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横綱とシェアハピしたら旦那候補にクラスチェンジされてた件について



 修行から帰って日が浅くも、帰還したその日から出陣任務に積極的に取り組んでくれるからか、前線に復帰したばかりというのに既に勘は取り戻したようで、錬度は早くも現在の極・太刀達の最低レベルに並ぶ程にまで成長した。まぁ、彼が帰ってきたタイミングでレベリング向けイベントが連続しているからなのも彼の成長に繋がっているのであろう。本丸に来てから日の浅い新刃しんじんの特・二人組のお手本ともなるであろう事から、彼等の成長を見守る審神者の身としても非常に良い事だと認識している。極修行を終え強くなって帰還した彼の目まぐるしい成長ぶりについての、微笑ましい近況話はさて置くとして……。
 そんな大包平なのだが、出陣ばかりだったところへの束の間の休暇として与えた非番の日に、審神者の偶の外出に付き添い兼荷物持ち役としてわざわざ名乗り出てくれたのだ。折角疲労が溜まっているであろう体を休める為にと与えた休日の日にも関わらずに、である。気持ちは嬉しかったが、彼の休日を潰してまで付き合ってもらうような用事でも無かった。故に、一言断りの返事を返そうと口を開きかけたのだが、先手を打つように向こうから先にこう言われてしまったのだ。
「修行で本丸を離れていた分、少しでも主の役に立ちたいのだ。お前が嫌でない限り、同行する役は俺が担っても良いだろうか?」
 そうまで言われて断れる筈も無く、結果単なるちょっとした息抜きを兼ねての買い出し如きに付き添い役として大包平が同行する事が決まったのだった。
 目的地へと向かうまでの道中も申し訳なさから再度本当に良かったのかを問うと、彼はこう言った。
「ただの買い物如きだろうが、主の外出に護衛が付き添うのは当然の事だ。其れに……言い換えれば、その短い間だけでも主と二人きりの時間を独占出来るという事だ。主の刀として、此れ程に僥倖な事はあるまい」
 ……なんて事を自信満々の顔で、胸まで張って誇らしげに宣ったのである。いや、元より自分に自信のあるタイプの刀だったとは自負しているが、はてさてここまでだっただろうか……?
 帰還してからというもの、声のボリュームやら立ち居振る舞い等の態度から見て少し大人しくなったものだなと思っていたのだが、此れは些かギャップを感じずには居られない事である。某天下五剣の三日月宗近との手合せの際にも、審神者へ対する遣り取りを交わしていたが、そんな主大好きムーヴかましていたか君……??
 いやはや、修行から帰ってきてから見違えるように大人しくなったと思ったら、まさかの驚きの提供である。しかも、まこと心臓によろしくない方のだ。まぁ、あまり以前程天下五剣の者達に噛み付かなくなっただけマシと言えば良いのか、処構わず喧嘩を吹っ掛ける事が無くなったのは良い事か。
 そんなこんな頭の片隅で考えていれば、あっという間に目的地のお店へ到着。此処で調達するのは、季節限定で発売されるという限定柄の文房具品であった。そして、この審神者が手に入れようと考えているのは、その中でもレターセットの類だった。
「あっ、あったあった……! 良かった、まだ沢山あるみたいだね!」
「何だ、必要な物と言うのは文を書く為の道具だったのか。しかし、其れ等ならまだ本丸にも幾つか備品があったと記憶しているが……」
「お前が言ってるのは、おもに仕事向き用で使う方のでしょ? 俺が欲しいのは個人の趣味用での方! 確かに、レターセットなら既に幾つか買い揃えて持ってるけれどもね。偶には季節に合った柄の物も欲しいなぁって。だって、折角親しい相手に手紙を送るんだもの、どうせなら季節を感じれるレターセットにしたいじゃない? 勿論、季節を問わない柄も何時いつでも使えて便利だけどねっ」
「成程、其れは確かに言えているな。……にしても、お前、時折歌仙兼定みたいな事を言うようになったか?」
「いや、俺は彼奴程雅な文化人じゃないぞ……っ! 単なる手紙ってだけでも風流というか、季節の流れとかそんなものを感じれる物を送れたら良いなって思っただけで……。だって、その方が手紙を貰う相手側も嬉しいでしょう?」
「まぁ、手紙一つでさえ相手の事を考えながら選んでくれているのかと思えば嬉しいものだろうな。送る相手は、長らく文通しているという者へか?」
「そっ。何かとお世話になっているからねぇ〜……と言うよりかは、いつも陰より支えてもらってるから、気持ちを綴り送り合う手紙くらい相手が貰って嬉しい物にしたいなぁ〜と。まぁ、あとは個人的に気になるし手元に揃えておきたいから、というのがおもな理由!」
「主が其処まで心を砕いて送るんだ、その手紙を送られるという友人も喜ぶに違いないだろう。寧ろ、そうまでして手紙を送られる事自体が少しばかり羨ましく思う。其れ程までに主の思いを傾けてもらえ、またその思いの込められた手紙を貰える相手に選ばれるなど……少なからず悋気を抱かなくもない」
「はっ……?」
 今、此奴は何と言った……? そう思ったと同時に、其れを直接問おうとした瞬間。何やら文具店の外が騒がしくなって其方に意識が移った。彼の方も同じく意識を外の方へ引かれたようで、店の外の方を見遣って口を開く。
「何だ? 外の方がやけに騒がしくなったな……」
「あー、たぶん隣の和菓子屋さんの方じゃないかなぁ? 此処のお隣、老舗の和菓子屋さんがあってさ、毎月季節限定物のお菓子販売してるらしくって、その頃になると毎度店の外にお客さん列を成してまで買いに来るみたいよ。季節限定で販売されてる物はそん時限り且つ数量限定で早い者勝ちらしいから、ウチはまだ買った事無いんだよね〜。ほら、手に入るか分かんない程の倍率だし、手に入ったとしても個数少ないから食べれる子とそうじゃない子で喧嘩になるかもだから……っ。ウチも随分と大所帯になりましたからなぁ〜……流石に全員分用意するとなったら容易じゃないわ」
「そうなのか……。ところで、主はその数量限定で販売される商品とやらに興味はあるのか?」
「いや、そりゃまぁ美味しいと評判のとこの品物ですからねぇ、気になりはするかな? 実際考えてみるだけで買うまでは手が伸びないけれども。別にそんな高額な品物ってな訳じゃないんだけどね……並んでまで欲しいかと言われればそうじゃないというかなぁ〜……っ、まぁそんなところだから深くは気にしないで」
「ふむ……」
 そう頷いたきり外の方を興味深げに見つめている様子だったので、どうせ選ぶのに時間が掛かるし……と思い、ただ待たせるのも何だという形で一つ提案してみた。
「大包平、俺まだ選ぶのに時間掛かるからさぁ、暇だったら待ち時間潰すのに好きに他の処見て回ってても良いよ? 会計済ませたらお店の出入り口付近で合流するとかにすれば良いし、ねっ?」
「むっ……確かに、少しくらいならば側を離れても大丈夫か……。お前とて、息抜きも兼ねて出掛けに来た訳であるし、ずっと俺が側に付いていては気が休まらんだろう。では、数分程度だけ、側を離れる。其れ以上は承諾し兼ねる。でなければ、護衛役として付いてきた意味が無いからな。合流は、この店の出入り口付近で良いか?」
「うん。寧ろ、待たせて御免ってくらいだから、大包平が申し訳なく思う必要は無いよ。俺、どうしてもこういうの選ぶのに時間掛かるたちだから。会計済ませたらすぐそっち向かうからね」
「嗚呼、では少しだけ離れる。何かあれば遠慮せずに呼べ。すぐに駆け付ける」
「ん、気遣い有難うね大包平」
 軽くヒラヒラと手を振って見送れば、彼は颯爽と店の外へと向かっていった。恐らく、隣の和菓子屋さんの様子でも見に行ったのだろう。もしや、今しがた話した話に興味でも惹かれたのだろうか。まぁ、無駄に退屈な待ち時間を作るよりかは余程有意義な時間の使い方が出来よう。成り行きではあるものの、一人の時間が出来た事で少し肩の力を抜く事が出来る事に感謝し、自分は時間が許す限り気になる商品を好きに選んでいった。
 そうして、やはり少しばかり時間を要してしまったが、思っていたよりも良い買い物が出来た事にホクホク顔を浮かべる。さて、そろそろ彼と合流せねば彼が心配して見に来てしまうだろう。
 会計を済ますなり気持ち速足で出口へと向かえば、外に彼の待つ後ろ姿が見えた。腕に何か抱えているところを見るに、此方を待っている待ち時間に向こうも何かしらの買い物をしたのだろう。何を買ったのかと気になる手前で、ふと彼の後ろ立ち姿に目を魅かれて立ち止まった。
 大包平と言えば、その体躯の立派な事は知れた事。刀身その物を現したかのような長身に真っ直ぐと伸びる背中。長き脚が目立つ凛とした立ち姿に見惚れていたらば、此方が店先に出て来たのに気付いたようで。後ろ背に振り返るなり視線を此方に投げてきた。そして、彼の元へと駆け足気味で駆け寄りつつ、待たせた事への謝罪と共に待ってくれていた礼を述べれば、僅かに目尻を和らげて笑みながら言った。
「いや、此れくらい待った内に入らん。お前が気兼ね無く買い物を楽しめたのなら何よりだ。其れよりも、望んでいた物を手に入れる事は叶ったのか?」
「うんっ! お陰様でなかなかに良い買い物が出来ましたとも……! 大包平の方も何か買ったみたいだけど、何買ったの? あっ、別に答えたくなかったら答えなくても良いからね。個人の買い物で何買おうが自由だし、中には他人には秘密のお買い物だってあるだろうから」
「別に、主へ内緒にする程の事では無いから答えようと思えば普通に答えられるが」
「あ、そうなん? もしかしたらプライベートな事だから訊かん方がえい事かもしれへんなぁ〜と言った直後に思ったんでな。そうじゃないんやったら良かったわ。……で、何買ったん? その袋、記憶が確かやったら、其処な老舗の和菓子屋さんのロゴやったと思うけども……」
「嗚呼、折角の機会だったからな。待ち時間に先程主から聞いた話に出て来た、期間限定商品とやらを買ってみたんだ。数量限定の特別品だ、俺とお前の二個分しか手に入らなかったが……本丸に帰るまでの道中で食べてしまえば他の奴等に知られる事も無かろう? どうだ、丁度近くに休憩用スペースにベンチも在る。少しばかり寄り道くらいしても罰は当たらんと思わないか?」
 そう言って、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべた彼が、老舗の和菓子屋さんのロゴの入った紙袋を掲げて見る。成程、此れは何とも心擽られるお誘いである。審神者はきらりと顔を輝かせてすぐさま頷いた。その様子に満足気な大包平も一つ頷き返して、二人並んで休憩用スペースへとお邪魔し、噂に聞く数量限定品とやらを手にした。
 袋の中からお出まししたのは、今が旬の薩摩芋をふんだんに使った生どら焼きのマリトッツォ風スイーツだった。中に入っているのは、濃厚な生クリームとたっぷりの芋の餡で、どうやら生地の方にも少しばかり薩摩芋が練り込まれて作られているようだ。しかも、味の違いを楽しめるよう、紫芋の方もあると来た! それぞれ一つずつでワンセット売りだったようで、その一つを偶々運良く手に入れる事が出来たのだそうだ。何という強運の持ち主か。此れは二人だけの秘密事決定である。
 歩きながら食べるのではなく、きちんと座って食事にあり付こうとするところにも育ちの良さが垣間見えて面白い。まぁ、其れはさて置きな話だ。味違いの物を見比べながら、どっちが何方を食べるかを問うた。
「うわ、見るからにどっちも美味しそうやけど、大包平どっち食べる?」
「お前の為に買ってきたようなものだ、お前の好きな方を選べ」
「えっ……いやいや、此処は買ってきた本人であるお前が食べたい方を選びな? 俺は、単なるついでの流れであり付けてるだけなんやし」
「別に俺はどっちでも構わん。俺は、特別好き嫌いは無い方だからな」
「ん〜、じゃあ折角やから仲良く分け合いっこしよ! 流石に半分こはしづらい代物なので、お互い一口ずつ交換って事でどや!!」
「お前が其れで良いと言うなら、其れで構わん。……で、お前はどっちにするんだ?」
「個人的めっちゃ迷ったけど、紫芋の方に決めた……! 俺、小っちゃい頃から紫芋使ったお菓子に目が無くって……この季節になると、芋けんぴとか普通に薩摩芋系のお菓子好きで買うんだけどさ、紫芋の味もあるってなるとついついそっちに手が伸びがちなのよねぇ〜っ。まぁ、どうでも良い話なんだけどさ」
「俺としては、またとなくお前の好みを知れて良い機会となったが?」
「ハイハイ、そういうのは今良いから。んじゃまっ、大包平が買ってきてくれた貴重な数量限定品、頂きまっす……!」
 逸る気持ちもそこそこにパクリと一口食べてみれば、忽ち口の中が幸せな甘みいっぱいになった。此れぞ、THE・スイーツ……!!
 堪らず、瞳を輝かせてしまったのは仕方がない。美味しさのあまりに、つい幸せそうに表情を綻ばせながら感想を呟く。
「んん〜っ! うんっっっまい!! ナニコレ、滅茶苦茶美味いんですけど!? こんな素敵な甘味に巡り会えるとは、今日という日に感謝せねばやん……っ!! 買ってきてくれた大包平にも勿論感謝だけども、此れは作り手の方に大感謝なのですわ!! このスイーツを世に生み出してくれた某・和菓子屋さん有難う!!!!」
「そんな大袈裟に喜ぶくらい喜んでもらえたのなら、並んでまで買った甲斐があったというものだな」
「本当に有難うね、大包平!! めっちゃ美味いしめっちゃ嬉しい!!」
「うむ、実に美味だ。此れは、行列が出来るのも頷ける味であるし、並んでまで購入したいという気持ちも理解出来る物だ……っ」
「ふふっ、幸せいっぱいで頬っぺた落ちちゃう……っ」
「そうやって美味そうに食ってくれる奴が居るだけで、あの店の者達は喜ぶだろう。今度、また此方まで足を運ぶ際は礼の一つくらい伝えておくか」
「その時は、俺も一緒に行こうかな? んで、今回のとは別の商品を買ってまた至福の時を楽しむのだ!」
「ほう、ではまたとなく主と二人きりだけで居る貴重な時間を賜れるという事か。其れは楽しみな事だ。その次の機会とやらが来る日までが待ち遠しいな。……其れはそうと、」
 不意に言葉途中で区切ると、その手を此方まで伸ばしてきて、「付いてるぞ」との言葉と共に口端の辺りへ指先を添わせた。そして、唇を掠めるように付いていたクリームを拭い浚うと、そのまま自身の口許へと運んでぺろりと舐める。
「ふむ、紫芋の方もなかなかに美味だな。此れは何方も当たりだったようだ」
 いや、何ナチュラルに恋人紛いな真似しとんのよ。んでもって、何満足気に頷いとんねん。
 脳内でツッコミが渋滞するが、実際には何一つとして口から発さられる事は無く、ただただ呆然と顔を赤らめるだけに留まった。
 今更な事だが、そもそもが、修行より帰還して以来心なしか距離が近いのだ。その事を改めて自覚させられたような気がした。いやまぁ、極めたら以前よりも距離が近めになる子は少なくない。故に、恐らく、彼もその内の一振りであっただけである。ただ、これまでの記憶を思うと、意識しない方が可笑しいというか……有り体で言えばそういう事であった。つまりは、元々イケメンだった奴が更にイケメンになって帰ってきたという事である。
 控えめに言って、心臓に悪い。分かりやすく動揺を露わにした審神者は、チラリと視線を逸らしながら控えめに口を開いて言う。
「ちょっ……大包平さんや、頼むからそういう事サラッとしないで欲しいんだぜ……っ。控えめに言って審神者の心臓が持たんから…………っ」
「何だ、急に他人行儀な呼び方をしおって」
「つーかよ、俺の一口欲しいんだったら口で直接言ってくれや。ほれ、どうぞ」
「むっ……別に、そういうつもりでした訳では無かったのだが……まぁ、良いか。有難く一口だけ頂こう」
 半ば献上するように差し出した食べかけの甘味だったのだが、端から見たら仲睦まじい男女が仲良く“あーん”しているような光景だ。其れに気を良くしたのか、一瞬だけ機嫌を悪くしかけたものの、すぐに思い改めたように素直に差し出す手元へと齧り付いた。そして、再び美味さに感激するようにうんうんと頷いて満足気な笑みを浮かべる。何だかんだ言いつつも、可愛い奴である。
 その事にクスリと笑みを零しつつ「美味しい?」と訊けば、「美味い」との簡潔な感想を一言返された。素直か。思わず、堪え切れなかったように「ふはっ!」との笑みを零す。
 そうこう笑っていたら、反対に差し出された大包平の物に驚いた。見れば、“さぁ、俺のも食うと良い!”という感じの事を書いたような顔をして見つめてきている。
 流れ的に彼の手ずから食べるのが正解だろうが、己から施す方は比較的すんなり出来ても、逆パターンを成すのはちょっと心持ち勇気が要る。何せ、相手はあの大包平だ。“持てあた”を当然と行ってみせる長船の系譜の祖先たる古備前派の刀なのだ、断れば彼の性格上後が面倒な事は目に見えている。
 故に、恥ずかしさから少しばかり抵抗を感じつつも、受け入れる方向で、しかしながら一応は伺いを立てる風にクッションとして敢えて一言問うてみるなどしてみた。
「えっと……コレは食べても良いよって事かいな?」
「今しがたお前から一口貰ったからな、次はお前の番だ。好きなように食え」
「ん……じゃあ、一口貰いまふ」
 羞恥に耐えながら控えめに齧ると、大包平と比べて一口が小さかったからか、率直に「お前、一口小さいな……」との感想を頂いた。五月蠅うるさい、元よりお前より口のサイズが小さいんだよ。
「其れだけで良いのか? お前の為に買った物なんだ、遠慮せずもっと食べても良いんだぞ?」
「うんにゃ、一口だけで十分っス……。最初に一口だけ交換しよって言ったの俺だし……っ。(今になっちゃ、其れすらも後悔してんだけどな!)」
「其れで言うなら、さっき俺はお前の口端に付いているのも貰ってしまったので、其れもカウントしたら二口分貰った事になる。故に、お前がもう一口食べたところで不公平ではないどころか寧ろ公平になるという事だ。ので、遠慮せずに食え」
「何でソコもカウントしちゃうのよ、馬鹿ァ!!」
「唐突に馬鹿とは何だ、馬鹿とは……っ!」
「でも、まぁ、美味しい甘味に罪は無いので……? くれると言うのなら、有難く頂くのですよ……っ!」
「最初から素直にそう受け入れていれば良いんだ」
 飛んだ幸せの分け合いっことなってしまった。こんな事なら、最初に要らん事を言わなければ良かった……。しかし、後悔したとて今更且つ全ては後の祭りというやつである。
 気持ち大口めでもう一口食らい付くなり、すぐさま彼から距離を取って離れる。すると、間髪入れずに彼が口を開いて問うてきた。
「どうだ、美味いか?」
「ん゛ん゛っ……べらぼうに美味いでふ。……此れで満足か?」
「嗚呼、美味い物は誰かと共有した方がより美味くなるからな! お前が満足したならば何よりだっ」
 催促されたが故に仕方なくもごもごと感想を述べたが、ぶっちゃけ二口目はあまり味が分からなかった。……が、彼の気が済んだのなら良しとしよう。ので、此方はもう此れ以上は余計な事は言いまいと、半ば諦観の念を抱きつつ自分の分の残りを完食する事に集中したのだった。


 大包平と楽しく幸せを分け合いっこした後は、他に寄り道をする事も無く真っ直ぐ帰路に着いた。その道中、彼はふと思い出したかのように口を開いて言った。
「そういえば……お前、文具屋での用を済ませた後、店を出た時すぐに俺に声をかけるのではなく、少しの間呆然と突っ立っていたようだったが、何かあったのか……?」
「えっ、あー……いやぁ……そぉーんな大した事では何でも無いのですけれども…………」
「何だ、気になる言い方ではないか」
「いや、まぁ……その、ぶっちゃけ、今話す程の事では無いというか〜……? どっちかと言うと、そんな気にするような事でも無いっつーかなぁ〜……って??」
「勿体振らずに言え。……其れとも、何だ……俺相手では話しにくい話題とかか? 其れなら、まぁ、仕方ない事だが……」
「えっ、あ、そんなしょげる?? え、なっ、何か御免! 俺が悪かった! 言う! 言うから、そんなしょげんといてよ……っ。えっと……正直に話すとですね? あの時、俺の事待ちながら凛として立ってた大包平の後ろ立ち姿凄ェ格好良いなぁって、つい思ってしまいやして……! 其れで、向こうが気付くまでちょっちだけ眺めていたくて、用は済んでたんだけどすぐには声かけずに居た……というか、にゃぁ〜…………っ。いや、そん……本当、何か御免にゃ……っ! マジで、しょうもない話ですまんやで……?」
 ぶっちゃけトークしたら、そりゃ本刃ほんにんに直接言うんだから恥ずかしい以外の何物でも無かろうよ。しかし、下手に話を誤魔化そうとすればする程、何だか彼の取り得の元気さが失われていくように察したので、恥を忍んで事実を打ち明ける事にした。もしかしたら、心配して損したと機嫌を損ねるかも……とも思わなくもなく、若干の不安感からチラリと隣へ視線を投げると。まさかのまさかで予想外の表情を浮かべて固まっていた。
 思わず、此方もフリーズしながら様子を眺めた。すれば、ポカンと呆気に取られた風に固まっていたのから、徐々に我に返ったかのように顔を赤らめていく大包平。その内、照れたみたいに顔半分下を手で覆い隠すようにして視線を逸らし、もごもごボソリと呟く。
「そっ、そうか……っ。流石は、俺が認める主だ……っ! より強くなって帰ってきた事が誇らしく思える言葉、感謝するぞ……! 其れと……そういう事は、出来れば積極的に言ってくれたら、男として嬉しく思う……っ。お前は、俺の主なのだから……もっと自信を持って良いんだ。俺の方も、お前が俺の主である事を誇りと思っているのだからな……? 互いを称賛し合う言葉なら、遠慮せず口にすれば良い。そして、俺はその思いに報いる働きを返せたらと思っている……。此れは、俺本心としての言葉だぞ? お前が少なからず男として認めてくれているのならば、俺は其れに応えよう。覚悟期待して待っていろ。俺は、必ずお前を本気にさせてみせると……!」
 ……うーんんんん?????
 何だか思わぬ方向に会話も展開もぶっ飛んでしまっていて、目を白黒させる。どうしてこうなったんだ??
 気が付けば、何故やら大包平はこれから男として本気を出す流れとなっているようであった。何でだ。というか、いつの間に君、主ガチ恋勢になってたんだ??
 知らぬ間に彼から向けられる矢印が恋愛的意味合いでのガチモードと化している事に、今更気付いたのだが……果たしてコレ、どうしたものか……?
 一先ず、彼が自身の将来的旦那ポジションに落ち着くのか否かについての案件はこの場は保留とさせてもらう事にし、今のところは穏便に仲良しな間柄のまま本丸へ帰還するルートを選ぶのであった。


執筆日:2022.11.08
公開日:2022.11.12