休憩を挟んで、もう十分に休めたなと休憩を終え、審神者部屋に戻れば、長谷部が居た。
審神者部屋に在る、政府連絡用端末のPCの前に、彼は居た。
何かに夢中なのか、画面にかじり付くようにしてガン見していた。
『何やってんの、お前?』
「ハッ!こ、これは、主…!すみません、主が部屋に戻られた事にも気付かずに…っ。」
『いや、別にそれは良いんだけどさ…。何見てたのかな?って。』
PC前に居る長谷部に近寄れば、改まったような姿勢に正す。
私が声をかけてから漸く気付いた事に、申し訳ないと思っているようで、ちょっぴりしょげた様子。
もうちょい気を楽にしてても良いのよ、長谷部…?
それを、若干の保護者感で微笑みを浮かべて見遣った。
「は…っ、その、主が以前見ていたと言っていた、俺が出ているという動画です…。」
『嗚呼、MMD動画ね。よく簡単に見付けられたね…?』
「主がブクマされている動画サイトの視聴履歴から見付けました。」
『Oh…ッ、何てこったい…。俺のプライベート且つ趣味丸解りやないかーい!』
「主が、自ら俺の出ている動画を見てくださっていたという事を知れて良かったです…。更には、マイリスしてくださる程お気に召して頂けるとは、恐悦至極です…!」
『ギャア!やめて!!俺のプライベートを暴露しないで…ッ!!』
恥ずかしさのあまりに顔を覆い、悶え呻いていたら、キラキラとした目を向けていた視線を画面へと戻した長谷部。
しかし、嬉しそうだったのは其処までで、次の瞬間にはテンションを下げていた。
「ですが、マイリス率は、俺が出ている動画よりも燭台切が出ている動画の方が、圧倒的に高いですね…。」
『あ、サムネか。』
「視聴履歴の方も、五分五分と言った処ですか…。心無しか、燭台切の方が多い気もしなくはないですが。」
『いや、それは偶々最近見た動画のサムネが光忠のヤツが多かっただけで、中には、長谷部も一緒に出てるのあるから…!』
「器物破損コンビ、というヤツですか…?さっき見た動画のタグにありました。」
『墓穴掘っちまったか…っ!』
「いえ、別に、燭台切の出ている動画を見ようと見まいと、それは主の気まぐれ…ご気分次第だと思いましたので、それ程気にしていません。」
『あ、そうなの…?俺は、てっきり、その事が駄目なんだと…。』
「大丈夫ですよ。それくらいの事では、もう怒ったりしませんから。」
「え…、じゃあ、前まではおこだったの…?」と思ったが、今は敢えて訊くべきではないとお口チャックした。
長谷部は、眉間に皺を寄せながら、画面を操作する。
「俺が気に入らないのは、このコメントとやらです。」
『ん…?弾幕の事…?邪魔って事なら、ソレ消せるよ?そこのコマンドをクリックしたら、コメント非表示になるよ。』
「あ、いえ、そういう事ではないんです…。」
『あ、違ったの?ごめん。』
では、何が気に入らないのか、彼の後ろから画面を覗き込むようにして首を傾げていると。
ブワァーッ!と流れ行くコメントの一部を指差して言う。
「俺が気に入らないのは、この“結婚しよ”だの“抱いて”などの言葉ですよ…!」
『………うん?』
何故、彼が気に入らないと言うのかが解らなくて、更に首を傾げた。
寧ろ、純粋に照れるか、泣いて喜びそうな事だと思っていたのだが、違ったのだろうか。
「俺は、そういう言葉を軽々しく投げかけて欲しくありません…!」
『何で…?言われたら、ちょっと恥ずかしいけど嬉しいモンなんじゃないの?』
「それは、まぁ、主達にそう思って頂けているという事自体は嬉しいですが…。そんな、此方を期待させるような言葉を軽々しく投げかけないで欲しいというだけです。勘違いをしてしまいそうですから…。」
『あー…そういう事だったか。』
少しだけ頬を赤らめて視線を逸らす長谷部が可愛くて、つい衝動的に頭を撫でた。
彼も、撫でられる事は満更じゃないのか、特に抵抗する事も無く撫でられていた。
へしかわかよ。
「主は、確か…燭沼出身の方だと仰ってましたよね。」
『あれ…?私そんな事言ったかなぁ…!?』
「はい。以前、主が休憩中に動画を見ていらした時に、ポロッと…。」
『え、待って。あの時、長谷部居たとか知らない…!』
「ヘッドフォンをしてらしたので、俺がお茶を持ってきた事に気付かなかったのでしょう。その他にも、色々と小さな声で呟かれてはいましたが…。」
『待って待って!!俺、その時何て言ってたの…っ!?』
「さぁ…?あまりにも小さな声でしたので、何と言っていたのかまでは聞き取れませんでした。」
『そ、そうですか…。はぁ〜良かったぁーっ!』
危うく恐ろしい事が起きるかと思ったよ〜…。
PC弄ってる時は気を付けよう。
心の声が漏れないよう、完全お口チャックしとこう。
グイッと口のチャックを閉める動作をしたら、彼に不思議がるような目で見られた。
気にしないでおこう。
『あー…まぁ、長谷部が言う通り、私は燭沼にハマっちまった燭沼住民な審神者だけども…。一応、へし沼住民でもあるのよ…?』
「え…っ?そうなんですか?」
『うん。兼沼住民って言うのかな…?同じく動画見てたらね、いつの間にか知らない内にドボンしちゃってたの。』
「ドボン…。」
『いやぁ〜、へし沼は凄いよ〜?へしざんまいとか言うタグがあったりしてさ、他の沼住民だった方々を次々と落としていくからね!気付けば、たくさんある長谷部モデルがどの方のモデルか判別出来るようになっちゃったりとか…!長谷部は、たくさん居るだけ安心出来るようになるとか…!!だから、画面の長谷部を見たら、つい“へしかわ”と呟いてしまったりとかさ…っ。んで、俺も、そんな落とされちゃった内の一人でーす(笑)、なんて…。』
最後の方は、取り敢えず、長谷部の機嫌が良くなる方向へと、長谷部が喜びそうな事を並び立ててみたが…結果や如何に。
ちなみに、いまいち反応が不安で、「長谷部はストラとかカソックとかひらみ要素たっぷりで、綺麗で見てて飽きないよね!流石国宝だよねぇ〜!!」と付け足してみた。
チラリ、と様子を下から窺うようにして見る。
長谷部は、顔を俯けて完全沈黙状態になっていた。
え、何…やっぱマズった…?
今のも駄目だった…!?
何の反応も返ってこない事に焦り、煽られる不安に、内心飛んでもなくテンパり始める。
無言の沈黙が数十秒経っていき、ダラダラと冷や汗を流していると、唐突にポツリと言葉を漏らした長谷部。
しかし、それは小声過ぎて聞き取れなかった。
『え…?ごめん、長谷部…今、何て言った?』
「…主は…、俺の事をそんな風に思っていてくださったのですね…。主は、俺が側に居たら嬉しいですか…?」
『へ?う、うん…。そりゃ、嬉しいでしょう。私も、へし沼住民の端くれだし。』
「主は、俺の事を大切に思ってくれているんですね…?」
『勿論!事務能力も高い上に、機動力も高くて戦闘時でも有能な長谷部を、手放せる訳ないでしょう。あ、能力だけで必要としてるって訳ではないよ?ちゃんと、一個人一刀剣男士として見てるからね!一家(一本丸)に一長谷部は最早テンプレだかんね…っ!!』
「そう、ですか…。」
そう言ったきり、俯いたままふるふると打ち震え出す。
そんな彼が心配になり、声をかけようと手を伸ばしかけた瞬間、彼が突然勢い良く顔を上げた。
あまりの不意打ちに固まってしまい、伸ばしかけた手が中途半端な処で止まる。
そして、その手を長谷部にガシッと掴まれた。
「主からのありがたきお言葉、確と受け取りました…っ!主の為ならば、この長谷部、どんな主命も果たしてみせましょう…!!」
『えぇ…っと…?何だか解んないけど、やる気に満ちちゃった感じ…?』
「はい…っ!今なら、どんな主命が与えられようとも、こなしてみせる自信がありますよ?さぁ、主、俺に主命を…っ!!」
どうしてこうなったかは、彼の思考回路次第故に解らないが、取り敢えず落ち込んでいた空気は一掃されていると見て良いようである。
ならば、せっかくやる気に満ちているのを上手く利用してやった方が今後の為にも良い。
『じゃ、じゃあ…手っ取り早く、今攻めている処へと他の部隊の人を連れて出陣してきてもらえる…?』
「ええ、勿論ですとも!この長谷部にお任せあれ…!すぐに勝利を手に戻ってきます故、期待して待っていてください…っ!!」
『あ、うん…。あんま無茶はしないようにね…っ。』
意気揚々と颯爽と部屋を出ていった長谷部。
それからというもの、長谷部は出陣する処する処でへし切長谷部を拾ってきて、近侍にと任命し鍛刀を任せれば、これも同じく然りで、飛んでもない事になっていたのだった。
それ故に、今日も今日とて、長谷部はまた自分を増やしていたのだった。
「どうです?主、見てください!また新しい俺が来ましたよ…!!」
『もう良いもう良い…っ!気持ちは解ったから、これ以上長谷部を増殖させるなぁ…っっっ!!』
此処一番での魂の叫びが、本丸中に響き渡った。
執筆日:2018.05.15