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そう言って君はいつも連れ去ってくれはしない



「ねぇ、私が生きるの辞めたいって言ったら、連れ去ってくれるのか?」
 口を開いたと思ったら、そんな言葉を唐突に口走っていた。
 たぶん、感情とか諸々が一周回って限界値に到達していたんだと思う。気付いたら、項垂れた風に顔を伏せた状態でそんな事を口走っていた。
 さて、言われた側の彼は何と返すのだろうか。
 ただの戯れとして冗談と流すか、はたまた本気と捉えて肯定し是と返すか。
 暫く沈黙したまま回答を待てば、彼は口を開いて答えを返してくれた。答えは、後者の方だった。
「……嗚呼、君が望むのなら、例え地のはて地獄の底土の下であろうと何処へだって連れ去ってやるさ。君を生かす為ならな。――絶対に常世の遣いになど連れて行かせはしないさ……君を連れ去るのは、俺の役目だ」
 彼の金の眼が、妖しくギラつくように煌めいた。すがめられたその眼が、真面目なトーンを滲ませた声音が、真っ直ぐと射抜く。
 その眼を見返すように見つめ、疲れ切った体を動かし手を差し出せば、彼は壊れ物でも扱うみたく優しく掬い取った。そのまま緩く引っ張って、懐へ引き寄せる。そうして、耳元へ薄い唇を寄せ、こう囁くのだ。
「君が望むのなら……何時いつだって、何処へでも、連れ去ってやるさ」
 だけれど、未だ彼は迎えに来ないし、幾ら待てども隠してなどしてくれはしないのだ。
 恐らくだが、彼が本当の本気で連れ去るのは、私が死のうとした時か、或いは最期の時を迎えようとした時なのだろう。
 飛んだ法螺吹きの嘘吐きである。


執筆日:2022.05.27