時は、季節の冬の頃。暦で言えば、師走の某日であった。
そんな雪降る寒い日の折に、ふと近侍で恋刀の鯰尾がポツリ呟きを零した。
「いやぁ〜、今日は冷えますね!」
「うん、確かに今日はよく冷えるな。後で、庭で駆け回ってるちっちゃい子達に内に入るよう言っておかんと……っ。こんな雪降る寒い日にずっと外居たら風邪引くしさ」
「ですね! あっ、その時は俺、あったかいお茶とお菓子用意しときますよ!」
「ん、いつも有難うな鯰尾君〜っ」
縁側で二人揃って仲良く外の景色を眺めている折での会話だった。
世話を焼くのが好きだと言う彼の気の利く気遣いに、いつも助けられているなと思いつつ感謝の言葉を言いながら、
こうした気安い触れ合いが許されているのは自分だけだと思うと、どうしたってやに下がる顔になってしまうものだ。
――そう、この本丸の審神者は、鯰尾にだけはとてつもなく甘々であるのだ。其れは、彼が彼女にとって唯一無二の恋刀であるから……というのも理由であろうが。
端から見ても、彼に対する態度のみ、他と比べて甘かった。恋刀故の特権とでも言えよう。
兎に角、
「本当、寒いですね……っ」
常よりほんの少し声のトーンを落とした気持ち低めの小さな呟きは、雪降る冬の静けさに溶ける事無く審神者の耳に届いたらしい。その証拠に、つい今しがたまで窓の外の景色へ向けていた視線を、彼の方へと振り向かせていた。
おまけに、寂しげな声音で以て呟かれた台詞に、こんな返事まで返ってきたのである。
「だったら……二人仲良くくっ付き合いっこでもするか?」
「えっ……?」
思わぬ返事に、きょとんとした顔を向ける彼へ、審神者は言葉を続けた。
「くっ付き合ってたら、お互いの温もりを分け合う事が出来るだろ? 鯰尾君が引っ付いてくれてたら私も温いし、鯰尾君も暖を取れてぽかぽかになれる。お互いにあったまれて一石二鳥じゃん! ……だから、鯰尾君さえ嫌じゃなければ、私とハグしない?」
決して期待していない訳では無かったが、こうまで期待以上の返答を返されては胸に溢れる熱も抑え切れないというもの。
咄嗟に、彼女へと抱き着いた鯰尾は、堪え切れずに小さく笑みを零して耳元で囁いた。
「もうっ……俺の主ったら格好良過ぎですってば!」
「えっ? 御免、今何て言った?」
「えへへっ……秘密です!」
「えぇ〜……? 何其れ、気になる……っ」
「しょうがない人ですねぇ〜! じゃあ、こっそり主にだけ教えちゃいます……!」
そう告げて、彼はより彼女の耳へと唇を寄せて囁く。
「――誰よりも貴女の事が大好きですよ、璃子」
審神者が与えていたよりも甘い響きを含んだ言葉は、彼女を骨抜きにしてしまうには十分なものだったようだ。
羞恥や諸々の感情が一気に爆発したらしい審神者は言葉を失い、そのまま彼の腕の中でずるりと
そんな愛しの恋人の様子に、クスクスと笑みを零していた彼の表情は、恋刀宛ら雄の顔をしていたとか何とか……と、密かにその場を目撃してしまっていた初期刀は、のちに語る。
※『寒いですね』……『月が綺麗ですね』の類語で、『抱き締めても良いですか』という意味。女性からよりも男性からの告白で使われやすいそう。他の類語に比べて、やや行動的な意味を持つ『寒いですね』は、抱き締めるといった愛情表現を示している。
『あたたかいですね』と同じ種類の類語の為、間接的な愛の告白となる。その為、日常的にも『寒いですね』という言葉は使われやすく、相手が告白という意味で使っているのかは、その場の雰囲気でしか判断出来ない。
『寒いですね』と告白の意味で言われた場合、『温もりを分けてもらっても良いですか?』と返事をすると、よりお洒落でロマンチックに感情を表現する事が出来るそうな。
公開日:2022.12.23