▼▲
そこだけヘタレる君



「いらっしゃいませ〜っ。」


レジを担当して立っていると、色んな客がやって来ると心の底から思う。


「あ…っ、いらっしゃいませぇ〜っ。」


嗚呼、ほら、また新たな客がやって来た。

今度のお客は、男女連れのカップルのようだ。

慣れた事のように、近い距離で寄り添って入店してくる。

しかし、TPO構わずベタベタとするタイプじゃないのか、二人は手を繋いでいない。

うん、コレは好感度アップのカップル客だ。

世の中、処構わずイチャ付く若者が多くて困り物だ。

しがないアルバイターな私にとっては、ムカつくものでしかない。

大事な客だからと笑顔で接客はするが、本当ならその営業スマイルさえもそんな奴等に使いたくない。

そういう苛つく対象と比べて、あのお客は正に理想。


『光忠ー、私あっち見てくるね?』
「パンコーナーの方?うん、良いよ。見ておいで。僕は、飲み物見てくるから。」
『欲しいのあったらそっち持ってくから。光忠の分も何か適当に見繕っとくね。』
「うん、解った。」


おっと、彼女さんが入店して早々、何か一言言って別れたぞ?

カゴは彼氏さん持ちか…。

彼氏さんの方も、いつもの事なのか、ナチュラルに頷いてたけど…良いのか?

アレか、彼女さんの方は案外塩対応系女子か。

あ、それなら見てて飽きないし、視界に優しい。

と、なると、もしや彼氏さんは尻に敷かれる系男子か…!

何だか意外だなぁ…。

見た目、結構俺様っぽいのに…。

あ、パンコーナーに行ってた彼女さんが戻ってきた。

Oh…ッ、彼女さん、持ってきたパンをカゴに突っ込んだら、即、別のコーナーに向かっていったぞ!?

え、彼氏さん置いてっちゃうのか…!?

って、彼氏さん、まだ其処居んのかい…っ!

どんだけ飲み物選ぶのに時間かかってんだ!!

あ、漸く扉開けた。

遅いよ、彼氏さん…。

そういや、彼女さんの方は何処行ったんだ?

店内をぐるりと軽く見渡せば、レジからよく見えるお菓子コーナーに居た…。

お…?

彼女さんは甘いのがお好きか?

あ、ソレ、女子が皆よく買うヤツだ。

美味しいよねぇ〜、ソレ。

私もよく買って食べるわぁ〜…。

アレ…私、彼女さんとお菓子の好み似てるんじゃね…?

親近感湧くなぁ…。

あ、彼氏さん、やっと合流したな。

何選んだんだろう…?


「飲み物って、お水で良かったよね…?」
『え…?あぁ、うん…。つか、お前、水選ぶだけでどんだけ時間かかってんだよ?』
「ん?他の飲み物も一応見てたんだよ。チューハイ系のお酒とか、新発売の紅茶とか。」
『新発売のモンに釣られるて、お前は女子か。』


まさかの、み・ず…ッ!!

今の声小さかったけど、確かに今の、水って言ったよな彼氏さん…!?

マジでどんだけ時間かけてんのよッ!!

彼女さんのリアクション、GJです…!

つか…ガチで淡々としてる系なのね、彼女さん…っ。

全ての対応がクールだ…!

お…っ?

もう買う物は全部見終わったのかな…?

彼女さん、彼氏さん連れてこっち来る…。

あれ、やっぱり彼女さんが先にさっさか歩いてきちゃうタイプ?

大丈夫か?

彼氏さんよぉ…。


「いらっしゃいませ、こんにちは〜っ。お会計させて頂きますね〜。」
『お願いします。』


おっ、カゴの出し方丁寧な人だな…。

ちゃんと“お願いします”まで言ってくる人とか、今時珍しい。

コレは、また好感度アップだな。

表情はいつもの事ながらポーカーフェイスを保って笑顔のまま、内心すんごい程に観察分析して見る。

流れ作業の如く、バーコードリーダーでバーコードを読み取っていると、自然とどんな物を購入したのかを知る事が出来る。

成る程、パンは彼氏さんの分も含めて選んであげたんだな。

優しい彼女さんだ。

で、彼氏さんは何を選んだのかと思ったら、ペットボトルの水を二本、アルコール入りのとノンアルのをそれぞれ一本ずつのチューハイに、新商品の紅茶を一本って…。

もしかして、この新商品のを買うのかどうか迷ってたのか…!?

女子かッッッ!!


『ん…?光忠、お前、結局新発売がどーとか言ってたヤツ買ったのか。』
「うんっ、どうしても気になっちゃって!」


会話が逆だぞ、彼氏さんー!

ソコは、普通、彼女さんが言う台詞だろーッ!!


「お会計、全部で■■■円になりま〜すっ。」
「あ、お金は僕が出すよ。」
『おぅ。』


あ、ソコは彼氏さんが出すんだね!?

あー、良かった…!

もし、そこも彼女さんに任せてるんだったら、危うくポーカーフェイス崩れるところだったわぁ〜!!

あっぶね…ッ!!


「ありがとうございましたぁ〜っ。」


ふぅ…っ、色々と面白い組合せのカップル客だったなぁ…。

さて、次は、どんなお客が来るのかな…?


―とあるコンビニ店員のお話であった。


「いらっしゃいませ、こんにちはぁー。」


ドラッグストアに勤めてると、大体のお客は決まってくると思う。

大抵の客が主婦勢で、たまに、おつかい頼まれた系の学生さんだったり、化粧品か薬を買い求めに来ただけの女性だったり…。

稀に、男性客が一人だけでこっそりと来てたりもするけど、そういうのは、そう、アレだ。

溜まったモンを吐き出す為の、あの、アレだよ。

要は、セックスに使う系のモンだよ。

男って大変だよな…。

まぁ、かく言う俺も男だけど。

とか一人虚しく考えてたら、入口の自動ドアが開いた。

あ、お客さん来た。

あー、女の人が一人でか…。

奥の方に向かっていってたところを見て、生理用品売り場かな?

もしくは、二階の化粧品売り場か。

目薬とかも、よく買ってく人多いよね。

俺もよく買うわー。

ドライアイっていうのかね…すぐ目が渇いちゃうんだよな。

アレ、地味に辛い。

お…?

思ってた側から、さっきの人、目薬コーナーに行った…?

もしかして同士かな…。

同士だったら、ちょっと嬉しい。

む、今度は飴ちゃんのコーナーか。

飴ちゃん美味しいよね、俺もよく仕事の合間食べてる。

アレ、地味に癒されるのよ…。

やっぱ、疲れには甘い物が効くよねー。

あ、さっきのお姉さん、のど飴見てる。

喉の調子悪いのかな…?

職業柄、喉やられると辛いわー、俺。

だって、店員って、絶対声出さなきゃならないじゃん。

アレ、地味に嫌だよね…。

って、俺、さっきから地味地味うるせーな…。

とか、また一人寂しく考えてたら、さっきのお姉さんどっか行っちゃった。

二階にでも行ったんかな…?

かと思ってたら奥の方から出てきたお姉さん。

ん…?

レジの方向かってくるっていう事は、お会計かな?

はーい、俺のお仕事ターイム。

ちゃっちゃとバーコード読み取りますかー。


「いらっしゃいませ、お会計失礼しまーす。」
『お願いします…。』


お…っ?

お姉さん、もしかして人見知りする系ですか?

俺もなんすよー。

いやぁ、人見知りだと人間関係苦労しますよねぇー…。

上司との上下関係とか、もうやってらんないですよねー。

本当、何で社会人になったら働かなきゃならないんすかねぇー………って、え゙…ッッッ!?

思わず、たった今カゴから取り出した商品を二度見する。

え…ッ!?

ちょ…っ、コレ、お姉さんみたいな人が買う品じゃなくない…!?

今、俺が手にする物は、先程来客前に考えてた、男性客が稀にこっそり買っていくという類の品だった。

ソレが、ナニとは言わないが、まぁ、セックスの時男が必ず使うとされる…アレだよッ!!

しかも、そのセックス時に必要な物をフルセットでご購入ですか、お姉さん…ッッッ!?

ご本人、至って涼しい顔してらっしゃいますけど、嘘だろ…!?

え、何なの?

俺が勝手にお姉さんと思ってたけど、実はお兄さんでしたー!とか、そういう事ですかぁーッ!?


「ぇ…えっと、ぜ、全部で■■■■円になります…っ。」


いかん、動揺し過ぎて声が震えてしまったぁー…ッ!!

どうしよう、コイツ変な奴だな…とかって思われないかな!?

嫌だーッ!!

この状況で、ソレは絶対に嫌だーッッッ!!

もう俺のHPはゼロに近いぜ…!


「ぁ、ありがとうございましたー……っ。」


半分魂の抜けた状態に死んだ魚の目で見送ったお姉さん。

迷いなく真っ直ぐに出口へと向かっていく。

自動ドアが開くと、その先には、偉くイケメンで背の高いお兄さんが、申し訳なさそうな顔をして入口先に立っているのが見えた。

な、何だ何だ…?

レジから少しだけ身を乗り出して外を覗いてみる。


『何だ、お前車で待ってるんじゃなかったのか…?』
「いや、その…いつもソレ買ってもらうの頼んでるのが、申し訳なくなっちゃって…っ。」
『そう言うなら、最初からお前が自分で買ってこいよな?ったく…何でこういうのを買うのは躊躇っちゃう訳…?他の物は平気でひょいひょい買ってくる癖に。』
「だって…恥ずかしいじゃないか。お店の人に、そういうの買いますって出すの。」
『買うんだから当然の事だろ。つか、女である私が買う方が恥ずいわ。マジでこういうのだけはヘタレだよね、光忠は…。』
「わっ、悪かったね!ヘタレで…っ!!」


な…、なんですとぉー…ッッッ!?

ま、まさかの…ッ、イケメン彼氏かと思いきやの、飛んだヘタレ彼氏さんだったぁーッッッ!!

その真逆で、彼女さんはめちゃくちゃイケメンだったぁーッッッ!?


「…世の中、色んな人間がいるモンだ…。」


最早、悟りを開けそうな気分でした。


―とあるドラッグストアの店員のお話であった。


執筆日:2018.04.30