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心頭滅却、さすれば煩悩も立ち所に鎮まろう



 何処も彼処もまろい。触れれば忽ち手に吸い付くような肌触りは、何度触れようと飽きぬものだ。其れも、白磁器のような真白さであれば、尚の事。柔く甘い香を漂わせる女體にょたいは、甘美以外の何ものでもなかった。己のような者なら、殊更過ぎるものであろう。
 しかながら、人の欲とは底知れぬからこそ恐ろしい。一度欲したら最後、求むる事を止めぬのだ。愛しき娘御の柔肌に触れたい。叶う事ならば、その真白の肌に歯を立て、噛み付き痕を残したい。或いは、強く吸い付き、己の証と称して赤き花を至るところに沢山散らして、他の者達が寄り付かぬよう見せ付けてやりたい。
 忠心を誓っておきながら、なんと浅はかな欲か。我ながら呆れる程の有り様であった。然し、既に押し留める事も儘ならぬくらいには、欲して止まなくなっている。視界に入れるだけで己の懐は熱くなり、腹の内は煮え滾るかのように沸騰し、下穿きの下では己の息子が愚かにも勃ち上がり、今すぐにでも欲を発散したいとばかりに怒張し、視界すらも何処か夢見心地にぐらついた。嗚呼、なんと浅はかで醜き姿よ。こんな一面が知れたら、屹度きっと幻滅されるに違いない。最悪、刀解も視野に入れねばなるまい。其れくらいには、留まるところを知らなかった。
 一先ず、熱が収まるまで人気の無い場所へ身を隠し、ぐっと歯を食い縛って熱が引くのを待つ。そうしてやっと、平常を取り戻すのだ。男子おのこの身で顕現したが故の、謂わばさがであり、なかなか断ち切る事の叶わぬ煩悩である。難儀なものであった。されど、己は修行僧であるからには容易に呑まれてなるものかと思った。こんな欲如きで清き乙女の身の主人を汚してなるものかと、強靭な精神力で以て御す。斯様な事で、の御仁を傷付けてなるものか。其れだけを強く思って、漸く収まりが付く。
  誠、人の心というものは、末恐ろしくてならない。いつか、己の心が思うところより外れ、欲のままに貪り喰らってしまわぬか……其れだけが気掛かりである。


執筆日:2023.06.21
公開日:2023.06.27