胸元に置いた手を軽く動かして、柔く揉みしだくように胸を触ってみた。

まさかそこまでされるとは思ってもみなかった彼女は、それだけで感じてしまったのか、「ぁ…っ!」と小さく声を上げて身を震わせた。

その瞬間、僕の中で、小さな加虐心が生まれる。

本能に付き従って、次の動作を考えていたら、不意に彼女が顔を上げた。

僕の腕を掴んだままで、逆に押し付けているようにも取れる格好だからか、恥ずかしそうにした彼女が上目遣いに僕を見つめてきたのだ。

そこで、僕の中の理性が正常を取り戻した。

す…っと胸元にあった手を外し、背中の手も抜いてから、少しだけ身体の距離を離す。

そして、一呼吸挟んでから言った。


「まぁ…こういう事が起こりかねないから、少しは警戒してねって事だよ。幾ら彼氏であろうと、ちょっとは危機感は持ってね?じゃないと、油断してる隙に、君の事食べちゃうから。」


少しだけ夜の雰囲気を匂わせて言えば、ぶんぶんと必死な様子で首を縦に振る彼女。

あまりの必死さに、クスリと笑みが漏れる。


「そんなに頷かなくても、今すぐにどうこうしようとか思ってないから!」
『あ、うんっ、そうだよね…!?そうですよね!?あはっ、あははは…っ!』
「うーん、君がオーケーを出してくれたなら、今夜辺りにでも襲っちゃうけど…?」
『!!!??』
「冗談だよっ。(まぁ…半分は本気だけど。)」


オフだからって無防備過ぎるのは頂けないけど、僕的には、ある意味プラスになるから、そのままでも良いんだけどね。


執筆日:2018.04.06