▼▲
強引なキューピッドにより、半強制的に相州伝広光作の加護という名のマーキングを受ける羽目になったお話。



 この本丸に御坐おわす審神者は、本丸という閉ざされた特殊空間のような箱庭で唯一、人の子であった。それも、妙齢の年若い生娘であった。
 本丸で唯一の女は、表情変化に乏しい人種であった。かと思えば、時折感情に素直と言わんばかりに思ったままを表情として表に出す。そんな、一風チグハグで曖昧な女であった。
 女は、常日頃は、綺麗に整った無表情を浮かべていた。一見すると、怒っている風にも見て取れなくはない。が、実際は怒っている訳ではなく、顔のパーツ上、無表情で居ると、そう見えてしまいがちなだけであって。彼女と親睦を深めていけば、第一印象では怖く見えた無表情も、彼女に対して自分が苦手意識や先入観を持って見ていた所為によるものと理解する。
 一見、澄まして見える顔故に、年若い事も加味してスカしている風に受け取られ、生意気な奴だと勝手に決め付けられて扱われる事もしばしば。相手の事を知ろうともしないで、上辺だけの情報のみで相手を判断するのは愚の骨頂とも言えよう。だが、現代社会における古き慣習や先入観に囚われ切った者には、真の目で相手を見ようとする事も少なくなった。その所為で、何度トラブルに見舞われたやら……数えるのも馬鹿らしくて、最早諦めている。
 無表情が標準基準な彼女にも、一般的感情というものは備わっていた。それこそ、感情の儘に振る舞い、喜怒哀楽を表に出す事だってある。けれども、標準装備が無表情なのは、感情を面に出す事を得手としないからであった。言うなれば、無愛想というやつである。“愛想良く笑え”と言われても、素直に笑う事が出来ない不器用人間なのだ。代わりに、眉間の皺だけは最も感情に素直で、よく動いた。そんな無愛想で不器用な人間だからこそ、上辺だけを切り取って見ると勘違いされてしまいがちである。
 言動も、育った環境と生まれ地域の影響で言葉がキツく、また、思った事を上手く言語化するのも不得手なのも手伝って、より一層勘違いは加速する。故に、彼女は多くを語らない。下手に口を開いて、相手の機嫌を損ねたり、自分が傷付くような展開を招きたくはないからだ。だから、必要以上には喋らず、口を噤み、思う事は多々有れど、負の感情を周りに伝染させ事態の悪化を防ごうと思うだけに留める。仮に不満があって口に出す事はあっても、相手が傷付くであろう言葉は出来る限り避けるなど、言葉を選んで発言し、最終的には都合の悪い場合はその場は黙して遣り過ごし、一人の空間にけた後でボソリと誰にも聞こえない声量で呟く。
 いつも、周りの空気を読んで、人の顔色を伺って、しなくても良い気遣いにばかり気を回して、人知れず努力を重ねている。気疲れなどは日常茶飯事。そんな部分だけを見れば、臆病なだけに見えるかもしれない。でも、本丸に顕現する刀達は知っている。臆病という言葉の裏返しには、優しくて慎重で思慮深いという言葉がある事を――。
 時に、彼女は言葉数少なく、言葉も足りなかったりするが、目だけはいつも雄弁に感情を物語っていた。『目が物を言う』ということわざがそっくりそのままぴったりと当て嵌まるくらいには、常々彼女の目は感情に素直であった。だからこそ、多くは語らずとも、本丸の刀達は彼女の感情を目から読み取り、理解していた。言わずとも伝わる、謂わば『以心伝心』という言葉通りに。

「……ねぇ、主って、少しだけ、大倶利伽羅と似てるよね……」
「そうかな? 確かに、俺も大概馴れ合わなさキングではあるけども……伽羅ちゃん程ツンケンはしてないと思うよ? 無愛想なのは自覚してるが。故に、俺に営業スマイルは求めない方が無難だよ。求める事自体、端から間違ってるってレベルに笑えないから。コレ、本当マジな話。やべぇくらいに表情筋死んでるから」
「でも……主は、言う程無表情って感じでもないと思うけど……。主自身に自覚が無いだけで、結構笑ってる事のが多いし」
「まぁ、ここ近年で新たに増えた子等が皆して個性豊か過ぎるからなァ。笑うな、って言う方が逆に無理有るぞぃ」
「いや、そういう意味で言った訳じゃなかったんだけど…………まぁ、良いか」
「……うん? よう分からんが、君が何か納得したんなら、其れで良いや」
 元は異去の張り番を務めていた火車切と会話をするながらで、お供のふわふわをうりうりと可愛がっていた審神者は、あんまり理解していない顔付きで首を傾げてそう口にし、話を帰結した。
 火車切の小さなお供は、今、審神者の手の中に大人しく収まって触られていた。動物の類が好きで、尚且つ、猫科動物には目がないのもあって、暇さえ有れば、本丸に顕現する刀のお供たる獣達を可愛がっているのだ。
 そんな、動物へと触れ合う時の彼女の眼差しは、慈しみに満ちた柔らかな目をしていた。おのが顕現した刀達にも定期的に同じ目を向けている事に、彼女自身は気付いていない。執務中の時は、凛として鋭さすら見せる目付きも、仕事と仕事の合間の休憩時ではオフモードとなるのか、険も和らぎ、穏やかな目付きをしている。一度懐に入れると気を許した相手には、愛と慈しみを以て接するのが、人知れぬ彼女の素であった。
 一見して、あまり人を寄せ付けぬような雰囲気を醸し出している風に見て取れるも、心の距離を近く許された者には、こうして素の柔らかな表情を見せてくれるのだ。そんなところが、本丸での顕現順では比較的新参者な火車切にとって、早くも身内且つ同じ広光の刀たる大倶利伽羅と似ているように思えた。相手との心の距離間の取り方や、立ち居振る舞い方も含めて。憧れを抱き慕う、兄のような存在である彼と、何処となく似た空気を感じると。
 だからだろうか。必要以上に距離を詰めて来ず、此方から自然と寄ってくるまで辛抱強く待つ、その姿勢に早い内から好感を抱いた。黙っていれば、大人しく物静かなところは、本当に彼とよく似た性質であると、火車切は思った。
 ふと、火車切は、突拍子もなく問うた。
「……あのさ、」
「うん?」
「主は……大倶利伽羅の事、どう思ってる……?」
「どう、って……?」
「其れは……言った言葉のままの通りに、どういう風に思ってるのか。純粋に興味があって……何となく、気になったから、訊いてみた。ただ、それだけ……」
「ふぅむ……。伽羅ちゃんねぇ」
 一度、勿体振るかのように言葉を切った審神者は、ふわふわの毛並みを堪能するべく両頬を包み込んで揉み揉みする手は止めずに、視線も交えぬまま一寸の間、思考するかの如し沈黙してから、答えを口に出した。
「一切合切、世辞も抜きに、ただ俺が思い感じ取っただけの事を感想として述べると……伽羅ちゃんって、ただ其処に居るだけで格好良い存在だと思うよ」
「えっ、主も俺と同じ事考えてたの?」
「だって、言われるまでもなく、あの孤高の一匹狼ならぬ一匹龍王とした様は格好良い以外の何物でもないでしょ? 左腕に憑いてる倶利伽羅龍も含めて、全部が格好良くない? アレで口癖が、“馴れ合うつもりはない”だからね。何だかんだ言いつつも馴れ合ってくれる、そんなお前が俺は好きだよ、ってなるでしょうよ。本当伽羅ちゃんてば可愛いトコあるよねぇ〜。そういうツンデレなトコが猫ちゃんみたいで可愛い。極めて帰ってきてからなんて、殊更に愛しさが増したよね」
「猫ちゃん……か、どうかはさておき。大倶利伽羅が格好良いのには同意見。俺も、あんな風になりたい……っ」
「おっ? 良いね良いね。向上心が高いのは良い事よ。目標は高ければ高い程燃えるってね! まぁ、同じ広光同士、頑張りなよ。俺は、火車君の事応援してるからさ。お供のふわふわ君だって、そうだよにゃあ〜?」
 大人しくむにむにとほっぺを弄られていたふわふわが、審神者の問いかけへ肯定するようにぱちくりと一つ瞬きをした。大きくて丸いクリクリっとしたつぶらな黒目が、ジッと彼女の目を見つめ返す。この対応に満足した審神者は、ユルユルとした笑みを口元に浮かべて、機嫌良さげに鼻歌を口遊み始める。しかし、手元は相変わらずふわふわを愛でるのを止めない。絶えず、柔らかな眼差しが小さな命へと注がれていた。
 そんな彼女の様子に、火車切は、内心独り言ちる。
(やっぱり、主と大倶利伽羅って似てるな……。今みたいに、ふわふわに優しいところも、気紛れな猫っぽい雰囲気を纏ってるところも含めて、似てる気がする。……一緒に居るの、嫌じゃないし。変に距離詰めてくる事も無いから楽で良いし。そういう意味でも、主と大倶利伽羅って似てるのかも……。極力他人と馴れ合わないところも同じだし。探せば、似てるところ沢山あって……何だか、ちょっとだけ羨ましい……なんて、思わなくもない……かも。嫌いじゃないのは本当だし。ふわふわも気を許してるから、悪い奴じゃないのは分かり切ってるし。大倶利伽羅に少しでも近付けるよう、主の事、もっと観察してようかな……。大倶利伽羅本刃を直接観察するのは、まだちょっと気が引けるし)
 人知れず、火車切がそんな事を考えていようとは露知らず。呑気に鼻歌を口遊みながら、火車切のお供のふわふわを愛でていた。
 ――其処へ、徐ろに音も無く二人と一匹の背後に立った刃物じんぶつが、口を開いた。
「仕事は良いのか? まだ途中な様だが」
「みぎゃッッッ!?」「ッ!?」
 噂をすれば何とやら宜しく、御本刃様を召喚してしまったらしい。
 同時に驚きを露わにした二人は、これまた仲良く同時に後ろを振り返って声を揃えた。
「伽羅ちゃん……っ!」「大倶利伽羅……っ!」
 此れに、フッ、と小さな笑みを零した大倶利伽羅は、ゆるりと手を付いていた柱から身を離して審神者へと近寄る。
「悪い。其処まで驚かすつもりはなかったんだがな」
「足音も気配も完全に消された上で急に声かけてきたら、誰だってビビるっての……!! 極部隊組は、もう少し審神者に配慮して!! マジで心臓に悪いから!! 吃驚系は洋ゲーのホラゲー要素だけで十分ですっ!! 言っとくけど、皆が揶揄からかうつもりで仕掛けてきてんの、分かってんだからね!!」
「特カンスト組やデカイ刀連中なら兎も角、極短刀や極脇差連中なら偵察・隠蔽値共に負けるから気付かれるんだがな」
「俺、人間なの忘れないで!? 幾ら審神者レベルがゴリラレベルに達してる猛者であろうと、カテゴリー上は人間のままだから!! 其処んトコお忘れなく……ッ!!」
「その件においては、さておき……。仕事の方は、本当に良かったのか? 見たところ、途中で放っぽっているように見えるが……サボリか」
「違いますぅーっ。キリの良いトコまで終わらせた上での休憩中なだけでぇーっす。今はちよこイベも終わって戦力拡充イベ期間中だから、周回メインで演練はお休みにしてるし、遠征は資材たんまり貯蓄してるから気持ちに余裕ある時に手伝札目的に回すぐらいで丁度良いし。部隊編成についても、ちよこイベ期間中に直ちんも道誉君も揃ってカンストしたから、基本的に雲次さんのみ固定で、後は周回コースに合わせて調整するだけだしね。基本的に遣る事は決まってっから、コッチは報告書とか提出書類の類とにらめっこしながら出陣の采配するだけさね」
「サボリでないなら、兎や角言うつもりはない。偶には、休息する事も必要だからな。……特に、一度集中すると熱中し過ぎて寝食を疎かにしがちな、あんたには」
「だから、こうして休憩挟んどるんやないですかぃ〜。にゃんか文句でもあるんけ?」
「いや。文句無い」
「文句“は”……?」
 妙に引っ掛かった物言いに、復唱するかのように火車切が言葉の一部分を繰り返すと、大倶利伽羅はスッと目をすがめて言った。
「ちゃんと休みながらやってるなら、俺が口を挟む必要は無いな……との意味で言っただけだ。他意はない。……まぁ、無理だけはするなと言いに来ただけだ。あんたは、目を離すとすぐに無茶する奴だからな。そういう意味では、片時も目を離せんという事だ。少しは自覚してくれたら、こっちも気が楽なんだがな」
「にゃんでい。今、絶賛休んどるトコやったんじゃけぇ、其れでエエやんけ。余計な気ィ回さんで良かちや」
「そうか。なら、これ以上は余計なお世話という事で、光忠からの差し入れのお八つがあるという話も無かった事にする」
「いや、ちょい待ちや! みっちゃんからの差し入れあるんやったら、其れ先に言いやな!! お八つは余計なお世話には入らないので、有難く頂きます……っ!!」
「其れが良いだろうな。あんたは、ただでさえ痩せぎすの身だ。少しでも腹に入れて肉を付けろ。光忠も歌仙の奴も、その他厨を牛耳る奴等皆、揃いも揃って心配していたぞ」
「あいやぁ……。皆には、常々ご心配とご心労をお掛けしまして申し訳ねぇ限りやで……っ」
「お八つは厨にあるから、部屋で食べるなら持ってきてやる。居間で食べるのが良いなら、付いて来い」
折角せっかくのお誘いやし、皆と一緒に頂こうかな? 執務室に籠もってばっかなんも肩凝って窮屈やし。ちっとは体動かしたらんと、固まってまうわ。ほんのちょっとの移動言うたかて、生活圏内すら動かんようになったらアカンけね」
「今のは……居間で食べる、という解釈で良いんだな?」
「うん。火車君も、一緒行こ。ふわふわ君も、みっちゃんの作った美味しいお八つ食べような」
 どうやら、お八つが出来た事を知らせにやって来たついでの揶揄からかいであったらしい。澄ました顔をして、お茶目な事を仕出かしたりもする。其れが、この本丸の大倶利伽羅であった。
 静かに満足そうに笑って先を行くところを含めて、審神者と彼は似ていた。似た者同士だからこそ、惹かれるものがあるのだろうか。そう考えを纏めた火車切は、呼ばれるままに後を付いていく。相変わらず、ふわふわは審神者の腕に抱かれたままであった。
 何となく、数歩距離を置いて、先を行きながらも横並びに歩いて行く二人の後ろ姿を視界に収めた。すると、不思議なくらいにカッチリと構図に収まって見える二人が居た。徐ろに向けた視線が一直線上に交わって、目と目だけで会話をする。其処に音を口に出しての会話は無かった。穏やかで安らかな空気が漂っていた。
(こういう場面の事を、“お似合いの二人”なんて風に表すのかな……。口に出すのも野暮だから、言わないでおくけど)
 火車切は、再び内心で独り言ちる。
 すれば、何処となく焦れったいような空気に耐えられなくなったのか、彼の左腕に憑いていた筈の倶利伽羅龍が水を差すように腕から離れ、彼女へと擦り寄りに行った。突然の其れに、宿主たる大倶利伽羅は露骨に舌打ちをして、「おい……ッ、」と不機嫌気味に声音低く唸った。しかし、倶利伽羅龍の方は、何処吹く風というていで、構わず審神者の頬へスリスリと甘えるように頬擦りをかます。まるで、ふわふわの事ばかり構っていないで、自分の事も構ってくれと言わんばかりである。
 堪らず、トラブルに巻き込まれるのは御免だと、彼女の腕からぴょいんっ、と跳んで逃げたふわふわは、飼い主たる火車切の元へと戻った。定位置の肩乗りポジションに戻ると、安堵したかの如く「ふすんっ」と息をいて落ち着く。
 一方で、倶利伽羅龍の方は、尚も飼い主たる彼の言う事など聞こえていないという風に、頑として言う事を聞かず、彼女にべったり張り付いて離れなくなった。仕方なしに、審神者も苦笑しつつ受け入れる態勢で好きにさせた。好かれ甘えられる事自体は悪くない事として、受け入れる姿勢なようだ。大倶利伽羅自身は、己の一部たる倶利伽羅龍が勝手な真似をする事を良しとはしない様子だが。
「ふわふわ君ばっか構ってたから、妬いたんかな? そういう事なら、喜んで構ってあげますとも! ふふっ、君も可愛いトコあるじゃにゃい?」
「こらっ、いい加減にしろ……! 主に迷惑を掛けるんじゃない!」
「甘えられたくらいで迷惑だなんて思わねぇし、気にもしねぇよぅ。寧ろ、コッチは甘えられて嬉しいくらいさね。俺自身は構わんから、気が済むようにしたってや」
「俺が気にする……!」
「まぁまぁ。偶にゃあ、こん子の好きにさせてやんなさいな。俺に甘える事で気持ちが満たされるんなら、幾らでも大歓迎だからよ」
「ッ…………。はぁ……っ、仕方ない。今回はお前に譲ってやる……。が、次は譲らんからな。お前だけが主を独占するのは、不公平だからな」
「おっと……? 喧嘩は止しなさいよ。この程度のヤキモチ妬くんは可愛いから許せるが、仲良くしなきゃイヤンなんだぜ。俺の体は一つだけだからな、取り合われても分けっこなんざ出来ねぇぞぃ。忍でもねぇから、分身なんて事も出来ねぇしよ。口寄せの術とか、忍紛いの事は出来なくもねぇが」
「マーキングされる事までも許容範囲内だと?」
「マーキングて。単に、ほっぺペロペロしてきとるだけやんけ。こんなん、ごこちゃんのデッカイ虎君やワンコなんかと一緒やん? まぁ、あんま舐められるとベタベタになって困りモンやけど」
「そら見た事か。ベロベロ舐められてベタベタになるのが嫌なら、今の内に引き剥がすのが無難だぞ」
「伽羅ちゃんが気に咎めるようなら、無理には止めん」
「よし。引き剥がす」
「うぃ。お好きにどうぞ。……ッ、イデデデデ! ちょっ、爪立てんといて! 普通に痛い!」
「抵抗するな! このッ……!」
「キュルルルルァッ!」
「あ゙ぶぇ゙ぇ゙ぇ゙ッッッ! 地味に首絞まってる……! 頼む゙がら゙離じで……ッ!! ぐる゙ぢぃ゙……ッッッ!!」
「あ、主……っ!」
 引き剥がそうとした途端、離れてなるものかと言わんばかりに彼女の肌へ爪を立てて抵抗した倶利伽羅龍。更には、首へと巻き付く始末。お陰様で、無理に引き剥がそうとするなり、返って彼女の首を絞める事となってしまい、其れまで傍観するだけで居た火車切が慌てて手を貸す事態へと発展。猫の手も借りたい程の事態とは、此れ如何に。
 最終的、何をやっても離れる気配が無かった為、暫くマフラーの如く首に巻き付けておく事で落ち着く羽目になったのであった。
「何か、こうしてると、小竜君の隠れ龍みたいで面白いね」
「あぁ……長船の景光作の刀だね」
「マフラーやネックウォーマー代わりにするには、ちょっと擽ったいのが難点だけどね。あったかいのは有難いけんども、何せ巻き付いてんのは生き物やから……。俺氏、首周り弱いんで、もしょもしょ動かれっと擽ったくて敵わん」
「……何なら、本当の隠れ龍でも付けてみるか? あんたが望むのなら、出来ん事もないが。俺からの印を一つでも身に付けておけば、其奴も満足して離れるだろうしな」
「……えっ??」
 後日、倶利伽羅龍を引き剥がす策として、女の首には大倶利伽羅の物という意味の印で、刀紋を守るように首を一周する形で倶利伽羅龍の紋章が付いていた。宛ら、マーキングのようだったとは、火車切やその他刀達から見た感想である。


執筆日:2025.03.08
加筆修正日:2025.03.09
公開日:2025.03.31