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とんでも珍道中に巻き込まれた警備課新刃男士は、迷子の派遣審神者にメルトする。【下】



※本作は、同タイトル【上】の続編であり、完全続き物となっております故、先に【上】を読んだ後に読まれる事を推奨致します。
※尚、作中の一部にホラー要素を含む、所謂“とうらぶホラーネタ”となっております故、「ホラー無理駄目絶対」な方はご注意くださいませ。
※その他、暴力表現及び嘔吐表現が含まれる描写があります。
※この時点で少しでも苦手意識を持たれた方は、自己回避願います。自衛は大事。無理な閲覧はお控えくださいね。
※以上を踏まえた上で閲覧どうぞ。


 その後、自本丸の相棒兼番犬との間にあった誤解は無事に解け、和解に至った二人。しかし、この時は、まだ更なるトラブルの種が舞い込んで来ようとは思いもしなかったのである。
 本丸へと帰城して数日後。審神者は、病み上がりの体を気遣いながらも、通常業務と並行して催物の周回も回す傍らで、私室兼寝室にて先日起きた出来事の報告書をしたためていた。
 書き物をする時は、どうしても前屈み体勢になるのが完治していない傷口に響くとして、何処から調達してきたのやら、学校の美術室に置いてあるような美術机びじゅつきを「一文字部屋から拝借してきました」と嬉々として用意してくれたへし切長谷部。いや、何でそんな物がウチの本丸にあるのかが気になって仕事に集中出来ない――なんて事はなく。寧ろ、机その物が斜めになっている上に、机端にストッパーが付いているので、非常に便利で今の自分にこそピッタリじゃないかと、手放しに褒め称えた。
 ご隠居からの通信は、そんな折の事だった。
「相棒、そろそろ体調に支障をきたすといけないから、一旦休憩を――、」
「主様! 歴防本部怪異対策調査課より入電が入りました……! 如何なさいますか?」
「ご隠居からかな……。もしかしたら、この間の一件について、改めての詫びか何かかね? このままの状態で構わんから、通信を繋いでくれ」
 運悪く、作業の手を一旦止めて休憩するようにとお茶と茶菓子のセットを持って来てくれた二筋樋貞宗が部屋へ訪ねたタイミングと被る形で、本丸付き管狐より入電の知らせを受けた。
 別段そのままの状態で受けても問題ない格好であると判断し、作業台こと美術机の上に置いてある書きかけの報告書は敢えてそのままで通信を繋ぐ事にする。此方が入電受理をすれば、暗号化された通信が繋がり、独特な無機質な音と共にホログラム映像が空間に映し出された。
 完全仕事モードの此方の様子を見るや否や、何やら自分が出る幕ではないと即時判断した二筋樋貞宗は、近侍として万一に備えて控えていようと、審神者の斜後ろの位置に置いてあった座布団へ腰を下ろし、持って来たお盆をそっと畳の上へと置いて静かに状況を見守った。
 入電相手は、やはりご隠居だったようで、政府個体であり特命調査課にも属する証拠である監査官スタイルのバストアップが画面内に映り込んでいた。いつもの如く、片手には赤い扇子を手にしながら、ご隠居は神妙な面持ちで口を開いた。
『あー、此方は何時いつでも正月の監査官……ではなく、今回は怪異対策調査課の職員として通信を行っている。僕の声が聴こえているか……?』
「聴こえてますよ、ご隠居ォー」
『おぉ、通信状態は良好なようだな。良し良し。つい先日起きたばかりの一件より日が浅い事から、派遣審神者への依頼任務の話をする訳ではないので、そう身構えずとも良い…………と、本来であれば言う予定だったんだが。とある別件で、どうしても君に直接頼むしかない案件が回ってきてしまってなぁ〜。一応、先に訊いておくが……この案件を受ける気はあるか? 受けるのであれば、先日の詫びの品とは別に報酬を用意する事を約束しよう。さて、どうする……? 勿論、君の体調が優れず、まだ本調子ではない事は承知の上で問うている。受けるも否も、君次第だぞ』
「受けるか否かは、依頼内容次第です。まずは、依頼内容を聞いてから判断させて頂きたく」
『賢明だな……。ところで、つかぬ事を訊くが、あれから体調の程はどうだい? 丸三日も意識不明状態だったんだ。後遺症等の影響があれば、即時報告してくれ。最悪、またぞろ医療課か浄化部の世話にならんといけなくなる可能性も無きにしも非ず……だからな』
「まぁ、ぼちぼちと言ったところでしょうかね。……其れで? 何も世間話をする為にわざわざ入電繋いだ訳じゃないんでしょう? 先に言っときますが、長時間の通信は、姿勢維持に体力が削がれ、完治してない傷口にも響く故に、漏れなく体調へと悪影響をきたす為、用件は手短にお願いします。それでは、用件をどうぞ」
『通信上でも強かだとは、恐れ入ったね。……まぁ、無駄に話を引き延ばしたところで意味はない故に、単刀直入に話させてもらうが。先日、入院病棟内での別れ際に通達した一件を覚えておいでかね? 妙なところで勘も鋭く察しの良い君なら、この一言で概ねこれから僕が話す内容を察する事が出来るんじゃないか?』
「……まさか……」
『そのまさか、だ。あの後、僕の方から断りの旨をきちんと伝えたんだがなぁ〜。いやはや……若いのは何で変な時ばかり譲らないのか……君本人の口から直接聞くまでは断固として認めない、とか抜かしてきおったぞ。彼奴、本当に新刃か……? 言っておくが、此れでも僕はだいぶ頑張って説き伏せた方だぞ。それなのにも関わらず、あの坊主と来たら、全く響いてないと言わんばかりに、寧ろ爛々と目を輝かせながら挑むような目付きで啖呵切ってきたからな……! 流石のアレには僕も驚いたよ! うはっはははは!』
「いやソレ絶対獰猛な捕食者として狩る気満々な目でしたやん、想像余裕です有難う御座います。間に合ってるから頼むどうか俺の事は可能なら忘れてくれ。何なら物理行使で良いなら、釘バットで後頭部殴打繰り返せば記憶一部くらい抹消出来ませんかね……っ」
『いや普通に怖い提案して来ないでくれないか?? やっぱり君特殊討伐課の素質あるぞ。今の物騒な発言の時点で適性バリバリじゃないか。スカウト受けたいなら、丁度君専用の枠が空いているようだぞ。良かったな。君が僕の古巣たる特殊討伐課の派遣部隊になってくれたら、僕の負担が六割方減るから超絶助かるんだが……』
「却下します。普通に審神者してるだけでも色々と巻き込まれるのに、怪異対策調査課の派遣受けてるだけで十分死ぬ思いしてるんで既にお腹いっぱいです。あ゙〜……何で、すんなり諦めてくんないかなァ〜〜〜。此れが現世に居るただの人間の野郎共なら、一度誘いを断られた時点で心折れてヒヨって引っ込んでくれるんですけどねぇ〜。相手がそうではない点を抜きにしたとしても、俺は彼を侮って見ていたという訳ですかい……。勘弁してくれよ、マジで……俺そういうの柄じゃないんやて……っ。ガキの頃に恋愛相談乗った事はあれど、当事者になるのはNo thank youなんよ。もっとマシな人間いっぱい居るからもうちょい人間の身としての経験積んでから出直して来てもらって良いッスか? いや、やっぱ二度と来ないで。あ゙〜〜〜……マジの本気で何で俺って感じが凄まじい……。ホンマに正気疑うレベルに今すぐ問い質したいんですが、本当の本当に俺相手でお間違いなくって?? 他所様と勘違いしたりとかの可能性はミリたりともないんですか??」
『残念ながら無いね。君としては困る身故に気の毒だとは思うが、僕から言わせてもらえば……顕現ホヤホヤの新刃で、尚且つ殆ど人間と触れ合った事もない段階で共闘なんて持ち掛けられた上で、未熟な自分を守る為に全力で体張りながらも、土壇場の急凌ぎのバディとして命も預けられてたんだと知ったら……大抵の奴が落ちるモンだぞ。しかも、その相手が君みたいな特例持ちの戦闘狂で、数多の死線を潜り抜けた経験値もずば抜けて高く、刀と共に幾千錬磨したような審神者だった場合……その確率は一気に倍で跳ね上がる。此れだけ条件が揃い過ぎてるんだ。どう足掻いても十割方君に非があるし、言い逃れ出来んレベルと見做されても仕方がないな、こりゃあ』
「其処は寧ろドン引きする勢いで萎えて欲しかったところだよッッッ!!」
 思わず、遣り場のない感情をぶつけるべく、手短にあった目の前の美術机に盛大な台パンをかましてしまった。途端、舞い上がる書きかけの報告書類達。同時に、通信を通して物凄い音圧で以てハウリングが響く。其れを鼓膜へとモロに食らったご隠居は、画面越しにも分かりやすく両耳を押さえて、ダメージを負った風に顔を顰めて苦情を呈した。
『おい……っ、絶賛通信中である事を忘れないでくれないか? 僕の鼓膜が破れるところだったじゃないか』
「兎も角、俺はその件に関して、一度、正式にお断り申し上げた筈です! ので、わざわざ俺が本調子でもない内から直接出向かなきゃならん理由には、当然理屈として成り立ちません!! そもそも、ご隠居の方が懇切丁寧に説き伏せたのなら、向こう側も此方の事情を全て把握済みであるという事ですよね!? だったら、尚更代理人兼事の発端の責任者でもあるご隠居のみで済む話では!?」
『其れがだなぁ〜……真面目にちゃんと君の方は一切応じる様子はない事も含めて説き聞かせたんだ。だが、あの坊主も本気なのか、一切譲る気はないとの態度を貫いてる始末という訳なのさ……。この際、諦めて譲歩する形で逢引デートの一回くらい引き受けてみたらどうだい? そしたら、向こうも満足して折れてくれるかもしれんぞ? そもそもの話……僕は、今回、ただのパイプ役で一番損な役割なんだぞ……。おまけに、先日の一件の始末書諸々が片付け終わってない所為で、こちとら徹夜で働いとるんだ……。少しは年寄りの事をいたわってくれても良いんじゃないか?』
「いや、何を仰るのやら……っ。一回OK出した時点で合意したと見做されるのでアウトオブアウトですよ、巫山戯ふざけんな。何で向こうに花持たせる必要があるんですか。下手に気を持たせたら最後延々と追って来るんだぞ、あの手は。俺、そういう展開、支部とか支部で億万回見ましたんで知ってます。そんなクソオブ・ザ・イヤーな対処死んでも御免ですわ。まず普通に相手に失礼が過ぎる為ナシです。そもそもが第一の前提として、始末書云々は俺の責任ではなく、寧ろ俺は被害者側なので、慰謝料請求しても良いぐらいなのですが?? 今すぐ俺の初期刀様を此処にご召喚致しましょうか? 先日の別れ際に仰られた一言一句、お忘れのご様子でしたら……レコーダーで録音した音声、今此処で再生しても宜しいのですよ? 如何なさいましょうか。お好きなコースをお選びください。尚、拒否権は一切認めませんので悪しからず」
『君は人の心が無い鬼か!?』
「あらあら、鬼だなんて失礼な……。人の心を持ち合わせておりませんでしたら、こうして入電にも応じてなんていませんが? 仮にも乙女の身に向かってなんて物の言い様でしょう。普通に傷付きましたので、正式に慰謝料請求を訴えますが、宜しいので? あと、お忘れなのかもしれませんが……俺は、飽く迄も雇われバイトの範疇でしか依頼任務には応じないと、契約時にお約束致しましたよ? 本業は本丸付き審神者としての業務だけでも手一杯なところ、特例措置のペナルティがある故に依頼を請け負っているだけの、ただのバイト・・・・・・であって、正社員では御座いませんでしてよ。そもが、今回の依頼は、その範疇にすら掠りもしないものです。何故此方が受ける前提で話を進めておられるのか、甚だ疑問です。一旦仮眠でも取って一昨日出直して来てくださいませ。此方からのお返事は以上です。では、ご機嫌よう。そして、二度と碌でもない用件で痛電して来ないでください。次やったら俺の初期刀様が漏れなく修羅の形相でウチの主力部隊を引き連れてカチコミしに御礼参りに行くかと思われます故、どうぞそのおつもりでお覚悟なさいまし。……こんのすけ、」
 終始自分が口を挟む隙すら無い程の言葉の応酬合戦を繰り広げる光景を目の当たりにしながら、只管ひたすら手に汗握って緊張感ビシバシに控えている事しか出来ぬまま、目を白黒させておのが相棒を見遣る。まだうら若き娘御だと思っていれば、予想を遥かに超える強かさを見せ付け、かの者の視線を奪った。此れは、何とも嬉しい誤算だ。此処まで上官と遣り合える凛々しさを兼ね備えていたとは、伊達に武家筋の者ではなかったという訳か。
 コロコロと声音と態度を変えて、あの手この手で通信相手を手玉に取ろうと強気な女を演じてみせる審神者に、知らず知らずの内に舌を巻いていた二筋樋貞宗は、目の前で毅然と戦い続ける審神者へと釘付けとなった。
 そうこうしていれば、現状は、審神者の冷徹とも言える一声で、強制的にも通信が切られようとしていた。その寸でに、本気で焦りを見せた声を発したご隠居は、咄嗟に待ったを掛けた。
『まぁ、待て待て!! 今のは確実に十中八九僕が悪かったからまだ通信を切らないでくれ……ッ!!』
「まだ何か御用で?」
 次いで、絶対零度の圧を以てして響いた低い声音。審神者の態度は声に出やすい事を、本丸に着任して早々に気付いた二筋樋貞宗は、此れは本気で怒っている時の声音だと思い、当事者でもないのに、その身を固く萎縮させた。
 しかし、そんな声にすら萎縮する様子のないご隠居は、食えない爺らしく、ある提案を持ち掛ける。
『此処は、一度、取引をしようじゃないか。君の後ろに控えている刀は……君の持ち刀の二筋樋貞宗で合っているかい?』
「は? 確かに、俺の背後に御坐おわすは、現時点での近侍であり、我が本丸に所属する貞宗さんで間違いありませんが。其れに何か問題が…………ッアンタ、まさか……!」
 急に話の流れを変えてきた事に怪訝な顔をして、素直に受け答えていく内に、ある一つの道筋に思考が行き着いて、ハッとしたように身構えれば、途端に悪どい笑みを浮かべたご隠居は、パンッと開いた扇子の下でニヤリとほくそ笑んだ。そして、愉快そうに言葉を音に乗せ、口を開く。
『いやはや、君の察し能力は実に高くて話が早くなるから助かるよ。まさしく、そのまさか・・・さ。君の言葉で応じないのならば、同位体同士で話し合えば良い。その方が意外と早く話が纏まるかもしれないぞ?』
「俺は、その提案に断固として反対させて頂く!! あの後、本丸に帰城してからすぐエライ目に遭った事を知らない、蚊帳の外側に居るから、そんな他人事みたいな事が言えるんだ……っ!! 俺は断じて認めないぞ、そんな荒事!!」
 それまで比較的冷静に発言していた審神者が、突如として態度を変えて声を荒げて焦りを見せ始めた。まさしく、形勢逆転された瞬間であった。
 足元を見られた事を察した審神者は、舌打ちしたい気持ちを何とか堪えて、強気な態度は崩さずに応じてみせるが、既に形勢は崩されてしまっていた。今、この場で主導権を握っているのは、ご隠居の方である。審神者は、憎々しげに歯噛みし、半ば吠えるように訴えた。しかし、主導権を奪われてしまった時点で、勝敗は決まったようなものだ。
 “お得意の腹芸をご覧に見せて差し上げましょう”と言わんばかりの愉悦顔を扇子の下に張り付けて、尚もご隠居はこう言葉を重ねてきた。
『予想はしていたが、成程、そうかそうか。やはり、既に先に顕現した個体が本丸に居たのなら、余所者の同位体の神気を纏わせて本丸に帰ってきたと知れたら、悋気を起こさずには居られなかったか。うはは……! コレは逆にラッキーかもしれんぞ? 君の持ち刀たる頭の切れそうな其処の坊主と、政府個体の警備課所属な犬っころの坊主、この両者を引き合わせたら、力量の差と既に己が付け入る隙すら無い事を目に見える形で知る事が出来、君が望むように勝手に打ちのめされてくれるやもしれん。我ながら、現状で思い付く中で最良の案じゃないか? そうは思わないかね? 雛鳥の君・・・・の二筋樋貞宗よ。一通り話を聴いていたなら、お前さんも僕が出した案に納得の意を示す筈だ。そうだろう……?』
「なッ……!? ちょっ、勝手に話進めてんじゃねぇーし!! ってか、その呼び方は事実上過ぎたものだから、あれ程呼ばないで欲しいって、前にも忠告した筈だが……っ!? 普通に止めて欲しいから、その件はさっさと忘れてくれとも再三言った筈だぞ……!!」
 とある呼び名を出された直後、審神者の纏う空気が変わった。必死に取り繕おうとしているが、その態度は明らかに狼狽えたものであった。顔色も先程までと打って変わって、心なしか青褪めているようにも見て取れた。だが、其れを見越した上でわざと敢えて語り聞かせるような口振りで口火を切った。
『君が“黒衣の山鳥毛”からの寵愛を受け続ける限り、その名は君を表す個別称号であり、君自身が歩んだ歴史を証明する源氏名でもある。そうだろう? 雛鳥寝子ひなどりねこ。君は、幾度か歴史修正主義者からの干渉を受けた影響で、一時的に記憶喪失となり、帰る場所を失い、歴防本部の本拠地たる敷地内で虚ろに彷徨っているところを保護された事がある。そして、その管理・保護者役を買って出たのが、僕の古巣たる特殊討伐課だ。君は其処で、短い期間ではあるが、仮契約の書類上で事務員を務める事となった。帰るべき本丸との記憶が戻るまで、な…。雛鳥寝子ひなどりねこという名は、その際に君を他の職員達と呼び分ける為の意図で、“黒衣の山鳥毛”が名付けた源氏名だ。今から数年程前の事だ、完全に忘れ去ったなどとは言わせんぞ』
「俺の審神者名は、猫丸だ……! そんな大層なモンで俺を縛り付けてくれるな……ッ。俺の在り方を歪めて、強引に捻じ伏せてまでも、強行策に出る気か? 其れが正史を守る使命を背負った刀の遣り方かよ……ッ!」
『何が正義で、そうでないかは、当事者になった者でしか本当の答えは推し量れない。ただの傍観者が口を挟んだところで、今回に限っては良い結果を生まん。だが、其処に居るお前さんも、己の知る相棒の在り方と正義を守り通したいのなら、力を貸せ。でなくば、お前さんの相棒がポッと出の他所犬に掠め取られて壊されてしまうやもしれんぞ? 何せ相手は、既に僕の忠告さえ聞き入れる耳を持たぬ程に恋に溺れ盲目と化した飢えた狼だ。お前さんの相棒だけでは手に余るのは確実だぞ。下手したら、恋敵を目の当たりにした反動で、傷付けるべきでないお前さんの相棒に噛み付くかもなぁ。やれ、血気盛んな若造は此れだから手を焼くんだ……。相棒をみすみす奪われたくなくば、その手で守り抜けよ。パイプ役兼見届人として、先立って約束を取り付けておいたから、時間厳守で頼むぞ。僕だって馬に蹴られたくはないんでね。約束の日程は明後日みょうごにちの午後、時間は一四時五〇分ヒトヨンゴマルだ。集合地点については、追ってメールで知らせる。通信は以上となる。――賽は投げてやったから、何方へ事態が転ぶかは、自分達で見極めたまえ。健闘を祈るぞ』
 無情にもブツンッと無機質な音と共に通信は切られ、入電画面を投影させていたホログラムは掻き消え、元あったように散らかった美術机が残るだけとなった。直後、鋭い舌打ちをかました審神者が「クソォッッッ!!」という声と共に、荒々しく両の手の拳を美術机上へと叩き付けた。怒りに任せて叩き付けられた拳は、みるみる内に赤く腫れ上がり、痛ましげな様相へと変わっていく。けれども、そんな事は今は埒外だと言わんばかりに、この場には居やしない人物を見据えるように、何もない虚空を睨み付ける審神者は、憤慨した様子で独り言紛いの事を口走った。
「あんっっっのクソ爺め……!! そんなにも無理矢理俺を特殊討伐課の元で囲いたいか……ッ!! 俺の帰る場所は、今も昔もずっと此処だけだ!! それ以外の場所を、安寧の地に定めた覚えはない! 俺の、本当の意味で心の底から安堵出来る、安眠出来る心の拠り所は、此処だけなんだ……っ。其れを奪う事だけは、絶対に許すモンか……! そもが、俺は、陸奥国所属の、就任七周年と半年余り過ぎただけの一般審神者で、猫之目城の大将、猫丸だ……! その名以外で呼ばわる事は、俺を根底から否定するも同義と捉え、断じて許さん……っ。俺の生きた歴史を、部外者がしゃしゃり出て来て勝手に歪めるな! どのような過程を経たとしても、俺は俺であり、その事実は変えようがない!! 俺はこの本丸の審神者だ!! 其処だけは絶対に譲れるものか……っ! ただの雇い主風情が、勝手に俺を決め付けるなァッ!!」
 再度、力の限り両手の拳を美術机へと振り下ろそうとした刹那、その手を二筋樋貞宗が掴み、力付くで止めた。途端、審神者はそれまで堪えていたのものを堰を切るように溢れさせ、目に涙を浮かべて声低く唸る如く問う。
「……今の今まで黙って見てた奴が、何のつもりだ」
「俺は、相棒が自ら自分の身を傷付けようとしたから、止めたまでだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「離せ」
「断る」
「主命だ、今すぐこの手を離せ!」
「意地でも離すものか。今のあんたは、頭に血が上り切っていて正気じゃない。頭を冷やせ、相棒」
「お前まで俺を愚弄するのか!?」
「其れは断じて違う! 俺は、ただ、自己犠牲精神でその身を滅ぼしていかんとする相棒の事を、守り、肯定し認めたいだけなんだよ……! あんたは、俺を“貞宗”の名で呼んだ。恐らく、決め手となったのは、俺が口にした、“貞宗の刀は天下泰平の世にあってこそ意味がある”という言葉なんだろうが。例え、そうであろうとなかろうと、俺にとっちゃ、あんたの呼ぶその名に恥じない在り方と生き方をしたい。迷わず俺の正義を信じて、練度が頭打ちになるまで育て上げてくれたのだって、あんたの信念と正義を貫く為なんだろう? なら、俺にもその正義とやらを守らせてくれ。俺は、あんたの相棒であり、あんたの為だけに在る番犬だ。……あんたの刀として相応しく在りたいのは、他の奴等と同じ想い……だろう? あんたの刀の一振りとして、俺にもその正義を背負わせて欲しい。……なんて、顕現して一月ひとつき其処いらの新刃上がりじゃ、其処までの信用を得るには足りないか……?」
 力付くで止めようとするも、無理矢理暴れて振り解こうとした審神者を、両腕を掴んだまま額を突き合わせて本音でぶつかれば、怒りに飲まれていた双眸を揺らして、涙の粒をその頬へ伝わせた。時に感情に揺れ動き、意図せぬ形で囚われてしまうなどといった風に情緒不安定になる事もある、素の顔付きである。先程までは、意図して覆い隠されていた、審神者自身の本当の顔だ。“貞宗”を冠する名で呼ばれる二筋樋貞宗は、その顔も含めて、相棒の全てを受け止め、守りたいと心底思った。故に、気が付いた。その感情が、人で言うところの、親愛の情であると。
 審神者の正式な番犬たる二筋樋貞宗は、言葉を重ねるようにして問う。
「なぁ、相棒。俺は、まだ顕現して一月ひとつき余りの刀だ。故に、あんたがこれまでどのような道を歩み進んできたのかを知らない。さっき、政府の一文字則宗が語った話ですら、俺は初めて知った。知らない事だらけなんだよ……。それでも、あんたがどんな奴なのかって事くらいは分かるぞ。此れでも、俺は刀のお巡りさんなんでね……番犬たる所以で、耳も鼻も利く。あんたが直接語らずとも、本丸で過ごしていれば、自然と仲間達から至る処であんたについての話が聴こえてくる。あんたが何で今こんなにも心身ボロボロな状態になったかとか、何時いつどんな思い出があるかとか、色々とな……。あんたは、若いのに苦労が多い中、忍耐強く真面目にぜろからこの本丸を立ち上げた。その歴史の重みは、新刃上がりの俺でも分かるよ。俺も、その本丸の歴史とやらの一員に加わったからな。自ずと自覚も出るさ。俺は、誰が何と言おうと、あんたの刀であると。……此処まで言っても、まだ認めちゃあもらえないか?」
 額を突き合わせたまま、童に言い聞かせるように優しく問いかけた。審神者の心を揺らす相手も、また新刃には変わりない事である手前故に、些か自信無さげに眉を下げて、答えを促すように見つめる。
 すると、二筋樋貞宗の言葉が響いたのか、一度瞳を伏せて深呼吸をした。再び目を開けた時の審神者は、眦に涙を残しながらも控えめに口を開く。
「……いや、お前はもう俺の刀だよ……。そもが、この本丸に来た時点で、お前は俺の刀なんだよ……。認めるも何も、お前が俺の声に応えて来てくれたんだ。こんな俺の元に来てくれた、新たな戦力となる大事な刀であり、替えの利かないただ一振りの刀だ……。其れを踏まえた上で、だが……今から語る事は、新刃に聞かせるにはちと荷が重い話になる…………それでも、お前は聞くか?」
「当然に決まってるだろう。俺は、まだ、あんたの事を知らなさ過ぎる。だから、互いを支え合う相棒としても、あんたの事を知りたい。どんな事だって構わないから、あんたの事を俺に教えてくれないか……?」
「……お前の覚悟の程は、よく分かった。ならば、俺も、その気持ちに応えるべく、腹を割って話そう」
 二筋樋貞宗が覚悟の程を示した事に、審神者自身も覚悟を決めると、一旦其処で言葉を区切り、再度深呼吸を挟んだのちに語り出した。
「……ご隠居が言った通り……俺は、数年前に一度、歴史修正主義者からの干渉により、記憶が部分的に欠如した出来事があった。歴史修正主義者からの干渉を受けるのは、その時が初めてじゃあなかったけど、記憶を一部失くすまでに至るケースは初めてだったから、当時かなり大問題に発展した事は、よく覚えてる……。偶々、その時の俺を拾ってくれたのが、ご隠居が当時現役で勤めてた歴防本部の特殊討伐課……通称・政府の汚れ仕事を担う場所だ。さっき、ちょびっと出された名前も、その時付けられた源氏名で、その名の通り仮の名前だったんだけど……。記憶が戻ってからも、ちょくちょくその名で呼ばれる事があって、正直本丸の皆に対して後ろめたく思えるから、あんまり好きじゃないんだ……。だって、あの時の俺は、大好きな筈の大事な居場所にも関わらず、本丸の事も自分自身の事もよく分からなくなってたし……最悪、あのまま記憶を取り戻さなかったかもしれないルートも存在したのかと思うと、ゾッとしない話でさ……。今でも、当時を思い出して、怖くなるんだよ……また、皆の事を忘れやしないかって……」
 抵抗する力を緩めた事を察した二筋樋貞宗が掴んでいた両腕を離すと、審神者は自由になった腕で自身の身を掻き抱くように抱え込んで顔を俯かせた。その肩は、小さく震えていた。腕を抱く手が、袖の布地を皺が出来る程に強く握り締めている事に気付き、審神者を安心させるべく、華奢な肩へとそっと触れる。その手は大きく温かく、何よりも優しさに溢れていた。痛い程にも伝わってきた己の相棒兼番犬の想いを受け止め、俯けていた顔を上げた。
「俺……強くあろうと見せかけてはいるけど、所詮はただの強がりで意地張って何とか体裁取り繕おうとしてるだけのハリボテ野郎なんだよね……。だから、痛いところ突かれると、さっきみたいに動揺しちゃうし、感情が高ぶるままに荒ぶった言葉をぶつけたりしちゃうの……。自信無くした所為で、上手く言語化出来なくなったりとかもして、対人関係築くのクッソ駄目になっちゃったけど……此処では、本丸では、在りの儘の自分の姿で居れるから、気持ち的に楽なんだよね……。下手に偽らないで良いっていうのか……そのままの俺を受け入れてくれるから。だから、本当の意味で、俺の居場所は此処しかないんだって思ってる。そんな場所だからこそ、俺は自分の身がどうなろうと構わず本丸を守ってきた。此処は、俺が俺である為の居場所であり、生きる為の指針なんだよ。何で其処までするのかって言うとね……俺、審神者なる前は、自殺志願者だったんだ。でも、生きる為の居場所を作りたくて、審神者になって、自分の本丸を築いた。俺の中での本丸と刀剣達は、全部引っ括めて俺の命みたいなモンなんだ。だから、戦う。俺の生きた証を此処に埋める為に、歴史には刻まれる事はないものだとしても、俺は命を賭して戦う。其れが、西暦二二〇五にせんにひゃくご年から遡りし過去に生きた人間の覚悟だ。戦のいの字すらまともに知らなかった、平成の世から来た人間が抱く意志だ」
 もう審神者は泣いてなどいやしなかった。ただ只管ひたすらに、その目には揺るぎない確固たる覚悟を宿していた。
 元号の名前が記す通り、審神者は過去の時代の人間である。其れも、平和を象徴とする泰平の世となった時代からの者だった。つまらないいさかい事などを嫌う、実に平和ボケした世代であるのも、また事実。なれど、その血に流るるは、かの戦国武将に連なる血筋である。其れ故か、争いを好まぬと口にしつつ、戦闘狂を謳う矛盾っぷり。実際、戦が始まれば、審神者然とした顔付きで以て采配を振るう。
 審神者とは、一国一城の主として本丸を構え、戦の最前線基地で指揮を執るかんなぎだ。歴防本部という最も安全地帯からして見れば、常に生と死が隣り合わせの危険な場所となる。しかし、この審神者は、自らそんな役職へと志願して就任した。其処に、確固たる意志を宿して。おのが使命を何たるかを胸に刻みし者は、戦士の面構えをしていた。時に、御上の兵となり駒となり、打ち捨てられる事も覚悟した上で、戦場いくさばに立つ。
「こんな俺でも、主と……相棒と認めてくれるのならば、力を貸してくれるか……?」
 そう問いかけた審神者の声は、涙声で震えていた。断られるかもしれない、そんな弱気な心を抱きながらも、己の刀を信じたい思いで勇気を振り絞っての言葉だった。
 自身の身を掻き抱いていた片手を差し出す審神者。その手を取らない選択肢は、二筋樋貞宗の中にはなかった。恐る恐る差し出された利き手を受け取ると、優しくも力強く握り込んで離さないと言わんばかりに笑みを浮かべて返す。
「当然だろう……? 俺が認めた相棒は、ただ一人、あんただけなんだからな。その相棒を困らせる不届き者が居るのならば、制裁を下さないと気が収まらないんでね。例え、その相手が同位体であろうとも、手は抜かないさ。寧ろ、同業者なら手加減は無しだ。ふー……っ。――そんじゃまぁ、刀のお巡りさんとして、務めを果たすとするか。まず、執行対象の情報を洗い出したいんで、協力してもらえるな? 相棒」
「つっても……俺から話せる内容は、この間話したのとおんなじ事になるけど……」
「其れでも構わない。執行対象の行動パターンを予め叩き込んでおく必要があるんでね。改めての情報共有を頼む」
「……分かった。何方にせよ、俺も悔恨は残したくはないしね。きっちりお断りした上で諦めて頂く為にも、対策を練ろう」
「その意気だ、相棒」
 未だ拭われぬまま眦に残っていた涙の粒を、二筋樋貞宗はそっと親指で拭い去った。泣いたのは少しばかりの間だけであったが、審神者の目元と鼻先は哀れにも真っ赤に染まり切っていた。其れを、仕方のない奴だと言いたげに……けれど、本刃すらまだ気付いていない奥底に隠れた愛しげな感情が顔を覗かせて、柔らかに微笑んだ目で見つめる。ただの面倒見の良いお兄さんという側面だけではなさそうな様子の変わり様に、審神者は小さく目を瞠るも、すぐに擽ったげにクツクツと喉奥を鳴らして笑って受け入れた。
 相棒と番犬の絆が試された時間が終わりを告げる合図の如く、ふと端末へと一通のメールが届いた事を知らせる通知音が鳴り響いた。音に弾かれるようにして我に返った審神者が端末画面を見遣れば、送り主が怪異対策調査課の一文字則宗からメールであった。先程の入電時に言っていた“追って知らせる”伝言だとすぐに察してメールを開けば、文面には口頭で述べたものよりも正確な日程事項が書かれていた。
「先程、政府の一文字則宗が言っていた案件の詳細か……?」
「うん。約束の日時と場所が指定されてある。日付は明後日みょうごにちで、時間は午後の一四時五〇分じゅうよじごじゅっぷん……って、まんま俺が誤認逮捕されそうになった時間帯やんけ。あのクソ爺、わざとか? めっちゃ煽ってくんじゃん。舐め腐ってんのか。ハッ……良い度胸じゃねェーか。上等だァ、その喧嘩買ってやんよ。ついでに、そのケツに一発蹴り食らわしてやらァ。俺を怒らせたらどうなるか、この際はっきり分からせてやろうじゃねぇーの? 精々、今の内に余裕ぶっこいて胡座かいとけ、バァーカ」
「あんたって、吹っ切れた途端口が悪くなるんだな……」
「すまんの。コレが本来の素の俺だ。大概捻くれてっし、地方の田舎出身なのも所以してお口悪いのよ。まぁ、最終形態としてこうなったのも、俺が俺である為の結果なんだけどね。慎ましさとかお淑やかさなんてものからは縁も程遠い女の欠片もない奴で悪ィな。でも、コレが本来の俺なんだわ。引いたかい……?」
「いや……寧ろ、俺の相棒として大歓迎だ。その一癖も二癖もある、一筋縄じゃ行かないところも含めて、あんたの魅力なんだろうさ。俺は、あんたのそういう素直なところ、好きだぞ」
ッッッ!? ……ッスゥー……ちょっとタンマ。一旦心を落ち着ける為のタイムください」
 突然の“好き”発言に大袈裟なくらいに吃驚した反応を返した審神者は、深く息を吸うと、一度心を落ち着かせる為の賢者タイムが欲しいと願い出た。しかも、平成民なら分かる、両手でTの字を表したジェスチャー付きで。
 一瞬、この反応にキョトンとした顔をした番犬だったが、顎に手を当て、少しだけ考えるような顔付きをし、寸の間無言の時間が流れた。だが、すぐに審神者のジェスチャーが表すTの字が“待て”という意味の“Timeタイム”である事を理解すると、お巡りさんらしくない悪い笑みを浮かべてこう言った。
「此処でお預けを食らわしてくるとは……相棒も中々に焦らしてくれる。だが、執行対象への対策を練る為にも、今は情報の出し惜しみは無しだぞ、相棒? 時間は一分一秒だって惜しいんだ。それに、まだ時間と日時のみで、肝心の場所を聞かせてもらってないぞ……? 相棒には悪いが、今は待てないね。ほら、さっさと続きの情報を出しな」
「おぅ……御主、新刃上がりという割にはよう遣りおるではないか……。さては、お前、端から遣り手じゃの?」
「腹の探り合いなら、刀のお巡りさんの範疇だから、そりゃ御手の物だろうとも」
「其れもそうやったな……すまん。気を取り直して、改めて情報を整理すると……入電では時間厳守での現地集合と言われとったが…………指定場所、歴防本部の特殊討伐課の事務所になっとるんやが。おいコラ、どないなっとんねんじゃボケェ。可笑しいじゃろ。何で警備課事務所じゃなくて、特殊討伐課事務所なん?? は? 巫山戯ふざけんな?? 明らかに別の意図が見て取れるんですが、正気か、あのクソ爺。マジで張っ倒すぞ」
「私念が凄まじく混じっているって事だけは、俺にも見て取れるように分かった。此れで責任者が務まっているのか、甚だ疑問を抱きたくなるな……」
「一応、特命調査(慶応甲府)の監査官に選ばれるくらいにはシゴデキだぞ、あのクソ爺。まぁ、ウチの本丸にも同位体が居るんで、呼び分けの為にも通常は“ご隠居”って呼んでるがな。由来は、俺が世話になった時、特殊討伐課を取り仕切ってたのが当時バリバリ現役だったクソ爺なんだけど、知らん内にいつの間にか隠居して当代の座を後代に明け渡してたから。ちな、一文字則宗を指して“クソ爺”呼び始めたのは、加州清光が始まりな。つまりウチで言うところの初期刀様よ。言うて、ウチの個体に対しての呼び名は、基本的に“御前”が固定だがな。今そんな話はどうだって良いのよ。問題は、指定場所が特殊討伐課の総本部だという事だよ。……あのクソ爺のこっちゃ……黒ちょもさん――“黒衣の山鳥毛”が居る場所をわざわざ指定してきたっちゅー事は、本格的に俺を元居た場所に据え置くが為の意図だろうのォ。下心見え透いてんのバレバレですぜ。逆にコレで気付かないと思うてか? だとしたら、ホンマに舐め腐っとるっちゅー事で、次会ったら開口一番挨拶代わりに脳天カチ割られてもしゃーないっちゅー事ですやんなァ?? その覚悟の上での煽りと見做すぞ、クソボケカス。受けて立つわ。こんなん全面戦争勃発でしかないわ。はぁ〜〜〜血腥くて嫌になりますわァ〜! ホンマ、クソ。こんちゃーん、もしくは清光でも良いー。話聴こえてた奴、ちょっとツラ貸しなァ」
「主からの号令出るの、今か今かと待ち侘びてたわぁ〜。……で? どうする? 此処に居る奴等全員、既に戦に出る準備整ってるけど。今からでも主力部隊総出でカチコミに行く?」
 血気盛んな物騒な発言を繰り返していたかと思いきや、突然某一般通過なお嬢様口調で愚痴を漏らしつつ、徐ろにこの場に居ない者達を呼び付けた。すれば、その瞬間、スパンッと勢い良く開いた両開きの襖や天井から平然とした様子で顔を出した極部隊の面々と、おまけのような管狐。極部隊の各々方に至っては、完全武装済みという出で立ちで、「今からでも殴り込みに行く準備は整ってるぜ」と言わんばかりの物々しい様子であった。しかも、妙に小慣れた感が窺えるのも、またアレなのが何とも言えない具合である。
 入電が入った時と途中まではこの部屋に居た筈の管狐の存在もそうだが、審神者の一声がかかった瞬間に「端からその場に控えておりました」といった風に錚々そうそうたる顔触れが一堂にして姿を現した事にも驚いた二筋樋貞宗は、ただただ一人圧倒されてポカン……ッとしてしまった。
 しかし、初めから聴いているであろう前提で招集をかけた審神者は、全て承知の上であった。注目させる意図でパンパンッと軽く手を叩くなり、口を開いた。
「ハイ、たぶん俺が入電受けてた時の会話筒抜けだったという前提で話進めてくけど。明後日みょうごにちの午後一四時五〇分じゅうよじごじゅっぷん、特殊討伐課総本部にて会談という名の強制合コンに行く事が決定致しましたァ〜。“目には目を、歯には歯を”の精神で、強制的に同位体ガチンコ勝負させろとの指令が来ましたんで、此れは実質上の全面戦争不可避だと判断致しました。ハイ、異論ある奴は挙手なー。ない奴は黙って鯉口に掛けた手を今すぐ離す事ー。ちな、コレは主命なんで、言う事聞かなかった奴には後でお仕置きコースが待ってますんで、そのおつもりでどうぞ。何か質問等御座いましたら挙手制でヨロ」
「ん」
「ハイ、其処のたぬさん」
「主力部隊総出でって話みてぇだけど、具体的には?」
「室内戦且つ夜戦になった時に有利な短刀・脇差から打刀辺りで固めたいところだけど……万が一を想定して、霊刀・御神刀組も何振りか編成に組み込みたいところ。あと、普通に馬力欲しいから、主戦力として太刀も組み込みてぇが……あんま大勢で乗り込むってなると、ちょっとなァ〜……というか、普通に考えて極部隊全員連れてくのは、何ぼ何でん無理がある。ので、極力少数精鋭で揃えたいところではある。でも、地理に詳しい奴も組み込みたいんで、極済みの特命調査組は全員参加頼むわ」
「マジでおっ始めるつもりかよ……」
「私語は慎め〜。何か用があるなら挙手してから言え」
「では、僭越ながら私から」
「おや。安宅さんからとは意外。其れで、何でっしゃろ?」
 ボソリとボヤきを零した肥前忠広に対して、「今絶賛軍議中だから私語は慎め」との意を含めて咎めれば、錚々そうそうたる顔触れが揃う中、これまた新刃上がりの一振りである安宅切が臆する事なく挙手して発言許可を求めた。意外な者が名乗り出て来たなと思いながらも頷けば、一歩前へと出て問うてきた。
「その強制合コンという名の会談とやらには、主自らご出陣なさるのですか?」
「そもそもの前提、コレ俺個人宛てなんだわ。けど、問題解決する為には、同位体ぶつけるしかねぇっていう超絶脳筋法しかなかったんで、漏れなく貞宗さんも同席する事になる」
「心身共にまだ本調子でもない体調で、ですか……? 相手は何を考えているのやら……」
「まぁ、やっこさんが考えてる事っつったら……隙あらば、俺をお付き合い対象に据えたいんでしょうなァ。一遍いっぺん断ったんだけどね、ご隠居を通してだけど。けど、どうやら粘り強くも食い下がりに食い下がって譲らないそうで、俺本人が出て行く羽目になったのが此処までの経緯。普通に考えてブチギレ案件で草も生えねぇわって思うところなんだけど、下手に無視ると逆に火に油注ぐかもしれん……っつーより、最悪本丸まで職権乱用してでも乗り込んで来る可能性が出て来たので、其れは流石に避けてぇなって事で条件を飲む他無かったのが実情な」
「失礼ながら、主の御心を代弁した上で申し上げさせて頂きます……。ちょっと主に優しくしてもらったからって図に乗り過ぎ、且つ何処の馬とも知れぬ輩に何故其処までしなければならないのか、身の程を弁えて一度腹を切ってでもお考え直して欲しいところですね。当然、主はブチギレても良いと思います。使える物は全て使ってでも貶めてやりましょうか。私は普段使いの刀である前に、軍師ですから……どうぞ、如何様に使ってくださって構いません。主に使って頂ける事こそが本望ですので」
「うん。取り敢えず、安宅さんも長谷部に似たか寄ったかの過激派思考で安心した。一先ず、このカチコミに賛同するって事の解釈でエエんやな? 今回に限っては策士が居んの助かるから、長谷部共々助力願うわ」
「主命とあらば、最良の結果を主に……!」
「ハイ、次。誰か意見ある人、挙手願いまぁーす」
「はい」
「ほい、ちょぎ君」
「俺達元政府刀を噛ませるその真意を伺っておこうかな?」
「単純な話。使える駒は多い方が良い。特に今回に限っては、元政府刀で極個体は幅利かせられるから、かなり強みになると思った次第。あと、万が一歴防本部施設内で緊急戦闘配備が呼びかけられた時に備えて、避難経路及び諸々のルート確保の為……と、でも言っておこうか」
「成程。確かに今回に限って、俺達は有利なカードになるだろうね。何かあった時の為に裏も取っておこうか。任せてくれ。元監査官たる俺の力を存分に示すとしようじゃないか」
 口と言葉は抑えているつもりのようだが、あからさまに米神へ青筋が立っているのを見るからに、元監査官様の目から見ても、今回の案件は相当頭にキテいるらしい。何とも心強い限りだ。絶対に敵に回したくないタイプなだけに。
「ねぇねぇ、さっき霊刀や御神刀組も参加させたいとの事だけれど、僕達参加しても良いかなぁ?」
「源氏二人が居ると滅茶苦茶強みなのは確定なんだが、太刀って室内戦向かんから不利では……?」
「うーん、そんな難しく考える事ないんじゃなぁい? 壁も扉も、邪魔な物はスパスパーッと斬っちゃえば、不利とかどうとか考える必要も無くなるでしょ?」
「兄者……器物破損は漏れなく主への責任となってしまう恐れがある故、慎重に」
「ありゃ。それもそうかぁ〜。僕としては良い案だと思ったんだけどな〜。むむむっ……ちょっと八幡大菩薩から御告げを貰えないか交信してみるよ」
何時いつでもかつでもフリーダムが過ぎるな、兄者は」
「俺の兄者が迷惑をかけてすまない、主……っ」
「いや、物騒な点だけで言えば、他人の事言えないから。事実、斬って良いなら、迷わず遮蔽物全部斬り捨てて物理的に視界良好にしたいところだよね。其れが許される場合のパティーンならな」
「出たぜ、主の脳筋プレイなところ〜!」
「でもでもぉ〜、そんな主さんの物騒で過激なところ、だぁ〜いすきっ!」
「喧しいぞ、其処ォーっ」
 選抜組でない者達からのガヤがうるさいので注意していれば、石切丸から手が挙がって、其方へと注目が移る。
「御神刀組を連れて行くって事みたいだけれど、選抜はどうするんだい?」
「せやなぁ……直感で、次郎ちゃんと祢々さんにお願いしましょか。つって、会談中は部屋の外で待機させる事になるがな」
「じゃあ、お酒持ってっちゃお〜!」
「短刀と脇差の選抜はどうするんだ?」
 次郎太刀が嬉々として酒を持参して行く事を発言するのを横目にしながら、本丸で参謀役を担う一振りである薬研藤四郎が顔横で挙手して発言する。率直な問いかけに、此れに対しても審神者は神妙な顔付きで答えを述べた。
「出来る事なら、乱舞MAX組だけに固定したいところだが……何かちょっと嫌な予感しなくもないから、菜切君選抜メンバーに組んでおk?」
「俺が選抜メンバーかぁ! 主のそういう時の直感はよく当たるからなぁ〜。分かった、任されたよ!」
「他は、前田君と薬研で。脇差は……肥前君は当然込みで、もう二枠には、にっかりさんと堀川君に頼もうかな」
「おやおや……僕を連れて行くって事は、怪異関連かい?」
「其れも視野に入れて動きたい。ちょっと先日担当した案件の幕引きの仕方が腑に落ちなくってね……。最悪のケースも想定したガチパ編成でいどむのが妥当だと思う」
「じゃあ、打刀枠は誰と誰が行きます?」
 にっかり青江に続く形で口を開いた堀川国広の言葉に、審神者は思案顔を浮かべたまま、つらつらと自分の考えを述べていく。
「特カンスト部隊からは貞宗さんと安宅さんを選抜メンバーに組み込む。残りは全員極部隊で、清光隊長にして、他はちょぎ君と朝尊さんを。本当は此処に太刀も入れたいところだけど……大太刀二人組む前提で既に二部隊分の人数だから、今回はパスで。その代わり、俺の留守を頼みたい」
「俺は今回も留守番で良いのか……?」
 其れまで瞑想していたかに見えた三日月宗近が、徐ろに伏せていた目を開け、意味深な響きを持たせて問うてきた。此れに、厄介事の気配を察した初期刀様が静かに「げぇッ」という顔をして顔を顰める。
 言いたい事は分かっている。早い話が、先日の一件を根に持ってらっしゃるのだ。自分だけ先に本丸に帰らされた事が余程気に食わなかったらしい。審神者は吐息だけの溜め息を吐き出したのちに、慣れた様子で口を利いた。
「お爺ちゃんや……いい加減、機嫌直しや」
「ならば、俺も保険として連れて行け。なに……主の直感が働いているのなら、俺が居た方が安心するだろうと思ってだなぁ」
「……確かに、お爺ちゃん居るだけで千人力やが……二部隊分の人数から漏れる事になる上に、そんな大勢で押し掛けて行って悪目立ちしない?」
「何を今更な事を。そんなのを気にしていては、主力部隊総出のカチコミなど出来んだろうさ。懸念事項があるのならば、少しでも取り除いてやりたいのが、爺としての願いよ」
「……会談中ちゃんと大人しく待機してるんなら許すが、ちょっとでもどっか行こうモンなら、本丸に強制送還の刑に処するからな」
「ちなみに、会談とやらはどれくらいの時間かかりそうなのかね?」
 三日月宗近の機嫌をなだすかしていたらば、横槍から選抜メンバー組に選ばれた南海太郎朝尊が徐ろに口を開いて問うた。空気を読まない流れに呆れを通り越して感嘆しながら返答を返す。
「完全向こうの出方次第によるから、どんだけ時間かかるかは不明。そもそも、場所が場所なだけに、本音言うとブッチしたい。でも、行かなきゃ余計ややこしい事になりかねんから行くしかないこのジレンマ、クソ死ねこの野郎……と言いたいところだよ」
「と、唐突な罵倒……っ」
「罵倒っつーより、罵詈雑言の間違いじゃねーの……?」
 苛立ちを隠せていない審神者の物言いに、二筋樋貞宗が軽く引く態度を見せたのに対して、黎明期より顕現して見慣れている古参勢の同田貫正国が冷静に突っ込んだ。此れぞ、顕現歴が物を言う光景である。審神者の取る挙動に慣れているか否か、態度だけで丸分かりだ。
 そんな空気も他所に、ひょっこり人影の群れから顔を現した孫六兼元がニヒルな笑みで宣った。
「闇討ち、暗殺、果てには用心棒なり何でも御座れな人斬りの花形たる最上大業物は付いて行かなくても良いのかい?」
「これ以上、選抜要員増やしたら収拾付かんくなるから、お前は大人しくお留守番しとけ。俺のお気にの本と飴ちゃんやるから」
「俺にもお菓子くれよー!」
「これ、包丁。今は軍議中だから控えなさい」
「ぶっちゃけさぁ、人妻になる事の何がそんなに嫌なの主は?」
「おっっっま……!! 空気読め馬鹿!!」
「俺、人妻は大歓迎だから、主が誰かの人妻になるのも全然良いと思うんだけど」
「おい、誰か此奴を止めろ今すぐに」
「ペロキャンやるからお前一旦引っ込んでろ、このお馬鹿!!」
 粟田口総出で引っ込められた包丁藤四郎の無邪気な質問に、審神者は軽く顔を引き攣らせながらも、この際ぶっちゃけてしまうかと腹を括って吐露した。
「あ゙ー……ノイズやべぇから敢えて言わずに居た事をぶっちゃけるが……自分の刀以外の外部の刀は底が知れんという意味でNOだ。参照事例は、俺が記憶喪失になった時と、今回の案件に対する警戒レベルで察してくれ……。特に前者、俺のトラウマ事案になってるから。当時の事を知らん奴は、後から知ってる奴からでも聞いてくれや。……反対に、俺の本丸の刀として顕現した奴等なら信用に足り得るからOKしても良いんだけどな……後者は単純に俺自身の問題が付き纏ってくるから、敢えて今は曖昧な線引きとさせてもらう。此れで御満足頂けたかい……?」
「今の回答だけで十分ですとも! 軍議中に関わらず、ウチの弟がご迷惑をおかけして誠に申し訳なく……!!」
「いや、良い……。何となく包丁君の流れ来そうやなってのは読めとったから……」
「んじゃあ、二筋樋とでもOKって事だ! もういっその事、“俺達既にデキちゃってるから無理です!”って断っちゃった方が早くない?」
「だから何でまたそうやって余計な口叩くんだ、お前は……っ! マジでいい加減にしろ!? 大将の事これ以上困らすなアホ!!」
「はぁ……。仮に其れが本当の事だったとしても、火に油注ぐ行為だから、完全に恋仲の関係じゃない奴が使うにはリスクが高過ぎるネタでお勧めは出来ん……。此れが人間相手ならまだ通用するが、相手はお前等と同じ刀剣の付喪神……下手すりゃ御陀仏、良くても無理矢理神域へ連れて行かれかねん。故に、愛とは呪いでもあるんだよ。今ので分からなかった奴は、般若のお面のスタート地点から最終形態になるまでの流れを履修して来ると良い。人ですら怨念が過ぎれば鬼となり人でなくなる。其れが、末端とは言え、神の位を戴く者が堕ちたらどうなるか…………その先の末路は、俺なんかよりもお前等の方が余っ程知り尽くしてるだろう? 分かったなら、軍議に関係無い話は此処で打ち切りとする。加えて、此処からは今回の選抜メンバーのみこの場に残り、それ以外の者は持ち場に戻れ。軍議で決まった結果は、追って報告する。良いな……? それと、手が空いてる奴は、鵜飼派全員へ俺から招集の呼びかけがあった旨を伝えろ。実働部隊とは別に、裏で連携を取る為の本丸との通信役を頼みたいんでね」
「鵜飼派の皆さんには、僕の方から声をかけて集めてきますね!」
「俺からは以上だ。ほれ、解散解散! 関係者以外は立入禁止だ! そら、散った散った!」
 パンパンッと再び手を叩きながら選抜メンバー以外の者達へ解散を促せば、それまでガヤガヤとかしましかった空間の密度が一気に減って、途端に静かとなった。本丸配属となってから初めて見た、一国一城の主らしい姿とその立ち居振る舞い方に、終始目を瞠るしかなかった二筋樋貞宗は、徐ろにその口を開いて呟く。
「……あんた、本当にこの本丸の大将を務めてたんだな……?」
「あ゙? 喧嘩売ってんのか?」
「いや、そうじゃなくて! 単純に、此処まで審神者らしく本陣で指揮を執ってるところは初めて見たから、驚いたってだけで、他意はない……っ」
「俺の審神者歴見て物言え。就任してから何年経ってると思ってんだ。七年と半年切って、あと四ヶ月も経ちゃ八年目突入すんだぞ。そんだけ時間経ってりゃ、陣形指示に部隊編成組むのも慣れたモンだわ。故に、甘く見積もられたら、その倍にして返す。ただの脳筋と侮ってもらっちゃ困るぜ、貞宗さんや」
 当然とばかりに腰に手を当てて言ってのけた審神者の言葉には、これまで歩んできたその生き様と貫禄が滲み出ていた。此れでまだ熟練審神者の域ではないと言うのだから、末恐ろしいものを感じた二筋樋貞宗は、密かに、けれどおのが相棒の勇ましさに高揚する気持ちを抑え切れずに武者震いした。其処へ、実働部隊とは別に指示を受けた鵜飼派の面々が到着した知らせが入る。
「鵜飼派の皆さんをお連れ致しましたよ、主君……!」
「ご苦労。秋田君はそのまま下がって、次の沙汰が下りるまで待機。集まってもらった鵜飼派の子等には、これから練る作戦を円滑に進める為の通信役を頼みたい」
「成程。今こそ、我等鵜飼派が活躍する時が来た、という事ですね? ロジャー。此れより、私達も今作戦の傘下へと加わらせて頂きます。どうぞ、宜しくお願いします」
「さて……舞台の主役は集まった。世にも奇妙で面白愉快な作戦会議を始めると致しましょうや。……ふははっ、」
 賽は投げられた。審神者は、にんまり口角を歪めて笑い、舞台当日への本格的な下準備へと移行する。


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 約束の時間数分前には、集合ポイント地点近くまでやって来た錚々そうそうたる者達は、本作戦における流れの最終確認を怠らずに各々の役割を再確認していた。
「此れより、本作戦へと移るが、流れについては事前に通達してある通りに、俺に同伴する室内部隊と外での待機部隊の二手に分かれて動くぞ。室内部隊は清光を隊長に、待機部隊は堀川君に隊長を任すので、何かあった時は隊長の指示で動いてくれ。尚、俺からの指示は、直接口頭で話すか、インカムを通して伝える。……何か質問がある者は?」
「本当に主が直接出なければならないのですか……?」
「二度も言わすな。俺の体調が気掛かりなんだろうが……安心しろ。窮地に追い込まれれば追い込まれる程、アドレナリンどっぱどぱ出て痛覚とか麻痺するだろうから、最悪痛みが出ても何とか乗り切れるぞ」
「ウチの御刀様が仰っていた通りですね。一度こうと決めたら譲らない……頑固なところは、ウチの御刀様ともそっくりです。私は今回同伴部隊へは加われませんので、せめてもの支えとして、私の杖をお使いください。普段使いで戦の武器としても使ってきた程頑丈且つ丈夫な物です故、大抵の衝撃にも耐え得る事が出来、折れる事も御座いませんから、力を発揮出来るでしょう。どうぞ、私の分身と思って、ご存分にお使いください」
「いや、普通に助かる身だから有難く拝借させてもらうわ。よっしゃ、武器エクスカリバーGETだぜ……!」
「主、何かを物理的に殴れる物手に入れたからって、本気で物理行使しようとすんのは止めなね。ソレ、一応安宅切の一部だから。傷付けたら漏れなく負傷させる事になるって事、忘れないようにしときなよー」
「合点承知の助なり。んじゃ、そろそろ約束の時間となるし……狼煙のろしを上げる時だ」
 審神者が車椅子に座したまま目配せすれば、作戦開始の合図を受け取った二筋樋貞宗が頷きを返し、口を開く。
「ふー……っ。――此処に正義を執行する」
 ノックの音の後、入室の許可を問う言葉を告げると、直ぐ様内側から応答が返ってきたので、其れに従って重厚感ある金属製の扉を開いた。すると、既に特殊討伐課の応接間には、くだんの先客が奥側のソファーへと腰掛けてお待ちであった。
 今回の会談の目的でもある人物が来た事に即座に反応してみせた警備課の彼は、浮き足立ったように反射的に立ち上がりかけるも、此方が車椅子の状態で参上した事に少なからず動揺してしまったのか、目に見えて分かりやすく落ち込んだような表情で苦々しく唇を噛んだ。
 その一連の様子にただ黙って一瞥をくれるだけに留めた審神者は、次に応接間に面したデスクに着いている者へと顔を向けて先程よりも険のある視線を寄越して口を開く。
「こうして顔を合わせるのは先日振りですね、黒ちょもさんにご隠居や。わざわざこの場を会談の場に選んだ事は、此方への宣戦布告と取っても宜しいので?」
「君に対して非礼を働くような真似をした事は詫びよう。だが、此処ならば、どれだけ騒ごうが暴れようが外には簡単には漏れない仕様であるし、荒事には大層向いた場所でもあると思ったのでね。気を悪くしたのなら、すまない。我が雛鳥の君よ」
「……今だけは咎めないでおきましょう。時間は有限です、有効的に使うと致しましょうか」
「本題に入る前に一つ、僕から訊いておきたい事があるんだが……君のところの保護者とでも呼ぼうか、何人連れて来たんだ? 予想よりも遥かに多い数が居るのだけは気配で分かるが」
「万一に備えての二部隊編成分……とだけお答えしておきましょうかね。まぁ、ご期待には添わなければと思いまして、当本丸の者達から選りすぐりの精鋭部隊を揃えて参りました。数は少数なれど、一部を除き、皆戦慣れした極部隊の者達です。緊急戦闘配備となった暁には、即戦力としてその力を振るう事でしょう」
「つまりは、君……本丸の主戦力ともなる刀共を引き連れてやって来たって言うのかい?」
「俺は、事前に入電の時に申しましたよ? “我が初期刀が漏れなく修羅の形相でウチの主力部隊を引き連れてカチコミしに御礼参りに行くかと思います故、どうぞそのおつもりでお覚悟なさいまし”……と。既に殺気の程でご承知とは存じますが、彼等はどうやら貴殿あなた方に用があるようで。それと、自分がこのような身の上で出向く事と相成った事に、気が気ではなく、気が立っているのですよ。あまり刺激するのも此方の本意ではないところです故、彼等の内の何振りかを会談に同伴させても宜しいですか……?」
「あ、あぁ……其れ自体は構わんよ。その方が、君の番犬含めた保護者共が大人しくしてくれるって事なら、君も安心だろうしな。好きにすると良い」
「御心遣い、痛み入ります。では……初期刀を筆頭とした者達だけを御伴とし、残りは外で待機させておきましょう」
「……翼よ、車椅子を中へ通す手伝いを――、」
「嗚呼、その手には及びません。車椅子は部屋を出てすぐの処へと置いて行きますから」
「しかし、其れでは君の身に障るのでは……っ。せめて、私共の方から手を貸そう」
「結構です。自分の足で立って其方まで向かいますから。その為に杖も用意して参りましたので」
 特殊討伐課の面々を相手取っても尚、変わらぬ態度を貫き通し、ぴしゃりと全ての意見を跳ね除けた審神者は、宣言通り、自らの足で腰掛けていた車椅子から立ち上がり、杖と己の番犬の腕を支えに歩を進めた。その歩みは体を気遣ったゆっくりとしたものであったが、確実に前へと歩いて行き、会談場所となる応接間の中央のソファー側までやって来た。
 そして、改めて警備課の彼の前へと対峙した。毅然とした態度は崩さないまま、視線を上げれば、痛ましげに此方を見遣る視線とかち合う。
「……すまない、無理を承知でこのような場を頂いてしまって……」
「誠に、その通りで御座いましてよ、お巡りさんや。俺がつい先日どのような目に遭ったか、その目で御覧になられた筈のお巡りさんなら、ご存知でしたでしょう? 其れにも関わらず、ごねにごねて無理を押し通したのは其方ですからね。今更言い訳なぞ一つたりとて聞く耳は持ちません故、さっさと本題へと移りましょうか」
「……分かった。では、俺があんたの本丸への異動願を申請し、棄却されたその理由を……あんたの口から直接聞かせてもらえないだろうか?」
「理由は簡単です。我が本丸には、既に二筋樋貞宗を一振り顕現済みであり、また、弊本丸は各刀剣男士につき一振りしか顕現しない運営方針で取り組んでいます。よって、俺の相棒兼番犬の枠への空きは無いという事です。二振り目以降は習合するか、錬結するか、資材へと溶かすか、この三通り以外の方針を取る気は一切無い事を先んじて申し上げておきます。元より、弊本丸は実装された刀剣数のみで構成された精鋭部隊なのです。当然、特例を作る予定も御座いません。そんな余裕は、ウチには有りませんのでね。どうぞ、お引き取りを」
「ははっ……分かっちゃあいたが、まさか此処まで取り付く島もないとは……其処のご隠居さんが言っていた事は、どうやら正真正銘本当の事だったらしい」
「だから言ったろう……このは頷かんと」
 棘のある丁寧な言葉遣いを飽く迄も一貫して貫く様子である事を察して、警備課の彼は思わず苦笑いを零した。次いで、自身へと話題を振られた――監査官の衣服に身を包んだご隠居は、開いた扇子の下で憮然とした口を開く。再三言い含めたのであろう響きに、彼は其れでも尚を願った事の内訳を話した。
「だが、刑事デカとして、本人の口から直接聞くまでは信じられなかった……。ご隠居さんには申し訳ない事をしたとは思うがね」
「其処なクソ爺に申し訳なく思う気持ちが欠片程にも残っておいでなら、是非ともその心遣いと誠意を此方にも示して頂きたかったところですねェ」
「痛いところを突くな……」
「嗚呼、先に言っておきますが、口先だけの安っぽい謝罪などは此方から願い下げです故、どうかお言葉にはお気を付けくださいまし。……下手な口を利いた瞬間、ウチの番犬が飛び掛かって行きかねませんので。くれぐれも、発言する際はお言葉を選んだ上での発言を願います。まぁ、きちんと躾は済んでおります故、余程の事がない限りは・・・・・・・・・・吠えも暴れたりも致しませんから、その点だけはご安心なさいませ」
「……成程。今日のあんたは、終始そんな感じを貫き通すって事かい。……あの時みたいに、砕けた調子の言葉の方が、あんたらしくて良いと思ったんだがな……」
「本日は仕事で参りました故、完全仕事モードで行かせて頂きます。どうか、ご容赦を」
 何を言われても一貫して応じる気はないと冷たく律した態度で示す審神者に、しかし尚も一縷の望みを抱いて縋った。
「……どうしても駄目なのか?」
「くどい。二度も言わすでないわ」
 突如としてそれまでの言葉遣いと態度を変え、瞳孔を剣呑に縮小させると同時にぶわりと怒気を表した審神者。その場に居合わせた者達全員にすら肌を刺すような圧と殺気が突き刺さり、黙して様子を見守る面々は静かに息を呑み、緊張感を走らせた。
 けれど、此処で諦めるようなタマではない彼も、言葉を重ねて追い縋る。
「俺が、相棒としてだけではなく、異性の対象として好きだと言っても、あんたの意見は変わらないと……?」
「好くのは結構ですが、そのまま思いが返ってくるとは思わない事ですね。此れは、どのような事においても言える事ですが。何かを為すには対価を支払うのは当然であり、そしてその全てが報われると思い込まない事です。何事であろうと、尽くしたら尽くした分だけが返ってくる訳ではないんですよ。此れこそが、世の真理であり、厳しくも残酷なところです。故に、損得勘定だけで物事を推し量らない事をお勧め致します。好意を寄せられる事、其れ自体は良しとしても、その先に俺の意志や気持ちが伴っていない以上は、お巡りさんに対し失礼だと思うからこそ、拒否を示した次第です。此れが、お巡りさんが知りたかったであろう事の真相です。御満足頂けましたでしょうか?」
 尚も言い寄られたが故に、懇切丁寧にきちんと相手の思いも汲んだ上での回答を述べた。この通り、誠心誠意向き合っているのだから、正直もうこの時点で諦めて折れて欲しいと思った。好意そのものは嬉しく思えども、その気持ちに応える事が出来ないから、己は相手に相応しくないとして自ら引き下がる意思を主張したが……さて、向こうはどう出て来るのか。暫し無言で反応を窺った。
 すると、彼も彼で内なる葛藤と戦っているのか、膝の上で手を組んで、其処に額を押し当てるような形で考える人のポージングを取り、固まっていた。此処まで己に言わせておいて、尚も縋るのは男としてあまりに格好が悪い。けれど、この機会を逃せば、恐らく屹度きっとこの先また会って言葉を交わす機会は得られないであろう。彼が考えているのは、大体そんなところだろうか。
 考えを纏めた末に出した回答を口にするべく、震えそうになる声を振り絞って言葉にする。
「……あんたの気持ちは理解した。俺の気持ちも汲んだ上で断る事も含めて……。でも、俺は刑事デカである前に、あんたに惚れた一人の犬であり男だ。何度振られようと、一度惚れた相手をみすみす逃したくはないんでね……我ながら諦めが悪い性分だと思ってるよ。だが、それ程までにあんたという人間に惚れ込んでるんだって事を、此処に宣言しておく」
「たかが側面の一場面を見ただけで、俺の全てを理解した風にお思いなら、片腹痛いわ。もっぺん新刃研修で人間について学び直してきな。誠に遺憾であり、不愉快極まりない。其れで誠意を見せたつもりで居るとは、随分と見下げられたモンだなァ……あ゙? 人間舐めてんじゃねーぞ、ゴルァ」
「……相棒」
「失礼。お口が過ぎましたわ。御免遊ばせ」
「やれやれ……此処まで女に言わせておいて折れんとは、本当に諦めが悪い奴だな、お前さんは」
「そういう性分なんだ」
「その上、開き直るか、この若造……。いい加減、聞いてる僕等の方は針のむしろの上に居るような気分なんで、そろそろお開きにしてもらいたいんだがねぇ?」
 このままでは延々と平行線を辿りそうな空気を察して、助け舟を出したご隠居が会談を締め括りに掛かった瞬間、第三者の者による制止が入った。
「待ってください! もうちょっとだけ、あともうちょっとだけお話聞いてあげてください!! お願いします……っ!!」
「……おい。此れはどういう訳か、お聞かせ願おうか? ご隠居殿」
 明らかに、今回の会談に関係の無い部外者が出て来た事に、遺憾の意を示して厳しい声音で以て問い質した己の番犬。事と次第によっては、抜刀する事も厭わないのを態度で示すべく、利き手が本体の柄へと伸びれば。其れを察した警備課の彼が、慌てて弁明の意を表明して押し留めようとした。
「待ってくれ……! 頼むから、刀は抜かないでくれ。此奴等は、俺と同じ警備課の者で……っ、その……俺が惚れた女に振られたが、粘りに粘って今回の会談という機会を得るにまで話を漕ぎ着けたとの事を……何処からか聞き付けたらしく、勝手に此処まで付いてきて、何故か応援されている状況なんだ……。一応、止めには止めたんだが…………」
「打ちひしがられてる二筋樋さんの姿を見てたら、何かもう居ても立っても居られなくなってしまいまして、勝手にお邪魔してしまったのは本当にすみませんでした!! でも、正直こんなに出来る男で彼氏としては逸材過ぎる二筋樋さんが振られる事に、同じ仲間としても納得行かなくって……! 其れで、つい口を挟んじゃいました……。本当に御免なさい!!」
「俺からも謝罪しよう。俺の兄弟が迷惑をかけて、すまない……」
「この通り、深く反省してるので、どうか刀解だけは許してください……っ!!」
 突然の第三者介入により、場の空気が一変してしまった事に呆気に取られてしまった審神者は、一瞬だけポカンと虚を突かれた表情を浮かべるも。其れと同時に毒気も抜かれてしまったのか、それまで固く険しい顔付きだったのから打って変わり、少し崩れた表情で小さく吹き出した。失礼に当たると理解しながらも、クツクツと喉奥が震えるのを抑え切れずに、手で口を覆い隠すが、静かに笑いを堪えているのが丸分かりな態度に、今度は向こう側がキョトンと顔を見合わせる番だった。
「えっと……此れって、許してもらえたって事で合ってます……?」
「……其れは、どうかね。僕が答える事ではない故に、直接本人からの答えを聞くと良い。……そら、君も笑ってないで答えてやりなさい」
「ッ……ふふ、すまない。此れは誠に失礼つかまつった。思わぬ第三者からの介入に加えて誤解されたまでの流れが、何とも可笑しく思えてしまったモンで。無礼を詫びよう。それから、こんな程度の事如きで刀解処分なぞせんから、頭を上げなさい」
「えっ……つまり、さっきの俺達のミスを許してくれるって事ですか……?」
「許すも何も、俺は君達が突然介入してきた件について、始めから怒ってなどいないよ。俺の相棒兼番犬が、些か噛み付いてしまった事で誤解を与えてしまったのかもしれないが」
「いえ、何方かと言うと、先程までの恐ろしいくらいの気迫に気圧されてしまった事の方が原因ですかね……?」
「おい、鯰尾……! 余計な口を利くな!」
「いや、だって、この人、怒らせたらおっかないと思いますし、嘘は良くないと思ったんで……」
「……ッははは、何処の鯰尾藤四郎も実に素直だねぇ。其処が、君の取り柄でもあるんだろうが。まぁ、何にせよ、此れで俺は必要無い事が分かって逆に良かったよ」
「えっ? 其れは、どういう……」
「其処なお巡りさんが一人孤独に過ごしている、とかって話ならアレだったが。ちゃんとした仲間が居るんじゃないか。一人じゃないのなら、俺が側に居らずとも代わりは果たせる。其れが分かって安心したって意味で言ったのさ」
「確かに此奴等は職場の同僚で仲間だが……っ、あんたに対する気持ちは全くの別物で……!」
「似たようなモンさね。一人じゃないなら、寂しい思いを抱える事なく、君はもう自分の足で立って歩いて行けるだろう? 其れが分かっただけで十分だ。話も済んだし、此れにて会談は終いとしようか」
「待っ……!!」
 用は済んだ。ならば、そろそろお開きの時間とする方が賢明な判断だ。何時いつまでもズルズルと付き合っていてはキリがないし、埒が明かない。程良いところで舞台の幕引きをすべきだと判断した審神者は、穏やかな声音でそう告げて席を立った。同時にその場に同席していた己の番犬も腰を上げて、己が歩く為の支えになろうと片腕を差し出した。その気遣いと優しさを有難く受け入れて、杖を持つのとは反対の手を伸ばして触れた。
 その刹那の瞬きの内に、事態は急展開を迎える。


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 審神者が己の番犬の腕を取ったタイミングで、それまで明々あかあかと点いていた筈の照明が、突如前触れもなくフッと消えて落ちたのだ。直後に、審神者一人だけぞわりとした感覚を覚えた事に、直感で不味いと感じ、暗闇に満ちた空間に注意を払った。
「停電か……? 照明器具の故障だろうか……」
「こんな暗闇の中じゃ、皆さん夜目が利かなくて大変ですよね。俺がブレーカーの方を見て行きますんで、皆さんはそのまま待機して……」
「待て!! この場に居る総員、その場から動くな・・・・・・・・――ッ!!」
 咄嗟に審神者が鋭い声を上げた事で、皆一様に動きを止めた。否、審神者が言霊を使用して、半強制的に動きを封じたのだ。この場で唯一人間であり審神者である者が異変を察知し、即座に臨戦態勢へと移った事により、同伴者として付いてきていた室内部隊の間に異様なまでの緊張が走った。
 状況に付いて行けてない者達に構っている余裕はなく、審神者は詳しい説明は後回しにして、実働部隊組へ向けて指示を飛ばした。
「主命を発動する! 室内部隊は、直ちに速やかな退路の確保と出入口が塞がれていないかの確認を行え!」
「応……!」
「おいおい……っ、一体全体何事だ? 頼むから、僕等にも分かるよう状況を説明してくれ……!」
「俺の憶測に過ぎんが、十中八九、先日の一件で討ち逃した怪異だ! 俺達が斬ったと思ったのは、たぶん、怪異本体じゃなく一部に過ぎなくて、あの後からずっと俺と其処なお巡りさんが揃う機会を影に潜んで様子見してたんだろうよ! 先日のは明らかなポルターガイストで照明器具を破壊してきたが、今日のはその音すら無かったのを察するに、この現状はノーモーションで行われた可能性が高い!」
「おいおい、冗談じゃないぞ……! 先日の一件だけでも君が命懸けで討伐したってのに、本体じゃなかっただと!? おまけに、こんな芸当をノーモーションで遣るなんざ、怪異の危険度レベルが跳ね上がるって事じゃないか、つまり……っ!!」
「だからコッチは急いで状況の好転を図ろうとしてんだよ! 集中出来ねぇから、ちっとの間黙ってろクソ爺……ッ!! 室内部隊、状況の程はどうだ!?」
「駄目だ!! ロックが掛かったみたいにビクともしない!!」
「待機部隊!! 俺の声が聴こえたなら、誰でも良いから応答してくれ!!」
『どうかしましたか!?』
「緊急事態発生!! 至急外からドアが開けられないか確認して欲しい!! 現状内部からは開けられなくなってる状況だ!! イケるか!?」
『駄目です!! コッチからも何かに阻まれてビクともしません!!』
「チッ、やはりか……。コッチがガチパ編成で乗り込んで来たのを見越して部隊を分断してきたな? おまけに、俺達をこの箱の中に閉じ込めるたァ……どうやら討伐対象の怪異は、そこそこ知能が高いタイプみてぇだなァ。小賢しい真似しやがって……絶対ェぶっ殺す」
『おい! 中は今どうなってる!?』
「怪異事案発生により、絶賛異去みたいな真っ暗闇の中に閉じ込められて、下手に身動き出来ん状態だ!! このままだとコッチのSAN値が保たんから、祝詞を唱えてどうにか状況の好転化を図る……!! 視界さえ晴れればまだ何とかギリ持ち堪えられる!! 俺は怪異との戦闘に集中するから、退路確保の方は待機部隊に任せたぞ!!」
『了解です! ご武運を……!!』
「室内部隊は、視界が確保され次第、怪異戦に対する非戦闘員を保護して盾となれ!」
「了解!!」
 実働部隊組へと指示を一通り出し終えると、一拍分の深呼吸を置いてから、心を落ち着かせたのちに、頭の中へ叩き込んだ祓詞はらえことばを唱え始める。
「――掛けまくもかしこ伊邪那岐大神いざなぎのおほかみ 筑紫つくし日向ひむか橘小戸たちばなのをど阿波岐原あはぎはらに 御禊祓みそぎはらたまひし時にせる祓戸はらへど大神等おおかみたち 諸諸もろもろ禍事罪穢まがごとつみけがれ有らむをばはらたまひ清めたまへとまをす事を聞こしせとかしこかしこみもまをす――!」
 審神者が祓詞はらえことばを唱え終えた刹那、視界を覆い尽くすような漆黒の闇が、ザアァ……ッと影のように蠢き掻き消えたかに見えた。しかし、直後に審神者の掛けていた眼鏡のレンズにひびが入った事に、事態がまだ収束し切れていない事を悟った審神者は、険しい顔付きを更に顰めて眉根を寄せた。
「――メーデーメーデー。此方、猫だ。猫より雲へ、只今の状況の確認を行いたい」
『――主からのコールサインを確認。クラウド・エアラインの通信は正常に動作しており、感度も良好です。どうぞ』
「猫より雲から空へ通達、当該現地ポイントの空模様を伺いたい。出来るか?」
『ロジャー。通信を代わります』
『――主からのコールサインを確認。空より猫へ伝達する。此方の手元にあるレーダーから現地の天気を占ったところ、かなり雲行きが怪しくなっていると見た。恐らく、近い内に黒雲の雨が降り注ぐだろうね。そうなったら、血の嵐が巻き起こるかもしれない。十分に気を付けて。空からの通信は以上だよ』
「嫌な予感程当たるのが難儀でしかなくて全く厭になるね……ッ。ならば、猫より地へ通達する! 本陣の浄化装置を全て起動して、此方の帰城を待て!」
『――主からのコールサインを確認! ロジャー! 只今より浄化装置の起動準備を開始します!』
「了解……っ、本陣の事は任せたぞ。通信を猫より地から全へ通達だ、此れより怪異討伐戦を開始する! 縁を辿って本陣へと穢れが流れ込む可能性有り、その時は直ちに残してきた戦力をフル稼働させてでも殲滅せよ! 絶対に城を落とさせるな!!」
『ロジャー!』
「怪異が片付き次第、沙汰は追って知らせる! 猫からの通信は以上だ、互いの健闘を祈る……っ!」
 視界が確保出来るなり、インカムで以て別動部隊へと指示を飛ばした審神者は、通信を終えるなり、戦闘配備に付くよう言葉を告げる。
「……話は聞いていたな? 現時点を以て、この場を怪異討伐戦の戦場と見做し、怪異対策調査課の派遣審神者として俺が指揮を執る! 尚、異論は認めんから、文句なら後から怪異にでも言ってくれ。一先ず、今は、怪異自ら箱に封じ込まれてくれた事を好都合と捉え、この場を空間ごと外部と切り離させてもらうぞ。――Game start. Capture the area lineエリアラインを捕捉, Out of position定位置からずらす.」
 審神者が指を鳴らした瞬間、その場の空気が空間ごと一瞬だけ揺らいだような感覚を覚えた。何をしたのかを端的に述べれば、自分達が居た空間を位相ごと切り取り、空間を固定して、ずらしたのだ。此れで、文字通り、袋の鼠状態となり、自分達も含め怪異もこの場から逃げる事は出来ない。脱出条件は、審神者が“ゲームセット”と唱える事に加え、怪異が討伐完了出来た事の二つが合わさって初めて成立する。何とも力技でしか為せぬ芸当であった。
「君、今何かしただろう? 説明を放棄せず、僕達にも状況を理解出来るように説明してくれ」
「まず前提として、今回の討伐対象となる怪異の発生には条件が課せられていた。其れは、先日怪異の一部を破壊した俺と彼奴の二人が揃う事。そして、現状、その条件が揃ってしまった事により、怪異発生となるトリガーが発動。つまり、俺達は、まんまと怪異の罠に嵌められたという訳さ。今回討伐対象となってる怪異が根城にしていたのは、旧施設棟の中でも中心部を担う連絡棟の通信室だった。恐らく、其処に居着いた際に通信機能をジャックしちまったんだろうなァ。だから、あの場では電波状況が極めて弱かったんだ。俺達をこの箱の中に閉じ込める程の知能の高さを持つレベルだ……外部に奴の手が伸びる前に此処で食い止めないとどエラい事になりそうだったモンで、無理矢理空間位相を元在った位置から切り離させてもらった。文字通り、この場は袋の鼠という事だ」
「空間位相を切り離しただと……っ!?」
「切り離したって言っても、実際にはちょっと弄っただけで、討伐が終わればちゃんと元に戻すから安心してくれ」
「これまた、何っちゅー力技仕出かしてくれるんだ、君は……! まだ本調子でもない癖に、よくもそんな大それた真似が出来たモンだよ!」
「先日はまともな装備すら無しにの上に単騎だったが、今回はガッチガチな布陣固めて来てるんでね。何より、俺にはこの三日月宗近お爺ちゃんが付いてさえいれば、多少の無理は利く。勿論、限度は見極めた上での判断だ。先日あれだけ死ぬ思いしたっていうのに、本体叩けてなかったなんて知れたら、頭に来るだろう……? さて、話はこれくらいにしておこう。派遣審神者としての仕事を果たすとしようじゃないか。まず先に、怪異本体を捕縛する。警備課の粟田口二人は、今すぐ其処のお巡りさんから離れろ! 室内部隊は、警備課二人の守りに回れ!」
「なッ……!? 其れは、どういう……!?」
「相棒、特殊討伐課の者達の警護はしなくて良いのか?」
「必要無い。アッチには怪異対策調査課のご隠居が付いてるし、何よりお片付けのエキスパートな方々だ。だから、俺の手は間に合ってるって事。お分かり? お前は、極部隊の面々と違って唯一の特個体だ……練度頭打ちでカンスト済みとは言え、油断は禁物だぞ。自分で無理だと判断したなら、直感に従って下がれよ。俺は怪異討伐に集中するから、一々個々の状況の面倒なんぞ見てられん。其れを念頭に置いて動け」
「了解、抜かりなく」
 口頭で手短な説明をする傍らで、前方に見据えた彼から距離を取るように後退していると、不意に審神者の命令とも呼べる指示に困惑を示した様子で警備課の鯰尾藤四郎から待ったをかけられた。デジャヴである。
「あのっ、待ってください……!! どうして俺達が二筋樋さんから離れなくちゃいけないんですか!? というか、圧倒的に説明不足過ぎます……!!」
「対怪異戦において、ズブのド素人が口を挟むんじゃねぇ。死にたきゃ勝手にすれば良いけど、俺は巻き込まれても責任取れねぇからな。細心の注意を払ったとしても……今回の怪異の危険度は上級レベルで、且つ一部の破壊だけでも、俺の結界と盾で攻撃を防いだお巡りさんは掠り傷を負い、俺は片足三途の川に突っ込む程の霊障を受けて丸三日生死の境を彷徨う羽目になったんだ。この経緯を踏まえた上でも、まだ怪異本体と同化したお巡りさんと仲良しこよししてたいなら、どうぞご勝手に。死ぬ覚悟も出来てない内から軽口叩いて現場甘く見るんなら、所属変えた方が良いと思うぞ。言っとくが、警備課も、職業柄巡回中に怪異と遭遇するなんてケース、ザラにあるからな。死にたくねぇなら、黙って俺の指示に従って、俺の部隊の後方である安全地帯まで下がってくれ。正直に言って、戦闘の邪魔だ。……嗚呼、言い忘れない内に言っときますが、俺、こう見えて余裕無いんで。漏れなく総員自分の身は自分で守る事大前提ですんで、其処んところ宜しく頼みますよ各々方」
「分かった……せめて、君の集中を欠くような邪魔だけはしないよう心掛けよう」
「賢明ですね」
「ところで……何故、あの若造が怪異本体と同化していると判断した?」
「ウチの気象予報士からのタレコミと、己の直感が一致したもので、ほぼ確と踏んでる訳です。何よりも……この目でドス黒い瘴気の塊を捕捉してしまったモンですから。俺の目に、誤魔化しが通用しない事はご存知でしょう? 俺を雇ったのは其方なんですから。本気で時間タイムリミット迫ってるんで、諸々については後でお願いします。空間を剥離して固定維持するにもかなりの霊力食うんですよ。其れと並行しながら戦闘おっ始めようってんだから、同時に複数のタスクこなすの大の苦手な人間が、我ながら正気の沙汰とは思えん力技ですわ、本っ当ォーに……!」
「いや、冗談抜きで化け物じみてるな、君……っ」
「実際……ギリギリ人間の範疇に押し留まってるだけで、半分くらい人間辞めてる自覚有りますが何か」
「末恐ろしいが、この場に限っては頼もしく思えるよ……!」
「行ける、主……?」
「殺るしかないんだから、殺るの一択だろうよ……ッ!」
 後方に付く初期刀様からの言葉に、米神から冷や汗を伝わせながらしんどそうな顔付きで応じた。実際、現状は、殺るという一択しかこの場を脱出する為の選択肢は残されていない。故に、審神者も手段を選ばず、強行策に出たのだ。既にかなりの体力を削られているのか、息荒く浅い呼吸を繰り返していた。其れを見咎めたのか、己の番犬が眉を顰めて問うてくる。
「本当に大丈夫なのか、相棒……?」
「大丈夫もクソもあるか。全力で掛からなきゃ、最悪全員死ぬ事になる。其れだけは何としてでも避けたい。……だから、お前達には、これから無茶なお願いをする。――こっから先、俺に何があろうとも手を出すなよ。下手したら、失敗してあの世行きならまだ良い方……だが、奴に取り込まれたら本気で終わりだ。故に、言霊を以て命じる……総員、ここから先は己の身を守る事だけに集中し、俺の事には一切構うな! それから、菜切君のみ、皆を守る意図での行動制限を一部解除し、俺より後方に攻撃の一手が伸びるようであれば、その力で以てして全て薙ぎ払え!!」
「そんなっ、無茶だ主……!!」
「雛鳥……ッ!!」
「――お前は良き杖、丈夫な杖。我が剣となり盾となり矛となれ。お前は鋼鉄の杖、此れより振り下ろすは怒りの鉄槌……!」
 己の北谷菜切と“黒衣の山鳥毛”の制止の声を振り切りって踏み込み、持っていた杖へ強化の術を掛けながら逆手に持ち変えた審神者は、前方で現状を飲み込めぬまま呆然と立ち尽くしている彼の米神辺りへ狙いを定めて、渾身の一撃をお見舞いした。無防備だった彼は、咄嗟の事に身構える余裕も受け身を取る暇すらも無く、思い切り横っ面を殴打された衝撃で壁際へと吹っ飛んだ。
 勢い良く壁へと叩き付けられた彼が脳震盪を食らって動けぬ内に、次の一手へと躍り出た審神者は、容赦なく追撃の手を振り下ろす。しかし、思ったよりも入ったダメージが浅かったのか、すぐに臨戦態勢を整えた彼が、その殴打の杖を受け止め、慌てて口を開いた。
「待っ、待ってくれ!! 一旦、攻撃の手を止めて話を聞いてくれ!! どうして俺があんたに攻撃されなきゃならないのか、理解が追い付かない!! もしや、そんなにも俺の事が嫌いになってしまったのか!? なら、謝るから、どうかこの手を止めてくれ、頼む……!!」
「チッ……黙ってくれときゃ仕事が楽で済んだのによ! 何処までも狡猾且つ小賢しい奴め……っ! お前等ァ、俺が良いって言うまで絶対ェに耳を貸すなよ!!」
「ぅぐッ……!!」
「二筋樋さん……!!」
 忠告の言葉を言いながら、杖の持ち手で殴る事を止めない審神者に、ショックや諸々で心身的なダメージを食らい、呻き声を発した。
 先の動揺を誘う言葉が引き金となったのか、仕事仲間であり同僚である彼が無慈悲にも攻撃を受けている姿を見ていられなくなったようで、思わず警備課の鯰尾藤四郎が兄弟に取り押さえられながらも悲痛な声を上げて前に出ようとした。しかし、その前を、彼等を守る為の指示を受けた室内部隊が阻む。審神者もまた必死なので、一切攻撃の手を緩めない。何故ならば、少しでも手加減をすれば、此方が殺られかねないからだ。凶悪なレベルの怪異に対しては慈悲など一切くれてやらない、其れが怪異対策調査課の派遣部隊として契約を結んだ信条だった。
 其れでも尚、此方の動揺を誘いたいのか、彼の口は回り続ける。
「どうして……何故……俺はこんなにもあんたの事を想っているのに……どうしてこんな仕打ちを返されなくちゃいけないんだ! 雛鳥・・……ッ!!」
「気安くその名で呼ばうな、駄犬痴れ者が」
 審神者の琴線に触れる話題を出してしまったのは、この場においては最も悪い選択だった。何故ならば、怒髪天を衝かれた事で、軽くプッチンとキレてしまったから。地を這うような低音ボイスで静かに怒りのボルテージを示した審神者が、瞬時に手にしていた杖の上下をくるりと回転させて、容赦ない鉄槌を鳩尾へと叩き込んだ。思わず、息を詰めた彼は、口から黒い液体を吐き出した。
「がはッ……!?」
「やはりか。先日の俺に出た症状の初期段階と全く同じだな。オラ、その腹ん中に収めちまってるモンを全部吐き出しちまいな……!」
「ぉごッ!! ふ、ふふ……っ、此れも愛する者から与えられし試練……という名の、愛の鞭とやらか? 面白い……!」
「がッ……!?」
 何が怪異の琴線に触れたのか、体を乗っ取った者の記憶から何まで把握した模様で攻め手を変えてきた。不意打ちで杖を掴まれた審神者は、そのまま杖を軸にされて宙へと一度ぶん投げられて床に叩き付けられる。まるで、先程のお返しをするかのような攻撃だ。一瞬受け身を取り損ねて、まともにダメージを受けてしまった審神者の様子に、後方で控えている事しか出来ない室内部隊から悲痛な叫び声を上がった。
「主……ッ!!」
「チッ……ク、ソが……! 半端に乗っ取られやがって……!」
「おい、どうした……? もう試練は終わりか? なら、今度は此方から出るぞ……!!」
「ッ……!! ――Unlimited Blade Worksアンリミテッド・ブレイド・ワークス!!」
 其れまで防戦一方だったのから一転して、本格的な攻撃手段へと出た事に、命の危機を察知した審神者は、咄嗟に霊力回路の制限を解き、膨大な量の霊力を放出し、某アニメで見た宝具を真似た強力な結界術を展開した。ほぼ脊髄反射的に展開した結界だったが、功を奏した結果、ヘドロのように真っ黒な液体が放射線状へ伸びるようにして行われた広範囲攻撃を防げたようだ。しかし、此れで火が付いたのか、愉悦顔を張り付けて結界を破ろうと躍起になった。
 一気に止めどない攻撃の嵐に見舞われる事となった審神者は、空間位相も維持しながらの防戦に追い遣られ、先日の比ではない威力に徐々に結界を維持する力を保てなくなり、五枚の桜型を模した結界が同時に破壊される。途端に反動を食らった審神者が、衝撃波で弾かれ、その拍子に体のあちこちへ裂傷を食らい、眼鏡は吹き飛ばされ、少し前まで彼が座っていたソファーの肘掛け部分へと声も無く叩き付けられた。遅れて離れた位置へと着地した眼鏡も、衝撃で壊れて完全におしゃかとなってしまった。
 運悪く打ち所が悪かったのか、衝撃により数秒間脳震盪を起こして動けなくなった審神者の頭から赤い血が垂れ落ち、床に赤い染みが出来た。おまけに、詰まらせていた呼吸を再開させた拍子に咳き込めば、血混じりの痰が喉に引っ掛かったのか、血の味のする唾をプッと吐き出した。乱れて顔に掛かる前髪の隙間から覗く片目を、脳震盪の影響で不明瞭ながらも何とか押し開いて討伐対象の位置を確認する。
 その際、いつの間にか元の黒色から人外色へと瞳の色が変わっている事に気付いた味方勢は、息を呑んで目を見開いた。審神者の目の色が変わる時の意味を知っている者達は皆一様に血相を変えて、前に出て行こうと踏み出しかけるも、現状はまだ言霊の効果が持続している為、それ以上先へ出る事が叶わず、地団駄を踏むように苛立たしげに足を踏み鳴らす事しか出来ずに歯噛みした。
 流石の此れには黙っていられなかったのか、明らかに声に焦燥感と怒りを滲ませた様子でご隠居が言葉を発した。
「貴様ッ……! それ以上、ウチのモンに手を出したらタダじゃおかんぞ……!!」
「はははっ……! おやおや、普段は飄々として居られるご隠居殿が、それ程にまで激昂するとは珍しい……! 其れだけ、彼女が痛め付けられるのは見るに堪えないか。だが、彼女を痛め付けるのも穢すのも俺だけが許されている。他の奴になど渡すものか……ッ!!」
「ッ……!! ――天地あめつちに眠りし水よ、矢となり槍となり穿て! その矢は槍は、杭となりて、蛇に巻かれてはりつけとなるだろう!」
 頭から滴る血で片目の視界を奪われながらも、仲間達へと攻撃の手が伸びる前に、この場に存在する隣人達・・・の力を借りた反撃に出て、彼の体を再び壁際へと追い詰めてはりつけにした。氷の槍が彼の手足を封じるように突き刺さり、黒く染まってはいない赤色の血液が流れるが、彼を足止めしている隙に素早く体勢を立て直した審神者は、片目の視界を奪っていた血を払って、構わず攻撃を再開した。
 飽く迄一時的に動きを封じている間に彼へと組み付き、持っていた杖で急所の喉元を押さえ込む。が、想定よりも早く両手の拘束を解いた彼の抵抗を受けて、完全には主導権を握れない。審神者は思わず鋭い舌打ちを零して、そのまま吼えるようにして叫んだ。
「警備課の二筋樋貞宗・・・・・、俺の声が聴こえるか……! まだ君の刀剣男士としての核までは侵食されていない、だからしっかりしろ! この物語は俺達が始めた物語だ! 然らば、幕引きも俺達の仕事だろう! この言葉の意味が分かるな? 俺を真の意味で信ずるならば、君も力を貸せ! 意識を完全に掌握される前に抵抗を示すんだ! 俺の言葉が正しく届いたのならば、今君の枷として喉元へ食い込ませたこの杖を自ら引き寄せてみろ……!」
 僅かに抵抗が緩んだ感触を受け取った審神者は、内心で「良し……っ」と頷くと、一縷の希望に賭けて心血を注ぐように意識を目の前の事象へ向け、言霊に乗せて意思を紡いだ。
「汝へ問う。汝が思い抱く正義とは何か? その身も心根もまだ柔く未熟な内から惚れた腫れただのにうつつを抜かすとは、笑止千万。身の程知らずも甚だしい。身の程を弁えよ。我等が使命とは何か? 歴史修正主義者共から正史を守り抜く事であろうが。戦場いくさばを知らずして、何が守れる……? どのような正義を語ったところで、綺麗事で済ますだけでは話にならん。汝が手にした刃は、敵の首級も狩れぬ程のなまくらか? 違うだろう。ならば、その足をしかと地に付け、戦場いくさばへ立て。人々我等が歩んできた歴史から目を背けるな。そして、敵の喉笛にその鋭い刃を突き立てよ。汝の刃は、敵を屠る為の爪であり牙であろう? ただのなまくらと成り果てる前に使命を果たし、戦果を挙げてみせろ。其れが、汝が今真っ先に遣るべき事柄な筈だ。頭を冷やせ。そして、警備課所属男士として、番犬としての役割を果たせ。今一度、問おう。汝の正義とは何か? 汝の中に確固たる曲げれぬ信念があるならば、応えてみせよ。汝の正義を信じ、戦え。目の前の事から逃げるな、目を背けるな。戦う意思がまだ汝の中に残っているのなら、我が問いに応えよ。汝は何だ、汝は誰だ、応えろ――!」
「ぁ゙、ぐぅ゙ッ……! 俺、は……っ、警備課所属の、二筋樋貞宗であり……刀のお巡りさんで……っ、あんたに心底惚れた男だぁ……ッ!!」
「……ははっ、遣れば出来るじゃないか。上出来だッ!!」
「がッ……!!」
 本物の彼の意識を引っ張り出せた事に満足を示すなり、物語を幕引きへと導く為、彼の首へ掛けていた杖を振り抜く際にわざと顎下へカウンター攻撃としてアッパーを叩き込む。しかし、完全に怪異を剥離するには物理的ダメージが足らない。
 其処で審神者は無防備で守りの薄い足元を狙うと見せかけて、己の爪先を彼の股間目掛けて思い切り振り上げた。言わずもがな、其れは“金蹴り”であった。男の急所を狙い定めた渾身の一撃は見事綺麗に決まり、怪異に乗っ取られていても痛覚は正常に働いていた模様で、「ぎッッッ!?」という悲鳴を上げた後、彼の顔色が一気に青褪める。同時に、審神者が彼に“金蹴り”を決めた瞬間を見ていた味方勢全員も漏れなく「ひゅッッッ」と息を呑んで、サッと顔色を青褪めさせた。容赦なく急所を狙った攻撃は成功したが、同じ男ならば同情してしまいかねない一部始終でもあった。
 大いに隙の出来た彼の鳩尾へ、続け様に拳での直接攻撃を捻じ込んだ審神者。直後、すかさず言霊の力を乗せた祝詞を彼の体内へ流し込むように詠唱する。
「――ひふみ よいむなや こともちろらね
しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか
うをえ にさりへて のますあせゑほれけ
ひふみ よいむなや こともちろらね
しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか
うをえ にさりへて のますあせゑほれけ
ひふみ よいむなや こともちろらね
しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか
うをえ にさりへて のますあせゑほれけ
布留部ふるべ 由良由良止ゆらゆらと 布留部ふるべ――!」
「がはッッッ……!! ぉぐ、げぼぁ……ッ!!」
 審神者の渾身の霊力が上乗せされた殴打と共に打ち込まれたひふみ祝詞をまともに食らった彼は、衝撃に耐え切れずに、口から盛大にドス黒い塊を吐き出した。黒く染まった唾液の糸が彼の口より糸を引いて審神者の肩に掛かるも、其れには目もくれずに後方に控えていた室内部隊へと告げる。
「今だ、にっかりとちょぎ君!! 斬れッッッ!!」
「それっ!」
「食らって滅せよ!」
 審神者の合図がかかった瞬間、心得たとばかりに霊刀組二人で渾身の一撃たる二刀開眼をお見舞いし、怪異本体を斬り裂いた。その後、討伐対象は沈黙したかに思われたが、裂かれて散り散りになったドス黒い肉塊が、ばら撒かれた液体を介して再生を行おうとしたのを目の端で捉えた審神者が、瞬時に追加の祝詞で完全消滅を図る。
「――天清浄てんしょうじょう 地清浄ちしょうじょう 内外清浄ないげしょうじょう 六根清浄ろっこんしょうじょうと 祓給はらいたま
天清浄てんしょうじょうとは 天の七曜九曜しちようくよう 二十八宿にじゅうはっしゅくを清め
地清浄ちしょうじょうとは 地の神三十六神さんじゅうろくじんを 清め
内外清浄ないげしょうじょうとは 家内三寳大荒神かないさんぽうだいこうじんを 清め
六根清浄ろっこんしょうじょうとは 其身其體そのみそのたいの穢れを
祓給はらいたまえ 清めたまふ事のよし
八百万やおよろず神等かみたち 諸共に
小男鹿さおしかの やつ御耳おんみみを 振立ふりたてきこめせと申す――!」
 完全再生される前に追い打ちの最後の一手として天地一切清浄祓てんちいっさいしょうしょうばらいを唱えれば、耳をつんざくような金切り声を上げた怪異の核は、火に飲まれるようにして絶命した。その場に残ったのは、彼が流した血と嘔吐した瘴気の塊に、煤けて黒ずんだ床だけに、審神者から流れた赤い血痕であった。
 暫く、その場は沈黙が降りたが、肩で荒々しく息を継いでいた審神者が疲れた顔を張り付けながらも、気怠い腕を上げて「――Game set.」と口にすると同時に指を鳴らした。途端、再び空間の揺らぎを感じるも、元在った位相空間へと戻ってきたからか、それまで途絶えていた外部の喧騒音が聞こえ始めて一気に騒がしくなる。
 作戦は成功した事に安堵した審神者が、上げていた腕を下ろしたタイミングで、其れまで固く閉ざすが如く掛かっていた扉のかんぬきが、いきなり引っこ抜けたように阻む物を失った出入口が勢い良く開かれ、外で奮闘していた待機部隊の面々がなだれ込んできた。
「開いたぞ!!」
「主さん、皆さん、ご無事ですか……ッ!?」
「おぉ……まぁ、何とかなァ〜…………っと、」
「大将ッ!!」
「主君……!!」
 窮地を脱した事で、それまで張り詰めていた緊張の糸が解けたのか、フラリ、体をよろめかせた審神者。途端、直ぐ様駆け寄ってきた薬研藤四郎と前田藤四郎の二人に体を支えられるが、其れと同時に諌める言葉が飛んでくる。
「ったく……どんだけ俺達の寿命を縮ませれば気が済むんだ、ウチの大将は! 死にそうになってる大将を見てるだけしか出来ない俺達の気持ちを考えた事あるか!? 頼むから、金輪際二度と“俺に何があっても手出しするな”なんて馬鹿げた主命を言霊で縛るのはナシにしてくれ……! 本気で生きた心地がしなかったんだからな……ッ」
「すまん……反省はしてるが、下手にお前等を巻き込む訳にもイカンと思ったんでね……正直なところ、後悔はしてない」
「主君……??」
「御免て……」
 審神者の懐刀である二人からのお小言を貰って反省しつつも、派遣審神者としての務めを果たすべく、後片付けに向けた指示を飛ばす。
「取り敢えず、後は残った穢れを祓って浄化作業を終えれば、其処で伸びてるお巡りさんも現場復帰出来るようになるだろうし、この場もまた使えるようになるとは思いますんで……其れだけでも最低限言い残しておきますかねェ」
「いや……本当に体どころか命張り過ぎてて何処から突っ込んだものやら……」
「でも、正直金蹴りは気持ちスッとしたかな。俺的に思うに、男でアレ食らって心折れない奴は居ないでしょ」
「中々にえげつない事言うなァ、清光……まぁ、やったの俺だけども」
「一先ず、主は今すぐ頭の止血した方が良いさ〜!」
「俺のネクタイで良ければ止血帯代わりにしてくれ、相棒」
「つか、俺の眼鏡何処行ったか知らない? さっき結界壊された時の反動でどっかに吹っ飛んじゃってさァ〜……ぶっちゃけ今何も見えんのだけど……しかも片目流血の所為で視界が利かんし。誰か後で俺の眼鏡回収しといてくれる〜?」
「ボロボロに壊れて破損している上に、とてもじゃないけど使えそうにない状態だが……一応俺が拾っておいたよ。修繕費は、其処のご隠居殿か“黒衣の山鳥毛”殿へ請求しておけば良いかな?」
「あ゙ー、うん……有難う、ちょぎ君……。たぶん其れで良いと思う……」
「本当に君は何処までも強かな奴だな……。まぁ、今回においては、普通に経費で落とせるから、修繕費については気にせず此方に任せておきなさい。そんな事よりも、君は早く医療課と浄化部の方へ――、」
「二筋樋さん!! 大丈夫ですか……!?」
 ご隠居が怪我の治療やら何やらを心配して声をかけていたところで、それまで呆然と突っ立っていた警備課の粟田口脇差二人がハッとしたように彼の元へ駆け寄ろうとした。しかし、先を見越していた審神者から首根っこを掴まれて制止を止められる。
「おっと、其処なお二人、気持ちは分かるが一旦ストップ」
「ちょっ、何で止めるんですか!?」
「まだ浄化作業が済んでない内は、耐性無い奴は近付かん方が良いし、触れん方が良いぞ。特に今回みてぇな怪異の穢れは感染する確率高ェから。君等、実物の怪異見たんも初めてじゃろ……? だったら尚更、専門部隊が入るまでは触れんでおくのが身の為だぞ。怪異本体を倒したからと言って、穢れまでは完全に祓い切れてねぇからな。此処は、現場の先輩たる俺等に任せて、君等は君等で浄化部に行って祓清はらきよしてもらってきなさい。そんままにしとくと、体へ悪影響及ぼすから、ちゃんと浄化部でお清めしてもらっときなさいね。先輩からの有難い助言アドバイスだぞ」
「すみません……何も考えずに突っ走っちゃって……」
「今回ばかりは経験値が物を言う現場だっただけさね。彼奴の事はコッチが何とかしておくから、君等は早く行きなさい」
 そうこう言い含めていれば、遅れて現地入りした待機部隊の次郎太刀が室内の様子を見るや否や口を開いた。
「ちょっとちょっとぉ、何だい此処? ちゃんと掃除とかしてんのかい? 酷い穢れまみれじゃないか! お酒持って来ておいて正解だったねぇ〜! そぉーらよっと!! はい! 即席だけど、簡単に浄化しといてあげたよん!」
「浄化は助かるけど、頭から酒ぶっ掛けられるとは思わねぇよ、次郎ちゃん……」
「だぁって〜、其処で伸びてる奴も含めて、あんた、酷い穢れまみれだった上に凄いボロッボロなんだもん。浄化ついでにアルコール消毒も出来て一石二鳥で良かったじゃないか!」
「其れにしたって一言断り挟んでくれたっても良いだろうがよ……」
「はいはい。そら、どうせ口ん中も血塗れなんだろうから、コレですすいじゃいな!」
「だから待って、んぶ!? ぶえ゙ッ、ゲッホゲホゲホッ……お゙ぇ゙っ! ……ちょい、今口ん中突っ込んだ酒、めちゃクソ度数高ェヤツだろ……ッ、げほっ……喉灼けるかと思った…………」
「あれ、そんな高かったかい? 相変わらず免疫無いねぇ〜主は!」
下戸げこに飲ませる酒じゃねぇ事だけは把握した……消毒に使うにしても、もうちょいマシなモンにしておくれや。うわ……何か急に目ェ回ってきたかも……」
「酔い回るの早過ぎやしないかい?」
「酒飲めない人間とザルのお前を一緒にすんな!! 主大丈夫!?」
「出血による貧血なのか、酒に酔っ払ってのものなのか分からんけど……頭クラクラしてきた……」
 軽く酩酊感を覚えた審神者が頭を抱えて唸っていたらば、次郎太刀に続くようにやって来た祢々切丸が、壁際で転がるように落ちている彼を指差して問うてくる。
「此処で伸びている者を運べば良いのか?」
「嗚呼、祢々さん……其奴、かなり怪異の影響受けてたから、慎重に運んでやってね」
「此れは此れは、大変興味深いね。此処の煤けた一部の床は、主が討伐した怪異の核があった場所かな……? だとしたら、貴重な研究サンプルとして、微量ながらも煤の一部を採取して持ち帰りたいのだが、宜しいかね?」
「先生、今だけは空気読んでくれ頼む……。つーか、あんたもあんただ。派手に頭から出血させやがって……おまけに、首元の傷痕、表に出て来ちまってるじゃねーか。またぞろ、とんだ無茶やらかしたモンだぜ、全く……」
「ありゃ……そいつァ気付かなんだわ……お見苦しいものをお見せしてすまなんだやァ」
「どうでも良いけど、一先ず此れで隠しとけ。下手に人の目に触れんのも面倒だろ……?」
「有難う、肥前君……恩に着るぜ」
 祢々切丸へと言葉を返してやっていれば、審神者云々そっちのけで怪異の痕跡を興味深そうに調べ始める南海太郎朝尊。其れに呆れを隠さずに状況を考えて欲しいと言い含めたのち、審神者の状況へ目を遣った肥前忠広は、自分の首に巻いていた黒い襟巻を外して手渡した。指摘を受けて初めて気付いた様子の審神者は、己の首元に浮かび上がる金色の傷痕を隠すべく、素直に受け取った襟巻を巻き付けようとして……。不意に、祢々切丸から担がれた彼が徐ろに口を開いて問うてきた。
「……あんた……その、金色に輝く目の色と言い……その首のは、一体どうした……?」
「おや、気が付いたかえ。俺のこの目の色は……半分人間辞めてる影響だよ。本気で戦闘すると、変わる仕様なんだぜ。霊力制限掛けてる時は変わんねぇけどな……。今回は命懸かってたから、途中で全霊力回路を解放したのさ。首のコレについては……まぁ、話すと長くなるから割愛すると、歴史修正主義者から首を狙われた時に出来たモン……とでも言おうかね? 本来死ぬ筈でない時間軸で殺されかけたが為に出来た痣みたいなモンさね。普段は隠れて見えないんだが……今回みてぇな霊力消耗の激しい戦闘の後やら命削るような事態にまで陥ると、ストッパーとして表面上に現れる仕組みらしいんだわ……。まっ、俺みてぇに首狙われても生きてるのは異例中も異例だがな」
「……死にかけたのは、一度や二度じゃないんだな……」
「波乱万丈の人生送っとる、半分人間辞めとるような奴じゃからのォ……今更なこっちゃで。……くぁ……何や、活動限界来てしもうたんか、急激に眠なってきて……マジでもう無理……すまんが、後の事は宜しく頼んだぞ…………」
 彼の質問へと答えている内から徐々に眠気を堪え切れずに居た審神者は、とうとう活動限界を迎えて、後の事は現場に居る者達へと引き継がせる宣言をするなり、すぐ側に居た加州清光へと凭れ掛かるようにして目を閉じ脱力した。霊力を大幅に消耗するような戦闘後は、疲労から眠気を訴えてしまうのだ。
 慣れた様子でその場を引き受けた加州清光は、審神者の手にしていた杖を待機部隊であった安宅切へと返却し、自陣の二筋樋貞宗が肩から羽織っていた上着を審神者へと掛けてやってから、そのまま番犬に運ぶように託して己が為すべき事をこなしていく。
 

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 そうして、再び審神者が目を覚ました時は、見覚えのある白い天井の部屋であった。歴防本部の医療施設でも入院病棟の方であるのは、片腕に繋がれた点滴の管でお察しである。
 裸眼で通常時とは異なり視野が利かない審神者は、そのまま数秒間ぼんやりと緩慢な瞬きを繰り返して天井を見上げた。すると、徐ろに己の視界へと、黒髪短髪碧眼の耳飾りを付けた男の顔が覗き込んでくるのが見えた。しかし、裸眼でボヤけた視界故によく見えない審神者は、相手が自分の本丸の者かそうでないかの判別が一瞬出来なかった為に、思い切り眉間に皺を寄せて目を細めて問うた。
「ん゙ん……お前、どっちの二筋樋貞宗さん……?」
「警備課の方のだよ。あんたの先日の呼び方を借りれば、“お巡りさん”と言えば分かるかい?」
「あぁ……すまんな。今、眼鏡無くて裸眼だったから、一瞬どっちか分かんなかった……」
「そんな事だろうと思って、主の部屋の引き出しに仕舞ってあった予備の眼鏡持って来てあげたよー。ハイ、どうぞ。此れでちゃんと見える?」
「おぉ、有難う。助かったわ。いやはや、視力悪いと、こういう時不便で困るね〜」
「ちょっと待ってね、今リクライニング機能で体起こすから」
「あざっす」
 備え付けのリモコンでベッドの背中部分を斜めに起こせば、直ぐ側に置かれたパイプ椅子に腰掛けている様子の彼と目が合った。
 此方が眠っている間に浄化やら何やらを済ませたのだろう。すっかり元通りの元気な姿と思しき様子に、審神者は安堵した風に言葉を吐き出した。
「おぉ、元気そうで何よりだの」
「お陰様で……。だが、元気になったからと言ってすぐに現場復帰は難しくてな。絶賛謹慎処分を食らって大人しくしてるところだ」
「まぁ、そらそうやろうが……謹慎処分中なら、自宅待機してなきゃ不味いんじゃないッスか、お巡りさんよォ? 待機してなきゃいけない寮から抜け出してきて良かったんすか?」
 謹慎処分であるのは事実なのだろう。制服である戦装束ではなく、ラフな内番着姿の彼は、苦笑を浮かべながら答えた。
「一応、届け出を出してきた上で来てるから、そう心配せずとも大丈夫さ」
「左様か。……で? 用は俺の顔見に来ただけかい?」
「あの後、後片付けやら何やら済ませた怪異対策調査課を訪ねたら、くだんの怪異の討伐報告を瓦版として各位に情報を回してたみたいでな。俺に取り憑いていた怪異は、その後、【電子脳ハッカー】という名前が付いたよ」
「言い得て妙な響きだの……。事実、根城にしてた旧施設棟の電波やら何やらをハッキングしてたようだしのォ。まぁ、此れにて一件落着と相成り、良きかな良きかな」
「何も良くないぞ。そんな簡単に締め括れる程、俺は今回の一件の終わり方に納得はしていない」
「何がそんなに気に食わんのかね……?」
「全部にだ。あんた……どれだけ死にかかれば、そんな体になるんだ?」
 己の首元を指して言ったのだろう言葉に、鼻息びそくいて告げる。
「審神者とは、一国一城の主を務め、本丸の要の存在であるのは知っておるじゃろ……? 戦をするっていうのは、つまりは、そういう事なのさ。常に生と死が隣り合わせな生活に身を置く。戦の最前線基地たる本丸に住むのは、そういう事さね。そんで、長く審神者を勤めれば勤める程、敵味方双方の派閥も増える……故に、歴史修正主義者からも狙われやすくなるのさ。この首の傷痕は、ウチの山鳥の加護あって生き延びた証さね。そうでなければ、俺は、あの時、殺されてた。本来死ぬ筈じゃない歴史の時間軸でな……。要は、この傷痕は、歴史のパラドックスで出来た訳よ」
 恐らく、まだ消えていないのだろう首元の傷痕へと指先を這わせて語り聞かせる。
「俺も、原理はよく分かっとらんが……あの日あの時、俺は正史では死ぬ筈ではなかった。だが、歴史修正主義者が本来俺が死ぬべき時間軸を無視して殺そうとした事で、特異点が生まれた。俺は平成の世から来た過去の人間だが、時の政府が観測する歴史上ではまだ先の未来として定められていた死だったらしい。故に、現在の俺の存在が揺らぐを通り越して消えかかる程に不安定となった。此れに、政府側は、“俺が過去で歴史修正主義者からの干渉を受けている”と判断し、本丸から討伐部隊を編成し、その特異点へと送り出した。その時の俺は、まさに歴史修正主義者から首を鋭利な刃物で斬られて絶命する寸前だった。幸いにも、一命を取り留めたものの、歴史のパラドックスの影響が残り、傷痕として残った……。此れが真相。他にも、仲間に真名を預けたり、魂の一部を割って移したりなんぞと色々禁則事項を破った結果、今に至る訳よ。全ては、俺が俺として生きる為の措置だ……外野からの意見や文句は聞き入れるつもりはないんで、そのつもりで」
 最後にそう言葉を締め括れば、腑に落ちていない顔付きながらも無理矢理納得せざるを得ないようで、相槌を返した。
「……成程、道理で幾つもの修羅場を乗り越えてきたような面構えをしている訳だ……。半分人間を辞めていると言ったのも、其れが理由か?」
「ただの人間なら、君とバトってる最中で普通に死んでたと思うよ。生きてるのは、戦闘慣れしてるのもあるが、体弄ってなきゃ、まず彼処までは保たなかっただろうな……。リアルな話、あん時使ってたの俺だけの力じゃなかったし」
「というと……?」
「俺の力さ。俺は、主と誓約を結んでおるが故に、主が本来解放していない霊力の源を担っているのだ。普段は、主本人だけの霊力で賄っているが、こと戦闘において、命を削るような事態となった場合に限り、制限している霊力回路を解放して膨大な霊力量を放出する事が可能となる。俺はその一部を担っているというところさ。審神者の霊力とは、すなわち生命力の事を指す。故に枯渇ともなれば、命が危うくなる。だからこそ、霊力の使い過ぎは破滅を意味するのだ」
「おや、お爺ちゃん。来てたんか?」
「喉が渇いたので、其処の自販機で飲み物を調達しに行って居たのだ。主が目覚めた時用に買ってきた水もあるぞ? 腹が空いたのなら、ゼリー飲料でも食うか?」
「まだ食事は病院食以外駄目だって。内臓破裂とまでは行かなかったものの、損傷して内部出血起こしてたんだから……。そんな訳だから、主は暫く絶対安静の入院生活ね」
「マジすか……そんなに酷い状態なん、俺……?」
「腹に穴開かなかっただけマシと思いな。嗚呼、あと、普通に頭出血沙汰で怪我してたから、其れも含めての絶対安静ね。頭の包帯はその内外れるだろうけど、内臓の回復は時間掛かると思うから、そのつもりで。痛み酷い場合は痛み止めの点滴打つって担当の医師が言ってたから、その時はちゃんと報告する事。良いな?」
「……ウッス…………泣いて良いッスか??」
「本当に何から何まで申し訳なく思っている……ッ。勿論、此度の一件における責任はきちんと取るつもりだ」
「どうやって……?」
「其れは……あんたを傷物にした責任を持って、あんたの事を娶る方向性で――、」
「却下。俺の番犬は何処に行ったんや? そら、お前さんの出番やぞ。早う、盛ったこのクソ犬、お縄に掛けてくだせぇな」
「不届き者か。了解した。話は署で聞くから、今すぐ立て。そして、即刻俺の相棒から離れろ」
「おっ? 俺達の主人をかどわかそうとする輩は、此奴か? 俺も幕末のお巡りさんやってた人の刀でねぇ。混ぜてもらっても構わないかい?」
「主が動けない以上、其処の狂犬は程々にしとけよ……。おらよ、綺麗に洗濯した替えの襟巻だ」
「おぉ。有難う、肥前君や」
「やれやれ、若いのは一度言い聞かせた程度では効かぬか。どれ、鬱憤晴らしに、俺も向こうに加わってくるとするか」
何時いつからウチの子達バイオレンス個体になったの??」
「主に害為す輩は漏れなくしょっ引き対象に決まってんじゃん。ってな訳だから、俺も向こうに参戦してくるんで、主の御守おもりは任せたよ〜前田と薬研」
『程々にな、加州の旦那』
『どうぞ、お気を付けて行ってらっしゃいませ』
「ウチの子達のセコム感が強んい……」
 そんなこんなで、審神者は入院生活を強いられるのだった。


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▼蛇足という名の解説文
 今回作中にて登場した人物や怪異及び所属部署等について、ざっくり解説。作中の登場人物が多かったり文章量の多さから、読んでいて途中よく分からなくなった人向けに、分かりやすく箇条書きにてご紹介しているだけの蛇足文になります。特に読まなくても問題はないという方は読み飛ばしてくださってもおkです。ぶっちゃけ、自分用の覚え書き兼ケツ叩き用メモも兼ねてます故、マジのざっくりです。
 尚、怪異のみ分かりやすく、作中と同様に【】表記で明記致します。


▼各部署について
‌●怪異対策調査課……名前の通り、怪異や神性生物によるトラブルや悩み事相談窓口であり、怪異によって引き起こされた事件現場の探索調査や怪異被害への対策を講じている専門部署。所属している者は人間も刀剣男士も含めて怪異に対するエキスパート揃いなので、彼等に任せれば害有る怪異は殲滅されるよ。さにちゃんや刀剣男士専用スレなどでオカ板をおもとした相談スレや報告スレがあるので、ちょっとした小さな事でも相談すると、スレ民や監視職員が対応してくれるから気軽に相談してね。万年人手不足な部署なので、場合によっては派遣審神者が担当する事があるよ。でも、派遣部隊も漏れなく怪異のエキスパートだから安心してね。対人外の任務が主要なので、必然的に危険が伴うのは最早テンプレ。人間職員は限られた数のみで、後は基本的に刀剣男士ばかりの職場となっているよ。理由は、精神汚染されやすいという観点から察してあげてね。
‌●警備課……その名の通り、身の回りの警備を担当する部署。人間職員も居るけど、見回りとかの巡回に出てるのは基本的に刀剣男士の職員だよ。稀に、要警護人の護衛役を務めたりもするよ。彼方此方で警備員として派遣されてるから、歴防本部や時の政府管轄施設に万屋街、演練場でも見かけたりする機会が多いかも。外敵排除も目的としているから、ある程度の戦闘能力が求められる。夜間においての巡回中に怪異と遭遇する可能性もあるので、落ち着いて対処の出来る素質も求められるかもしれないね。飽く迄も警備員としての仕事が主なので、刑事課とは間違えないように気を付けて。尚、刑事課ではない為、逮捕権は無い。
‌●特命調査課……言わずもがな、特命調査に派遣される先行調査員や監査官が所属している部署。既に閉じられた歴史や封鎖済み本丸への調査など、特別な任務に赴く事が多いのが特徴だよ。秘匿事項が多かったり、危険な任務が付き物だから、人間職員は少なく、刀剣男士メインの職場でもある。トップを勤めるのは、怪異対策調査課と兼任する一文字則宗。デスク仕事も多いらしく、ストレス過多な個体が多い模様。
‌●特殊討伐課……時の政府の闇を暴くような汚れ仕事を担うのが主たる部署。通称:黒衣の山鳥毛と呼ばれる訳アリ個体を頭に据えた一文字一家が牛耳ってるよ。所属してるのは、主に黒本丸出身だったり特殊な亜種個体の刀剣男士で、人間職員はほぼ事務員要員のみで少なめな職場。ブラック運営してる審神者をコロコロしに黒本丸に凸ったり、腐った頭をした高官連中共を暗殺したりと、汚れ仕事を行うのがメイン。一部の界隈では、“裏方処理班”なんて風に呼ばれてたりもするよ。ぶっちゃけメンタルに自信が無い人は近付かない方が良い物騒な処。後ろめたい事がなければ、基本的に関わる事はない部署だよ。用が無い人は近寄らない方が良いかもね。
‌●医療課……外来病棟と入院病棟を兼ね備えた巨大な医療施設を持った部署。基本的に、人間の病気や治療の他、刀剣男士の手入も此処で行われる。浄化部も、医療課の内の1つで、怪異や現世から持ち帰ってしまった穢れを祓う事が出来る。医療課の大半は、外科〜内科まで様々な分野に精通した医療従事者の人間職員が多く占めるが、浄化部の大半は、御神刀組や霊刀組などの刀剣男士が所属の大半を占める。

▼各登場人物について
‌●夢主(という名の俺氏)……リアルに陸奥国で本丸を構えて七年と半年余り経つ、中堅どころの審神者。真のゴリラ勢からすれば、まだケツの青い雛ゴリラレベルだと言うのは本人談。ちな、現時点での審神者レベルは256Lv.程。所持刀剣は、2026年3月時点で実装済みの刀剣はフルコンプ済み、及び、極修行実装済み刀剣は全員修行済み。その他、特の刀剣達は雲重を除きカンスト済みである。極部隊のカンストはおろか極開花もまだ未開花だが、その中でもずば抜けて最高レベルを誇るのは70Lv.台の博多君。過去の時代の合戦場は、推奨レベルにまで到達していない理由から8-3回想回収して以降攻略途中で止まってる。異去は2-4まで攻略済み。作中では、大腸検査でポリープ切除後から2週間が経ったばかりの頃だった。つまり、めちゃクソ病み上がり。過去に歴史修正主義者からの干渉を受けて、現在に影響を及ぼすダメージを負った結果、生命が危機に瀕すると頸部に金色の紋様が浮かび上がるようになった。紋様というのは、本来死ぬ筈ではなかった過去の時間軸で鋭利な刃物で頸部を斬られて死にかけた傷痕が、現在軸では塞がった後に普段は表面上見えないように隠れている→生命的危機に瀕した場合のみに限り、ただの傷痕が金色の紋様として表面上に現れる仕組み。(※御前の背面から肩に掛けてある刺青が、普段は見えないけど興奮したら赤く現れるみたいなのと似た感じ。)禁術やら諸々とやらかした結果、本丸所属審神者ながらも、ペナルティとして、怪異対策調査課の派遣部隊として雇われる事になった人。たぶん半分くらい人間辞めてる。その他にも、過去に歴史修正主義者から干渉を受けた影響で記憶喪失になった事もあるとか。歴史修正主義者から干渉受けた回数は、1回や2回とか其処らじゃないものと思われ。
‌●警備課の二筋樋貞宗……通称:お巡りさん。(※本丸個体と呼び分ける為の呼称。)1月に実装許可が下りて顕現したばかりの新刃男士で、漸く特が付いたばかりの政府産個体。偶々、巡回エリアだった旧施設棟区間内にて迷子の派遣審神者(夢主)と運命的な出会いを果たし恋に落ちた哀れな番犬。相棒的意味合いでも、恋愛的意味でも、本気で惚れていると告白するも玉砕を食らった為、精神的ダメージを負った。其処へ運悪く討伐し損ねた怪異からしめしめと思われ体を乗っ取られた挙句、傷付けるつもりのなかった審神者を生命的危険に陥る程ボロボロに痛め付ける結果となり、かなり凹んでいる。傷物にした責任を取って本気で娶るつもりでいたが、其れも玉砕に終わったので、今は素直に引いて審神者に振り向いてもらえるくらいに自分を磨こうと精進する事にした。たぶん、このお話の後、上司に無理言って爆速でレベル上げに勤しんだと思われ。例えるなら、何度振られようが諦めの悪い、面倒臭いタイプ。本当マジで見る目ないんちゃうかな??今回は主役ポジションだった故、メインの扱い。
‌●政府個体の一文字則宗……現役時代は特殊討伐課のトップとして君臨してバリバリブイブイ言わせてきたが、今は隠居して当代の座を後代である山鳥毛(この場合、黒衣の山鳥毛)に譲って、特命調査課と怪異対策調査課を兼任する形で所属している。通称:ご隠居。(※本丸個体と呼び分ける為の呼称。)政府産の刀剣男士。監査官として腕が立つ他にも、バリバリ現役張れるくらい強いし、昔の杵柄からか、よく各部署とのパイプ役を務めるので、色んなところで橋渡しを行っては仕事をスムーズにこなせるように尽力してくれてる、実は偉くて凄い人。夢主の特性を理解して怪異対策調査課に派遣推薦したのもこの刀。顕現歴そこそこ長いので、めっちゃ親しみやすい。夢主が記憶喪失の際に、特殊討伐課で保護観察を行なった時、仮の事務員として引っ張ってきたのもこの刀だったりする。その時の事も相俟って、黒衣の山鳥毛から定期的に夢主の様子を訊かれ、胃と神経を擦り減らしている苦労刃でもある。今回は飽く迄も脇役ポジションだったが、主役を支える為に出番は多め。
‌●浄化部の皆さん……作中にて台詞のみで登場した、御神刀組代表格の石切丸+徳美からやって来た幸運王子の物吉貞宗の計2振り。いずれも政府所属の特個体。実は、政府産ではなく本丸産の刀剣男士。浄化能力と霊力がずば抜けて高い政府所属の本丸持ち審神者さんが直属の上司となるらしい。今回は飽く迄も脇役ポジションだった故、出番は少なめ。(※尚、刃選は、作者の独断と偏見による思い付きで何となく出演が決まった。)
‌●黒衣の山鳥毛……別名:呪われし黒衣の山鳥。通称:黒ちょもさん。(※本丸個体と呼び分ける為の呼称。)元は本丸所属個体だったが、とある事件を切っ掛けに神性生物より呪われてしまい、呪いに侵蝕された結果、刀身も含めて真っ黒に染まってしまった個体。彼の主である審神者が存命である故に顕現し続けていたが、審神者が消息を絶った事で本丸解体が決まった事を切っ掛けに政府所属へ転向。元審神者との縁は途切れていないが、最早人為らざる者へと変貌を遂げている為、再び相見える事は不可能。現在は、特殊討伐課に身を置いている。頭の切れる個体故に、裏仕事は難無くこなし切る。完全ヤーさんな一文字の長。夢主が過去に歴史修正主義者の干渉を受けて記憶喪失になった時、やたらと気にかけ可愛がった末に、源氏名という名の実質的愛称である『雛鳥寝子ひなどりねこ』という名前を付けた刀。今でも夢主の事を己が守るべき愛くるしい雛鳥だと思っていて、出会う度に特殊討伐課に来ないかとしつこく勧誘し続けている。隙あらば気に入った者は囲いたい派。敵に回したら恐ろしい相手。怒らせたら暗黒微笑を浮かべながら、何処までも理由を問い質すし、地獄の果てまで追い駆ける。今回は飽く迄も脇役ポジションだった故、出番は控えめ。
‌●政府個体の日光一文字……特殊討伐課所属であり、お頭の左腕たる刀。一文字一家内では左翼の立ち位置故か、お頭からは翼と呼ばれている。今回はほぼほぼ脇役としての出番だった為、登場シーンは一コマ(作中で夢主が車椅子凸してきたシーン)のみで台詞も無し。敢えて作中での描写は省いたが、お頭に呼ばれた時に実は「はっ!」って返事してたというのは、脳内補完再生で宜しくオナシャス。必要最低限以外口を利かない寡黙個体。政府産の刀剣男士。
‌●警備課の鯰尾藤四郎……作中では、同僚の恋路を応援するべく、兄弟刀を引き連れて現場に乗り込んだトラブルメーカー。ある種の強者。政府所属の特個体故、基本的に兄弟刀と喋る以外では敬語口調。仲間思い且つ世話好きなのは、脇差の個性故か。政府産の刀剣男士。飽く迄も脇役だった為、今回の出番は控えめ。
‌●警備課の骨喰藤四郎……作中では、同僚の恋路を応援するべく、兄弟刀に巻き込まれる形で現場へ乗り込む事となった可哀想な子。政府所属の特個体故、言葉数が少ない寡黙タイプ。兄弟とは仲良し。同僚の恋路に関しては、後方でひっそり応援してる感じ。政府産の刀剣男士。飽く迄も脇役だった為、今回の出番は少なめ。
‌●加州清光……夢主の本丸所属で、初期刀様、且つ極個体。初期刀故に本丸内での発言力は強い。自分の主である夢主のストッパー役でもある。初期刀だからこそ苦労が絶えない苦労刃。夢主の事を心からの相棒のように思っている。主から愛されている自覚が有る為、色んな意味で最強なタイプ。作中では、実働部隊の内の室内部隊の隊長を務めた。
●前田藤四郎……夢主の本丸所属で、初鍛刀様、且つ極個体。初期刀に次ぐ発言権を持つので、本丸では上位的立ち位置に居る。夢主の懐刀の1振りである自覚有り。事ある毎に度々夢主が無茶をするので、気が気ではない程心配している。大人しそうに見えて意外と強かなタイプ。怒らせたら怖い。作中では、実働部隊の内の室内部隊の隊員を務めた。
●薬研藤四郎……夢主の本丸所属で、初泥刀様、且つ極個体。初鍛刀と同格の発言権を持つので、本丸では上位的立ち位置に居る。夢主の懐刀の1振りである自覚有り。事ある毎に度々夢主が無茶をするので、目が離せないと思っている。御守刀としての意識が強い為、過保護気味なタイプ。怒らせたら怖い。作中では、実働部隊の内の室内部隊の隊員を務めた。
‌●本丸個体の二筋樋貞宗……夢主の本丸所属で、既にカンスト済みの特個体。通称:貞宗さん。“刀のお巡りさん”としての気質も強いが、それ以上に番犬としての気質が強い模様。浮気厳禁。夢主の事は、相棒という意味以上に大切に思っている。無自覚で友愛以上恋人未満な感情を抱いている。まだ恋愛感情という認識は持っていなさそうだが、今回の出来事を切っ掛けに、今後何かしらの形で発展する可能性が大きいと思われ。親しみやすさ満点。ビジュアルの良さ満点。メロさ満点。文句無しの男過ぎて沼からの好きすぎて滅❣(作者が)作中では、実働部隊の内の室内部隊の隊員を務めた。今回は第二の主役ポジションだった故、出番は多め。
‌●三日月宗近……夢主の本丸所属で、“大侵寇”を経た極個体。通称:お爺ちゃん。夢主が度々怪異に襲われ連れ去られかける為、ある時、彼女を守る意図で、彼女が眠っている隙に一時的に神隠しを行なった経験有り。その事を気に咎め、無断で雲隠れした為、夢主は強制的に誓約を結ばせた。これにより、夢主が生命の危機に瀕すると霊力の繋がりで分かるようになった。作中では、怪異討伐戦の際に夢主の外部接続型霊力源役を担った。分かりやすく例えると、外付けハードディスク(HDD)で霊力を供給してもらう感じ。一度拗ねるとちょっと面倒臭いタイプ。今回は飽く迄も脇役ポジションだった故、出番は控えめ。
‌●その他の室内部隊員……にっかり青江、山姥切長義、北谷菜切の計3振り。いずれも、夢主の本丸所属であり、極個体。怪異討伐戦においては、北谷菜切は“離れた所を斬る”能力で遠距離攻撃で怪異からの遠隔広範囲攻撃を防ぎ、他2振りは二刀開眼で致命の一撃を与えるなど、各々の活躍を見せた。今回は飽く迄も脇役ポジションだった故、出番は控えめ。
‌●待機部隊……堀川国広、次郎太刀、肥前忠広、南海太郎朝尊、祢々切丸、安宅切の計6振り。いずれも、夢主の本丸所属。安宅切を除いた5振りは極個体。安宅切のみカンスト済みの特個体。怪異討伐戦においては、室外より後方支援する他無かった。尚、作中で本作戦開始前に渡された安宅切の杖は強化の術を掛けられた上で酷使された影響で、安宅切本刃へもダメージが蓄積された結果、軽傷を負ったので、その後手入を受けた。(※尚、本刃は主に使ってもらえた事に喜びを見出している模様。)実は、夢主の知らぬところで、南海太郎朝尊が発明したピッキングマシーンが密かに活躍していたり(作中での描写は無し)。次郎太刀は確信犯的に備えて酒を持参した。肥前忠広は、脇差としての世話焼き気質が、作中では夢主の首元に現れた傷痕を隠す意図で襟巻を貸すという行動に出た。今回は飽く迄も脇役ポジションだった故、出番は控えめ。
‌●別動部隊組……本丸との通信役を担った鵜飼派の皆さんこと、雲生、雲次、雲重の計3振り。実は、クラウドエアラインで舞台の裏側で大活躍してた。ちなみに、通信上名前も暗号化する為に与えられたコードネームは、夢主→猫、雲生→雲、雲次→空、雲重→地、本丸→全といった感じ。今回は飽く迄も脇役ポジションだった故、出番は少なめ。
‌●その他登場した本丸の皆さん……@泛塵、A同田貫正国、Bへし切長谷部、C髭切、D膝丸、E和泉守兼定、F乱藤四郎、G石切丸、H孫六兼元、I包丁藤四郎、J一期一振、K後藤藤四郎、L鬼丸国綱、M鯰尾藤四郎、N厚藤四郎、O秋田藤四郎の計16振り。@は本丸帰城後に雑巾を提供してくれた場面にて。作中での軍議作戦時にまともに参加してたのは、E・F・Iを除いた全員で。EとFの2振りに至っては野次馬なガヤ要員。且つ、Iは妖怪人妻茶化し要員だった。FとI以外の粟田口はIの発言に冷や汗ダラダラで総員で押さえ込むに至った。尚、Eは本丸の中じゃ最年少組という事で賑やかし要員に回ってもらった次第。Oは完全に縁の下の力持ち要員。皆さん今回は飽く迄も脇役ポジションだった故、出番は少なめ。

▼怪異について
‌●怪異:【電子脳ハッカー】……作中においての中心ポジションだった厄介な怪異。旧施設棟・連絡棟内にある通信室を根城に棲み着いていた侵蝕型怪異。核は真っ黒な色をしたブヨブヨの肉塊。控えめに言っても気持ち悪い。粉微塵に斬り裂いても、飛び散った飛沫の体液から散り散りになった肉体を再生していく性質を持つ。おまけに、知能が高めなのか、根城にした通信室を乗っ取り、電波妨害を起こしていた模様。その他、ポルターガイスト及び霊障などの余罪有り。今回、夢主と警備課お巡りさん二人の存在に、体の一部にダメージを負わされた事で活性化。二人が再び揃って現れる機会を狙って近くに潜み、隙を突いて警備課お巡りさんの体に取り憑き操って、自分を攻撃した夢主へ報復した。しかし、夢主の方が1枚上手だった事で、己の策により文字通り袋の鼠状態に閉じ込められる結果に。此れに腹を立てた怪異は、取り敢えず夢主への攻撃の手は緩めず、その場に居た者達へも一斉攻撃を開始。しかし、尚も防がれ内心地団駄。其処へ夢主が侵蝕され切っていないお巡りさんへと語りかける事で意識を表面上まで引き上げる事に成功。最終的には、取り憑いていたお巡りさんから離れて、本体の核を剥き出しにした状態で逃走を図ったところを二刀開眼で一網打尽にされ、瀕死に陥ったところを更に夢主によってトドメを刺され完全消滅。その後、瓦版で存在を周知された。ウイルス型に近いタイプの怪異とか厄介者でしかないから、無事に退治出来て良かったね。


執筆日:2026.03.02
加筆修正日:2026.03.30