其れは、何気無い触れ合いであった。
愛しい者が、愛しい者へと愛情を示す為や、純粋に構って欲しくてだとかの
今日は一段と冷えて寒いからと、湯たんぽ代わりに恋人の審神者を抱き締めた状態のまま、炬燵に入ってぬくぬくと暖を取る。好き合う相手からの求め故、好きにしているが……此れがなかなか擽ったい。元より、首元は人間の部位で最も血管の集まる場所であるからにして、弱いとされる箇所だ。急所とされる所以も大いにあるのだろう。兎に角、擽ったくて堪らなかった。よって、其れとなく身を捩って、声を上げて抵抗を示すも、相手にとっては取るに足らぬものらしく。左耳の耳外をかぷりっ、と甘噛みされた。擽ったさを紛らわす為に、笑い声を上げつつ、また身を捩る。またも、追い駆けられて、今度は耳朶を甘噛みされる。身を捩って逃げるの繰り返し。
とうとう音を上げた審神者が、後ろ手に腕を振り上げて、しつこく構って攻撃を仕掛けてくる大倶利伽羅の顔を押し退けるように反撃に出た。しかし、其れを難無く往なした彼は、反撃してきた彼女の手首を取って、指先へ口付ける。其れに思わず怯めば、再び距離を詰めては、無防備な首筋へ牙を立てた。さっきの甘噛みよりは少し強めの力加減であった。
「ぁッ……、」
此れには、堪らず声を漏らしてしまった。羞恥のあまり口を押さえれば、もっと聞かせろと言わんばかりに弱い箇所を狙って追い打ちを掛けた。ただの擽り合いみたいな戯れだったものが、
狙いを定めた捕食者の目が、ギラリと欲に濡れて、此れから先の展開を暗に物語っている。ついでに、散々擽り苛め抜かれたお陰で、審神者の息は上がり切っていた。ムードは完全に出来上がってしまっているも同然であった。
普段は“馴れ合うつもりは無い”の一点張りな癖に、こんな時ばかりは寡黙さの裏返しみたいな積極的な感情表現の上で迫って来る。その上で、彼は一言口にした。
「……良いか」
何を、と敢えて問う事はしない。流石に其れは野暮過ぎる。よって、羞恥から顔を赤く染めながら、ちょっとだけ後ろを振り向いて。ついでに、あざとく彼の服の上着を小さく掴んで、応える。
「ちょっとだけ、なら…………っ。最後までは、まだ、昼間だから……皆起きてるし、声……聞こえちゃうのは、端的に言って恥ずか死ぬから……っ。口吸いくらいなら……許可しても、良い、よ……?」
「っ……、」
彼が、少しだけ詰まるように唾を飲み込む気配を察する。次いで、かぱりと開いた口が、振り向きがちで居た審神者の首元へ食らい付いた。そう、文字通り、食らい付いたのである。其れは、もう腹を空かせた獣の如く。相手の喉笛目掛けて真っ直ぐにがぷり、と思い切り。一瞬、息の根が止まるかと思った彼女は、ヒュッと喉を鳴らして仰け反る。其れを自分のしやすいように抱き込み、尚歯牙を食い込ませた。
「ぁ゛っ……ッ待、って…………其れ、何か来るかもッ……、」
歯形が付くくらいに強く喉笛に噛み付かれて、生殺与奪の権利を奪われたみたいな感覚に陥って、変な快感がゾクゾクと走る。その先へ踏み込むのが少し怖くて、分かりやすく怖気付いて、何の意味も成さないような制止を掛けた。けれど、彼は此れを聞かなかった。噛み付く位置を少しずらして、もう一つ新たな噛み跡を増やす。おまけに、その上から殊更に痕を残すように、強く吸い付いて鬱血痕を付ける。自分だけのものだという証を示すみたいに、審神者の首筋に赤く小さな花が散らされた。安っぽい言葉で言い表すと、“キスマーク”というやつである。彼女は自分だけのものであると、分かりやすく示す為の所有印なるものであった。
一つだけでは飽き足らず、他の場所にも噛み跡と共に散らしていく。首周りを集中的に苛め抜いた最後、首裏――丁度
すっかり骨抜きの腰抜け状態となった彼女を抱え込むと、静かに立ち上がって奥の間へと消えていく大倶利伽羅。この先に待っている事など、一つしか無かろう。敢えて口にするのも野暮というのも。後は、仲睦まじい恋仲同士の二人のみで宜しくやってくれと、送り出すだけである。……まぁ、此処までの流れを見物するお邪魔虫な輩など、始めからこの場には存在しなかったが。
※愛咬……好きな相手を噛む癖のある人が居る。恋人が好きなあまり、相手の肌に歯を突き立ててしまう此れを“
執筆日:2023.02.07