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仮の名、真の名



 審神者名として付けている名前は、基本自分に見合う名前にしているし愛着も持っているので、自然と馴染んでくる訳で……。
 普段“主”としか呼ばれないのに、突如前触れ無く審神者名の方を呼ばれてドキリとした。おまけに、変な汗までかき始めて一人焦っていたら、私を呼んだのだろうひとが意味深に呟いた。
「審神者名として名乗っている名前は、真名ではないだろうと分かり切っていたが……その様子だと、浅からずも遠からず、といった感じのようだなぁ」
 次いで、補足するみたく、クスリ、と笑まれながらこうも言われてしまう。
「……その仮の名を、真の名と勘違いせぬようにせよ。馴染みに馴染み過ぎて、最早己の名前その物であると思い込むようになった暁には……其れを機と見た輩が悪用してくるやもしれぬ故に……。下手に隠し隠されたりかどわかされたくなどされたくなくば、肝に銘じておくが良い。――お前のその名は、ただの仮の名……魂に刻まれた真名ではないと……。もし、真の名と勘違い思い込むような事があれば、早に俺に言え。呪いの如きお前に掛けられた暗示を解いてやろう。七つの星の導きに従って、お前を守ってやる。……案ずるな。契約は神だ、お前を揺るがす者が在れば死を撒きに往こう……その為に俺は喚ばれたのだから」
 忠告の体で言われた事なんだろうとは頭では分かっていたが、実際には口を利ける程の余裕は持てずに、ただギシリと固まって無言という返事を返さざるを得なかった。
 その後、暫く緊張が解けず、手汗も冷や汗も酷く、顔色も優れずに態度もぎこちなかった。そんな私を、一時的とは言え、そんな風に変えてしまった張本人は隅でうっすらほくそ笑んでいたとは知らない……。


執筆日:2022.05.27