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どうも、此方、エイプリルフールの罠に掛かった哀れな仔羊もとい審神者です。



 其れは、全く予測出来ていない出来事であった。
「――じ、……るじ、……主ッ! 起きろ!!」
「ん゙ぅ゙ッ……??」
 突然、遠い意識の端っこの方で此方を呼ぶ声に、深いところへ落ちていた意識を揺り起こされた。何だ、一体何事だと、呼びかけてきた声に含まれた焦燥感にぼんやりとした頭をもたげて閉ざしていた両眼を薄ら開く。すると、寝起きのぼやけた視界に些かシルエットの輪郭が暈けた日光一文字のご尊顔がドアップで此方を覗き込んでいた。いや、マジで何事。
 訳も分からずに、困惑気味の思考のまま、寝起き特有のはっきりとしない不明瞭な滑舌ながらもムニャムニャとちた。
「ん゙ん゙ぅ゙……っ、ごぇ…………完全爆睡してた影響か、目やに酷くって上手く目ぇ開けりゃんねッスわ……。取り敢えず、何事でしゅか……?」
「分からん。だが、気付いたら、この訳の分からん寝所の如し部屋の寝台に寝かされていたようだ。俺の方が先に目覚め、事態の異常さに気付き、たった今まだ眠っていた主を起こしに掛かったところだが……主が無事に目覚めてくれて良かった……っ」
「うん……?? 寝台……という事は、今、俺ベッドに寝っ転がってんのか。え、何故に?? 俺、いつの間に寝床ベッドにシフトチェンジしたん?? 普段、リアルも本丸も日本古来の就寝スタイルこと敷布団に掛布団で寝てる筈なんだが?? え、やば……っ、フッツーにガチ寝しといてアレなんだけど、此処に至るまでの前後の記憶が判然しないとか怖過ぎるんだが。マジでコレどういう事?? 今、俺の脳味噌疑問符という名のクエスチョンマークで埋め尽くされてんだが、マジで何が一体どうしてこうなってんの??」
「その……俺が把握出来た唯一で最大の驚きの事実をこれから主へ説明せねばならないのだが……覚悟は良いか?」
「え? 待って、そんな話の切り出し方ある?? もうちょいソフトな感じでお願いします、俺のメンタルの弱さ舐めないで……っ。ガチでクソ雑魚メンタル過ぎて草も生えんから……!」
「……では、主の希望に沿って、少しばかりマイルドに説明するとしよう」
「あじゃじゃっす。何かすまんな……君も不運にも訳ワカメな状況に巻き込まれてんのにさ。無理言ってすまねぇ……っ。でも、メンタル激弱なのは本当だから許して。惰弱過ぎる程にクソ雑魚メンタルだから、今の俺。そんな時に気遣って配慮してくれるの嬉しい。ホンマに有難う、感謝なんやで……」
 寝起き一発目に堅物切っての真面目口調で凄まれてビビってしまった故に無理をお願いしたら、何故か異常事態らしいというのにも関わらず我が儘が通されて、些か声音を和らげてくれた。こんな状況下で感謝しかねぇ……っ。
 そんなこんな、内心ビビり散らかしながらも、体裁だけは何とか取り繕おうと、寝惚け頭を覚醒させる事に集中して、何とか真面目な顔を取り繕って、彼の口からどんな事実が飛び出してくるかを固唾を呑んで待機した。
「下手に嘘をくのも好かんし、上手く言葉を紡いで話を伸ばすという事も不得手故、単刀直入に申し上げる。今、主の現状を述べると、どうしてか俺の眷属化となっている影響なのか、髪と瞳の色が俺と揃いに変化している模様なのだ……。こうなった原因に俺は覚えが無いのだが、主の方は何か覚えているか?」
「えぇ……嘘やん……?? 鏡見れてないけぇ、ホンマのこっちゃかてんで分からんねんけども……そうなん?」
「あぁ。瞳の色については、自分で今確認しようが無いだろうが、髪ならば一房でも適当に掴んで視界に映るよう持ってくれば分かるだろう」
「日光さんとお揃いになったんやったら……目の色も含めて紫色になってる、って事かいな……?? ちょぉ待って、今確認してみるから…………って、あぇ。あ……そっか、寝てたから眼鏡してないんか……。あれ、じゃ何で日光さんだけいつも通り眼鏡しとるんよ??」
「その事について言及されても、俺も起きたら掛けたままであった、としか言い様がない為、説明致しかねる……」
「あー……まぁ、裸眼でも一応視えん事もないけぇ、ちぃとお待ちくだせぇな……」
 一言断りを挟み、ノロノロと緩慢な手付きで横髪を適当に掴み、視界の端へ映るよう持っていく。すれば、今説明を受けた通りに日光一文字カラーへ変色した己の髪の毛とご対面した。寝起きでぼやけた視界でもはっきりと認識出来る程に色鮮やかで綺麗な紫色であった。明らかに根元から染まり切ってそうな有り様に、一瞬思考が宇宙猫スペースキャットと化したのも無理はなかろう。マジで何がどうしてこうなった(テイク2)。
「え……いやマジで何で?? 俺本気で何も全く覚え無いねんけど……はえ……?? 俺、いつの間に日光さんと性こ……ん゙ん゙ッ! ……セックスしたんです?? 全く記憶に御座いませんでしてよ??」
「そもそも、此処は一体何処なのか……。思い当たる節は無くもないが……いや、だがしかし、其れならそうと其処へ至るまでの原因が分からん」
「思い当たる節とは何でっしゃろ? この際、気付いた事はその場で言ってくスタンスで行こう。では、どうぞ」
「所謂、時の政府がランダムに選出した本丸の審神者と刀剣男士一組が、とある空間に閉じ込められ、理不尽にも何かしらの条件を満たさない限り出られないという、曰く付きの迷惑極まりないイベント事があるらしい。――と、以前、へし切より拝借した同人誌なる春本のネタとして書かれていた。俺が知り得る限りの知識で思い当たる節と言えば、其れぐらいだな」
「同人ネタで何万回と使い古される程に擦られてきたネタの投下、どうも有難う御座います。でも、ぶっちゃけ当事者になったらなったで困惑しか生まれねぇから、政府は即刻この制度取り止めた方が無難だと思う。絶対ェ苦情入りまくってるだろ……っ。コレで成立した事案何件あるんですか?? Hey、こんちゃん。今こそ君の出番だよ。さぁ、いつものようにドロンと現れて現状の説明タイムに突入しやがれくださいな」
 なんて宣って合図なるものを送ってみたものの、期待は大いに外れる結果となっただけだった。つまり、こんのすけの召喚に失敗したというオチである。なんて悲しいオチなの。こんなのクソ過ぎるから早くオワコンにしよ。
「……口頭での呼び出しには応じれない、という事か」
「いや、ワンチャン別の呼び出し方で来る可能性有るかもしんないから、其れに賭けよう。今のは流石にアカンかった気がする。だって、明らかに“Hey、S●ri、〇〇について教えて?”のノリだったもん。其れじゃ駄目やったんかもしらん。別パターンでテイク2やってみよ」
「相分かった。主に任せよう」
 こんな時でも真面目な態度を崩さない日光さんに一任されたので、先程とはちょっと違う方向性で召喚してみる事にした。
「今こそ、お前の力を発揮する時……! 出でよ、我が本丸のこんのすけよ!」
 変な時ばかりヲタクな面が出てか、変にノリに乗ったていで召喚呪文風に呼びかけてみる。が、ヲタクのイタイところが露見しただけで、結果は惨敗に終わった。ド畜生。
 何でこんな必要な時に限って召喚に応じてくれないんだ。アレか、時の政府とグルになって仕掛人となってるパターンなのか。所詮は管狐。クダ屋さん改め狐ヶ崎さんが頑張って手綱を握っていても、戦力拡充計画の度に油揚げで買収され、百鬼夜行初回開催時の折なんかはあっさり敵の策に嵌って姿を消した、飛んだ裏切り野郎だ。此れは、時の政府にだまくらかされて今回の一件に一枚噛んでるものと見た。最悪の事態である。
「呼び方を変えても召喚には応じぬようだな」
「真面目に状況分析せんでもろて……。完全に今の俺スベってもうただけやから……。恥ずかしさで死にそう。今、猛烈に穴があったら入りたいレベルにどっかに埋まりたい気分です。いっそ殺せ」
「縁起でもない事を言うな。主が居なくては、本丸の運営が立ち行かなくなるではないか。安心しろ。この不肖、日光一文字、主の為ならば命を捨てるもやぶさかではない。此処は、さっさと脱出する為の条件とやらを満たして本丸へ帰還するのみだ」
「たかが俺の為に命捨てるんは勿体ないからヤメイ。部下として体張ってくれるんは有難いけんども、時と場所を選ぼう。どうせ、どっかしらからこの状況見とる奴が居るんやろうけぇ、其奴に応答させよう。オラ、話聞いとんのじゃろ? とっとと条件出してこんかい、コラ。俺が生物学上認識しとる生まれた性が女やからち、舐め腐っとったら痛い目見るで?」
「急にアクセルを踏み込むな……。突然そんな風に口調を変えて脅されても、見ている相手が居なければ先と同じ結果になるのではないか? まぁ、姫と比べたら生易しい脅し方ではあるが」
 何処にともなく向けて、“関西生まれの方ですか?”バリになんちゃって訛り全開の治安の悪さで脅し文句を口にしてみれば、横から真面目な口調でのツッコミが入った。いや、何処までも真面目さんやね日光さん……。一切の隙無く、動揺する素振りすら殆ど見せないとか、メンタル鋼製か。まぁ、元を辿れば玉鋼なのは事実だけども。
 そんなこんなチンピラ宜しく睨みを利かせて天井を見つめていたら、不意に此方の頭上目掛けてピラリと一枚の紙切れが降って湧くように落ちてきた。何時いつでも斬り掛かれるよう臨戦態勢で構えていた日光さんが、頭に落ちてしまう前に素早く反応して掴み取り、危険が無いかを検める。
「おっ? 試しに素の治安の悪さ押し出してヤーさん擬きっぽく脅してみたら、ホンマに出してきよったわやっこさん。マジかよ、ウケる」
「ウケてる場合ではなくなったぞ、主よ」
「え? 何て書いてあったん?」
「……俺の口から直接述べるのは、些か憚られる内容故に、主自ら自分で読んでくれ。先に言い添えておくが、不可抗力だ。……俺の方から仕組んだ訳では決してないので、誤解だけはしてくれるなよ」
「は? 意味分かんねぇんスけど……取り敢えず、読めば良いって事でおk? 何でそないに牽制するんかの意図が全く分からんが……読むよ??」
「心して読んだ方が良い、とだけ言っておく」
「え、読む前からそんな前置きされたら怖くてビビってまうやん……。マジで何が書かれとるっちゅーんよ??」
 日光さんより謎の脅し文句を貰ったのちに、言われた通り自分で紙切れに書かれた内容を読み取った。そして、読み終わった途端、読んだ事を盛大に後悔した。
「――は? 巫山戯ふざけてんのか? おい、ゴルァ」
 其れはもう、うっかり取り繕うのも間に合わない程にドスの効いた素のド低音ボイスが口から滑り出ていってしまうレベルには最低な事が書かれていた。
 要約すると、此処は、時の政府側がランダムに選出した本丸の審神者と刀剣男士一組がモザイク掛けしなきゃいけないレベルにイチャコラチュッチュしなければ出られない例の部屋であった。誰だ、ウチの本丸チョイスした奴。あと、何でこの組み合わせ持ってきた。こんなの絶対に不可だ、不可。許されて良い所業ではない。此れが、合法として審神者界隈で横行して良いのは、同人誌や夢小説の中だけです。リアル当事者にされるのは以ての外。解釈違いも大概にしろください。エッッッな事しないと出られないような部屋ネタは、飽く迄もエロ同人や夢小説という物語の中限定のみの出来事とするからこそ許されるネタです。リアル当事者とか異物混入も甚だしいんでマジでキレ散らかすぞ。この企画最初に考えた責任者出て来い。
「どう足掻いても職権濫用罪で訴えれるレベルです。出るトコ出んぞ。エエんか? 一文字動かしたらガチで訴えられんぞ? 更に言うなれば、此処に当事者の一人として日光さん居るから、証人枠確保出来とるぞ。立証しようと思えば、あの手この手やが? 一文字敵に回したら怖いで済まされん目に遭うぞ。言っとくけんど、此れは脅しやなく事実じゃ。こんクソ色ボケ野郎共め。頭常春に沸いてるんですか?? こんなん誰が真面目に従うかボケナス。出直してきぃや」
「怒涛の文句が凄まじい勢いで飛び出していったな……。まぁ、姫と比べたら、どう考えても可愛いものだが」
「さっきからそのツッコミ何なん、日光さん?? 姫の事大好き過ぎか?? まぁ、実際、姫ならもっとオラついた事言いながら手も足も一緒に出とるやろうが……。つか、今更なツッコミやけんどさ……何で俺の事抱っこしたまんまなん?? いや、俺の事起こしてくれようとした過程でこうなってんのは理解出来るけどもやぁ……こんまま話進めていくんか?? ちょっと無理あるくないですか。そこら辺、どうお考えですか??」
「……そういえば、そうだったな。如何せん、俺も自分が思っていた以上に動揺していたようだ。嫌な思いをさせたならば詫びよう」
「いや、別に嫌とまでは言うてへんし思ってもおらんけどもな。一応指摘しとこうかなって思って言うただけなんで、そんな風にマジレスされると反応に困るんやが……」
「そうか。だが、気が動転するあまりに配慮に欠けたのは事実だ。故に、先に謝っておく。すまなかった」
「おぅふ……。日光さんでも動揺する事あるんやね……。顕現してからそれなりに経つけんど、初めて知ったわ」
「……流石に、今回のように度が行き過ぎた真似をされては、普段のような体裁も保てまい。所詮、俺もただの男だったというだけだ」
「what?? 今、何と仰いました?? 俺の記憶が今聞いた事に対して記憶を疑ってる状態なんだが?? 果たして、ワンモア許される状況ですかコレ??」
 頭が完全に覚醒してからずっと気になっていた事実を指摘してみたら、出て来る出て来る、日光さんの思わぬ本音。予想外過ぎて、思わず訊き返してしまったのは申し訳ないが大目に見て欲しい。決して他意はないとだけ言い訳しておく。&あまりの事態に、頭が理解する事を放棄してしまった事が原因とだけ更に付け足しておく。
 何処までも真面目さを崩さない日光さんは、こんな時でも冷静に部下然とした態度を保ち続けて発言した。
「遠回しに言ったのが悪かったか……此れは失礼した。端的に述べると、人の身を得たが故か、男としての本能を刺激されて、一種の興奮状態に陥っている……という事を伝えたかっただけなのだが。伝わり切らなかったか……」
「……………………マ?? あの鋼のメンタルな日光さんでも??」
「俺とて一介の男に過ぎん……という事が、実証された訳だ。実に不本意な状況ではあるがな」
「意図せず強制的にこの部屋にぶち込まれた時の作用か何かか? それとも、日光さんが知らんだけで薬盛られてたとか? 或いは、別の何かが作用してか……」
「場にそぐわず冷静に分析してくれているところ悪いが、条件を満たさぬ限りは此処から出られぬ事を忘れてくれるなよ? 飽く迄も善意で此方を慮っての事とは理解しているが、事は急く異常事態だ。主には大変悪いが、腹を括ってもらおう」
「ちょっ!? ちょ、ちょいちょい待ちィ……ッ!! 真面目が過ぎるぞ、日光さんや!! この如何にも頭悪そうなIQ一桁しかない低レベルのお巫山戯ふざけに付き合ってやる必要あらへんで!?」
「だが、此処は所謂例の部屋というヤツなのだろう? その証拠に、つい今しがた、主の生易しい脅し文句によってあっさりと部屋を開錠する為の条件が書かれた紙切れが出て来たではないか」
「そこそこ治安悪い俺のドス効かせた素の文句を生易しいて強調するのやめぇや。気持ちは分かるけんどもな? こういう時こそ、クソ真面目に従う必要無いんやで? どうせ、お巫山戯ふざけレベルのお遊びや。どっかに穴くらいあるやろ。其れ見付けてスタコラサッサと出てったろうやないの。こないな巫山戯ふざけた事に一々付き合うてたら阿呆みたいやんけ。ほら、話し合いは一遍終いにして、この部屋構成した時に出来たであろう綻び探すで。所詮はプログラムから作られとる仕組みや。せやったら、コッチはコッチで、条件以外に脱出する方法として、プログラムから漏れた綻びっちゅー穴見付け出した方がお互いに傷付かんで済むやろ。其れか、ワンチャン、エイプリルフールのドッキリ企画か何かで、本番突入する直前辺りに部屋乱入してきて“ドッキリ大成功☆”のプラカード掲げるオチだったりせんか? 其れやったら、気力体力共に無駄に消耗せずに、取り敢えずソレっぽい空気醸し出してボディタッチする程度で済みそうやから一番楽っちゃ楽なんスけどね。演技なら任せろ。ヲタクは、ノリに乗れさえすれば、結構何でも出来ちゃう生き物だったりするんで。例え台本もシナリオも無い舞台だとしても、勢いとパッションだけで遣り切ってみせるぜ……! となれば、今こそヲタク特有の想像力の豊かさを活かして、超絶怒涛のアドリブ展開ぶちかましちゃうぞー☆」
 焦る気持ちをひた隠して、此処ぞとばかりにヲタク特有の性質を発揮し、怒涛の早口言葉でペラペラと喋り倒し。更にはわざと明るいテンションでやる気テンションをMAXにぶち上げ、話題の方向性を如何にもエッチな成人向け物から健全たる全年齢向け物へ転換しようと謀った。
 だったのだが、此処で全く予想もしていなかった斜め上に予想外な事が起こった。勢い付くように矢鱈やたら大仰に身振り手振りで話していた手を、突如として掴まれ、かと思えば視界は反転し、逆光気味に此方を見下ろす日光さん越しに天井を見上げる羽目となっていたのだ。流石の急展開に、思考が追い付いて行かなかった所為で、ワンテンポ反応に遅れを取ってしまう。その隙を突くように、此方を組み敷き覆い被さった体勢を取った日光さんが、不意に妖艶な笑みを浮かべて口を開いた。
「自分自身の物を見ては特別な感情も何も思わんが……主が俺と揃いの物となったのを見ると、やはり違うらしい。自分の物とは違い、美しく見える。それこそ、葡萄の珠のように……な。フフッ……今こそ、我が男を見せる時か」
 何処か甘ったるい空気を感じさせながら、毀れ物でも扱うが如く手付きで頬を撫ぜられただけでは終わらず、顔の真横に散らばってしまった横髪の一房を掬い取って此方へ見せ付けるように口付けてきおった。コレ、もしかしなくても変にスイッチ入っちゃった感じです……??
 いきなりの出来事に脳が理解する事を拒んで、キャパオーバーを起こした結果、一瞬呼吸が止まるというベタな反応を返すだけに留まる。しかし、そこそこ業界長ければ、復活も早い。数十秒間程停止していた思考回路を再起動させるなり、取り繕いもしていない素の口調で文句をぶつけた。
「ヒュッッッ……!? ――っぶねぇ!? 危うく甘ったるい空気に流されるトコだったが、そうは簡単には問屋が卸させねぇぜ……っ!! そもが、この状況下で如何にも夢女子が喜びそうな夢小説も吃驚な甘い台詞で口説いてくんじゃねぇ!! うっかり惚れたらどうしてくれんの!? つーか、普通に心臓に悪いわッッッ!! 頼むから、諸々配慮するなら其処んトコも配慮してェ!?」
「そうだな……うっかり惚れられた時は、男冥利に尽きるとして素直に喜ぼう」
「喜ぶトコちゃうねんってばァ!!」
「ところで、つかぬ事を訊くが、夢小説とやらは、先日へし切より拝借した同人誌なる春本のようなジャンルの事を言うのだろうか?」
「この期に及んでまだ長谷部のネタ引き摺るんかい! 可哀想だから、これ以上は止めて差し上げて……っ! 流石に同情するから!! というか、この状況、本丸帰った時、絶対長谷部が卒倒する事案な気がしてならんのだが!? マジで冗談抜きで今回の一件仕組んだ奴ボコる……!!」
「確かに、審神者に対して些か夢見がちが過ぎる傾向にあるへし切には申し訳なく思うが……実のところ、相手をするのが俺であった事を役得とも思っている」
「素直か!? いや、別に今此処でそんな暴露しろとか一言も言ってないが、何で言った!??」
「主が俺と合意無き上での行為に及ぶ事を躊躇しているものと受け取ったので、その為にと、先に此方の意図を伝えておくべきだと判断したまでだ」
「日光さんたら、何処まで行っても冷静ね!! いっそ憎たらしいくらいには……っ!! ちったぁ動じてみせるくらいの隙くらい見せたって罰当たらんだろうがよッッッ!!」
「ククッ……悪足掻きはその辺で終いにしておけ、主よ。どのみち、条件を満たさん限り出られぬ事に変わりはない。いい加減、腹を括ったらどうなんだ? そもが、俺が初めに眷属化の件について言及した際に、性交によるものかと真っ先に口にしたのは主の方だぞ? つまりは、そういう事なのではないか?」
「仕方ねぇだろ……!! この業界長けりゃ、刀剣男士とお揃い現象起きたら真っ先に疑うはセックス疑惑でしょうがよ!? 何かの間違いで一夜の過ち犯したとか普通に事案でしょっ引かれかねないからな!! 現実的まともで正常な倫理観持ってたら、まず審神者であるこの俺の責任になるって自覚するからッ!! 其れを踏まえて当然のリアクションしたまでだよ!! ワンチャン、そういう系のミラクルキャンディー的なジョークグッズが無きにしも非ずとは考えたけどな!! 現状その線は薄いと判断したからこうなってんだよ、ド畜生……ッ! 無駄に良い顔キメやがって腹立つんだよ、この、このォッッッ!!」
 腹立ちついでに上へと覆い被さる男へ無遠慮に足蹴を数発食らわすが、ノーダメージな模様。詰んだ。
「フッ。今のを、照れ隠しした上での主なりの合意と見て良いな?」
「どうぞ、お好きにご解釈なさってくださいまし……ッ!! もうこうなったら自棄じゃい!! 最後まで付き合ったろうやないのッッッ!!」
「其れでこそ、我が主に相応しいと言うものだ」
「うるせぇ!! ヤるなら手短に早く済ませてオナシャス!! でないと、冗談抜きで俺が羞恥心でメンタル消し飛ぶ……ッッッ!!」
「お望みのままに」
 自棄っぱちで首へと腕を回してやれば、目の前の超絶怒涛のイケメンなご尊顔が悪い笑みを浮かべてそう言った。クッソ、腹立つくらいに良い顔しやがるなド畜生ッッッ!!
 諦めて抱かれる姿勢になったと見るや否や、雄モード全開で攻めてきた日光さん。当然、思考は一瞬で溶かされ、気持ち良い事しか考えられなくなったのは言うまでもなく……。結果、即オチ2コマ宜しく撃沈した。
 そして、見事なまでの腰使いに腰砕きにされ、生まれたての子鹿の方が余っ程マシに立てるくらい完全足腰が使い物にならなくなって立てなくなった為、最終的に日光さんの逞しい腕にお姫様抱っこで抱かれた状態での本丸ご帰還と相成るのであった。屈辱的過ぎるオチで本気で泣きそう。というか、散々泣かされまくった後なのが、もう察してレベルに己を殴りたい。いっそ殺してくれ。
「まさか此処まで立てなくなるとは思いもせず、加減が足りなかった事を早くも後悔する羽目になろうとはな……」
「身長差から考えても体格差エグいのに、あんだけズッコンバッコン突かれてみろ!! どう足掻いても一般人よりも劣るレベルの体力の俺がへばるに決まってんでしょうが……ッ!! お陰様で喉もイカれたわ!! ありがとノーセンキューッッッ!!」
「すまない……自分でも歯止めが利かなくなってしまった為に、主には無理を強いた。責任を持って介抱及び看護する事を約束しよう」
「いや、もう良いわ……。何か色々と疲れてツッコミどころじゃねぇし……。ヤる前は帰ったら即政府に鬼電からの苦情を申し立てるつもりだったけど、体力の限界で既に活動限界来てるから端っから無理ゲーでしたわ……。政府への苦情申し立ての件は一旦保留〜……。後日、回復したのちに改めて鬼電してやる…………っ」
「俺や一文字の力が必要とあらば遠慮せず声をかけてくれ。すぐにでも馳せ参じよう。主命でも何でも、ご随意に。其れで今回の償いが出来るのならば、対価としては安かろう」
「くッ殺女騎士の気持ちが今物凄く分かった気がする……。アレは、エロ同人誌世界だけの事ではなかったのね……把握。次はねぇから対戦ヨロ」
「――主は何と戦ってんの?」
「姫……! このような状態で失礼します……っ」
「ん。別に気にしてねぇーから。取り敢えず、おかえり。無事出れたみたいで一先ず安心したわ」
「は…………? え、どゆ事……??」
「んっとね。あっさり白状しちゃうと、例の部屋仕組んだの、俺なんだよね。日光君てば、端から見てても主の事ガチ恋勢な目で追い駆けてんのに、何のアクションも起こさないから焦れったくなっちって。ちょちょ〜っと、時の政府のサーバーにアクセスして調べたら、例の部屋って外部からも設定出来るプログラムだって分かってさ。お膳立てのつもりでぶち込んだってのが、今回の真相。エイプリルフールのドッキリでも何でもなくって御免ね? でも、その甲斐もあってちょっとは進展したっしょ?」
「なんと……っ、仕組んだのは政府でもこんのすけでもなく、姫だったのですか……!」
「ウッッッソだろ、おい…………まさかの身内が黒幕とか信じたくないよッ……。“こんなの絶対間違ってるよ!!”とかいうヲタク的ベターなツッコミする時が来たなとか素直に喜べねぇ〜〜〜!! 頼む、嘘だと言ってくれよバーニー!!!! つーか、其れ、ハッキングちゃうやろな!? ちゃんと合法的方法で調べたんでしょうね!??」
「ん〜……テヘペロ☆、なんちて」
「ん゙あ゙ーッッッ!! 可愛いけど許されない事が世の中にはある事を学んでください!? 後でこんちゃんにクレーム言われたら責任取ってよね!!」
「あ、其処はご心配無く。抜かりなく手は打ってあるから。元政府刀のお力を借りて」
「つまりは、こんちゃん既に買収済み、尚且つ、ちょぎ君達飛んだ巻き込まれ事故って事じゃん……ッ!? 乙!!!!」
「ンフッ、そんだけ叫べる元気残ってんなら大丈夫そうじゃん」
「たった今追い打ち掛けられて大丈夫じゃなくなったけどな!!!! えーん!! もうやだァ〜〜〜ッッッ!!」
 まさかのまさかで黒幕且つ今回の一件の元凶を作りし犯人は、日光さんの身内たる姫鶴一文字こと姫でした。身内からの刺客は盲点だったわ……。めちゃクソ陰口叩いて御免、政府ちゃんとこんちゃん。でも、合法と謳って横行させてる事だけは許さない。何が合法だ、完全犯罪ギルティに決まってんだろクソがァ!!


執筆日:2025.06.10
加筆修正日:2025.09.12
公開日:2025.09.12