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黄金の海原



 フッと意識が浮上して、目蓋を開けると、黄金こがね色に囲われた蒼が視界を占めた。緩慢な動きで瞬いてから、記憶を遡る。だが、何時いつ自分が寝転んだかは全く以て覚えていなかった。正確には、一切記憶に無かった・・・・・・・・・のだ。
 取り敢えず、体を起こしてその場に佇んでみると、其処は見渡す限り何処までも続くススキ野原の中だった。自分の背丈程もある、高さのある黄金色のススキ。視界に映るものは、辺り一面を占めるススキ野原と空の蒼の二色のみ。後は風音と風に揺らぐススキのサワサワとしたざわめきだけで、静かな場所だった。
 此処は、何処だろうか。覚えの無い場所に一度は首を傾げるも、さして気にならなくなって、暫くそのまま棒立ちで居た。上を見上げれば、秋空のように澄んだ高い空に薄っすらと鱗雲が帯状に伸びて流れている。一応、風の流れは存在しているようで、其れだけで何となく気持ちが落ち着いた。そうして、一時ぼんやりと雲の流れを眺め見送っていた。
 此処は、何も余計な事を考えなくて良いから、気が楽だ。時間の流れも非常に緩やかで、現実のように生き急がなくて良い。急き立てる誰かの叱責も飛んで来ない、とても心穏やかで居れる、そんな場所。人間、皆誰しもが心の何処かで思い望み、手を伸ばすであろう楽園。自分は、そんな場所に居たのだ。
 ススキ野原のざわめきが、何処かへといざなう。其れに導かれるように柔らかな風を纏って黄金色の中心を歩き始める。自分程の背丈もあるススキ野原を掻き分けて進むのは困難を極めるのではと思っていたが、想像よりも簡単に歩を進める事が出来た。何故ならば、己が進もうとした方向へ足を向けると、その先が勝手に割れ道の如く進む先が開けるからだ。よって、難無く黄金色の中を分け入る事が出来たのである。
 この穏やかな空気の中でずっと漂っていたい。そう、例えるならば、海の中で揺蕩う水母くらげのように。ぼんやりとした思考をもたげて、ふとそんな事を思った。いっそ、何もかもを忘れて、このまま何処にも行かずに此処で永久に緩やかな時間を過ごせたなら……。
 一瞬、仄暗い考えが頭を擡げた。その思考を遮るかのように、不意に自分以外の誰かがススキ野原を掻き分けて進むザクザクとした足音を拾った。其れまでには聴こえなかった他者の物音に敏感に反応した聴覚は、鋭敏に研ぎ澄まされたかの如く自分以外の存在の立てる音へ集中する。同時に意識もそちらに惹かれて、歩を進めていた筈の足も止めて振り返る。暫くそのまま佇んでいれば、何言かをぼやいているような小さな声を拾った。その内、声と足音は此方へと近付き、其れまで黄金色の海でしかなかった中に黒と海の青と草色の三色とがひょこりと覗いた。人だ。自分よりも上背のある男性の姿をした誰かを無言で注意深く見つめ続けていれば、その人は海の色をした瞳をひたと此方に向けて口を開いた。
「ああ、やぁーっと見付けた。良かった、何処も怪我してないみたいだね。無事で何より〜……っ」
 少しばかり間延びした口調は、心配していたという風な空気を滲ませてホッと安堵の息をく。言葉の通り受け取ると、どうやら彼は自分の存在を探していたらしい。其れにしても、どうして自分なんかを探してくれたのだろう。至極当然の如く浮かんだ疑問に無言で小首を傾げたら、彼が察してその答えをくれた。
「何で、って顔してんね? そりゃあ、簡単な事さ。君は俺の大事な大事な持ち主で、主だもん。君が俺を何処かに捨てちゃっても俺は波に乗ってス〜イスイッと君の元へ戻って来れるし、俺を何処かに失くしちゃったとしても光って此処に居るよ〜って存在を主張しちゃえば見付けてもらう事も出来る。逆を言えば、俺を動かす霊力源を辿って迷子になっちゃった君を探し出す事も出来るって訳。ねっ、便利でしょ?」
 軟派な笑みを浮かべて答えを述べてくれたその人が、自信満々に言葉を落とす。
「ほら、今もこの通り、ちゃあんと君の事を見付けれたよ。どっ? 此れって何気に凄い事じゃない? 俺ってば、今回に至っては期待された以上の仕事したんじゃないかなぁ〜。という訳だから、帰ったら誉のご褒美に何かくれる?」
 そう言って海の色を纏う彼は徐ろに手を差し伸べてきた。自分は其れを呆然と見つめて突っ立つ。今、自身に向けて言われた言葉全てが滑って聴こえたのだ。まるで、自分には関係の無い物事のように。表情を変えず無のままで見返し続けていれば、思っていた反応をもらえなかったのが意外だったのか、不思議そうに小首を傾げて「あれっ?」と零した。
「ん〜……もしかして、俺の事分かんなくなってる感じ……?」
 自身を指差して問う彼にコクリと首を縦に振って肯定すると、彼は「あちゃ〜」という顔をして頬を掻いた。一方的な会話をしているが、残念ながら自分は彼の事を覚えていない。一先ず、何故自分を探していたのかの理由は理解したが、“だからどうしたのだ”という感じなのだ。此れと言って現状心惹かれる事は何も無い。其れよりも、先程から大きくなっているざわめきの音が気になってしょうがない。一度だけ、彼とは真反対の背後を振り返ってみた。視界に映る景色は変わらず、一面だだっ広いススキ野原が広がるばかりだ。だけども、ざわめくだけの静かな黄金色が無性に誘って仕方ない。すると、途端に手を握られて意識を逸らされた。
 釣られて再び彼の方を見ると、迷子の幼子のように不安そうな顔を浮かべていた。その意図が掴めなくて、さっきの彼みたく不思議そうに小首を傾げたら、哀愁漂う笑みを浮かべて自嘲気味に笑う。
「あはっ……やっぱ俺ってば、君にとって要らない感じ……?」
 “要らない”というワードが強く印象付いて、ピタリと思考が止まった。そのまま哀しげに笑う彼を見つめ続けていると、縋るような視線で見つめ返される。
「でも、御免……俺はもう君以外の処に行きたくないからさ……っ。格好悪いかもだけど、俺を置いて行かないで欲しいなぁ〜って…………駄目?」
 耳元では、尚もずっと後ろ髪引くざわめきが遮るように音を奪おうと響いている。しかし、その音よりも強く自身を引いて離さない意思が目の前に在る。
「もし、このまま君を連れ帰る事が叶わない時は、俺も君の行く先に連れてってよ。……独りぼっちなのはもう寂しくて嫌だからさぁ」
 頼りなく指先だけを握る手袋越しの手は、だけれど今この場を引き留めるには十分の力を持っていた。その手の引く力に僅かに心揺らがされて、意識を完全に彼の方へと向ける。そして、緩く握られただけの其れを柔く握り返して呟く。
「……独りぼっちなのは、寂しい…………し、私も……嫌だ、な…………っ」
「じゃあ、俺と一緒に帰ろうよ。此処も凄く居心地良い場所だけど……やっぱいつもの場所の方が落ち着くしさ」
「帰るって……何処に?」
「そりゃあ……俺達の居場所に、だよ。俺のあーるじ」
 漸く口を利いてもらえた事に安堵した様子の彼が目を細めて微笑む。そのまま彼に手を引かれるまま空いていた距離を詰め、近付くなり両脇を掴まれたかと思った時には彼の正面に抱っこされていた。思っていたよりも離れていた視点が初めて近くなって、不思議と落ち着く感覚を覚えた。
「じゃ、帰ろっか」
「帰る……?」
「そっ、帰るの。本丸に帰ったら、まず最初に諸々の報告と検査が必要かなぁ〜。まさか、主がこんなちっちゃくなってるとか思わなくて吃驚したけど……まぁ、何とかなるから大丈夫っしょ」
「うん……? 私、今、ちっちゃくなってるの?」
「そうだよ〜。本来の主の姿は、俺みたくおっきい大人の女性の姿をしてるんだぁ。今は、ちょっとした不具合で幼子のサイズに縮んじゃってるみたいだけど、ちゃあんと元に戻れるから安心しなよ」
 安定した手付きで抱っこされ、そのまま彼の元来た道を引き返すように歩を進み始める。彼の囁く言葉に耳を澄ましていると、遠い何処かでさざめく波の音が聴こえた気がした。その波の音が徐々に大きくなると共に聴覚を奪っていたススキのざわめきが遠退いていく。
 ふと、金属のような何かが擦れる音を拾って、自身を抱く腕よりも下方の足元を見た。すると、其処には鞘に納められた彼の物と思しき刀があった。彼が腰より提げている物で、歩く度にカシャリッと硬い音を鳴らしていたのだ。その視線に気付いた彼が俄かに口角を上げて言う。
「此れが俺自身で、君とを繋ぐ道標でもあるって訳。この本体があったから、君の元へ辿り着けたの……分かる?」
「お兄ちゃん、刀なの……?」
「そうだよ。今は君の刀で、歴史を守る為に戦う刀剣男士でもあり、君を守る存在でもあるんだぁ。格好良いでしょ?」
「名前は、何て言うの?」
「ん〜、知りたい……?」
「うん」
「じゃあ、教えてあげる。でも……その代わりに、君の名前も教えてよ。もう二度とこんな怖い目に遭わないようにする為の予防策にさ」
 早い話が、“自分の名前を教えるから、反対に君の名前も教えてよ”――という事らしい。まぁ、相手の名前を訊くのだ、自分も名乗らねばフェアじゃないし、礼儀に反する。再びコクリと頷き、交換条件を飲んだ。この返事に彼はニッコリ笑って嬉しそうに告げる。
「ふふっ、約束だよ? 俺の名前は、“笹貫”って言うんだ。字は、笹の葉の“笹”の字に“貫く”って字で“笹貫”。分かりやすいでしょ?」
「うん、すっごく分かりやすいね。というか、見たまんまじゃん」
「ははっ、言うねぇ〜。んじゃあ、今度は君の番だ。君の……審神者としてじゃない本当の名前・・・・・を、俺だけに聴こえるようにこっそり教えてよ」
「内緒話するの?」
「そっ、俺と君とだけの秘密のお話……!」
「ふふっ……他の誰にも内緒ね?」
 抱っこされたままの状態で彼の耳元へ両手を当ててこそこそ話をするように小声で名前を教える。
「私の名前はね――……」
 その頃には、すっかりススキ野原のざわめきなど聴こえなくなっていて、代わりにザザンザザンッと波打つ波の音が大きく聴こえてきた。其れに意識を惹かれて正面の方へ向けば、彼とは別の男の人達が青い海を背景に佇んでいた。
「ねぇ、あの人達はだぁれ?」
「ん〜? 俺達の仲間で、同じく君の刀である内の三振りだよ。つまりは、味方ってところかな」
「何か私達の事待ってるみたいだけど……」
「うん、そうだよ。今からあの三振りと合流すんの」
 何処となく海と竹藪の匂いとが混じったような匂いのする――“笹貫”と名乗った彼に大人しく抱っこされたまま、パステルでカラフルな人達の待つ元へ向かう。彼等が此方へ気付くなり一瞬だけ驚きに目を丸くするも、すぐに険しい真剣な表情に戻って口を開いた。
「さあ、早く……っ! これ以上は保ちそうにない……!!」
「急いで中へ……っ!」
「ハイハイ、今行きますよっと……!!」
 波間を割るように開いた光る輪っかの空間へ向かって急ぎ足で駆けていく。水色とピンクと黄それぞれの色を纏った三人の男達に急かされるまま海の中に現れた不思議な光の中へ飛び込んで行った。
 そうして、瞬き一つ分の間に周りの景色は移り変わる。
「ハイ、とうちゃーくっ。いやぁ〜、最後ちょっとだけ焦ったなぁ〜っ」
「しょうがないだろ? あれ以上は空間を繋げる力が保ちそうになかったんだから……っ。だいにーにが極めてなかったら、たぶんもっと早くに保たなくなっててやばかっただろうなぁ」
「まぁまぁ、俺達三振りが協力して何とか本丸までの道を繋ぐ事は出来たし、その間に笹貫が主を探して連れ戻って来るっていう目的は果たせたんだから其れで良いだろう? 治金丸〜」
「ところで、主は無事か? 見ない内に随分と様変わりしてしまっているが、まぶやー落としてきたりとかはしていないか?」
 見覚えのある風景が目に入った途端、自分の周りを囲むようにして居た琉球三振りと真上からする声とがそれぞれに自身へ降ってくる。其処で、漸く自分の確かな存在感を感じた。まるで、まるっと忘れてしまっていた記憶がすっぽり戻ってきたみたいに。そうして、初めて自身の体が笹貫の腕に抱っこ状態で抱えられている事を理解した。
「――あれ、何で笹貫に抱っこされてんの……? あと、何かやたら視点低くなってる気がすんだけど、気の所為??」
「おっ? 記憶元に戻ったっぽい?」
「えっ?」
「主ってば、ついさっきまで俺の事も含めた本丸の事何もかも全部忘れてたんだよ? まぁ、其れは怪異の領域に囚われてた所為だったんだろうね。現に、本丸に戻ってきた瞬間思い出したっぽい感じだし? あのまま中身まで記憶退行してたらどうしようかと思ったけど、思い出してくれたみたいで良かったぁ〜! いや、コレ本当っ!」
「……ま??」
「マジ、大マジのマジだって。記憶だけでもすぐに元に戻って安心したよ〜っ。体ちっちゃいまんまなのは意味分かんないけど。まっ、その内元に戻るっしょ」
「はっ……? え゛、待って……? えっ、もしかして今俺の視点がやたらめったにひっくくなってんのって、俺そのものが縮んじゃってるから、だと……っ!?」
「うん、でーじ縮んでしまっているなぁ〜」
赤ちゃんあかんぐゎみたいで可愛いよ、主〜! 短刀の俺よりもちっさくなっちまって、最初こそでーじ驚いちまったけども、中身はちゃんと主のまんまで安心したさぁ〜!」
「まさに、“あぎじゃびよー”な事になっているなぁ。此れ……どうしたら元に戻れると思う?」
「さぁ? 政府に問い合わせんのが一番手っ取り早いんじゃない?」
「俺達にはどうにも出来ないものなぁ〜。此ればかりは専門家に頼る他無いかぁ」
「一先ず、主が無事に帰還したって事だけでも皆に伝達しとかなきゃだなぁ。俺、ちょっと行ってくるよ。ついでに、山伏と祢々切丸とか霊刀・御神刀の皆にも声かけてくるねぇ。その間、主の事頼んだよ、笹貫〜!」
「ハイハイ、頼まれましたよ〜ってね」
 混乱の極みに居る内にホイホイと事が進んでいく。どうやら、自分は気付かぬ間に怪異の領域に囚われていたらしい。“らしい”というのは、全く身に覚えが無いからである。笹貫曰く、ついさっきの今しがたまで怪異の領域に自分は居て、何もかもを忘れてしまっている様子であったと言う。己が探しに行かなければ、屹度きっとあのまま何処までも無限に続くであろうススキ野原をただ只管ひたすら彷徨う事になっていただろう――とも付け加えられて、心底ゾッとした。最終的に見た目が縮んだだけで済んだのなら、被害は最小限に留められたという事だ。其れだけは不幸中の幸いである。どれくらいの日数で元に戻れるかは、現状分からない状況だけれども。
 そんなこんな、混乱の極み状態から少しずつ落ち着いて現状を受け入れ始めていると、帰ってきてからもずっと変わらず抱っこしたままで居る彼の事が気になって声をかけた。
「笹貫君、俺もうちゃんと皆の事認識出来てるし、何処にも行かないから降ろしても大丈夫だよ……?」
「うん? んー……もう少しこのままで居ても良い? もうちょい君が此処に居るんだって事確かめてたいからさ」
「そっか……。そういう事なら、満足するまで好きなだけ抱っこしててもええよ。結構心配かけたみたいで、すまんやで……っ」
「うん、すっごい心配した。だって、やっとの思いで君の事見付けたと思ったら俺の事忘れてるんだもん……っ。でーも、何処も怪我せずの五体満足で帰ってこれたんだから、良いよ。其れよりも、俺ちゃあんと君の事見付けてみせたんだから、ご褒美にいっぱい褒めてよ。俺、此れでも結構頑張ったのよ? 主から流れてくる霊力の龍脈を辿って怪異の領域内を探し回ったんだから」
「有難う、笹貫君。お陰で助かったよ。沢山頑張って偉い……!」
「まぁ、もしまた怪異に攫われるような事があっても、対策はしたから大丈夫だと思うけどねぇ」
「え……何……お前俺に何かしたんか?」
「笹貫……お前、主が幼気いたいけな姿になったからって変な気起こしたりとかしてないよな? 幾ら軟派な奴だからって、流石に自分の仕える主君に手ぇ出したりとかはしてないよな? なぁ??」
「誤解だって……ッッッ!! 流石に幼女の姿の主に手を出そうなんて真似はしないって!! 冗談抜きで本当だから信じてくれッ!! …………まぁ、二人だけの内緒の約束はしちゃったけども」
「よし、へし切を呼ぼう。彼奴なら容赦無く呵責してくれる筈だ」
「待って本当に待って全力で待って、お願いだから極長谷部のお仕置きだけはご勘弁ッ……!!」
「治金丸、呼んできたぞぉ〜っ」
「此処で兄弟の連携とか要らないからァッ!!」
「主ィーッッッ!! こんな幼気なお姿になられてお労しや……っ!! 主をこのような目に遭わせた狼藉者は俺が圧し切ってみせましょう!! 手始めに、無垢なお姿になられたのを良い事に手籠めにしようと画策した笹貫を血祭りに上げてしんぜましょうッッッ!!」
「あ゛ーッ!! 頼むから此処は主のお口添えを……!!」
「御免。俺、怪異の領域に居た時の事何も分からんアル」
「諦めろ、笹貫」
 長谷部が駆け付けた事で、抱っこ役担当は自然とした流れで千代金丸へとチェンジした。そして、当然の如く治金丸も笹貫の制裁へと加わったので、そっとその場を離れる。その後、笹貫の断末魔の叫び声が本丸中に響き渡ったが、敢えて触れずにそっとしておく事にする。
 後日、時の政府の怪異専門部署に連絡し、精密検査を依頼して診てもらうと、見た目の件は数日〜一週間程で元に戻るとの診断を受けて一安心。取り敢えずは、短刀よりもちっちゃくなってしまった間の事は緩く受け止め、大人しく構いたがりの子達による揉みくちゃの刑に処されるのだった。


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【怪異調査報告書】

担当者:怪異対策調査課_調査専門部署所属_■■班・班長■■

【記】

‌・発生日時:二二■■年■■月■■日未明頃
‌・発生場所:陸奥国管轄区域内_登録ID■■■■■■■_『■■■本丸』
‌・対象者:陸奥国サーバー所属審神者_審神者名『■■』
‌・該当の怪異:『黄金の海原』
‌・備考:対象者は、発見当時、自身が審神者である事に加え、歴史修正主義者との戦争に関する記憶全てを失っている状態であった事。又、外見の幼児化に伴い知能や内面的機能まで退化していたものと思われる。審神者に関する記憶全てを失った原因は、恐らく身体の幼児化に引き摺られて記憶領域の部分も幼児の頃まで退行した可能性が濃厚。その証拠に、対象者所有の本丸敷地内へ帰城した途端、対象者は一時的に失っていたと思しき記憶を戻したとの証言有り。(証言者は、当時近侍を務めていた刀剣男士であり、対象者を怪異領域内から直接連れ戻した刀剣男士でもある。当該刀剣男士は、対象者本丸に所属する一振りであり、対象者が突如行方不明となった際に救助役として活躍した者なり。今件の救助に関わった刀剣男士や救助方法についての詳細は別紙記載の資料を参照されたし。)尚、身体の変化は帰城後も継続。此方は、怪異の領域内に囚われた影響によるものと判断した。以後、経過観察済み。一週間以内に元の成人女性姿に戻ったとの報告有り。現状、特に変化は見られないとの事。
‌・留意点:対象者本丸所有の登録刀帳番号【212】が今件に於いて対象者審神者へ言霊の縛りを課し、真名を掌握した模様。以降、神隠しの可能性も危ぶまれるも、今のところ異常無し。主従としての関係上にも変化は見られない。継続して監視を続ける。

以上。


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【怪異対策報告書】

担当者:怪異対策調査課_怪異対策専門部署所属_解析班・班長■■

【記】

‌・該当の怪異:『黄金の海原』
‌・発生場所:陸奥国管轄区域内他、各サーバー管轄区域内にて発生。
‌・被害対象:おもに審神者が怪異領域内へと囚われている模様。極稀に刀剣男士も被害対象となっているようだが、原因は不明。引き続き、解明を求む。
‌・被害範囲:大半の者達が生還したものの、怪異の対象となった者達は皆一様に怪異の影響を受けた模様。記憶の一部に欠陥が見られたり、身体が一時的に幼児化するなどの影響が見られている。しかし、いずれも回復の兆しを見せているとの事。引き続き、経過観察を続ける。※尚、報告は上がっているものの未だ生還していない者達についての処遇は、消息不明と判断→死亡者扱いへ変更されたし。
‌・備考:該当の怪異の領域内に囚われると、ただ只管ひたすらだだっ広いススキ野原が広がるだけの空間に閉じ込められる。上空を見上げると、基本的には秋空のような鱗雲が帯状に伸びており、非常に穏やかな空気が流れているとの事。又、その雰囲気に飲まれてか、其れまで抱いていた不安や焦燥等何もかもを忘れる傾向有り。長時間そのまま怪異領域内に囚われていた場合、徐々に記憶を失い、自我をも忘れて領域内を彷徨い続ける模様。よって、此れ等の分析結果から、対象者の発見が早ければ早い程被害は最小限に済むものと見られる。逆を述べれば、発見が遅くなる程に怪異からの影響による侵蝕率は高まり、生還後の快復までの期間が長期化するものと判断する。引き続き、解明を続ける。
‌・留意点:審神者ばかりを対象とし、又、著しく記憶を奪う点から歴史修正主義者勢力に加担する怪異ではないかとの意見が多く挙がった。此れにより、取扱いレベルを引き上げ、関係者各位に警告を促す処置を求む。

以上。


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【怪異報告書】

担当者:登録ID_■■■■■■■■■

以下、報告の挙がった怪異についての処遇を記す。

【記】

‌・該当の怪異:『黄金の海原』
‌・危険度:乙(Euclid)→甲(Keter)へ変更。※変更理由は別紙参照。
‌・隔離方法:今のところ不明。現状は“游”のままを維持しつつ監視を続ける。
‌・判別色:橙(orange)→黒(black)へ変更。此れにより、特殊部隊を編成。再調査の下、当該怪異の封印が可能かを試みる。以降、報告は実働部隊へ引き継ぐ。

以上。


執筆日:2023.09.30
公開日:2023.10.01