「海の匂いがする」
ふと、隣に居る審神者がそう言った。
彼女は、海の近くで育ったから、潮の香りというか、海の匂いとは縁近いそうな。おまけに、慣れ親しんだ匂いですらあると言う。その匂いが、彼からしていた。
審神者は、胡座をかいて寛ぐ彼の傍に寝転ぶように伸びたまま、畳に触れる衣服の端や長き髪の毛に鼻先を近付けてふんふん、と匂いを嗅いだ。
「海の匂いがする」
審神者は、再び同じ事を呟いて、懐かしげに目を細めた。そんな彼女が愛おしくて、千代金丸は彼女に手を伸ばした。優しく触れ、兄弟達にするように寝転ぶ彼女の髪を梳き、撫ぜる。そうしながら、彼はのんびりと口を開いた。
「もうすぐ其処まで夏が近付いてきてるからだなぁ〜」
「夏が近付くと、千代ちゃんからは海の匂いがするようになるの?」
「俺は琉球の生まれだからなぁ……海は切っても切り離せないものさぁ〜。
「つまり、夏が近付くと千代ちゃんからは海の……潮の匂いがするって訳ね。ふふふっ……其れって、何だか不思議で素敵」
彼の手に撫ぜられながら気持ち良さげに目を細めて笑う彼女は、そう言った。
嗚呼、夏が近付いてきているなぁ。
潮の匂いが、恋しい懐かしい現世の生まれ故郷を思い起こさせて、少し郷愁に駆られる。同時に、また夏の季節が巡ってくるのだなぁ、と感慨深く思うのだった。
執筆日:2022.05.27