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寝言



※男審神者夢(?)のお話となります。
※カップリング要素は一切含みませんので、所謂“刀剣乱腐”物ではありません。
※しかし、ホラー要素含みますので、苦手な方は回避願います。
※以上を踏まえた上で“ALL OK!”という方のみ、どうぞ。


 始まりは、小さな子供を持つ若い夫婦の話からであった。
 或る時、眠る我が子から可愛い寝言が聞こえてきた。
 母親はその愛らしさ故に、寝言に言葉を返してしまったという。
 不思議な事に、その会話は成立していたのである。子はぐっすりと寝ていた筈なのに。
 別室に居た夫は、聞こえてきた話し声に、“いつもならとっくに寝ている筈なのに可笑しいな……”と思い、暫し耳を傾けて様子を窺った。しかし、聞こえてくるのは妻の話し声だけである。
 最初こそ、なかなか寝付けぬ子にせがまれて喋っているのかと思ったが、どうやら違うようだと気付く。
 夫は様子を見に、子供部屋へと向かった。そして、こう言う。
何時いつまで話しているんだ? もうその子も寝ただろう。其れ以上は寝ているその子を起こしてしまうよ」
「ああ、貴方聞いて…っ。この子がね、今可愛い寝言を言ったのよ。あんまりにも可愛かったから返事を返したら、眠りながらまた話をしてくれてね……! あっ、ほら、また寝言を言ったわ! 今の、貴方も聞いたでしょう?」
「何を、言ってるんだ……? その子はずっとすやすやと大人しく眠ったままだし、さっきから喋っているのは君だけだぞ…?」
「え……っ? でも、だって…今もこの子、寝言を言ったし、貴方だって聞いたでしょう?」
「いや、僕が聞いたのは君の声だけで、その子の寝言だと言う声は一切聞いていないよ。そもそも、眠っている人の寝言に対して返事をしてはならないって話、聞いた事無いのかい…? 寝言に返事を返された人は、そのまま永遠に眠り続けるだとか、魂をあの世に連れ去られてしまうんだとか。でも、今僕はその子の寝言を言う声は聞いていないし、聞いたのは君の声だけだ。だから、今言った話みたいにはならない筈だけれど……君、一体誰と話していたんだい?」
 その後、母親は育児に疲れて心を病んでしまったのだろうと思われたのか、其れまであまり育児に関わらず妻に任せきりだったのから積極的に手伝うようになったという。
 例の小さな子供であるが、今も変わらず元気に過ごしていて、すくすくと成長しているらしい。
 ちなみに、この話の夫は現役の審神者で、いつも仕事にかまけて家事や育児は全て妻に任せっきりだったそうな。加えて、妻は一般の出で、職業も一般職の平凡な人間だったらしい。
 さて、母親が子供の寝言と思い込んで聞いた声は、一体誰の声だったのだろうか……?


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「……というお話を、怪異専門系の掲示板で見かけたんですが、主様のお子様で同様の出来事とか起きたりしてませんか? もし、似たような現象に遭ったとしても、絶対に返事しちゃ駄目ですからね! 最悪、お子様もしくは主様の命が奪われてしまうかもしれないんですから……!」
「うーん……今のところ、ウチの子はいつもすよすよ寝てて、寝言言う事も無くぐっすりの爆睡決め込んでるから問題は無いと思うんだけど……」
「取り敢えず、今僕が言った怪異は、おもに審神者や審神者の関係者を狙って現れるようですので、十分に警戒して行きましょう! 世の中の小さい子の危機とあらば、僕が黙ってる訳ありませんからね……!」
「毛利の小さい子愛が凄まじいのは分かったから……ちょっと落ち着きなさい」
 とある本丸の子持ちな男審神者は、そう言って自身の近侍をなだめた。小さい子大好き過ぎて度々暴走しかける事など、どの本丸の毛利藤四郎でも見られる現象である。故に、彼は慣れた雰囲気で近侍を落ち着かせ、業務に戻るよう促した。
 その傍らで、揺り籠の中ですよすよ眠る我が子へと視線を投げて見つめる。
「眠る子供に化けてかどうかは知らないけども……その手の噂話って昔から絶えないもんだよねぇ〜」
「まぁ、何時いつの時代も変わらないという事ですよね」
「俺は元々そういうのの研究とか云々に携わってきた人間だから、知識も対処法も粗方知ってるけどね。知ってるだけで、今まで一度もそういう現象に遭った事は無いんだよなぁ〜……残念な事に」
「主様は、所謂根っからの光属性タイプの方ですから……怪異とかそういう類の方側が自然と避けていってしまうんですよ。ですから、ほら……ソハヤ様みたいな方には幽霊の類も寄り付かないでしょう?」
「ソハヤは存在自体が眩しい子だからね……幽霊とかが近付こうものなら、近付いたところから浄化して消えちゃうんじゃない?」
「強ち間違ってない点に何とも言えませんが……っ」
「偶には俺も心霊現象の類に立ち会いたいよぉ〜っ!」
「しょうもない事言ってないで仕事してくださいね、主様? 目の前の書類の山から現実逃避しないでください」
「毛利の鬼……!」
「主様はもう既におっきな大人の方ですから、駄々をこねても可愛くないですよ」
「うわぁん!! どうせ俺は可愛くない大人ですよぅ……っ!!」
 政府から回された、膨大な量までの怪異に関する書類を捌きつつ愚痴る男はそう叫んだ。その様子を横目に見ながら、彼の近侍として仕事を手伝っていた毛利は思った。
(まぁ……仮に怪奇現象に遭っていたとしても、主様は大層鈍い上に見えない・・・・質の方ですから……実際遇っていたとしても、気付かないって事のが多いんですけどね。“知らぬが仏”ですので、言わないでおきますが……。ぶっちゃけ、怪異なんて危ないものには遇わない方が得策なんですよ。何が起こるか分かりませんからね)
 己の近侍がそんな風に考えているとも露知らず、男は目を覚ました様子の我が子に甘い目を向けて声をかけた。
「あら、起きたの〜? 気持ち良く寝てたねぇ〜! 御免ねぇ、パパはまだお仕事で手が離せないから、もう暫く大人しくしててね〜っ!」
「もし、愚図るようでしたら、僕があやしておきますから! ご安心くださいね!」
「育児のスペシャリストが居て助かるわ〜本当。つー訳だから、もうちょっと仕事掛かりそうなんで、毛利この子と遊んでてくれる? あっ、可愛いからってあんまり甘やかし過ぎたりお菓子のあげ過ぎは駄目だからね!」
「分かってますよ! 小さい子の扱いは天下一品の僕に任せておいてください!」
「ウチの毛利が頼もしくて何よりだな(笑)。さて……俺の方は引き続き仕事に集中してさっさと片付けてしまおう。んで、早く我が子とイチャラブするんだ……!!」
 審神者の方も負けじと子供への愛情を爆発させながら仕事を猛スピードで片付けていく。しかし、こういう時に限って、事は上手く進まないものである。
 不意に架かってきた電話に、男は忙しくしながらも出た。
「はい、もしもしー? あ〜、チュウ吉、お前かぁ〜。悪ィけど俺、今絶賛忙しい最中だから、急ぎじゃない案件なら後日に…………えっ? 友人の友人の一人が行方不明になった? しかも、何か聞く話によるとガチでヤベェー感じの案件らしい?? クッソ、巫山戯ふざけんなよこの忙しい時にィ……ッッッ!! とりま、怪異調査課の奴に通報しといてやるから詳細教えろ!! 最悪人死に出るかもなら急を要する案件だろ!? 俺が取り次いでやっとくから、今すぐデータ送れ!! 場所と対象者の情報は必須だから、其処抜かすんじゃねェーぞ分かったな!?」
 必要事項を荒々しく告げたところで通話は終えたらしく、彼は苛々した口調でこう告げた。
「毛利! 悪ィけど、子供ん世話は任せた!!」
「主様は何処へ行かれる予定なんです?」
「別件が入った! 急を要する案件だから、俺が直接怪異調査課に取り次ぎに行く事になった!! 最悪人死にが出るかもしれんヤベェー類の案件だ!! ウチの担当とこんのすけには、お前から連絡入れといてくれ!! ちょっと政府行ってくる……っ!!」
「主様のお子様の事でしたら、僕が全力でお守りしますから! 主様もお気を付けて行ってらっしゃいませ……っ!!」
「おうっ! ありがとな、毛利! んじゃ、初期刀連れてちょっと行ってくるわ!! おーい、蜂須賀ァー!! 急を要する別件入ったから出向すんぞォーっ!!」
「えっ!? 本当に急だね!? ちょっと待っていてくれ! 即行で支度整えてくるから……っ!!」
 ドタバタと慌ただしく出掛ける用意を整え、本丸を出て行く審神者を彼の子供を抱いて見送りに出た毛利は、溜め息をいて呟いた。
「全く……貴女様のお父上は相変わらずお忙しい方ですね。ちっとも落ち着く様子が無いんですから、困ったものです……っ」
「あうあ〜っ」
「ふふっ……ご安心を、僕が付いているからには怖い事なんて何もありませんから……! 貴女様の事は、お父上から託された以上、何があっても守ってみせますからね!」
 そう言って、腕に抱いた幼子へ優しく微笑みながらあやす守り刀の短刀は、本丸の中へと戻っていくのだった。


執筆日:2022.06.17