如何にも裏方の仕事を片付けてきたと分かるような、血腥い匂いと返り血を付けて帰ってきたばかりの刀に向かって、面布を付けて顔を隠した審神者は言う。
「帰ったかい、我が用心棒。任務ご苦労様。報告書は後で纏めて寄越してくれれば其れで構わないから、一先ずその
そう言って、審神者は懐から取り出した綺麗な手拭いを刀へ投げて寄越した。此れに、文句の一つ零す事無くすんなり受け取った刀は、言葉短めに「有難く」と返して言われた通りに拭った。必要以上に言葉を紡がないのは、この審神者の性格を分かった上での配慮である。故に、返り血の事を血糊と揶揄する如く表現して言われたとて気にしない。拭う為の手拭いなり何なりを貰えるのならば有難く拝借・頂戴するだけだ。
素直に顔の汚れを落としていれば、上段の階より降りてきた審神者が再び口を開く。
「アンタが望んだから狩る者側としての任務を割り当ててやったが、其れで無事任務を終えて、狩人として
淡々とした問いかけに、刀はニヤリ喜色に富んだ表情を浮かべて答えた。
「嗚呼、この上なく感謝しているよ、主人。お陰様で、今とてつもなく最高な気分さ」
「其れは良う御座んした。調子が好調な様なら、早速次のお役目を回しても構わないね?」
「つれないねぇ……。俺がこんなにも分かりやすく高揚していると言っているのに、睦言の一つもくれないどころか、褒美の一つも無いのか?」
「報酬なら働いた分、働きに応じて褒賞金がちゃんと上から支払われてる筈だよ。アンタの懐事情なんてアタシは知らないし、管轄外の話は殊更窓口違いだ。単なる性欲発散が目的なら他所を当たっとくれ。まだまだ欲求不満で斬り足りない程元気って事なら結構だけども。そういう事なら、引き続き任務に当たってもらうとしようか。其れだけの元気が有り余っているという事なら、簡単な仕事の一つや二つこなせるだろう?」
「はぁ……俺の主人はお堅い人だ。分かった。その簡単な仕事とやら、請け負うとしよう。主人の事だ……わざわざ俺に鉢を回すという事は、
すぐ目の前の近くにまでやって来た審神者へ向かって問えば、此れに面布から見える口元だけの口角をニコリと上げて満足気に返す。
「ご明察。流石に流れが分かってきたようだね。僥倖僥倖」
「俺を用心棒に雇うくらいの豪胆さ持ちなんだ。次の仕事も俺に見合うものだと期待しているよ」
「血の気が多いねぇ……」
「“血腥いのもお手の物ってか”と言ったのは主人の方だからな。フフッ……俺の事をよくよく理解してくれているようで嬉しいよ」
そう言うなり、「ハイハイッ、雑談はこのくらいにして次の任務に行った行った!」と手を叩いて無理矢理話を切り上げると、政府勤めの審神者は帰ってきて間もない孫六の背を押して半ば強引に次の任務へ叩き出した。
一見すると分かり難いが、今の一連の流れは照れ隠しに過ぎないのだ。其れを分かっているものの表には出さずに、内心でほくそ笑むだけで素直に従うに留める。此処で決して茶化したりしないのが、二人の関係性と相性の良さを表していた。
存外、この刀とて気に入っているのだ。血の気が多く、いつも血腥さを漂わせている、斬っても斬り足りないと
この刀は、好きでこの審神者の用心棒という枠に収まっている。
願わくば、この審神者の懐刀とあらん事を。
公開日:2024.06.27
加筆修正日:2025.01.08