仕事続きの作業中で、審神者の頭が脳死しているであろう時の事であった。
彼女は、不意にこんな事を言い出した。
「何か巷では、疲れた審神者が奇行に走りがちだって噂されてて、其れで代表格なネタが“おっぱい揉むか揉まないか”ってヤツらしいんだけど……ぶっちゃけ、アレ、個人的にはなぁんかどっちもしっくり来ないんだよなぁ〜。俺的にはねぇ、おっぱい揉むというよりは“包まれたい”感じなのよ…。もしくは、ハグされたいみたいな? まぁ〜、何でんな思考に至ったのかと言うと、祢々さん近侍ん時に度々“厚い胸は好きか?”って訊かれてたのを思い出したからなんですねぇ〜。そう訊かれた時、大抵は“ノーコメントでーす”ってはぐらかしてたんだけど……遂にこないだ“そうですけど何か…?”って半ば拗ねた口調っぽく答えちゃったのよねぇ〜、あはっ。事実だから間違って無いんだけど、ほら…何かリアルに答えちゃったらアレかな? って思って答えなかったのよ。でも、一回答えてからは恥ずかしいけども何となく開き直った感じで“俺の好みのタイプはガタイの良いタイプです”って言っちゃうんだよね。うん、まぁ……取り敢えず、どっかで皆の逞しき胸筋に包まれる……なぁ〜んて経験してみたいなぁーと思う訳なのですよ、我はぁ〜……っ」
作業の傍ら、突然饒舌に語り出した事に、何かを察した近侍の御手杵は半目になって呆れた風なコメントを返した。
「さては主……イベント鬼周回してて疲れてるな?」
「此処んとこ、短期集中型イベ回しながら執務も同時に片さなきゃなんないから、地味にしんどいんですよ。よって、主は癒しを求めます。一回くらいでも良いので、刀剣男士の逞しき胸筋に埋もれさせろくだせぇ」
「よし、分かった。……と、言いたいところだけど…俺、正国みたくガッツリと見て分かるくらい胸板厚くないからなぁ〜。そんな俺でも良いならギューするぞ……?」
「ぎねでも全然オッケー。寧ろカモンヌ。有難うございます、我々にはご褒美です」
「ほらよ。ついでに、ヨシヨシとかもすれば満足かぁ?」
「有難う有難う……ぎねの雄っぱい凄い。逆に何でコレで謙遜するの。安心しろ、お前も十分に逞しい」
お望み通りギュッとして頭を撫でてやれば、頭空っぽな感想を口にしながら甘えた風に額を
「おー、取り敢えず俺達の為にいつも頑張ってくれてお疲れさん」
「この後も引き続きお仕事頑張るぞー!」
「おう、頑張れ〜っ。俺も一緒に頑張るからさぁ」
そんな一件があってから、“ウチの主疲れたら胸板厚い奴にハグされたくなるらしい”って話が広まってしまった。よって、当該本丸では、審神者が脳死する度に胸板厚め男士達にハグされる流れがテンプレとなる。
そのテンプレを受け入れた一振りである同田貫氏であるが、或る時、ガチで疲れてる訳じゃないパターンの主が軽口叩く体で「今日のノルマ終了〜っ! はぁ〜疲れた疲れた肩凝ったぁ……!」と呟いているのを聞いた。其れを例の如くのアレかと勘違いした彼は。
「オラよ。疲れてんだろ? 此れで満足か?」
……と、ナチュラルにハグしてしまった。
しかし、彼女の方はそういうテンションで言ったつもりは無かったようで、盛大にテンパり剥ぐ勢いで離れる。そんでもって、真っ赤に照れた顔でアセアセと焦った様子を見せながら、こう言う。
「い、いいい今のはそういうアレのつもりじゃなかったんだ御免ね!? でも有難う!! まだ其処まで疲れてる訳じゃなかったから大丈夫よ!! 気遣ってくれて有難う!! という訳でサラバ……ッッッ!!」
勢い良く捲し立てたかと思えば、脱兎の如く
突然逃げられた側の田貫氏は、訳ワカメ状態で暫く唖然と棒立ちした。
取り敢えず、よく分かんないなりに何かこっちが勘違ったらしい、という事だけは理解した。
その問題を解決するべく、彼は相談がてら、さにちゃんなるものの刀剣男士版に書き込んでみる事にした。
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【通りすがりの刀剣男士が駄弁ってく雑談用スレ】
※基本的には刀剣男士専用のスレだけども、別に審神者の人が書き込んでもOKなユル〜い雑談の場です。
※悪までも雑談系スレなので、怪異に遭遇などといった件は別板となる為、そういったご相談目的の方は専用のスレをご利用くださいね。
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・129:通りすがりの刀剣男士です。
主の事でちょっと話したい事あったから書き込んだ。
暇な奴だけ聞いてくれ。
・130:通りすがりの刀剣男士です。
おっ? 何々、何の話〜?
・131:通りすがりの刀剣男士です。
今暇だから聞くよ〜!
・132:通りすがりの刀剣男士です。
もし長くなりそうとかアレだったら、分かりやすく適当にコテハン付けてくれると有難い!
・133:通りすがりのたぬきです。
んじゃ、コレで。
・134:通りすがりの刀剣男士です。
THE・適当www
・135:通りすがりの刀剣男士です。
マジで適当過ぎて鼻水吹いたwww
・136:通りすがりのたぬきです。
取り敢えず投下してくぞー。
最近、短期集中型のイベントが続いてんだろ?
そのせいで、ウチの主が脳死しててさ。
何か胸板厚い系男士にハグされたら元気になるらしいんだけど、お前等はどう思う?
・137:通りすがりの刀剣男士です。
出たwww
噂に聞く審神者の奇行www
・138:通りすがりの刀剣男士です。
何か一定数の審神者さんがその手の奇行に走るよね〜
・139:通りすがりの刀剣男士です。
でも、巷でよく聞く奇行のソレは、“雄っぱいにハグ”じゃなくて、もっと悪化した感じの“雄っぱいを揉む”に走るんじゃなかったっけ?
・140:通りすがりの刀剣男士です。
あぁ……ウチの主が時々やってるヤツだ……。
ウチの場合は、蜻蛉切とか村正の奴にしてたかな?
あ、ちなみにウチの主は男だよ。
・141:通りすがりの刀剣男士です。
マジかwww
お前んとこの村正派の二人、乙だなwww
・142:通りすがりの刀剣男士です。
ぼくのほんまるでは、岩融がそれにがいとうしますね!
・143:通りすがりの刀剣男士です。
何で人間って疲れたら筋肉に走るの?
ちな、ウチは燭台切が被害対象ね。
・144:通りすがりの刀剣男士です。
筋肉フェチの奴が多いからじゃね?
ウチは祢々切丸とか山伏とかだな。
・145:通りすがりの刀剣男士です。
あとは、単純に審神者=俺達刀剣男士の肉体美を拝むのが好きな奴の集まりと化してるせいでは……?
俺は、とある本丸の虎徹の贋作だが、ウチの主もそのタイプのようでな。
定期で胸を揉ませろとせがまれるんだ……。
言っておくが、ウチの主は女人だ。
・146:通りすがりの刀剣男士です。
Oh……他所の曽祢さんが被害の対象に……っ。
・147:通りすがりの刀剣男士です。
まぁ、贋作は見るからにムッキムキの胸板厚い系男士だからな。被害に遭っても仕方がない。
・148:通りすがりの刀剣男士です。
お前さん、虎徹のところの次男坊だな……?
・149:通りすがりの刀剣男士です。
弟にそんな真似してたらキレるところだったけどね!
・150:通りすがりの刀剣男士です。
どうでも良いが、急に流れ早くなってるせいでたぬきの書き込む隙無くなってんじゃねーか。
皆、一旦落ち着いて待ってやれ。
気持ちは分かるけどよ。
・151:通りすがりの刀剣男士です。
分かったよ兼さん!
・152:通りすがりの刀剣男士です。
何処の兼さんであろうと秒で特定する堀川凄ェ。
・153:通りすがりのたぬきです。
俺も他の奴等の書き込み面白くて見てたクチだから、別に謝んなくて良いぜ?
言い忘れてて補足するけど、ウチの主は女でさ。
誰かが言った通り、筋肉フェチだとか言う性癖の持ち主ではあったけど、普段はわりと普通の人間で、他所の本丸で見掛けるような奇行に走ったりとかもしないタイプの奴なんだよな。
けど、つい数日前にとうとう疲労がピークに達して限界が来たのか、近侍のぎねに139の奴が言った話を語り出したんだと。
ぎね曰く、そん時の主ガチで死んだ目してたらしいから、「あーこりゃ相当参ってんなぁ〜」って事でハグする流れに至ったらしい。
其れ以降、ウチの本丸じゃ主が脳死する度に胸板厚い系男士誰か一人呼んでハグしてやってる。
・154:通りすがりの刀剣男士です。
まぁ、其れで主が元気になるならやぶさかではないけれど……。
・155:通りすがりの刀剣男士です。
デカイ奴等みたく明らかに胸板薄くて小さい刀はどうすれば良いの……?
・156:通りすがりの刀剣男士です。
何言ってんだ、ウチではこの間薬研が担当してたぞ?
・157:通りすがりの刀剣男士です。
マジかよ。
・158:通りすがりの刀剣男士です。
流石、短刀詐欺。
薬研藤四郎程、見た目or刀種詐欺の奴は居ねぇ。
・159:通りすがりの刀剣男士です。
俺っちに対する風評被害がヤベェwww
・160:通りすがりの刀剣男士です。
話戻すが、今日も主が「疲れた」って言うからその流れかと思ってハグしてやったんだけど……何かいつもと違う反応されて「??」ってなったから書き込んでみたっつー次第。
・161:通りすがりの刀剣男士です。
甘酸っぱい空気を察した。
・162:通りすがりの刀剣男士です。
お? 何だ何だ、恋バナか??
・163:通りすがりの刀剣男士です。
取り敢えず脱ぎマシタ!
・164:通りすがりの刀剣男士です。
163 ≫ 脱がんで良い!!!!
・165:通りすがりの刀剣男士です。
板でもこの流れになる蜻蛉さん乙〜www
・166:通りすがりの刀剣男士です。
どうでも良いけど、服は着ろよ……風邪引くぞ?
・167:通りすがりの刀剣男士です。
そうだね……君のナニが丸見えになってるのは良くないね。
此処は、短刀の子達も見たりする場所だから、保護者勢にお覚悟される前に仕舞おうか。
・168:通りすがりの刀剣男士です。
まずはお前が自重しろ、青江ェ……ッ。
・169:通りすがりの刀剣男士です。
俺、通りすがりの鯰尾ですけど、たぶんソレ、きっと脈アリですよ!!
俺のアンテナがビビッと来ちゃいましたもん……っ!!
・170:通りすがりの刀剣男士です。
兄弟の頭の上に生えてるアレはその為にあった……??
・171:通りすがりの刀剣男士です。
素晴らしい受信機ですな(*^^*)ホッコリ
・172:通りすがりのたぬきです。
主が俺の事好いてるって事か……?
まぁ、確かにそんな素振り見せなくもなかった気がするけどよ…。
でも、あの反応……本当に俺に気があっての反応だったのか?
・173:通りすがりの刀剣男士です。
いまいち理解出来ないたぬきさんが怪訝な様子で問い返してますが、如何でしょう鯰尾先生?
・174:通りすがりの鯰尾先生です。
もし、今後別の男士と同じような状況になったとして、たぬきさんにしたような反応返さなかった場合は、たぶんたぬきさんに“気がある”に確定な気がしますね。
ちょっと様子見てみては如何です?
焦って変な轍踏むの嫌でしょうし。
・175:通りすがりのたぬきです。
ありがとサンクス。
まだよく分かんねぇけど、とりま少し様子見してみる事にする。
話聞いてくれた奴等、ありがとな。
参考にしてみるわ。
・176:通りすがりの刀剣男士です。
いっその事、本人と腹を割って話してみる事も視野に入れて考えてみてね〜!
・177:通りすがりの刀剣男士です。
頑張れよ〜
・178:通りすがりの刀剣男士です。
主さんと仲良くね〜!
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後日、スレでの相談が功を奏したと、問題解決した事の礼と報告に来る同田貫氏。以後、主とは円満な関係を築けているそうな。そんな訳で、ガチで脳味噌死んでる時こそより酷い奇行に走り兼ねないから、ストッパーも兼ねて自分が癒し役を引き受けていると書き込む。
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・360:通りすがりのたぬきです。
脳死してる時の主は、大概死んだ魚の目しながら無駄にハイテンションで饒舌に語り始めたりすっから、まぁマジで死なれるよりはマシかって感じに受け入れた。
というか、もう慣れた……。
・361:通りすがりの刀剣男士です。
心中お察し致します……。
・362:通りすがりの刀剣男士です。
同情するぜ、他所の俺……。
・363:通りすがりの刀剣男士です。
取り敢えず、御愁傷様です……っ。
・364:通りすがりの刀剣男士です。
一瞬、俺も皆と同じように“お疲れー”って感じに呟こうと思ったんだけどさぁ…。
ラスト付近の内容がちょっと引っ掛かったというか、気になっちゃったから訊いちゃうけど……“マジで死なれるよりはマシか”ってとこ、もしかしてアンタの主さんってさぁ………。
・365:通りすがりの刀剣男士です。
あぁ、其れ、俺っちも同じ事思ってた。
・366:通りすがりの刀剣男士です。
もし間違ってたら悪いんだけどよ……アンタんとこの大将、たぶんだけど、前にどっかでやらかしたりとかしたかい……?
あ、いや、答えたくなけりゃ答えなくても良い。
強制する気はねぇからな。
・367:通りすがりのたぬきです。
いや、別に隠す必要も無ェ事だから、ついでにぶっちゃけとくわ。
お察しの通り……ウチの主、実は自殺志願者だったらしくてな。
審神者なってすぐん頃に自殺しようとしかけた事あったんだ。
まぁ、本人も直前で我に返ってビビッちまって止めたらしいんだが、偶然その現場に行き合わせた数名の奴等が全力で止めに掛かったって話で、結果今は俺等が居てくれるお陰で生き延びれてるって言ってる。
人間の寿命ってのは俺達器物よか滅茶苦茶短くてあっという間に死んじまうくらい弱い癖に、何かと無理しがちだから、その分脆くてちょっとした事で傷付くし壊れる。
だから、俺達はそんな壊れやすくも脆い人の子を優しく大事に扱ってやんなきゃならねェーんだ。
幾ら時折脳死やら何やらで頭吹っ飛んでようが、要はそういう事なんだよ。
俺の話が教訓になるかは分かんねぇが、もし似たような主を持ってる奴は気を付けて見といてやってくれ。
仮に巫山戯た真似してるような場面に立ち会ったら、頭ごなしに怒るんじゃなくて諭してやってくれ。
そしたら、主達もちゃんと話聞いて受け入れてくれるからよ。
最後にこんな話の締め方して悪かったな。
取り敢えず、俺からは以上だ。
此処まで話に付き合ってくれた皆、ありがとサンクス!
・368:通りすがりの刀剣男士です。
俺、ちょっと主んとこ行ってくる……。
何か無性に主の顔見たくなったから……。
・369:通りすがりの刀剣男士です。
僕も……。
・370:通りすがりの刀剣男士です。
わしも、ちっくと主んとこに戻るき落ちるぜよ。
話してくれた他所ん本丸のたぬき、おおきににゃあ!
・371:通りすがりの刀剣男士です。
総じて纏めると、僕等は主居てこその存在だからね。
これからも本丸の皆で主を大切にしていくよ。
・372:通りすがりの刀剣男士です。
あるじさまともっとずっとわらっていられますように……!
ぼく、どりょくしようとおもいます!!
・373:通りすがりの刀剣男士です。
俺、通りすがりの審神者だけども、たぬきの話聞いて感動したわ……。
お互い持ちつ持たれつの関係だもんな。
俺が皆の事大切に思ってるのと同じくらい、俺達審神者も皆に思われてたんだなぁ……有難う皆。
こんな俺と居てくれて、本当有難う……。
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丁度スレへの書き込みを終えたタイミングで仕事を終えた主が通りかかった。同田貫は、使用していた端末を閉じて振り返る。
「ん゛ん゛ーっ、今日のノルマ終っわりー! はぁ〜疲れた疲れた……っ」
「仕事終わったのか?」
「ん? うん、取り敢えずは今日の分はね。一日のノルマこなすの大変だけど、ちょいちょい休憩挟むのも大事じゃない? 目標値まで期間短いから焦る気持ちはあるけどさ。ちゃんと休まないと効率下がっちゃうし、其れでミスして皆が負傷しちゃうなんて事にはしたくないからさぁ〜。適度に休みつつ、今日も一日頑張りましたよ……! 誉めろくだせぇ」
「ヘイヘイ、お疲れさん」
「んふふっ……何だかすっかり小慣れた風な流れですねぇ!」
「あんたが定期で死んだ目して脳死するからなァ。何遍も相手してりゃあ慣れるってもんだ」
「たぬさんの雄っぱいアッタカイ……」
「俺の胸なんかで疲れが吹っ飛ぶんだったら、幾らでも貸してやらァ」
「アッ、待って、あんま強くギューされると心臓持たな、」
「おりゃ」
「おぶぅッ」
慣れた風に見せかけて未だ照れムーヴを見せる彼女を腕の中に閉じ込め、小さく笑った同田貫は目を細めて愛しげに彼女の事を見つめるのだった。
公開日:2022.06.06