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極修行から帰ってきたと思ったら何でか蔵に仕舞われた主の話する?



※尚、今回は修行手紙(一部がっつり)or極ボイス(若干レベル)のネタバレ有り。
※まだ修行を終えていない方はご注意ください。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。


 極修行から返って間もなく、見せたい物があると言われて、光世ちゃんの兼ねてからのマイホームな蔵・其の一へ呼ばれた。彼が見せたい物と言ったのは、修行に出る前に完成させていた蔵内に施したDIYの事であった。
 元々ほぼ光世ちゃんが生活する専用の蔵と化していたが、いつの間にこんなに進化していたのか。吃驚なくらい快適空間が其処には出来上がっていた。極め付きには、ちょっとした秘密基地っぽいロフトまであって、皆に隠れてお昼寝するのとかに丁度良さそう。書庫のような静謐さが落ち着く空間を作り上げていて、居心地抜群である。基本的に用も無い限り蔵には立ち寄る事も無かったので、新しい発見だった。
 そうこうして感動していたら、ふと背後に回った光世ちゃんに無言で見下されて、「どうした、光世ちゃん? 何かあったん……?」と首を傾げて見上げる。その問に返ってきた返事は、まさかの予想外の言葉だった。
「あんたをわざわざこんな人気の無い場所に連れてきたのは、一つは完成した此れ等を見せる為で……。もう一つは、単純にあんたの事を此処に仕舞いたかったからだ」
「……へっ? 仕舞う?? 俺を?? 光世ちゃんが自主的に仕舞われるとかではなく……??」
「そうだ。初めから、あんたを仕舞うつもりで連れてきた」
「えぇっ……そりゃまた、何で……」
「何故って……其れは、あんたの事を、少なからず好き慕っているからに他ならないさ。俺は、修行に出る前からあんたに大切にされてきた自覚があるが、自分なんて奴があんたの側に居るのは相応しくないと決め付けていた……。だが、修行先で己と向き合い、極めて帰ってきてから考え方を改めた。俺は、これからもあんたとは末永く共に居たいし、出来る事なら……その隣は俺が良いと思ったんだ」
 まさかの大告白大会という展開に脳内処理も情緒も付いて来ず、ただ只管ひたすらにポカン……ッ、と呆気に取られたような顔で見つめ返す事しか出来なかった。けれども、じわじわと顔に熱が集まってきているのを感じて、咄嗟に驚きムーヴとして顔半分を両手で覆い隠すという対処に出る。特別可笑しくもなく、流れ的には自然な動作だったので、特に指摘は受けなかった。
「え……待って……い、何時いつから、とか、訊いても大丈夫系……?」
「あぁ、別に構わないが……俺も自覚したのは、かなり最近の事だから、そんなに経っていないぞ? だがまぁ、其れでも大事な物は仕舞っておくという原理であんたも俺の内側に仕舞っておこうかな、と……」
「えっ? もしや、其れが本来の目的で呼んだ感じです……?? というか、え? 此れ、マ……?? え、は??」
「俺自身が蔵であったとの話は、修行中の手紙で書いただろう? つまりは、そういう事だ。好きだから、大事だから、他の奴に見られないよう、自分の目の届く範囲で一番安全な場所に仕舞っておく……ただ其れだけの話さ」
「いや、いきなりのカミングアウト過ぎて訳ワカメ……ッ!!」
「そうだな……今はそう、まだ理解不能なままでも構わないよ。俺も、すぐにどうこうなろうとなんて虫の良い話は求めていなかったんでな。だが……今回の事を切っ掛けに、少しでも意識してもらえたら嬉しい」
「ひょえッッッ……!? 光世ちゃんが本気出すとか只事ではないんだが!? というか、少しで収まる筈なくない?? ただでさえイケメンで格好良かった光世ちゃんが、研鑚を積んで帰ってきてより輝きを増してるし、何より極めた事で前向き思考になった事に加えてのイメチェンが漏れ無くヲタクの性癖に刺さって控えめに言ってやばいんだが……!? もしや、帰って五秒も立たない内に、俺の口から出る言葉が“格好良い”の語彙しか出て来なくなったのをお忘れ……?? これ以上俺をどうさせたいの?? 主、困惑中だよ!!」
「面と向かってそんな風に褒められると、照れるな……っ」
「ふぎゅッッッ!! 唐突にストレートに照れないでくれ、俺の心がキュン死にしちゃうからァ!!」
「ふふっ……すまない。予想外にもあんたがときめくという名の動揺を露わに狼狽えてくれている様が嬉しくてだな……。もっと早くに伝えておけば良かったと、早くも後悔しているところだ」
「あ゙ぁ゙〜っ、素直に感情表現出来るようになったところプライスレス〜〜〜ッ!! 本当帰ってきてくれて有難うな、光世ぢゃ゙ん゙!!」
 ヲタク的クソデカ感情を声高に吐露しても引かないでいてくれる優しさもプライスレス。寧ろ、何処となく嬉しそうに口角を上げているのだが、そんなところも愛おしいを通り越して尊みの極みである。審神者は総じて己の本丸の刀剣達には親馬鹿を発揮するものだ。ウチの子可愛かろ? 親馬鹿なんてなんぼのもんじゃい。
 ――なんて、いつの間にか脳内トリップを決め込んでいたら、先程からずっと変わらず背後に御坐す光世ちゃんから控えめな力でトントンと肩を突付かれ、我に返る。流れで再び上向く要領で此方を覗き込んでいるであろう彼と視線を合わせた。すると、顔を上げたところで、何故か肩を突付いていた人差し指でぷにり、と頬を刺された。ちょっと、今そういう可愛い事しないで。情緒ぶっ壊れるでしょ。そんな主張を口に出せる筈もなく、代わりに何も漏れ出さぬようキュッとお口を噤めば、彼から飛んでもない爆弾を落とされた。
「ところで……急かすつもりはないんだが、今の俺の告白に対しての返事は貰えるんだろうか? まぁ、すぐには気持ちの整理が付かないだろうから、考える時間をくれと言うのなら、幾らでも待てなくはないが……。ただ、俺も一人の男なんでな。古い刀である分、其れなりの執着には覚悟しておいてくれ。……その、自制が出来なくなったら…………すまん……っ」
「ひょえッッッ…………光世ちゃんが自制出来なくなる程の事とは一体……?? というか、其れは最早“光世ちゃん”というより“大典太さん”では??」
「あんたって、一定ラインの一線を超えると、其れまで気安く呼び捨てしていたのから敬称を付けたがる傾向にあるようだが……自覚しているか?」
「えっ? あ〜……まぁ、確かに……歌仙さんとか宗三さん辺りがそんな感じではあるけども。別に敬遠してそう呼んでる訳じゃなくってだな……っ」
「あぁ、知ってる。あんたなりの敬意の表し方で、且つ、好意の示し方なんだろう? ちゃんと分かっているから、わざわざ説明しなくとも大丈夫だぞ」
「そ、うなら良かった……?」
「まぁ、あんたに照れながら“大典太さん”と呼ばれるのは、なかなかに悪くない響きだと思っている……。少なからず其処に好意が含まれているのだと分かってからは、擽ったく感じるがな」
 イメチェンしてからというもの、顔が見えやすく髪を纏め上げるようになったからか、これまで髪で隠れていた表情がはっきりと分かるようになり。また、根暗さが少し薄れて明るい表情も増えてきたように思える。
 何より一番顕著に分かりやすいのは、声のトーンだ。極める以前はボソボソと口の中で言葉を発していたイメージだが、極めてからは声量も上がって言葉を聴き取りやすくなった。そんな状態で、クスクスと微笑みを零されては、色んな意味で情緒が爆発しそうだ。控えめに言って心のオアシス。
 まず前提として、保護者面した姿勢が前面へ押し出される。「ウチの子がこんなにも立派になって、主嬉しい……!!」という感情大爆発である。そして、その後遅れてくる、極めてからの物理的距離感の近さにわちわちとしだす。後者については、端的に言って慣れないだけだ。慣れれば何て事はないのだろうが、其処に友愛や親愛感情を超えた恋愛感情が含まれているのだと知れば、対応は変わってくる。普通に無理。何が無理かって、こんな美丈夫に言い寄られてコロッと落ちない訳がないという意味でだ。
 だって、手紙の内容だけでも(純粋な感動という意味で)審神者泣かせだったのだ。自分の為が第一だろうが、審神者の為を思って強くなって帰ってきてくれた事には、一言では言い表し切れない思いで感動も一入ひとしおである。必然的に自動的という感じで好感度も上がる気がする。否、確実に好感度バロメーターは上昇の一途で下がる事はない。
 という事はだ。最初から答えは決まっているようなものじゃないか。ただ、其れを今此処ですぐに口に出せるかは、己のメンタル次第だが。其れを理解しているのか、歩み寄る速度は此方に寄り添う姿勢を見せる彼は、必要以上に迫るつもりはないらしい。元来の控えめな性格が顕著に表れていて、また其処も好感を持てるポイントになろう。無理。好き。こんなん惚れない訳がないやろ……。心の中の感想がダダ漏れであった。しかし、直接口には出していないからか、敢えて待つ姿勢のようだ。
 高身長故の威圧感は変わらず、けれど極力怖がらせたくはないとの意思を見せて、覇気を抑えているように思える。おまけに、好き慕っている事は本当だとのアピールのつもりなのか、純粋に好きな人への触れたい気持ちが抑え切れなくなっての事なのか、背後から己の懐へと囲うようにマントで包む形で抱き竦められた。黒一色だった衣装から白色へと印象を塗り変えた存在が、愛しさ溢れんばかりの優しく細めた目で訴えかけてくる。
 元々彼は口より目で物を言うタイプであった事も、此処に来てその威力を増している。好き好きアピールが凄い。此れで拒否れる奴居る? 否、居る筈がない……ッ!!(反語)
 そんなこんなで、私審神者は、結果的には己の手持ちである大典太光世と交際スタートという流れに至るのであった。天下五剣の一振りと交際とか、正気かよ……。今からでも遅くはない、引き返s。
「――一度懐に入れると許した相手をキャッチアンドリリースの要領で放すというのは、横暴過ぎないか……? 仮に、あんたがその気なら、俺は本気でこの蔵に仕舞い込んで出さなくする構えだが……良いのか? 流石に、軟禁とか手荒な真似は避けたいんだが……ただでさえ俺は強面な部類に数えられる見た目をしているし、必要以上にあんたを怖がらせたくはない」
「一瞬でも馬鹿な事を考えようとして御免なさい!! だから、天下五剣としての本気を出さないで!! こんなところで天下五剣の真価発揮しなくて良いから……!! アッ、別に怖いという意味での拒絶ではないから許して!! 単にちょっと陰キャで喪女な自分が解釈違い起こしてちょっと色々と脳内が事故って“ア゙―ッ!!”てなっただけですんで……っ!!」
「つまり、ただの照れ隠しか……。フッ。あんまり下手な真似をされると、本気で襲い掛かり兼ねないから注意してくれよ? 俺だって、好きな女を手に入れる為なら労力は惜しまないし、手段も選ばない。使えるコネは何だって使うぞ」
「お゙っふ……唐突な神様ムーヴやめてッ……俺の貧弱なハートにクリティカルヒットしちゃう……!」
「前々から思っていたが、あんたはつくづく愉快な人間だな……。見ていて飽きない。口にはしてこなかったが、俺は、あんたの笑っている顔を見るのが好きだ。だから、俺の側でも変わらずそうやって笑っていてくれ」
「ねぇ、ちょっと、泣かせに来るのはやめよう?? 主涙脆いの知ってるやろ?? 軽率に泣かせに掛かるような事を言うんじゃない。泣くぞ」
「嗚呼……あんたの泣き顔というのも、なかなかにそそられそうだな……。男の性というやつか、はたまた、本能に引き摺られてなのか……好きな女が自分に翻弄されて顔を真っ赤に染めながら泣く姿は、加虐心を擽られる」
「ぴぇッッッ!? 光世ちゃんがイケナイ表情してる……!! そ、そういうのは不意打ちにして良いものじゃないと思います……ッ!! というか、わざと苛めるのは反対です!!」
「勿論、あんたを傷付けたくはないから、そんな事しない。極力優しくすると誓おう」
「え…………優しく、て……何を……?」
「ゆくゆくは、あんたとまぐわえたらな、と……そういう意味での宣言かな?」
「ま°ッッッ!!???」
 以降の記憶は、思考のバックが宇宙猫と化し、フリーズしたまま意識が旅立って返ってこなかった為、記憶に無い。


執筆日:2024.03.07