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審神者に寄り添い支える刀



「何か今、無条件に泣きたい気分だわ……」
 そう呟いた主の顔付きは、普通通りだった。けれど、いつかも見た死んだ魚の目みたいな暗い眼の色と、その奥に宿る感情が揺らいでいるのに気付いて、そうではないのだと察した。
 主は、自分の感情を外に吐き出すのが下手だから、誰かが寄り添って吐き出させてやらねば、ずっと抱え込んだまま、心身が限界を訴え出すまで溜め込むだろう。
 人の子は脆い。であれば、守ってやらねばという庇護欲にも似た感情を湧くのは必定であった。
 何せ、我等は人の想いにより宿り形作られ、この世に在り続ける事の出来る付喪神なのだから。人の子を慕い、慈しみ、手を掛けて愛し尽くそうとするのは本能によるところだった。
 だから、己も彼女を支える剣となろう。彼女がこの先、真っ直ぐ生きられるよう、幸多かれと加護の祈りを込めて。我等は今日も本丸にて主の帰りを待ち、彼女の生き様に寄り添う。


執筆日:2023.07.16
公開日:2023.07.17