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熱にだれる



暑い。

ひたすら暑い。

溶けるとまでは流石にいかないが、それでも、この気温は暑い。

おまけに、梅雨特有の湿気でジメジメとして蒸し暑い。

我が日本が誇る四季折々の季節の風景を楽しむ為に、現世と同じ流れで景趣を設定しているが…幾らなんでも暑過ぎる。

かと言って、今更景趣を変えようとも思わないので、本丸においての気候も梅雨のままだ。

はぁ…気分が上がらない、やる気も出ない。

このまま、何もしないでだらけていたい。


『あ゙ぁ゙ー、もう…っ!この纏わり付くかのような湿気、鬱陶しい…っ!!』


さっきから、無駄に蒸し暑くて汗が出る。

おかげで、身体がベタベタとしてきて気持ち悪い。


『…いっちょ、シャワーでも浴びてくるか?そしたら、少しはさっぱりして、気分も切り替わって仕事出来るかなぁ…?』


だがしかし、今動く事すら面倒だ。

仕事に取り掛かろうと文机の前に来たものの、一向に出ないやる気にだれてきて、結局手付かずなまま、ごろりと畳の上に寝転んだ。

寝転ぶと、畳のひんやりとした冷たさと独特の草の匂いがして、幾分か気分が落ち着いた気がした。

やはり、日本人故か…。

畳の匂いと畳そのものは、心に安らぎを与えてくれる。

蒸し暑さにイライラした気持ちも、少しは落ち着いたようだった。

そのまま、暫くの間、畳の上に盛大に大の字で寝転ぶ。

すると、偶々、執務室の前を通りかかった鶴丸に話しかけられた。


「おいおい、随分と男前にだれてるじゃないか。どうした…?」
『………暑さにやられて、絶賛やる気ゲージzeroなうな審神者です…。暑い…。』
「はっははは…っ!成る程な、だからか。君は本当に暑さに弱いなぁ…。」
『この蒸し暑さがいけないのです…。何で、梅雨っていうのは、こうも蒸し暑いのか…。この湿気さえなければ、カラッとした空気で暑いだけで居られるのに…。』
「う〜ん、確かにそれは俺も思うところだな…。しかし、初夏の段階でこうもだれていたら、真夏になったらどうするんだ?真夏は、今よりもっと暑いだろう?」
『あ゙ー…っ、そんときゃあ、政府にお願いしてクーラーでも付けてもらうよ…。昨今の熱中症は馬鹿に出来ないからねぇ…私も気を付けねば。』


畳の上にだれたまま気怠げに受け答える。

すれば、風通しの為に開けっ放していた執務室に入ってきた鶴丸。

そのまま、寝転ぶ私の側に腰を下ろすと、私と同じように寝転んだ。


「おっ、なかなかに気持ちが良いじゃないか。畳がひんやりと冷たくて心地が良い…。戸を開けっ放しているから、風がよく通って涼しいしな。こりゃ、良い…!」
『…お前、内番はどうした…。確か、今日、手合せだっただろ…。良いのか…?相手放っぽって。』
「別に良いのさ、こんな蒸し暑い日に動き回って汗をかくなんて気分じゃない。それに、相手は伽羅坊だしな。昔のよしみで、許してくれるさ。そんな事よりも、俺は驚きの方を求めるね…!面白い驚きを探求する方が、打ち合いの鍛練なんかするよりも数倍楽しいだろ。君も、どうだい?俺と一緒に驚きを探しに行かないか…?人生には驚きがなきゃ、つまらないだろう?」
『いやぁ〜…今は一歩も動きたくないねぇ…。汗でベタベタ気持ち悪いから、シャワーを浴びに行こうかとも思ったけども…今動くのも怠いねぇ〜…。』
「おいおい…君だって、政府に出さなきゃならない書類があるんじゃないのか?今日の日課や執務、片付けなくて良いのかい…?」
『ん゙ん゙ー…っ、やる気が出ないよ起きないよー…。』
「何だ、君も人の事言えないんじゃないか…。」
『だって、怠いんだも〜ん…。何にもしたくなぁ〜い…。』
「早々と夏バテかい…?だが、まぁ、しかし…それは言えてるな。俺も怠い…。動くのも億劫だ。」


普段おちゃらけた空気の彼でさえも、今はだれて、声のトーンも落ちて覇気が無い。

二人して、畳の上にだれて寝転がる。

さわさわと入り込んでくる湿り気を帯びた風が、熱に侵された身体を撫でて冷ましていく。

執務室兼審神者部屋は、本丸内で一番風通しが良く、こうして居れば、とても心地が良い。

熱が込もって火照った身体を風が程良く冷ましてくれる。

夏場に涼むには、丁度良い場所だ。

昼間はこの部屋でも、夜は縁側の方が涼しいから、涼むなら縁側の方が最適だ。

しとしとと降る雨の中、ゆるりとした時間が流れる。

次第に、身体の火照りも静まってくる。

しかし、まだ暑いという感覚は抜けない為、もっと涼しくなりたいと冷たさを求める。


『…鶴さんって、冷たそうだよね…。』
「ぅん…?どういう事だい…?」
『見た目細くてまっちろいから、体温低そうだよねって話。』
「嗚呼、そういう事か…。それ、光坊や他の奴等にもよく言われるな。そんなに俺は体温低そうに見えるかい…?って、まぁ、実際低いのも事実だが…。」
『今鶴さんに抱き付いたら、少しは体温下がるかなぁ…。』
「おい、君…それ本気で言ってるのか?」


ダラダラと気怠げな空気で会話が流れる。

ごろりと寝返りを打って横を向き、隣の鶴に問うた。

特に意味なんて無い。

ただ、今はこの蒸し暑い暑さを凌ぎたいだけだ。

彼からの了承を得る間も無く、ゆるく引っ付いてみた。


『お〜…マジで体温低いね、鶴さん。冷たぁ〜い…っ。』
「君なぁ…。」
『へへへ…っ、ちょっとだけ鶴さんで涼ませて。』


そう言って、そのまま彼に抱き付いて、眸を閉じる。

彼が小さく溜め息を吐いたのが聞こえた。

だが、今は離れる気は無い。

彼の低い体温が、私の火照った身体を冷やすには丁度良い。


「…このまま、俺とサボるかい…?」


怠いのだろう、彼が気怠げな声で問うてきた。

なんと魅力的なお誘いか。

熱に浮かされて動きたくない、何もしていたくない今は、何とも素敵なお誘いだ。

仕事を放っぽってしまうのはいけない事だと解っているのだが、今は抗えそうにない。


『…何だか眠たくなってきた…。眠い…。』
「なら、このまま俺と一緒に昼寝でもするかい…?」
『…うん。』


ごろりと寝返りを打った彼が、此方を向く。

彼の目蓋も下がり気味な処を見ると、どうやら彼も眠たいようだ。


『…暑いねぇー…。』
「…だったら、抱き付くんじゃなくて、俺から離れたら良いんじゃないか…?」
『えー…鶴さん、冷たくて気持ち良いから、やだ…。』
「はぁ…君は、暑いのか暑くないのか、どっちなんだ…。」


しとしとと梅雨らしい雨が振り続いていく。

じとりとした湿気が辺りを包む中、隣はひんやりと冷たく、心地が良い。


「…幾ら待っても何時までも来ないと思ったら、こんな処に居たのか。」
「鶴さん、主の部屋に居たんだね…。静かだと思ったら、二人して寝てたのか。」
「まぁ、騒がしくないなら、それで良い…。」
「主、仕事しなくて良いのかな…。また夜起きてやっちゃうつもりなのかなぁ…?」
「放っておけ…。彼奴の事は、彼奴が片付けるだろ。」


静かにやって来ては、静かに去っていく伊達刀二人。

そっとタオルケットを二人のお腹に掛けていくのは、彼の性だ。


執筆日:2018.07.03