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極修行から帰ってきたら、元のスパダリ個性から更なる変化を遂げて、総てを与える男と化したウチの山姥切長義を見てくれ。



※若干レベルではありますが、三通目の手紙のネタバレを含みます故、未修行の方はご注意くださいませ。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。


 彼が修行へ出る時の見送りも、修行から帰ってくる時の出迎えも、何方も近侍は“まんばちゃん”こと国広の方の山姥切(※以下、国広と称す)を指名した。敢えてのチョイスである事は、本丸の皆誰しもの知るところである。
「そら。そろそろ、主がお待ちかねであった本歌様ご帰還の頃合いだぞ。付いててやるから、出迎えに行ってこい」
 そんな近侍より促されて、満を持しての極修行に出ていた彼の帰還へと出向く。
 そして、帰還して早々の開口一番に、修行から帰還しての口上ではなく、気安い音で以て軽く憎まれ口を叩かれた。
「――行きの見送りの時もそうだったが……帰りの出迎えすらもわざわざ国広の写し君と一緒だとはね。敢えての選択だとお見受けするが……?」
「君が、この本丸へ配属されたその日からずっと言い続けてきたが……君は君で、まんばちゃんはまんばちゃんだ。本歌とその写しであり、だからこそ姿が似通った風に顕現するも、それぞれが個を持つ別物だ。この件に関しての俺の答えや考えに変わりはないよ」
「……そうか」
「其れで……? 俺は、君のお眼鏡に叶う審神者足る者としての評価に値したのかな?」
 意地ったらしくわざと強調するように問えば、手紙の内容を一切読んでもいない・知らされてもいない国広がギョッとしたような目を向けて此方を見た。構わず相好を崩さずに見つめ続けていれば、相手は降参したかのように諸手を上げて、肩を竦めながらに応える。
「勿論、文句無しの“優”だよ。最後に渡した手紙の文面から察して分かった上で、わざわざ訊くとは……君も中々に強かというか、意地が悪くなったか?」
「はははっ。こんなの君からしたら、ただの戯れに過ぎんだろう」
 この受け答えに、場の流れを一切理解していない国広が困惑した様子で双方を見遣ったのちに、審神者へと再び視線を向けて問う。
「今のは、一体どういう事だ? 俺には、何の話やらかさっぱりなんだが……っ」
「……あぁ、成程。写し君は俺の手紙を読んでいないんだね。其れなら、何の事を話しているか理解不能なのも頷ける」
「アレは、修行先に居る刀剣達から主へ宛てて送られた文だろう? 俺が気安く触れて良い品物じゃない」
「別に、読まれて困るような事は何一つ書いていなかった筈だと思うけれど……敢えて他の刀に読ませなかったのは、配慮と受け取っても良いのかな?」
「君が己と向き合う事で何かを得る事が出来、尚且つ、自分の中での答えを見出せたのなら僥倖だ。俺は、君のその意思を尊重しよう」
 審神者がしっかりとした頷きと共に告げれば、納得した様子で改まった調子で帰還の口上を口にした。
「――俺こそが長義が打った傑作。君が歴史を守ろうとする限り、俺は山姥切を名乗り、実力を以て敵を斬る。俺の主の刀として。さあ、伝説を作りにゆこうか」
「お帰りなさい、俺のちょぎ君。無事に帰ってきてくれて嬉しい……っ」
 そう口にするなり、言葉を言い終わらぬ内に彼の事を抱き締めた。突然のお帰りなさいのハグをかまされた山姥切の本歌・長義(※以下、長義と称す)は、些か動揺を隠せずにキョドった様子で、近侍として側に付いていた国広へ説明を求める視線を投げた。
「えっと、此れは一体どういう事……かな? こんな風に歓迎されるとは全く予想していなかっただけに、驚きが勝るんだが……っ。国広の写し君、ボーッと突っ立って見ていないで助け舟を出すか何かしてくれないか?? それとも、君は刀の本分も忘れて案山子かかしにでも転向したのかな?」
「相変わらず俺に対しての当たりの強さというか、チクチク言葉と言うのか、皮肉屋なところは健在で何よりだが。俺が何か手を出す程の事でも無かったから、敢えて温かく見守るていで傍観していたまでだ。……まぁ、主大概素直じゃないタイプだからな。これまで遠慮してきた分の甘えとか諸々が、本歌が修行で不在の四日間不安で寂しかった事と、無事に帰還してくれた嬉しさとが爆発したのも合わさって、一度に発露してしまった結果だろう――とだけ言っておく」
「成程……よぉ〜っく分かったよ。現状解説誠に有難う。切実に助かる状況分析故に素直に感謝するが、一言どころか二言程余計だったのは不可だ」
「……本当、そういうところは変わっていなくて安心した」
 己の写したる国広に美しい微笑みを向けられて、其れが自身の帰還に対する素直な感想である事を察して、二の句を継ごうと思った口を閉じて、ぐぬぬ……ッ、と口端を引き攣らせた。
 帰って早々に極同士の“写しVS本歌”での睨み合い(笑)をしていると、不意に彼の懐に抱き着いたままの審神者からボソリと涙混じりの声が漏れたのを拾う。
「俺の刀は、どうしてこうも皆して優しいのかね……っ」
「……其れは、君自身がとても優しい人だからなんじゃないかな? そんな君から励起されたのだから、少なからず影響を受けていても可笑しくはないと思うけれど」
 思ってもみなかった歓迎に、長義は殊更甘やかに優しげな声音で以て言葉を返した。其れに、抱き着いてからずっと顔を隠すように頭を懐へ押し付けたままの審神者が、顔も上げずに言い返す。
「それにしても、もてあたが過ぎるでしょうや……?」
「はて、何の事やら。俺にはさっぱりかな」
「しらばっくれるか……」
「ふふっ、君が俺をこんな風に変えてくれたんだよ」
「変わったのは君自身の努力だろう? 俺は何もしちゃいないよ」
「いいや。君は、ちゃんとその目でずっと俺達の行く末を見守ってくれていた。今この時も変わらずに。何もしていないと言うには、語弊があるよ」
「実質的に特別な事は何もしてねぇから、“何もしちゃいない”と言ったんだがねぇ」
「減らず口の多い口だね、この口は」
「はて、誰に似たんでしょうな?」
「俺と言いたいのかな? 良い度胸をしているじゃあないか」
 其処で漸く顔を上げた審神者へ目線を合わすように長義は下を向く。
「俺は、何と言われようと、仮に受け取ってもらえなくても、与え続けるよ。君から貰った大切な恩に報いるには、今在る刃生を懸けてでもしなくちゃね」
「こちとら既に貰ってばかりで返せるモンも無いんだが……」
「其れでも構わないさ。君の口から直接言葉を貰えるだけで、視線を返してもらえるだけで、俺は満足しているのだから」
 そう、確かに審神者からの愛を体全てで受け止めながら、高慢ちきで高飛車なプライドマウンテンレベルだった彼は、美しく微笑んだ。其れこそ、写しの国広に負けず劣らずの美貌とオーラで、且つスパダリメーターを振り切る程にもてあたが過ぎる刀として帰還を果たしたのだった。
「帰還して早速で悪いが、祝宴よりも先に出陣と行こうか。確か、今は催物の最中だったよね? 勘を取り戻す意味でも、武勲を上げて修行での成果を見せてあげようじゃないか」
「其れでこそ、俺の本歌様や。政府から派遣されていきなりPartyPeopleな景趣(十周年記念・祝花)でお出迎えされた今までで一番超絶パリピ認定された監査官様を驚かせに行こうぜ!」
「あぁ、格の違いとやらを見せ付けてやろうじゃないか」
「本歌がその気なら、俺も付き合おう」
「今回の周回は俺が主役なんだから、写し君は出しゃばらなくて結構だよ」
折角せっかく本歌が極めて帰ってきたんだ、一緒に戦いたいと思うのが写しだろう! 何なら、本歌が強くなった様を間近で眺めていたい……っ!」
「本当、お前という奴はブレないな……ッ!!」
「俺は、アンタの写しだからな」
「少しは空気を読んで弁えるくらい覚えたらどうだ、顕現六年と半年余りの古参刀が……!!」
「顕現時期で言えば、主が審神者になると同時に本丸を立ち上げて半年以内にやって来たアンタもおんなじだから、共に本丸黎明期を支えた古参刀仲間だろう?」
「ウチの本丸は大概こんなモンやで、ちょぎ君。やき、ツッコむんも今更や」
「今回久方振りの復刻で派遣された俺の同位体である監査官殿が不憫でならないね!! まぁ、初実装から何度目かも分からないくらいの聚楽第の攻略なんて、取るに足らないものだけれども!!」
「今更だが、お帰り本歌。アンタが居なきゃ、寂しがり屋の主が不安で情緒不安定になるから、無事に帰ってきてくれた事を誇りに思うぞ」
「帰還に対する返答が遅過ぎるんだよ、写し君はァッ!! 時差ボケも大概にしろッッッ!!」
「ふふッ……流石は、ウチのちょぎ君やで。ツッコミのキレ味が違うね」
「俺をただのツッコミ要員にするのは君くらいだよ!!!!」
 まなじりに涙を浮かべながらも、既に不安は払拭されたようで、顔を上げた審神者の表情は晴れやかであった。その事に、長義は、内心言葉には言い表し難い感情を抱いて焦れったいような感覚に陥ったものの、嬉しさと擽ったさが同時に湧き上がってきて、結局は「仕方のない主だ」と言わんばかりの顔で審神者を抱き締め返すのだった。


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▼おまけ文という名の真相種明かし


 Q.極修行と言えば、大包平の修行以降、不安は払拭されて克服していた筈だろうに、何でちょぎ君の修行の時は再び不安に苛まれたんですか?
 A.ちょぎ君こと【山姥切長義】が実装した当時、時の政府から派遣された“監査官”というポジショニング、且つ特命調査イベント初実装と共に入電ではなく直接本丸へダイナミックお邪魔します形式だった事も相俟って、各本丸の審神者勢は困惑と不信感を抱いた者が多数であり、自分もその内の一人であった事。そして、初めての監査官による本丸の内偵調査が始まった事で煽られた、時の政府への更なる不信感と不穏な空気。おまけに、監査官時の装いが装いだった事も加味して“布んば2号”とかって揶揄されたし、本丸所属となる直前まで「まんばちゃんの事を悪く言うな!」って威嚇してたので、どう足掻いてもお互いの第一印象は最悪の一言に尽きると思う。けれども、紆余曲折を経た上で本丸の仲間と認め合い、共に道を切り拓いて審神者就任七年目という節目までやって来た。本当なら、幾度となくこなしてきた修行という、ある種のイベントだから、今更ヒヨる必要も無い筈だし、何なら極修行解禁と共に送り出したくらい期待はしてた。でも、本音を言うと、特命調査組で初めての極修行だったから、楽しみよりも不安が大きかったのが実情。故に、久々に眠りも浅くなるわ夢見も悪くなるわという流れに陥った次第。だからこそ、極修行を終えて帰還した際に、作中のお出迎えシーンに至った訳だったり。しかし、彼が無事に帰還してくれた事により、不安は払拭された為、帰還するなり早々に錬結でステマ出来る部分はステマして底上げしたのちに、レベリング目的で聚楽第周回部隊として出陣させた。極ボイスを聞く度に、高圧的な視線と物言いが分かりやすく優しく物腰柔らかな感じに変わったねと思うように。あと、全体的に大人しめになったのを見るに、系譜の祖たる古備前派の大包平みを感じざるを得なかったとも言える。二振り共、何処となく似てるものね。取り敢えず、極めたちょぎ君は、元々の格好良さが倍増してスパダリ感極めてるから、語彙力が消失する程格好良い事だけは確かだと思う。つまり、見る度「カッケェ」としか言えなくなる現象に陥る。※尚、光世ちゃんの極の時も、同じく三池派のソハヤ君極の時も、リーダー極の時も、鬼丸さん極の時も同じ現象に陥ってた(笑)。


「俺の帰る場所は、今や君が居るこの本丸であり、今更古巣に戻る事も、ましてや他所の本丸へ行くなんて事自体有り得ないよ。俺は、君の山姥切長義は、俺一振りだけだ。その事に変わりはないし、君だって俺以外の同位体をこの本丸に置く事はしないだろう?」
「しないよ。だって、ウチは皆一振りだけって決めてるからな。だからこそ、絶対に一振りとて欠かさないし、折らす気は無い。今や、本丸の刀数は百振りをも超えるが、その考えを変える気は毛頭無いし、これからも其れは同じだ。俺は、誰一人として折らせはしない。……そう、審神者になった時に誓ったからな」
「フッ……あんなに初々しくヒヨッコだった審神者が、こんなにも猛々しく強くなるとは。“ゴリラ審神者”と呼ばれる域まで片足どころか両足を突っ込む程に強く逞しくなったのは、純粋に誇らしくあるよ。此処まで生き残れた事は、歴戦の猛者と称して良い。何せ、君と君の本丸は、かの大侵寇をも乗り越え、また、百鬼夜行をも物ともせず戦い抜いたのだからね。本当に誇らしいよ」
「其れは、君達が居てくれたから辿り着けた結果に他ならない。君達が居なければ、此処まで辿り着ける事さえ出来なかった。俺が、命を繋ぎ続ける事すらも出来なかった。君達、本丸の皆という存在があるからこそ、俺は今も尚生き続ける事が出来ている。だから、この先もどうか俺に付いて来て欲しい。そして、俺と共に明日を生きて欲しい」
「言われずとも付いて行くとも。其れが、俺に与えられし使命でもあるしね。俺は、君の刀の一振りだ。絶対に死なせるものか。そもが、俺でなくとも、初期刀の加州清光や初鍛刀の前田藤四郎に、初泥刀である薬研藤四郎が側に居る限り、君を死なす事はさせないと思うが?」
「本当、俺がこんななばっかりに、皆過保護に育っちまいやがってよォ……」
「俺からも是非言わせてくれないかな?」
「うん? まだ、何かあると?」
「あぁ。どうか、君のこの先の未来を守らせてはくれないか。この刃に誓って、後悔はさせないと誓おう」
「俺は、ただ守られてるだけで終えるタマじゃないぞ……? 其れでも誓うか?」
「勿論だとも。寧ろ、其れでこそ、俺の主に相応しい」
「なら、精々君達を腐らせんように努めるとしますかね……!」
「ははっ、交渉成立だな!」
 白銀と深蒼の輝きが、新たな決意と共に煌めき心を燃やす。おのが主と定めた審神者の命運を共に背負い、明日という未来へと往く為に。また、此処に希望という星は生まれた。どんな困難が立ちはだかろうとも、簡単には揺らぎも折れもしないと、命を燃やす人の子の願いを胸に。
「――綺羅星よ、往くが良い。そして、紡ぎ続けよ。我等の、この本丸という大きな星の物語を……。さぁ、終わりに向けて始めるとしよう。我等の物語は、まだまだこれからよ」


執筆日:2025.06.18
加筆修正日:2025.06.24
公開日:2025.06.24