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山鳥は出逢う



 初めての邂逅は、夏も真っ盛りの日差しの照りも暑さも厳しい季節の事だった。

「おっっっっっしゃあァーーー!!!!! お頭GETォーーーッッッ!!!!! 此れで漸く寝れるわ、ヤッタァーーーッ!!!!」
 とある陸奥国の本丸で一つ野太い歓声の声が上がった。
 季節は八月の中旬、お盆前の事だった。
 夏の連隊戦も佳境という頃で、明日はイベント最終日という事もあってか、未だ見ぬ事の叶わぬ刀の存在に当該本丸の審神者は半ば焦りを抱いて執念で脳死の鬼周回を繰り返していた。そんな折である。とうとう念願の山鳥毛を特別合戦場の稀泥にて獲得したのだ。思わず、この本丸の審神者を勤める彼女の口から盛大な歓喜の色を乗せた歓声が上げられた。女子おなごにあるまじき勇ましい勝ち鬨の声である。嬉しさのあまりか、両手は万歳状態で頭上に掲げられており、其れは其れは見事なガッツポーズであった。いっその事、歓喜極まって目に涙すら浮かんでいる様子であった。
 其れはその筈であろう。この本丸の主は、南泉一文字の身内が獲得出来る貴重な機会だった故、絶対手に入れてやろうと必死だったのだから……。
 当初のノルマ目標である十万玉の報酬であった治金丸は既に獲得済みであったが、まだ鍛刀許可が下りておらず、各戦場での泥も認められていない刀剣男士であった山鳥毛が特別合戦場(難易度:超難コース)で稀泥可能との事だったのだ。審神者の気持ちとしては、何とかして頑張って手に入れたい所存だった。
 そうして、徹夜の脳死で鬼周回を繰り返した暁の八月十日の真昼の事、念願叶って福岡一文字派の一振り、一文字一家の組頭・山鳥毛を手に入れたのだった。その時の感動と言ったら、筆舌に語るには語彙力が足らなくなる程嬉しかったのを覚えている。
 兎に角、嬉しかったのと興奮していたのに加えて、徹夜の疲労も加わってだいぶ窶れた惨状だったのだろう。初顕現を果たした山鳥毛は、顕現しての口上を述べて審神者を見下ろした時、些か驚きに目を丸くしていたように見えた。しかし、彼を迎えるだけ迎えて精根尽き果てた審神者は、身内の南泉を興奮冷めやらぬ大声で呼び付けるなり本丸の案内やら何やらの役目を押し付け、後の雑事は初期刀に任せると告げてさっさか自室の離れへと戻って行ってしまったのだった。
 一足早く本丸に顕現していた南泉は、取り敢えず審神者の言い付け通りに事を進める事にしたのか、おのが一家の組頭と相見あいまみえた緊張を滲ませながら口を開いた。
「すまねぇ……にゃ、お頭。主の奴、俺の為に絶対お頭をお迎えするんだって張り切ってたからよ……っ。徹夜気味であんま寝てなかったんだ。昨年末から今年の頭に開催されてた冬の連隊戦でお頭の実装は確認されてたんだけど、その頃は今程ガチで真剣な周回はしてなくてな……。主の体調諸々都合もあって、お頭の事は諦めてたんだよ。けど、今回の夏の連隊戦の特別合戦場で稀だけど泥の可能性があるって知って、主の奴イベント期間も佳境だったのもあって寝る間も惜しんで周回に集中してくれてたんだにゃ。んで、念願叶ってお迎え出来た途端、糸が切れたと同時に力尽きたんだろ……っ。本丸の大将を勤める奴としては情けなく思えるかもしんねぇけど、まぁ大目に見てやって欲しい……にゃ」
「そうだったのか……。其れ程までにおのが存在を求められていたとは、嬉しい限りだな。次に小鳥と会える時を楽しみにしておこう。一先ず、小鳥には今はゆっくりと休息を取ってもらう事を優先してもらうとして……。私はこの本丸にとっては新参者故に色々と分からない事が多いだろう、手始めに子猫に本丸の案内を頼みたいのだが……頼めるか?」
「う、ウスッ! 勿論だにゃ……!」
 身内の者からの案内を受けている最中、山鳥毛の頭には今しがた会ったばかりの審神者の姿が過っていた。出会ったばかりの人の子で、未だ穢れを知らなそうな年若の娘が、今代の主君であり部領ことりたる者なのだろう。その彼女の歓喜に満ち溢れた笑顔と言葉にて顕現を祝され、本丸の一員に迎え入れられた瞬間の事を思い返し、久方振りに胸躍り気持ちが昂るのを感じていた。
 今や既に休息に入っているのだろう、床にて眠る小鳥の存在を思うように離れの在る方角を見つめた山鳥毛は、早くまたあの負けん気の強い力強い光を宿した瞳を見たいと思い逸るのだった。


 ―翌日、昼も過ぎた頃合いになってようやっと起きてきた審神者は、母屋の方へと姿を現した。徐に厨に顔を出せば、大体常駐している感じの厨番長な歌仙と燭台切が起き抜けに対する挨拶を口にしながら彼女の為の食事を出してくれる。
「やぁ、遅よう主。随分ぐっすりだったようだけど、疲れは取れたかい?」
「Oh……ッ、半日以上寝過ごしてすまなんだや歌仙や……っ」
「まぁまぁ……っ、今回ばかりは大目に見ようよ歌仙君……! 主だって、ここ数日ずっと寝不足で稼働してたから疲労が溜まりに溜まってたんだよ! 昨日に至っては、徹夜でずっと脳死の鬼周回してた訳だから、ねっ! 取り敢えず、起きたなら御飯食べるよね主? ハイッ、軽めの朝餉兼昼餉だよ! 別に急いで食べる必要は無いから、ゆっくり食べてね。食器なら、後で僕達が下げておくから」
「いつもすまなんだやで、みっちゃん達……っ。御飯用意してくれて有難うなぁ」
「まぁ、君は放っておくと何も食べずに居たりするからね……! 食事はきちんと摂ってから仕事に精を出してくれ」
「うん……何かめんどくなったら食事する事すらも無精する適当人間ですまなんだ……っ。ほいたら、俺、隣の居間スペースで御飯食べてるね〜」
「あれ、大広間には行かないのかい?」
「いや……一人めっちゃ外れた時間に御飯食べるのに、わざわざ大広間行って食うのもなぁ……と」
「そうかい。なら、食事が済んだら、一度山鳥毛の元へ顔を出しておくと良い。彼は昨日来たばかりで、おまけに主と会って数分程しか顔を合わせていなかった筈だからね。彼の事を思うなら、主として話をするついでに顔を見せに行っておいで」
「せやな。飯食い終わったら、一度顔見せに行くとするわ。昨日はお迎えするだけした後、活動限界来て電池切れてバタンキューしたからな……大して話しとらんどころか、まともな自己紹介もしとらんわ……っ。流石にそらアカンなぁ。主たる者として努めるなら、きちんと筋通しかんと……! あと、いつもの如く、新刃しんじん君の通行儀礼として、初陣と真剣必殺回収とかもあるしな。まぁ、今日はちょもさんの軽いウォーミングアップくらいの出陣だけこなして、後は事務処理だけ行っとこうかな?」
「そうだね。昨日の今日で君もまだ疲れが取れないだろうし、無理は禁物だよ」
 厨のすぐ隣に位置するちょっとした居間なるスペースにて遅めの朝食兼昼食に有り付いていると、不意に厨へ顔を覗かせた刀が言葉を発した。
「すまない、お茶を貰いに来たのだが……お茶は何処にあるのだろうか?」
「おや、噂をすればというやつかな? こんにちは、山鳥毛さんっ。冷たいお茶をご所望なら、冷蔵庫に冷やした麦茶があるよ。温かいお茶が欲しいのなら、其処にお茶っ葉入れた急須を置いているから、電気ポットからお湯を注いで好きに飲んでね。湯呑はこの食器棚に入ってる物から好きなのを使うと良いよ。此処に置いてる物で名前入りの物は個刃こじんの私物だから、勝手に使わないようにね」
「有難う。では、冷たい麦茶の方を頂くとしようか」
「その内、君専用の私物も出来るだろうから、自分の湯飲みが手に入ったら各々で管理してくれ」
「了解した。……ところで、小鳥はまだ就寝中だろうか?」
「いや、主なら今しがた起きて顔を出してきたところだよ。彼女の顔を一目見たいとかなら、すぐ隣の居間に居るから、顔を見せると良い」
「そうか……っ、小鳥は起床したか! では、一家の長として一言挨拶でもしておこう」
「あっ、ちなみに言い忘れていたけども、今の主は食事中だよ……!」
「……では、別の機会に改めた方が良いだろうか?」
「うん? 俺に何か御用かね、ちょもさんや?」
 何やら自身の事を話している気がして居間の方から声を発した彼女は問う。すると、即反応してみせた新刃刀は入口の暖簾をくぐって顔だけを覗かせた。そして、思い馳せていた、会いたいと願っていた人物と会えたのが嬉しかったのか、山鳥毛は強面な顔の表情を綻ばせて微笑んだ。
「おや、小鳥は此方に居たのだな。おはよう。食事中に話しかけても宜しかったかな……?」
「別に構わないっすよ〜。然して気にしてないんで大丈夫ですん。其れで……? 俺に何か御用でしたんで?」
「いや、特別用などは無かったのだが……昨日一度顔を会わせたキリでその後は会えなかったのでな。様子が気になっていたのだ。少しは眠って英気を養えたかな?」
「あははっ……その節はご心配お掛けしてすんませんでした。顕現直後の本丸案内とか諸々全部にゃん泉君にぶん投げで任せちゃったのは、流石に申し訳無かったな……ッ。かと言って、もう体力の限界だったからしょうがないんだけども……」
「徹夜作業で以て私を求めて周回してくれたとの事を子猫から聞いている。我が一文字の身内の為に力を尽くしてくれた事、感謝する……っ」
「あ、や、そんな御礼言われる程の事は何もしてないっすから……! 俺の方は、ただただ執念で周回し続けてただけですからね! 寧ろ、此方こそまともな自己紹介すら出来ずまま自室戻っちゃって御免なさいね! 現在進行形で飯食いながらの最中に話しちゃってて本当申し訳無ェ……ッ!」
「其れこそ気にしないでくれ。そもそもが私の方から話しかけたのだからな。思ったよりも元気そうで安心したよ。昨日は徹夜していた為か、目の下の隈と疲労感が凄まじかったからな……っ。元気そうな小鳥の顔が見られて良かった」
 小動物のように食べ物を頬っぺたに詰め込んでモグモグ咀嚼する審神者の様子に安堵した様子の彼は、そう言って控えめな笑みを浮かべて笑った。其れを食べながら見ていた彼女は、口の中の物を飲み込んで一度食事の手を止めてから改めて口を開く。
「えっと……まぁ、こんな感じのゆるっとした調子のマイペースな奴が審神者な訳ですが、改めて宜しくお願いしますね、ちょもさんっ」
「嗚呼、小鳥に呼ばれたからには、この本丸の戦力兼部下として務めを果たせるよう尽力しよう。改めて宜しく頼む、小鳥よ」
「ははっ、そう呼ばれるの、まだ慣れなくて擽ったいっすねぇ〜」
「では、早めに慣れてくれる事を願おうか」
「ふふっ……善処致します!」

 そんなこんな、の山鳥は、猫の化身たるやと思われるような人の子と邂逅を果たすのであった。


執筆日:2022.08.19