近侍を務める傍らで、少しばかり所用で席を外したのが数十分程前の事だった。
身内の者から声をかけられたのを始まりに、一家に纏わる年末調整についての事柄を話し込んでいたら、それなりの時間が経過してしまっている事に気付いた上杉家方面の縁者から、「きんじのおしごとのほうは、よかったのかい?」と控えめな指摘を受けて慌てて戻ってきたのが今しがたの事である。
「戻るのが遅くなってすまない……っ」との詫びを口にしつつ審神者の在中する部屋へと入室すれば、やけに静まり返った空気が己を出迎えた事に、一瞬怪訝に思って首を捻った。もしや、あまりに戻りが遅かったが為に機嫌を損ねさせてしまっただろうか。刹那的にそんな懸念を抱くも、だがしかし、そんな些細な事で機嫌を損ねる程狭量な御方ではなかった筈……と思い直しつつ。返事が返ってこなかった事の意味を考えるよりも、審神者の様子を確認した方が早いと考え直し、床に就いた状態で端末を操作し出陣の指揮を執っていた彼女の元へ近寄る。
「只今所用より戻った、山鳥毛だ。一家の者と話し込んでいたら、いつの間にか思った以上の時間が過ぎてしまっていたようだ。近侍の任に付いていながら、長い事席を外してしまい申し訳ない……っ。今回の件について何か気に障る事があれば、近い内に今度詫びの品を献上しよう。そうでなくとも、私の気が済まないものでね。小鳥さえ良ければ、何かしら贈らせて欲しいと思うのだが……。其れはそうと、私が留守にしていた間、寂しい思いをさせてはいなかったか? 仕事の進捗の程は如何かな?」
努めて普段通りの穏やかさを意識して声をかけるも、やはり返ってくるは無言なり。何なら、体すら微動だにせずの反応が返ってくるのみであった。この時点で、「おや?」と思い、寒さから頭の上までしっかりすっぽり布団に収まってしまっている審神者の枕元を覗き込んで、控えめに声を抑えつつ再び声をかけた。
「小鳥……? 小鳥、小鳥よ、大丈夫か? もしや、具合でも悪くなったのか? 其れならば、今すぐ薬研藤四郎や実休光忠を呼んでくるが……っ」
あまりの無反応加減に心配になり、気持ち優しめに布団の上から肩の辺りをポンポンと叩いて再度反応を窺うも、やはり変わらず。気になって頭の上を覆い隠す布団を捲って顔色を確認してみれば……何て事はない、ただすよすよと眠ってしまっているだけであった。あまりの反応の無さに体調の方を危惧して一瞬焦ったが、どうやら杞憂に済んだらしい。けれども、此れは此れで些か困ってしまった。
「此れは……所謂、寝落ち……とやらと受け取っても良いのだろうか? どんどん大所帯へとなっていくにも関わらず、度々こうして何度か近侍の任を任せてもらえる事が多い方であった事は嬉しく思うが……この状況はどうしたものやら……参ったな」
今代の主こと審神者が酷く体調を崩してからは、近侍を務めるのは専ら病斬りの逸話持ちの霊刀だったり、信頼の厚い古参刀等が多い傾向にあった。今回自分が近侍に付けれたのは、偶々顕現順での順番が回ってきたに過ぎないだけに、近侍役となるのも久し振りの事である。其れ故に、現在の状況を如何様にもし難く。彼女の事を体調の件諸々込みで把握しているであろう者に助言を乞うべく、一旦捲った布団は元に戻して、蜻蛉返りする形で再び審神者部屋を抜け出て、
すると、思ったよりも近い場所に居たようで、目的の
「あぁ、良かった。此処に居たのか。少々君達へ伺いたい事があるのだが……今、話しかけても大丈夫だろうか?」
「山鳥毛か。そんなに改まってどうした?」
「俺達に用向きとは珍しいが……確か、今近侍を務めていたのは、あんただったな。主の事で何か気になる事でもあったか?」
「話が早くて助かる……。その、少しばかり所用で席を外している内に、小鳥が寝落ちてしまったようでな。体調の事もあるし、どうしたものかと思ってしまってね。出来れば、小鳥の通院の際によく付き添っている者に何かしら助言を賜われればと思い、尋ねに来たという次第だ。記憶違いでなければ、
「あぁ。俺は、主たっての求めに応じる形で、病院へ行く際はいつも付き添い役として伴しているぞ。曰く、俺が側に居る事で幾分か緊張が和らぐそうだ。病院という場所へ行く事自体に杞憂は無いらしいが、診断結果を聞くまでは不安で落ち着かないとの理由で俺を伴にしたいのだと言っていた。まぁ、俺は求められれば其れに応じるのは当然と思っている故に、一度も断わる事無く今日に至る訳だが」
「先日の病院行きの際は、あんたではなく俺が伴として付き添いに行ったが?」
「其れは、主の体調が鼻炎持ちのアレルギーの方から微妙であったからして、万一を危惧して少しでも善くなればと病斬りの力を持つお前を頼った結果であって、基本的には俺が付き添い役を務めているんだ……! たかが一度付き添いを頼まれたからと言って図に乗るなよ、天下五剣め!!」
「刀によって持ち得る逸話や力が異なるのは今更の話だろう。変な嫉妬心を向けられて理不尽に怒鳴られる理由にはならないな……。理解したのなら、出直してくると良い」
「此奴ッ……! 修行を終えてからというもの、妙に前向き姿勢のポジティブになりおって……!! 其れで主の気を惹けたと思うなよ!? 主の一番は、この俺だ!!」
「前向きに変わった事の何が悪い? そもが、この事自体は主自身が褒めていた事だぞ? 其れの何が悪いと言うんだ。言ってみろ」
「喧嘩なら買うぞ!? 何なら今すぐ道場で手合せしたって構わん!! その鼻っ柱へし折ってやる……ッ!!」
「ふんッ……上等だ。手加減無しで相手してやろう」
「無論だッッッ!! 精々吠え面かかせてやるから、今に見ていろ!!」
大典太光世から放たれた一言を切っ掛けに、途端に一触即発な展開となった事に、そういえばこの御二方は逸話の事情から犬猿の仲であったのだったかと今更ながらに思い至る。仕事や戦の事では別段問題は無い関係性だが、殊審神者の事となると話は別になるらしい。
己と異なり、既に修行を終えた身である御二方が本格的に喧嘩勃発してしまう前に事態を収めねば話は進まないし、収拾が付かなくなりそうだと判断したところで、控えめに挙手して仲裁するように言葉を挟ませてもらった。
「あの……喧嘩は止めないか? 馴れ合えとまでは言わないが、“極力仲良くするように”とも小鳥が言っていたと思うのだが……」
「すまん。うっかり私情に流され、話の腰を折ってしまったな。続けてくれて構わん」
「俺も変に話を脱線させて悪かったな。察するに、主の体調の件で話を聞きに来た……というところなんだろう? 其れで、あんたの聞きたい事とは何だ? 単刀直入で構わないから話すと良い」
「あ、あぁ……。話を戻すが、私が席を外していた間に小鳥が寝落ちてしまっていたようなのだが……あれは、そのまま寝かせたままにしていて良いのだろうか? それとも、まだ仕事途中の事もあるし、起こした方が良いのだろうか? 体調の件もあるし、些か心配になって、この件に詳しい者の意見を仰ぎたく思ってだな……」
「そういう事ならば、一応直接様子を確認してから判断するとしよう。状況によっては対処の仕方も変わってくるんでな。何も問題無ければ、そのまま自然と目が覚めるまで寝かせておけば良い。これまでは、単なる周回による疲労での寝落ちで済んだが、今は薬の副作用で寝落ちる方が圧倒的に多い。その所為で、このところは起きている時間よりも寝ている時間の方が多く見受けられる。だが、精神安定剤とやらは、元々そういう作用のある薬だからな。元々眠れなくて困っていたぐらいだし、弱った体が回復を求めて眠ってしまうのもよく聞く話だから、こう言っては悪いが丁度良いとも言える……。おまけに、先日専門科にかかった事で一つ追加の薬を貰っている。其れも眠気作用のある薬だと説明書に書かれていたのを確認している。よって、主の寝落ちの件については致し方ない事だ」
「そもそもが、今は体調面を気遣った体勢を探して配慮した結果、体を横にした状態が一番楽であると気付いたからそうなっているだけらしいしな。布団に入っているのは、今の時季何も掛けないまま寝てしまっては風邪を引くからとの観点から、結果的に
「主曰く、本丸に帰っている時が一番落ち着くらしいからな。周回疲れはこれまで通り健在だが……今の寝落ちる原因の一番は、やはり薬の影響が大きいだろうな。昨年一度だけかかったキリで、それ以降かかる事の無かった専門科の病院へかかる必要性が出来た為に、今月の半ば辺りだったか……
「其れ故の“こたつむり状態”ならぬ“布団のかまくら状態”という訳さ。まぁ、夏場の暑さと比べれば、冬の寒さは厚着をして着込むなり、文明の利器という名の暖房器具をフル活用すれば何とか凌げなくもない話だ。着膨れしようがしまいが、主である事に変わりはないし、其れでも寒ければ体温を分け与えてやれば良いだけの事だしな。早い話が、手足の冷えが収まらなければ、同衾してしまえば良いという話だ」
「お前を湯たんぽや
「其れは確かに言えているな。俺は体も何もかもが大きいから、主を抱き込み体温を移してやるのには向いているが、その分主の布団には余る身故に、主専用の布団で同衾するには不向きだ。其れも鑑みると……主の初鍛刀且つ懐刀の前田に頼むのが一番最適解なんじゃないか?」
「うむ。前田藤四郎なら、納得の刃選だ」
先程まで
一先ず、少し話が進んだと見て、一つ自分からも意見を述べようと口を開く。
「小さな若鳥達であれば、五虎退などもどうだろうか……? あれは、謙信公の刀として侍られた刀だが、
「護身用としては問題は無いが、一つ気になる点が一点ある。霊獣なるあの虎のサイズは部屋に入り切るか……? 彼奴、確か俺達太刀でも大柄な方である身にも余る程にデカかったろう? 大丈夫か??」
「逆に、こう捉えたら良くないか? 主は大の猫好き且つ動物好きだ。其処に、アニマルセラピー要素として、あの虎も添える……。セラピー観点から見たら完璧じゃないか?」
「其れだ!! だが、五虎退は今絶賛連隊戦の出陣メンバーとして駆り出されている最中だぞ」
「其れで言ったら、極短刀の連中はほぼ全員が駆り出されている事になるから、前田の力を借りる事も無理という話になるが…………どうする?」
「う〜む……っ。悩んでいても仕方がない! 取り敢えず、こんなところで
「其れもそうだったな……。話を聞いたついでだ。俺も主の顔を見に行くとしようか」
「お前の場合、単に主の寝顔を拝みたいという下心からではないか?」
「だったら何だって言うんだ?」
「別に何も言わん。ただ、下手な事をして起こす真似だけはしてくれるなよ」
「あんたこそ、その無駄にデカイ声のボリュームを落とさんと、
「お前から言われずとも理解している!! 一々一言余計だ!!」
「だから、言ってる側から一言に対する声量が
「ま、まぁまぁ……っ、言い争いはその辺で留めておくように……っ。でないと、小鳥が寝ている離れの間まで響いてしまうぞ」
あーだこーだと意見を並べ立てていった結果、最終的には御二方を伴って元来た道を戻る事になった。
片や、己よりも位も霊力的神威も高い、天下五剣に名を連ねる大典太光世。片や、天下五剣には名を連ねはせずとも負けず劣らずの美しさを兼ね備え持つ、
そんなこんな考えている内に、目的地の審神者の私室兼寝室の前へとやって来る。根は真面目な大包平は、入室前にきちんと「入るぞ」との一言断りを挟んでから戸を開け、敷居を跨いでいった。残りの我々も其れに続く形で後に続き、室内へと入室する。
見遣れば、室内は己が部屋を出る前と何一つ変わった様子は無く、また、床に就いたままの彼女の様子も一切変わらずのままであった。その事に、安堵したような、逆に心配になってくるような、曖昧にも矛盾の入り乱れた感情が胸中を占めた。其れを悟ったのか否かは不明だが、聡い御仁である大包平は、此方に一瞥を寄越しながら一言「安心しろ、ただ眠っているだけだ」と呟いた。
部屋へ入るなり、物音一つ立てず気配すら薄くして静かに眠る彼女の枕元へと跪いた大包平。そっと頭の上に覆い被さった布団の嵩を捲って顔色を確認しつつ、指の甲を頬の辺りへ添わせて体温の有無を確かめた後、問題無かった事を示すべく此方へと再び視線を向けて頷きを一つ。
「山鳥毛が報告してきた通り、ただ寝落ちてしまっただけのようだ……。その証拠に、布団の下に隠れた身は寝間着姿だが、手元は指抜き型の手袋を嵌めたままであるし、首元もモコモコのネックウォーマーをしたままだ。本格的に寝付く時は、此れ等全てを取り払って、代わりに布マスクをしている筈だし。端末も、中途半端に
「見たところ、恐らく薬の副作用も手伝って寝落ちてしまう結果と相成ってしまったんだろうな……。ご愁傷様な事だ」
「良かった……っ。何分、近侍を任されたのも久しく……また、現在の小鳥の体調の件については、一応耳には入れていたが、流石に対処の仕方までは把握し切れていなかったので……面目ない」
「いや。主自身が事を大きくしたくないのと、変に皆へと心配をかけまいとして、本丸全員へ向けての周知を行っていなかった事が裏目に出てしまっただけだ。そう悔やむ必要は無い。何かあれば、俺を含めた他の奴等を頼れば良い。古参刀の奴等の大概は、何も聞かずとも事情は把握しているだろうからな。比較的新参組の奴等の中でも、番長役を任された事のある奴は、ある程度なら把握している筈だ。……皆、一様に憂いてはいるのだ。俺達にはどうしようもない主の現状をな」
「だからこそ……少しでも力になろうと手を貸してやっているのが現状だな。主が元気を取り戻す切っ掛けになるのであれば、皆、手を差し伸べる事を惜しまんだろうよ。俺とて、その内の一振りさ。余り有る霊力が主を支える糧となるのなら、喜んで分け与えてやるとも。こんなに
修行へと出て行く前は、言葉数が少ない印象を抱いていた大典太光世だが、修行を経て
その事に、ふと腑に落ちる感情があって、無意識に「フッ……、」と笑みが零れた。其れに対して双方からのまじまじとした視線を貰ってしまった為、思わずといった形で口を開く。
「ッ……すまない。つい、不思議と腑に落ちる感覚を覚えたが故に笑みが漏れてしまったようだ。不快に思われたのなら、失礼」
「いや、別に謝られるような事は何も無いから別に構わんが……。何故この場面で笑いが口を衝いて出てしまったのかの意味は知りたいところだ」
「ふふ、本当に大した事ではないのだが……。小鳥は、実に周囲の鳥達から愛されているのだな……と、ふと思っただけに過ぎないさ」
「まぁ……当然と言えば当然の事だな」
「当然、とな」
至極自然とした態度と口調で以て返された言葉に、今度は此方がキョトンとする番だった。
「あぁ。ご存知の通り、俺は
大包平がそのように言葉を締め括ると、後に続く形で今度は大典太光世が口を開いて言う。
「俺も似たようなものだな……。俺は、霊力が強過ぎるがあまりにずっと蔵に仕舞い込まれていた事を憂いて、自ら蔵に閉じ籠もる事で誰の迷惑にもならんようにしてきたつもりだった。だが、主の手より外の世界へと解き放たれた事で、俺はそう在らなくても良いのだと知った。もう蔵に閉じ籠もったままで居る必要も無いのだと教えてもらった。だから……そうだな、今は教えられた外の世界の広さを楽しみつつ、人の身の器を得れた喜びを噛み締めながら日々毎日を謳歌している真っ最中だ」
言葉の通り、本当に今持ち得る人の身を謳歌中なのだろう。言葉の端々からも嬉しさが滲み出ていて、聞いていて何だかホッコリとした。
しかし、大包平は違う感情を覚えたのか、胡乱気とも言いたげに目を据わらせて控えめに愚痴垂れた。
「あの山姥切国広よりも陰気の強かった刀が、帰ってくるなり陽気を帯びて言葉数も増やすわ、積極的に周りと関わろうとするわで、修行に出る前とのギャップの落差に困惑している身にもなって欲しいというくらいだ……っ」
「その事については、主にも同じような事を言われたな……。同時に、前向きとなってくれた事が嬉しいとも、男前度が上がって格好良いとも褒めそやされて、浮かれるなという方が無理だと思うが?」
「其れには激しく同意するが……っ、だからと言って突然主にベタベタしだすのはどうかと言い返すぞ……! 控えめに言って、“グッピーが風邪を引くのを通り越して死ぬ現象”である事を知れ……! 主のような燃費の良いヲタクは、少ないちょっとの供給で過多と呻いて安易に倒れては墓入りを決め込むような人種なんだぞ……! 何なら、本丸博展を記念して実装済みの刀剣男士全員の正装(バストアップ)のチラ見せで俺も含まれる事を姉審神者より知らされただけで、うっかり動揺から噎せて過呼吸を起こしかけた程繊細なんだぞ……! 少しは気遣いを覚えろ……っ!」
「あんた、所謂巷で言うところのヲタク言語とやらを使う事もあったんだな……? というか、供給面については完全ブーメランだからお互い様なんだが、その辺は良いのか」
「主の影響だ、悪いか!?」
「いや別に悪いとは一つも言っていないが。寧ろ良い傾向だと思うぞ」
「なら、要らんツッコミをすな……っ!」
「声を抑えた小声という状況下でも
「喧嘩売っとるのか、貴様ァ……ッ!!」
「これこれ……っ。声量を抑えているとは言え、枕元近くでそのように騒がれては、小鳥が起きてしまうぞ」
声を抑えても尚、一度言い合いを始めたら段々とヒートアップしていくのは変わりないようで。慌てて口を挟んで仲裁する言葉を紡いだ。すれば、途端に鳴りを潜めたように大人しくなるのだから面白い御仁達だ。
「一先ず、主の事に関してだが……現状は暫く様子見しつつ寝かせたままにしておくのがベストだろう。その気になれば、自然と此奴は目を覚ます。仕事を途中で放棄するような奴ではないからな。ただ、一旦端末を通して、現在進行形で出陣中の奴等には主が寝落ちてしまった旨を伝える必要があるな……。端末の画面そのものは真っ黒に落ちてしまっているが、電源ボタンを押せば明るい状態に戻せる。但し、一度落ちるとロックが掛かる仕様になっているからな。ロックは俺が解除してやるから、伝達云々そのものは近侍であるお前がやれよ」
「通信を回復させても、
「“雲生”な。顕現してから既に一カ月以上経過しているんだぞ。髭切の奴ではないのだから、名前くらいちゃんと覚えてやれ……っ」
「すまん。名前よりも付属として付いてきたジョブの方の印象がデカ過ぎてな……。とうとう陸や海だけでなく空まで来るかと思って、未だに新刀剣男士発表時の驚きが抜けん」
「まぁ、その件については、主同様に俺も思うところはあるがな……。陸・空・海の三つが揃うなど、まるで現世で言うところの自衛隊のようではないか、という意見も少なくない程だ。主からしてみれば、何方かと言うと、大侵寇が起こる前の青野ヶ原で目撃された巨大な姿で空を飛ぶ飛行物体についての情報の方が過ったようだが……。歴史修正主義者の奴等も、古き過去の時代ばかりに目を付ける事から一転して考えを改めたのかもしれん。厄介極まりないが、歴史が大きく動いた時代程変えられる事象も大きく異なる。敵の手が近代の歴史にまで及べば、主を含めた審神者そのものの存在も危ぶまれる。その件については、大侵寇以降から少しずつ危惧する話が
寝落ちてしまった審神者の枕元に転がされていた審神者個人のスマホ端末を拾い上げると、そのような事を言いながら手慣れた様子で操作し。出陣中の面々が十戦中五戦目を終えて次の指示を待機している画面であるのを確認して、
斯くして、大典太光世より名の挙がった雲生が来るかと思いきや――肝心の本刃が絶賛極部隊等と一緒に第二部隊メンバーとして出陣中であった事を思い出して――更なる代替案として、その雲生の手持ちたる予備のインカムを勝手に
道具は揃ったと意気込んだは良いものの、使い方までは分からなかった我々の代わりに心得ている秋田藤四郎の助力の甲斐もあり。念願の構築された双方式の通信方法で、近侍としての役目を果たすべく。審神者が現状寝落ちてしまっている旨を伝えると同時に、戦の采配を決める審神者が指示出来ない状況にある以上その場で待機する他無しとの事を伝える。
出陣中の面々には申し訳ないが、本来戦の指揮を執っているのは審神者であり、近侍に其れを代行する権限は緊急時を除いて持ち得ない。故に、少しばかり心苦しいが、そのまま待機してもらう他に此方から出せる指示は無いのだ。
向こうも其れを分かっているようで、
『またか〜。まぁ、イベント周回中はお馴染みというか、審神者界隈あるあるの毎度の事だから慣れたモンだな! 取り敢えず、主が起きるまでは現状維持しつつのこのまま待機っつーのは分かったぜ! にしても、主の奴、マジで眠かったんだろうなぁ〜っ。俺達第三部隊は、本来なら夜戦の九戦目から交代の筈なのに、昼戦の四戦目開始前に交代の指示受けたからさ。途中、第二部隊の奴等が戦闘終わった後、指示待ち長ェな〜ってボヤいてるの聞こえた辺りからちょっと怪しいなとは思ってたけど。主が寝落ちちまってんならしょうがねぇや! 主が自然と目ェ覚ますまで退屈で暇しちまうけど、ちっとくらいなら平気だしよ! わざわざ連絡有難うな、お頭さん!』
――と、第三部隊の隊長を務めていた太鼓鐘貞宗から気安い感じの応答が返ってきた。
此方は把握していなかったが、どうやら自分が席を外していた間の数十分の内から既に怪しかったらしい。其れに気付かず、思いの外、長い事離席してしまった事への自責の念に駆られる。近侍役として、ちゃんと側に付いていれば、このような事態は防げたかもしれないのに。
幾ら連隊戦は刀剣破壊無しの催物と言えど、戦をしている事に変わりはない。しかも、今回は夏季の海辺の其れよりも周回が大変な冬季の連戦での戦。出陣メンバーに抜擢されている面々の疲労度を汲めば、嘗て己も同じように出陣メンバーとして駆り出されていた時の事を思い返す。今は、錬度が
そんな自責の念で内心悶々としつつ、半ば頭を抱え込むように額に手を当てて項垂れていると、本丸発足黎明期より審神者と共に在る秋田藤四郎から励ましの言葉をかけられた。
「ご心配なく! 今回の連隊戦から采配制度が廃止された事で、部隊の交代は自由となりましたし、采配専用に使用されていたアイテムも同様に無くなったので、部隊の入れ替え問題は実質
幼き童の姿をしているからと侮られがちな短刀である彼だが、成程、外見年齢が年嵩である己なんかよりも余っ程逞しく凛々しい刀だ。流石は、本丸発足黎明期より顕現する古参組の一振りである。その貫禄も相俟って、彼の発言には物凄い説得力があった。確かに、己の失態を恥じて
審神者たる彼女より近侍を任せられるとの信頼を寄せられての近侍役だ。務めはきちんと果たさねば、其れこそ顔向けなど出来まい。弱気になんかなっている暇は無いぞ。そう己で己を叱咤して、気持ちを入れ替え、一呼吸挟んだのちに面を上げた。すれば、頼りがいのある面々の頼もしい顔付きが此方をひたと見据えていた。其れに負けじと見つめ返すように、
「――すまない。少々自責の念に駆られるあまりに情けない姿を曝した。幾ら前線から退いて其れなりに経つとは言え、失態を犯す程に気が緩んでいた事は、一文字一家の長を名乗る者として恥ずべき行為だが……。この度、気持ちを改め、己に与えられし使命を全うすべく尽くす所存である。……其れはそうと、激励の言葉を有難う、秋田。お陰様で、すんなり気持ちを切り替えられたよ」
「いいえ! 僕なんかがお役に立てるのでしたら、
「何か困った事があれば、周りを頼れ。助言や助力を乞う事は、何も恥ずべき行為などではないし、時にはそうした方が良い事もある。実際に、今この場は、そうして成り立っている訳だしな。失敗がどうした? 一度や二度の失敗くらいで兎や角言う程愚かな者は、此処には存在しないぞ。皆、主の元から顕現した刀だからな。失敗なぞ幾らしたって構わん。其れで学ぶ機会が出来るのだし、己の成長へと結び付くのだから、前向きに捉えれば良い。まぁ、此れは主自身にも言える事なんだがな」
「俺は霊力が余り有る程の霊刀だからな……怖がらずに声をかけてもらえれば喜んで力を貸すぞ。勿論、俺に出来る事であれば、に限るが。まぁ、大抵の奴が恐れを為して近寄り難く思っているとは思うけどな……」
「そんな事はないさ。御三方共、この度は大変迷惑をかけてすまなかった。同時に、助けてもらえた事に感謝している。貴殿等のような仲間に恵まれた事に感謝せねばいけないな……っ」
「其れは、そのような貴重で稀な機会をくれた主自身へ直接面と向かって言う事だな。主は、この程度の事の失敗で兎や角言うようなタイプではないぞ。何なら、あんなに大見栄切って張り切って連隊戦に臨んだ癖して、あっさり眠気に負けて周回途中で寝落ちてしまった事を、逆に悔やむような奴だ。起きたら絶対にまず詫びの言葉が飛び出すに違いない……! この大包平はずっと側で見てきたからな! 此れは確実な話だ!」
「自信たっぷりに胸まで張って言ってるところ悪いが、控えめに言っても声が大きくなってきてて
「だから貴様は余計な一言が多いと……っ!」
「どうどうですよ、大包平さん……! あんまり大きな声を出しちゃうと、本当に主君が起きてしまいます……っ! 今この場での大声を出す行為は、主君の眠りの妨げとなるので、めっ! です……っ!」
「……すまん、ついな……っ」
大柄な体躯の者が童のような見た目の者に諌められている光景は、恐らく本丸という特殊な空間のみでしか拝めないものだろう。其れを些か目映く思って、小さな笑みが漏れ出た。
「ふふっ……まこと、この
「おっ……? 新手の
大典太光世から挑戦的な一瞥と共に何処か芝居がかったような台詞を貰い、噛み殺し切れなかった笑いが漏れ出る。
「ははっ。まさか。貴殿等を敵に回すような事はしたくないさ。実に骨が折れそうであるし」
「だが、お前とて一文字に名を連ねる男だ。その気になれば、横から掻っ攫う気満々なんじゃないか? なあ、山鳥の名を冠する山鳥毛よ?」
流れに乗っかるように大包平からも挑戦的な眼差しと共に煽り文句を頂いた。此れは、はっきりと回答する事は避けた方が得策だろう。そう思い、思うがままの言葉を回答として吐き出した。
「ふふふふっ…………敢えてこの場では回答を控える事にしておこう。でないと、後が恐ろしそうだ」
「敢えて曖昧に答えを暈す事で、現在の立ち位置を悟らせないようにする戦法か……。面白い。今後の参考にさせてもらおう」
「先程から皆さん何だか愉しそうにお話されてますが、一体何のお話をされているんですか?」
「うん? 若鳥には少し気の早い大人な話だよ」
「大人な話ですか……! わあっ……響きだけでも何だかワクワクしてきそうなお話ですね! いつか僕も混ぜてくださいね!」
何も知らない無垢な粟田口の一派たる若鳥は、そう言って足音一つ立てずに素早い身のこなしであっという間に去って行った。極短刀の恐ろしきところを目の当たりにした気がして、思わず一瞬でも閉口してしまったのは此処だけの話である。
結局のところ、審神者が寝落ちから目覚めるまで、思いの外、長い時間待たされる事になった。
というのが、審神者が目を覚ましたのは、寝落ちが発覚してから実にたっぷりと五・六時間程は経過してしまっていたからである。
結果的にガッツリと寝入ってしまった要因として挙げられるのは……秘宝の里イベント最終日の前夜から日付を跨ぐまで眠気と戦いながらもギリギリまで周回を行った疲労があったにも関わらず、このところ毎晩就寝前に服用している頓服薬を飲まずに寝た事と、朝方頃に変な夢を見た所為で目が覚めてしまった事も相俟ってか、あまり眠れていなかった事などが挙げられるだろう。
「全く……相変わらず無茶ばかりする悪い子だ」
「あい……その辺全く成長が無くて誠に申し訳なくゥ……っ」
「いや、何。寝落ちた事そのものを咎める意図は無いさ。ただ、あまりこれ以上の無理を重ねてくれるなと言いたいだけだよ。まぁ、忠告したところで、君が素直に聞いてくれた試しは今のところ無いがね」
「ぴぇッ……! ちょもさんが遠回しに
「はははははっ。私の小鳥は、まだ寝惚けておいでかな? 随分と愛らしい鳴き声を響かせてくれるじゃないか。君さえ良ければ、その愛らしい声をもっと沢山聴いていたいが為に、君の事をこの手で優しく愛でたいと思っているのだが……果たして、お許しは頂けるのだろうか?」
「ぢゅんッッッ!!!!」
何やら何処かで本当に焼き鳥でも焼いているのか、香ばしく焼けた鶏肉のような、何かが焼け焦げた美味しそうな匂いが一瞬鼻先を掠めていった気がしたが……気の所為だろうか。
そして、彼女は謎の力強い鳴き声を発した直後、ぱたりと布団の上へ倒れて数秒間程静かになった。あまりに静かなので、ちゃんと息をしているのか心配になって、
「小鳥? 大丈夫か? 死んでいないか??」
――と、我ながら縁起でもない問いかけをしてしまった。間違ってもこんな程度の事で彼女が死んでしまう訳もなく、無事何事も無かったかのように起き上がったので安心して欲しい。
しかし、起き上がった審神者は、何やら譫言のようにブツブツと独り言を呟いていたが、大包平曰く「ヲタク末期の人間にはよく起きる現象だ」と言い含められていたので、「良かった、思ったよりも元気で安心の限りだ」と思う事にした。
「ふぅ……っ、危なかったぜ。俺みたいに耐性付いてない小鳥勢だったら、今のでガチで焼けて見事な焼き鳥と化してしまうところだったぜ……。危ねぇ危ねぇ……っ。多少なりとも免疫付けてて良かったんだぜ!」
「一先ず、無事に目覚めてくれたようで何よりだ。起き抜けのところ早速で悪いのだが……連隊戦へと出陣中の鳥達への指示をお願い出来るかな? 私が席を外している最中に君が寝落ちてしまってから、既にかなりの時間が経過してしまっている事も気にかかるのでね」
「その件につきましては大変誠に申し訳なく……!!」
「寝落ちに関しては、薬の副作用の所為もあると大包平殿より聞き及んでいる。よって、小鳥は何も悪くはないのだ。だから、そのように申し訳なく思う必要は無いし、
「おぅふっ…………通院時の付き添い常連組からのタレコミ通りッスわ……。ほんま、大包平には色んな意味でお世話なりっぱなしで頭上がらへんわにゃぁ……」
「其れだけ、君の体が弱り切ってしまっている事の表れでもあるという事さ。故に、これ以上の無理は重ねて欲しくないというのが、私からの切なる願いなのだが……聞き入れてもらえるのかな?」
「ヘイ……その節は、ほんまに御免やで、ちょもさんや……っ。けど、イベント周回に関してだけは堪忍してくだせぇ……! 特に、冬の連隊戦且つ今回の連隊戦は、道誉君が確定報酬で貰えるんで……ッ!! その為にも、十万目指して頑張らしてくだせぇ!! そこんとこだけは頼んます!! お願ェしやす、お頭ァッッッ!!」
「こらこら、頭を上げなさい……っ。全く、言っている側から頭を下げるモンじゃないだろう? あまりに聞き分けの悪い子には、仕置きという名のヤキ入れが必要かな?」
「ぴッッッ!? そ、其れは勘弁してつかぁさい……っ!」
「ふふふっ、冗談だ。こんなにも
「いや、ガチのヤーさんと化した一文字一家のお頭なら、ワンチャンやりかねねぇかと」
「おや。心外な事を
唐突な真顔で実に心外極まりない事を言われたので、仕返しにと
「え°ッッッ?? 今の話、俺なんかに振っちゃって良い話なんです??」
「勿論。その愛らしい嘴から囀る声が聴きたいが為の言葉遊びみたいなものさ。そもが、私の小鳥は君だけだ。その他の有象無象の人の子を我が
「ア°ッッッ?? にゃ、にゃぜか、ちょもさんから獲物を狩る如し眼差しでロックオンされている気がするのですが、気の所為です……??」
動揺からか、半ば震えた声音で以て問われので、
「ふふふっ。察しの良い子は嫌いではないよ。流石は我が小鳥だ。何でも御見通しとはお見逸れ致した」
そう、ニッコリと微笑みかけて告げれば。ヒクリッ、と頬を引き攣らせた彼女は、ジワジワと目に涙の膜を張らせてわあわあと喚き始める。
「い、畏怖だァ゙〜〜〜ッッッ! 此れは畏怖だよぉ゙〜〜〜!! 我、プレッシャーに弱んい審神者ぞ! 控えめに言って泣いても良いか!?」
その何とも愛らしい限りの様子に、堪らなく愛しくなってしまって困る。
遠回しに煽るような真似はしないで頂きたいと訴えるべく、改めて口を開いて述べた。
「おやおや、可哀想に……っ。誰に虐められて涙目になっているのかな? 嗚呼、愛らしい
「ひッッッ!?? ……ソレ……お願いちゃう……脅しって言うんやで、節子ォ…………!」
「はて。節子とは、何処の御仁の事を指すのだろうか? 生憎、私は存じ上げなくてね。すぐに理解出来ずにすまないのだが……念の為言い含めておくと、私の名は山鳥毛だ。間違っても、そのような女人らしき者の名などではないので、間違えないようにな。存外、私は嫉妬深い個体らしい故……君を傷付けたくはないから言っているのだぞ? 此れはお願いなどではなく、忠告だ。良いね……?」
「じょ、冗談やて……っ。ネタが通じんのは悲しいが、非ヲタのちょもさんにネタ振った俺も悪かったから許したってやぁ……!」
「うんうん。素直に御免なさいと謝れる事は美徳であり、君の良いところだ。良い子な証拠だな。流石は我が小鳥。惚れ直しても宜しいかな?」
「あぇっ…………もう好きにしたらエエんちゃうかな?? というか、この許可取る遣り取り要る??」
「君の声を聴きたい私にとっては必要な行為だとも」
「ぴ、ぴぃ〜ッッッ……!!」
愛らしいあまりに近侍としての仕事もほっぽり出して彼女を愛でていたらば、何やら不穏な足音を立てて、とてもじゃないが心穏やかとは程遠い勢いで以て何者かの手によって襖が開け放たれる。
瞬間、物凄い声量の爆音が鼓膜を突き破る勢いで発せられた。
「お前という奴はッッッ……!! つい数時間程前にあれだけしおらしく自責の念に駆られておきながら、何抜け駆けするような真似をしているんだァッッッ!!!!」
「ぉ゙あ゙ッ゙ッ゙ッ゙…………み、耳が……し、死んッ…………! OMG…………ッ」
「ッ………………その件については、本当にすまなかったと思っているが、其れと此れとは別という事でお許し頂きたく…………っ。その前に、一旦声量を落としてもらえないだろうか……? 控えめに言っても鼓膜への圧が凄過ぎて耳がキーンとなってしまったぞ…………。陸奥守や八丁殿の発砲音を聞いても此処までなった事はない耳がだ……っ。小鳥も切実な訴えを申し立てているので、此処は事を穏便に運ぶ為にも、一つ私からの願いを聞き入れてもらいたい…………!」
己の腕の中で呻く審神者の痛ましい事痛ましい事……。哀れに思うと同時に、自身の耳への負担を少しでも軽減するべく、切実な訴えを口にすれば、大包平と一緒にやって来ていたらしい大典太光世が彼の背後より顔を覗かせてボソリと口を利いた。
「幾ら主が目覚めたからと言って、起き抜けにその声量はマズイと先に言い含めておいたんだがな……。そら見た事か」
「ぐッッッ……!! 主へと思わぬとばっちりが飛んでしまったのは確かに俺の選択ミスであるし、主へは本気ですまないと反省しているが……! だからと言って、山鳥毛の奴のあからさまな抜け駆け行為を無かった事にするつもりはないからな!!」
「だから、少しは声量を抑えろと言われているだろう? その耳は飾りか? だったら斬り落としやろうか。真後ろに居る俺の耳への事も考えろ」
「貴様も貴様で何度言ったら分かるんだ!? 余計な一言が多いとあれ程言い含めたのに、まだ分からないのなら、いっそ一度脳天かち割ってその脳味噌ぶち撒けてみるか!?」
「思考回路が物騒極まりないな……。おまけに、まるで何処ぞの脳筋一辺倒な刀みたいな事を言うじゃないか。その血の気の多さと言い、誰に似たのやら……」
「たぶん、俺に似ちまった所為やんなぁ〜…………。かの美の結晶たる刀剣の横綱様に、雅の欠片も無い物騒思考を植え付けてしまった事及び発言の仕方を刷り込んでしまった事の責は、全て俺氏にあります……。その節は誠に申し訳なく思うと同時に己の発言諸々を省みて猛省しておる次第です故……何卒、何卒、ご勘弁くださいまし…………っ!」
「いや、何も其処まで卑下する事もあるまい……っ。兎に角、頭を上げろ!」
「でも、何かしら影響を与えてしまっておるのは事実故に、これから迎えるであろう新刃君の為にも諸々情操教育方面は改めねばなるまいて……!」
「我が一門の鳥こと道誉一文字の事ならば、その点についての心配は何も要らないと思うぞ? そもが、一文字一家に荒事は付き物みたいに日常茶飯事で慣れているもの故。小鳥の心配は不要だぞ。寧ろ、小鳥のように勇ましくも我々のような者にも等しく愛情をかけてくれるような御仁は、大歓迎さ。喜んで受け入れてくれるとも。だから、安心して、そのままの君で居てくれて構わない」
「いや、流石に初手は真面目に行かせてくれや。何事も第一印象ってモンが肝心やでな。まぁ、すぐに戦闘面でオラつく本性目の当たりにする事になるやろうから、あんまし意味無いけども」
そう口にした彼女の発言に、何かを察した様子の大典太光世がボソリと呟きを落とす。
「嗚呼……血の気の多さは、俺達を顕現した主そのものが発端だったか。なら、まぁ、しょうがないか」
「其処ですんなり諦めんといてよ、光世ちゃあん……ッ!」
「だって、気休め程度に
「別の意味の方向で信頼の厚さを感じて泣けてくるね!! 生物学上は女なのにその微塵の欠片も感じさせない調子で御免ね!? でも、もうコレ板が付く程染み付いちゃってるから直そう思ても直らへんのよ!! すまねぇな皆の衆ッ!! 俺は、これからもこの調子で俺節を発揮させながら突き進んで行くぜッッッ!! ケセセッッッ!!」
「誰かツッコミ要員の追加を頼む……。俺だけでは役不足だ」
「何とも勇ましい限りだ。戦闘面でのオラつき様は姫鶴に似通っている風に受け取れて、微笑ましさすら覚えるが」
「……どうでも良いが、仕事の方は良いのか? さっきから端末からピコピコ音が鳴ってて
「ハッ……!? 絶賛連隊戦周回中なん忘れてたわ!! すまねぇ出陣しとる皆ァ!! ……って、アレ。何で俺、第三部隊に交代指示出してたん?? まだ昼戦部隊のままでエエのに、何でじゃ?? 眠気で頭馬鹿にでもなっとったんかいねー? とりま、部隊を第二部隊に戻して夜戦ターンまで引き続き頼んますわ〜。いやはや、大変長らくお待たせしてしまってすんませんっしたわ。文句は帰ってきてから聞きますんで。えぇ、えぇ」
うっかりすっかり忘れてしまっていた、本来やるべき仕事の存在を思い出したようで、慌てて端末へと齧り付いて采配についての指示を行う。
恐らく、エラく待ち長い事待たされた出陣メンバー達も、我々と同様に“仕方ない奴め”という風にでも今頃思いつつ、待っていた指示を受け取るなり嬉々として敵を斬り伏せに本体を振るっているところだろう。血の気が盛ん且つ戦闘狂の気がチラ見えするのは、我々を顕現した審神者の影響が少なからずともあるであろうと思われるは事実である。
何せ、今この場に集まった者だけでも、有事の際は躊躇無く刃を振るう、戦慣れした猛者しか居ない。無論、其処に審神者たる彼女も含まれている。審神者無くして刀剣男士は非ず。審神者なる者が指揮を執り、采配を振るうからこそ、時間遡行軍との戦は成り立っている。未だにその戦に果ては見えないが、審神者が摩耗してしまう事など無きように努めなくては。
「小鳥よ……我が一文字一家の者の為に頑張ってくれる、その涙ぐましい努力は素直に受け取るが……再三言うようでくどく思われるかもしれないが、あまり無茶をしないように。でないと、道誉一文字が来る前に君がへばってしまう事になるやもしれんぞ? 其れでは本末転倒だろう?」
「安心しろ。何としてでも奴はGETしてみせるぜ……! 何たって、確定報酬で貰える子だからな!! この機を逃す手は無いんだぜ!! まぁ、童子切は、恐らく十中八九というレベルで確実に年跨いだ来年十周年を記念して目出度く鍛刀キャンペーンでの実装が叶うと思われるので、運次第かな……。一応、札のストックの貯蓄はあるけれども……此ればっかしは運次第となる故、来るも来ないも童子切との縁次第やんな! その点、
「な、なんと……っ、そんなに強い本丸が存在するのか……!?」
「応よ。懐に余裕あるガチ勢共は、課金という名の手段を用いて鬼周回キメて手に入れてんのよ。そんなシンのゴリラネッキ達に、俺も成れるよう日々精進あるのみィ……!」
「ええい! お前は何処の山伏国広だッッッ!!」
「カカカカカッ! ようこそ脳筋パラダイスな山伏教へ!! 行くぜ!! 超難コース及び乱コース脳死周回という名の鬼周回へー!! 目指すは御歳魂十万玉じゃあッッッ!! 今に手に入れてやるからな、道誉君……!! 声帯に楠大典さんを飼ってらっしゃる、見た目某英霊の道満氏ィッッッ!! 俺の性癖を見事貫いたその斬れ味手に入れちゃるから待っとれよォッッッ!!」
「成程……やけに張り切っているなと思えば、そういう事だったか。欲望に忠実なのは相変わらずらしい」
「何やら拙僧の事をお呼びの様子だと聞き及んで参ったが、如何なされたであるか?」
「
「嗚呼……とうとう捌き切れなくなって限界を迎えた大包平が、ブチ切れて外国語を話し始めてしまったな。流石は米国にも渡った事のある刀だ。流暢な英語過ぎて俺にはよく分からん」
「俺の大包平は“
「こっちはこっちで、色んな意味からハイになってしまっているようだな。此れが俗に言う、ご愁傷様というヤツか……」
「取り敢えず、拙僧はお呼びで無かったらしい事だけは把握したのである。それにしても、見るからに大層カオスな光景が広がっておられる様子だが……大丈夫であるか? 拙僧の助けが必要であれば
「筋肉万歳ッッッ!! 筋肉は幾らあっても困らねぇ!! 脳筋上等じゃ、オ゙ル゙ァ゙ッッッ!!」
「嗚呼……遂に小鳥までも姫鶴化してしまって……勇ましい事この上ないな」
「いや、流石に俺かてんな事言わないし。つか、何? このカオスな状況?? 新手の修羅場か何か??」
「おや、噂をすれば本物の姫鶴を呼んでしまったか」
彼女の奇声なる笑い声と大包平の呼び声とが反映したのか、山伏国広本刃を召喚してしまって、よりカオスな状況が出来上がってしまった。最早収拾の糸口が見付からないなと半笑いで遠い目をしていたらば、今度は姫鶴一文字本刃が釣れてしまった。
途端、現場を見るなり露骨に顔を顰めた姫鶴一文字から容赦無い言葉を
「ちょっと、ちょもさぁ……今時間帯何時なのか、ちったぁ考えな〜? とっくの昔に夜中過ぎて、もうすぐ早朝帯近くなろうって時間帯なんだけど……。近侍の自覚あんの?? 無いなら目覚まし代わりに道場行く? しばき倒して目ェ覚まさしてやんよ」
「良いぞ、もっと言ってやれ」
「味方を得た瞬間息を吹き返したように手の平返してきたな」
「さっきから何か光世ちゃんが実況係みたくなってて草生えるわ。ウケる(笑)」
「主も疲労度限界突破してんなら大人しく寝な」
「すまねぇ。でも、せめてノルマ分だけは回させて……。道誉君の為にゃんです……っ」
「え゙ぇ゙ッ……あんなのの何が良い訳? 理解出来ないんだけど……。主には御免だけど、俺、道誉君とかホンット無理だから。悪いけど、味方してやれないわ。御免ね〜。でも、まぁ、マジで程々にしとかないと体が保たないってのはガチだから。そこら辺のストッパー役としての務めくらいはちゃんと果たしなよね、ちょも」
「あぁ。勿論、心得ているとも」
グッサリ痛いところへ釘を差してから速やかにこの場より退却していった我が一家の者に、心より感謝しようと思う。何故ならば、改めて気持ちを引き締めさせてくれたからである。まさに鶴の一声を頂き、いっそ清々しい境地だ。
一先ず、今は程々に事態の収拾を図るべく、腕の中に囲い込んだ存在へ改めて声を落とした。
「小鳥よ。姫鶴の言った通り、目的のノルマを回り終えたら絶対必ず寝るんだぞ? もし、寒さから眠れないようであれば、私が添い寝でもして温めてやろう。そうすれば、自ずと眠気も訪れてストンッと寝入ってしまう事だろうからな」
「にゃるほど……山鳥なだけに、さながら“温め鳥”ってな訳ですかい?」
「ふふ。小鳥は本当に博識で、時折此方が目を瞠るような事を言うから驚くよ。何処でそんな事を覚えてくるのやら、今は敢えて問わないでおくが、他所の
「突然不用意に神様要素持ち出して来ないでください……控えめに言っても心臓無いなるんで…………ッ」
「ふふっ。其れは、小鳥次第とだけ言っておこうか」
「……おい、良いのかアレ。何処ぞの天下五剣の爺さんみたいな事言い出してるが、止めなくて良いのか?」
「もう知らん。勝手にしろ。……と、言いたいところだが、主の合意無くして神隠しなどの行為に手を染めた暁には、現在本丸に所属する全ての刀達からの集中砲火を喰らう羽目になるぞ――という事だけは忠告しておいてやる。無論、その時に手加減容赦など一切無いと思え。……一応、忠告だけはしたからな。後は知らん。主が嫌がる様子を見せない限りは好きにしたら良い。が、一瞬でも拒む様子を見せた時は手を引け。此れは、主の精神衛生上の健康にも関わる事だから言っているのだ。主を害す気なら、例え同じ本丸に顕現する仲間であろうと、敵も同然と見なす。良いな?」
「……了解した。肝に銘じておくとしよう」
「では、俺は先に失礼する」
牽制の意図も十二分に含むのだろうが、それ以上に相手を想った上での気遣いを察して、純粋に天晴だと思った。まだ其処までの境地には辿り着けていない己を些か恥じた瞬間でもあった。
「彼奴も出て行ってしまった事だし……お邪魔虫であろう俺も退散する事にしよう。……嗚呼、散々方々から言い含める形で釘を刺されたから十二分に分かっているとは思うが……あの三日月宗近とて、一度は主自身から拒絶を食らってショックを受けたくらいだ。賢いあんたなら、その二の舞になろうとは考えないだろう? じゃあ、俺も言いたい事は言い尽くしたんでな。自室に戻って出陣の命が下るまで大人しく待っているとするよ。……精々良い夢を見れると良いな」
己と同じような赤い目をしていながらも、その実は全く異なる事を覇気と眼力のみで思い知らされた。此れは、完全に読みが甘かったようである。
「本当に…………小鳥は、刀の類を魅了する事に長けた御仁で尊敬するよ……っ」
「……うん?? 俺にそんなRPG的魅了の力は無いぞえ?? あったら、今頃、一昔前に流行った逆ハー物の夢小説みたいになっとるがな。まぁ、斜め上の回答したら、黒本丸ネタや呪具ネタで未だに残っとるネタやがな。俺はそういうの、とうらぶホラーネタ以外で見るの趣味じゃないから、その手の話題で盛り上がりたいのなら他所当たっとくれにゃあ〜。ワイは窓口違いですんで」
「………………うーん、手強いかな……。だが、その分、燃え滾るものがあるのも事実……といったところか」
「はて……?? 何の話をしとるのやら??」
「此方が勝手に呟いているだけの話だよ」
「ふぅん……。まぁ、よう分からんが、ノルマ分の周回終わらしたらちゃんと寝ますんでね。今度こそ、ちゃんとオフトゥンに入って寝ますんで……今は大目に見てちょ」
「了解した。本当の意味で
「えっ……まさかの俺が冗談で言った“温め鳥”ってヤツ、本気でする気ですかいな??」
「小鳥は賢い子だからな、一度言った言葉を取り消すような愚かな真似はしまい……? 神との約束は、例え言葉遊びの延長線であろうとなかろうと、口約束でも一度結んでしまえば、反故にするような行為はお勧めしないぞ。分かったのなら、今後言葉には十二分に気を付けるように。特に、君のように言霊の扱いに長けた者は、意図せず言霊が発揮されてしまう事も多々あるからな。当然、前例の覚えがないとは言わせないし、今更下手な誤魔化しから私を躱そうとしても聞き入れるつもりは無いので、そのつもりで」
「ウッス……肝に銘じて脳味噌に刻み込んで覚えておくッス」
「うん、賢明な判断だ。小鳥はお利口さんだな」
そう言って、
まだまだ警戒心の強さを残す、獣の如し本能を垣間見せてくれる内は、大人しく彼女の手の内で飼い慣らされておくとしようか。いつか、その愛らしい
加筆修正日:2024.12.23
公開日:2024.12.23